目上の人間に平気で「うん、うん」と相槌を打つ…謎だらけのZ世代コミュニケーションの深層心理

2024年4月4日(木)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViewApart

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デジタルネイティブである「Z世代」は本音がわからないと、批判めいた言葉を口にする上の世代は多い。これに疑問を呈するのが『「人間関係」は性格と相性が9割』を上梓したディグラム・ラボ代表の木原誠太郎さんだ。木原さんは「この世代はドライに見られるが、ある意味、昭和世代などより相手の気持ちを汲み取るスキルに長けている」という──。(第2回/全4回)

■「対面コミュニケーション」を巡る断絶


私は昭和生まれのオジサンです。中高生のころは当然スマホなどありません。携帯電話は一応ありましたが、仕事で本当に必要なビジネスマンだけが持つようなものでした。


同世代の方ならおわかりいただけると思いますが、そのため友人への連絡はもっぱら自宅の黒電話で相手の家に電話をする、というスタイル。気になる女の子の家に電話をするときは、彼女のお父さんが出ないかビクビクしたものです。


社会人になると、新人として最初の仕事は「電話の応対」でした。仮に個人のメールアドレスを知っていても、まずは対面か電話で話をし、名刺を交換してからメールするというステップを踏むのが当然とされ、突然メールを送りつける行為は「失礼」とされていました。


当時は会社のホームページもなく、現在のように「info@」からメールが届くこともありません。


仕事が終われば「飲みニケーション」と称して会社の上司や同僚と飲みに行きます。会社では「福利厚生」として運動会や社員旅行が催されていました。良くも悪くも対面コミュニケーション能力が鍛えられる環境を過ごすことになったのです。


写真=iStock.com/ViewApart
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■コミュニケーションのスタイルに大きな世代間断絶が


ところが近年では、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が広まり、働き方改革が進み、プライベートを大切にするような風潮が高まりつつありました。


そんな中で発生したコロナ禍。


リモートワークが広まる社会風潮も相俟って、昨今の若者は、すっかり対面コミュニケーションの機会が減ってしまい、風景は一変しました。


■「。」の有無に敏感であることの深い意味


最近、世の中の話題をさらったのが、若者にとっての文末の「。」の意味。LINEなどの会話で文末に「。」を入れると、相手が怒っているように感じるというのです。


たとえば待ち合わせをしている相手とのLINEのやりとりで、「今から行く」と送るのと「今から行く。」では、「今から行く。」のほうは相手が怒っているように受け止めます。


「。」をつけると、どこかよそよそしい感じがする。友達同士なのに「。」をつけるのはおかしい、というのです。


SNSでは文字通り、本当の意味でその場の「空気」を読むことができません。だからこそZ世代を中心とした若者は、SNSで顔文字やスタンプ、改行、句読点などを駆使し、なんとかして互いに「空気を読もう」「空気を伝えたい」と、独自の文化を発展させることになったのでしょう。


デジタル化が進む現代に生まれ育った世代だからこそ、X(旧Twitter)やLINEのような短い言葉を使うツールで、昭和世代以上に、相手の気持ちを汲み取る高度なスキルに磨きをかけるようになった、といえるのです。


■電話の応対を指導される機会が皆無のZ世代


今は、ショッピングから銀行口座の開設申し込みまで、すべてオンラインで済ませることができる世の中です。


これが昭和世代の若いころはといえば、レストランや美容院の予約はすべて電話。


旅行にしても、飛行機やレンタカー、宿の予約のために旅行カウンターに直接行く、あるいは電話で話すなどして、なにかと生身の人と会話をする機会がありました。


しかし、1人1台のスマホが当たり前の環境下で育ったZ世代は、家族がいる前で自宅のダイヤル式の電話機をジーコロジーコロ回して電話をかけるとか、自分宛の電話がかかってきて、衆人環視の下で会話をするといったシチュエーションの経験はありません。


昭和世代は、周囲の人が聞き耳を立てている中で電話の応対をすることで、先輩や上司から「その言い方はおかしい」とか、「もう少し丁寧に話しなさい」とダメ出しを受けて実地に学びました。しかし、Z世代には一切そういった経験がないのです。


■「うんうん」という相槌は失礼? フレンドリー?


これは人に聞いた話ですが、最近、ある若者が会社の先輩に向かって「うん、うん」と返事をしていたそうです。



木原誠太郎『「人間関係」は性格と相性が9割』(プレジデント社)

当人に悪気はなく、「そのほうがフレンドリーだからよい」と思い、相槌を打っていただけのようです。


世間一般の“常識”では、先輩に対して「うん、うん」と相槌を打つことなどまったくもって失礼千万。「何だその返事は!」と、こっぴどく叱られても文句は言えません。


ところが、Z世代には違和感を持たない人も多いそうです。


これは先のLINEの「。」の話と同様に、世代によってコミュニケーションに対する考え方に大きな違いがあることの象徴的な事例だといえます。


■世代ごとに性格タイプの傾向に違いがある


時代の変遷とともに移り変わるコミュニケーション手法、またそれが生む世代間ギャップは、一律にどちらが良い悪いと決めつけられるものではありません。私としてはむしろ、このギャップを、相手の性格を知り、相手によって話し方を変える機会にする必要性がある、と捉えています。


