怖いのは肝臓の病気だけではない…「飲まない人に比べて約1.7倍」お酒をよく飲む女性に多い"がん"の名前

2025年4月4日(金)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

飲酒が与える健康への影響に男女差はあるのか。琉球病院副院長の真栄里仁さんは「多くの研究で、女性の肝臓はお酒に弱いことが示されている。加えて、お酒をよく飲む閉経前の女性は乳がんにかかりやすいことも分かっている」という——。

※本稿は、葉石かおり著、浅部伸一監修『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(日経BP)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/yamasan
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■カフェでコーヒーではなくビールを飲む女性


厚生労働省の飲酒ガイドラインで個人的にショックだったのが、「性別の違いによる影響」について言及されていたことだ。


「女性は、一般的に、男性と比較して体内の水分量が少なく、分解できるアルコール量も男性に比べて少ないことや、エストロゲン(女性ホルモンの一種)等のはたらきにより、アルコールの影響を受けやすいことが知られています。このため、女性は、男性に比べて少ない量かつ短い期間での飲酒でアルコール関連肝硬変になる場合があるなど、アルコールによる身体への影響が大きく現れる可能性もあります」(飲酒ガイドライン)


酒に関わる仕事をしている身として、これは無視できない。いくら酒がおいしいからといって、気軽に女性に勧められないではないか。


その一方で、最近は女性の飲酒が増えていると感じる。筆者の周囲を見渡しても、自分を含め、男性と同等かそれ以上によく酒を飲む女性はいる。「カフェでビールとコーヒーの値段が同じなら、ビールを選ぶ」と話す豪快な女性も少なくない(筆者もその1人だ)。


■女性の方がアルコールの害を受けやすい


だが、知人の中には乳がんを患った人もいて、アルコールが女性の体に与える影響を不安に思うこともある。女性のアルコール依存症が増えているとも聞く。女性とアルコールの問題に詳しい、琉球病院(沖縄県金武町)副院長の真栄里仁氏は、「女性のほうがアルコールの害を受けやすいのは間違いない」と強調する。


「女性は一般的に、男性よりもアルコールを分解する能力が低く、血中アルコール濃度が上がりやすいため、早く酔いが回りやすい。飲酒に関連した病気のリスクも上がりやすいので、注意しなければなりません」(真栄里氏)


アルコールの分解能力が低いというのは、男性よりも女性のほうが肝臓が小さいということなのだろうか。肝臓の大きさは、体の大きさに比例すると聞いたことがあるが……。


「確かに、肝臓の大きさ(体積)は、除脂肪体重(体脂肪を除いた体重)に比例します。女性は男性より一般的に体格が小さいものの、肝臓は比較的大きくて、結果として肝臓の体積の男女差はそれほど大きくはありません。ところが、実際に1時間で分解できるアルコール量の平均値は、男性が9g程度、女性が6.5g程度と、大きな差があります」(真栄里氏)


■血中アルコール濃度が上がりやすい


なぜアルコールの分解能力に男女差が生じるのか、その理由はまだよく分かっていないという。ただ、女性のほうが血中アルコール濃度が上がりやすいのは、体内の水分量から説明できるという。


「女性は一般的に筋肉は少ないのですが、体脂肪が多いため、結果的に体内の水分の割合は、男性が60%なのに対し、女性は55%程度にとどまっています。脂肪よりも筋肉のほうが多くの水分を保持できるからです。こうした水分量の差から考えても、女性のほうが血中アルコール濃度が上がりやすいのです」(真栄里氏)


やはり、女性のほうが男性と比べて、注意して酒を飲まなければならないということか。


飲酒する女性の割合が増加しているように感じるのだが、この点はどうだろう?


「はい、確かに女性の飲酒率は上がっています。日本ではかつて、女性の飲酒は一般的ではありませんでした。1954年の国税庁などの調査では、女性の飲酒率はたったの13%。それが、2013年の調査では、63.3%まで上昇。男性は82.9%なので、差が縮まっていますね」(真栄里氏)


■男性の半分程度の飲酒量でも肝臓にダメージ


この調査では、「毎日飲酒」や「週1日以上、60g以上の飲酒」の割合の結果を見ると、まだ男女差があるように感じられるが、それでも女性の飲酒は確実に増えているのだという。女性の社会進出に伴い、女性の飲酒が当たり前になっているのだが、とはいえアルコールの分解能力の男女差が縮まるわけではない。


写真=iStock.com/AzmanL
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「大まかな数字としては、女性は平均して男性の8割程度しかアルコールを分解する能力がないといわれています。飲酒量や除脂肪体重が同じだとしても、血中アルコール濃度が男性より高くなると考えられ、それだけ女性のほうが悪酔いしやすく、急性アルコール中毒のリスクも高くなります」(真栄里氏)


日本では従来、健康に悪影響を与えない「適度な飲酒」の量として、1日平均純アルコールで約20g程度(日本酒なら1合、ビールなら中ジョッキ、ワイン2〜3杯に相当)という目安が示されていた。だが女性の場合、この20gの3分の2から半分程度にするのが安全だと言われている。


いくらなんでも少なくないか、と酒飲みの女性は思うだろうが、これにはちゃんと根拠があるという。


「女性は、男性の半分程度の飲酒量でも肝臓にダメージを来し、重症の肝障害である肝硬変に至る飲酒量も男性の3分の2程度なのです。多くの研究で、女性の肝臓はお酒に弱いことが示されています」(真栄里氏)


なんと……。女性は肝臓をよりいたわって飲まなければならないのだ。


■多量飲酒の女性の乳がんリスクは1.7倍


飲酒する女性が気を付けなければならないのは、肝臓の障害だけではない。日本では女性の中で最も多いがんである「乳がん」は、飲酒と関係がある。


葉石かおり著、浅部伸一監修『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(日経BP)

「お酒をよく飲む閉経前の女性は乳がんにかかりやすいことが分かっています。乳がんには、運動不足、肥満のほか女性ホルモン(エストロゲン)などの要因が知られていますが、アルコールは女性ホルモンに影響を与えることで、乳がんのリスクを高めるのではないかと考えられています」(真栄里氏)


飲酒と乳がんの関係について、日本人女性約16万人を対象にした大規模調査の結果では、週5日以上飲む閉経前の女性は、全く飲まない人に比べて、乳がんのリスクが1.37倍になっていた。また飲酒量についても、1日に23g以上飲む人の罹患リスクは、まったく飲まない人に比べて1.74倍だった(※1)。


※1 "Alcohol consumption and breast cancer risk in Japan: A pooled analysis of eight population-based cohort studies" Int J Cancer. 2021 Jun 1;148(11):2736-2747.


「日本においても乳がんは年々増加傾向にあるので、日常的に飲酒習慣がある方は、より注意が必要です」(真栄里氏)


筆者の周囲の酒好き女性の中にも、乳がんに罹患した人は少なくない。国立がん研究センターがまとめた「がんの統計2022」によると、乳がんの罹患率は30代後半から急増し、30〜64歳の女性のがんにおいて、乳がんは死亡数が第1位となっている。


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葉石 かおり(はいし・かおり)
酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に各メディアで活動中。「飲酒寿命を延ばし、一生健康に酒を飲む」メソッドを説く。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。現在、京都橘大学(通信)にて心理学を学ぶ大学生でもある。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『名医が教える飲酒の科学』(ともに日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。
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浅部 伸一(あさべ・しんいち)
肝臓専門医
東京大学医学部卒業、東大病院・虎の門病院・国立がんセンター等での勤務後アメリカに留学。帰国後は、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科講師・准教授。その後、製薬会社に転じ、新薬開発等に携わっている。実地医療に従事するとともに、肝臓やお酒に関する記事・書籍等の監修・執筆やがんの予防・最新治療についての講演も行っている。医学博士、消化器病専門医、肝臓専門医。著書に『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』など。お酒が好きで、日本酒・ワイン・ビールなど幅広く楽しんでいる。アシュラスメディカル株式会社所属。
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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり、肝臓専門医 浅部 伸一)

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