私は、「ディグラム診断」という性格診断ツールを用いて、これまで1500万人以上を調査してきました。これは、人間の性格タイプを31の波形に分けて分析するものですが、調査を進める中で、人々の性格的傾向は、世代や生まれ育った時代背景によっても大きく異なることがわかりました。


性格タイプの詳細な説明は拙著『「人間関係」は性格と相性が9割』を参照いただきたいのですが、昭和バブル世代の人は「台形型」。とにかくみんな楽しくポジティブ。感覚的に「楽しく行こうぜ!」という性格タイプが多い傾向にあります。この世代は、情熱的で共感性が高く、人情に厚い。そのため仕事などでは、利益や内容の良し悪しより人間的つながりを優先し、「○○さんだから一肌脱ぎますよ!」と引き受けることが多いのです。


そして、その1つ上の昭和親父世代になると、「U型III」。責任感や正義感が強く、我慢強い滅私奉公型の性格タイプが多いのです。


■長時間の密なコミュニケーションで仲間意識を育む上の世代


昭和バブル世代にしても、昭和親父世代にしても、学生時代のコミュニケーション・スタイルは基本的に同じようなものです。誰かの部屋に集まってお酒を飲んだり、おしゃべりをしたり、麻雀をしたりするなど、長時間の密なコミュニケーションを通して、仲間意識を育んでいきました。


これが平成ゆとり時代になると、一晩明かすにしても、カラオケ店や漫画喫茶で過ごすなど、上の世代とは違い、対面ではなく、「画面」がワンクッション入る形のコミュニケーションになります。


ノリとしては昭和世代とあまり大きく変わらないのですが、周囲の空気をさらに読むようになり、同調意識がいっそう強くなっていきます。たとえばこの世代は学生時代に「ヤマンバギャル」などが流行りましたが、自分がどの集団に分類されるのかを気にし、自分が所属する集団とそうでない集団の区別にこだわる「カテゴリー意識」が強い傾向にあるといえます。


■常時「つながっている」ことで仲間になるZ世代


さらに時代を下って、Z世代となると、一晩中LINE通話をつなぎっぱなしにしながら、各自、宿題をしたり、夕飯を食べたり、入浴をしたり、動画を見たりと、常時「つながっている」ということに対して仲間意識が成立します。


位置情報アプリZenlyがブームとなったように、いつでも自分や友人の居場所を把握したがるのもZ世代の特徴です。


このようにZ世代は、見方によっては私生活をダダ漏れにするようなコミュニケーションが平気な世代にも見えます。


ところが、その一方で、すべての人に対してダダ漏れにするわけではない、というのがZ世代の興味深いところ。「こいつには見せない」「こいつには見せる」と、その実キッチリ相手を取捨選択してもいるのです。


同世代の友人同士でもはっきり線引きをするのはもちろんのこと、スタイルのまったく異なる昭和世代や平成ゆとり世代には明らかに一線を引いて、なかなかその本音を見せません。


■Z世代に重要な「適度な距離感」


仕事においてもプライベートにおいても、このような空気感を持ったZ世代とうまくコミュニケーションを取るコツは、どんなところにあるのでしょうか。私は、「適度な距離感」がポイントだと考えています。


昭和世代が熱い情熱をぶつけたところで、Z世代には響きません。逆に引かれてしまうだけです。


といっても、Z世代は、体の芯まで冷え切った冷感世代ではありません。傍目には、雪化粧をしてその感情を掴ませないように見えても、彼らの内部には熱いマグマ(感情)がいまにも噴火をする勢いでうごめいているのです。


写真=iStock.com/Drazen_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Drazen_

■Z世代とうまくやるには「憧れの対象」になることが重要


熱いマグマを内に秘めた雪山のZ世代に対し、「あれをやろうぜ」「こうしようぜ」と外側から熱く語りかけるのは愚策です。俗に「背中で見せる」といいますが、イメージとして半径5〜10メートルくらいの距離を取って、付かず離れずのポジションをキープしながら、Z世代がこちらに興味を持つのを待つようにして接するとうまくいきます。


推し活世代でもあるZ世代は、一生懸命頑張っている人をリスペクトしたいという気持ちが強いのも、その特徴のひとつ。自分には真似できないような専門性を持った人に憧れを抱いているのです。


ですから、昭和世代や平成ゆとり世代は、Z世代と仲良くなろうとへたにちょっかいを出すのは逆効果。急がば回れで、仕事や人生を充実させ、その人自身が毎日楽しく過ごすことが第一です。


そんな上の世代の姿を見て、Z世代にとって憧れの対象となれば、Z世代のほうから心を開いてくれるようになるでしょう。


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木原 誠太郎(きはら・せいたろう)
ディグラム・ラボ代表
1979年生まれ、京都府出身。電通やミクシィでマーケティングを担当し、さまざまな企業のマーケティングコンサルティングにたずさわる。2013年、ディグラム・ラボを設立。「心理学×統計学」で人間の本音を分析し、カウンセリングするプログラム「ディグラム診断」の研究を進めながら、同時に事業展開。著書多数。「あなたはどれに当てはまる? スター★性格診断SHOW」(TBS系)、「性格ミエル研究所」(フジテレビ系)などテレビ出演も多数。
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(ディグラム・ラボ代表 木原 誠太郎)

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