これが科学的根拠に基づく「最高の勉強法」である…「白紙を前にして繰り返し思い出す」が究極といえる理由
2024年4月5日(金)9時15分 プレジデント社
※本稿は、安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks
■多数の研究でわかった決定的に重要なプロセス
学ぶために決定的に重要なのが「アクティブリコール(Active recall)」です。
なんだか難しい言葉ですが、簡単に言えばアクティブリコールとは「勉強したことや覚えたいことを、能動的に思い出すこと、記憶から引き出すこと」です。
「え? 記憶したいことを頑張って記憶から引き出す? それだけ?」、そう思われる方も多いかもしれません。
実は、これまでの学習に関する数多くの研究から、何かを記憶するためには、それを積極的に思い出す作業や、脳みそから頑張って取り出す作業こそが、決定的に重要だということが明らかになっています。
学術的にはアクティブリコール以外にも、想起練習・検索練習(Retrieval practice)、練習テスト(Practice test)と呼ばれることがありますが、同様の概念です。
ちなみに、情報を積極的に思い出すことによって、その情報が長期記憶に定着しやすくなる現象のことをテスト効果(Testing effect)といいます。「想起練習」、「練習テスト」、その効果である「テスト効果」というと、一般的に想像するような試験やクイズなどを受けないといけないのかと思われるかもしれません。しかし、試験やクイズに限らず、とにかく記憶から引き出す作業であれば効果が期待できるので、本書ではアクティブリコールという言葉を中心に使いたいと思います。
■インプット中心の勉強法は効率が悪い
多くの人は勉強に対して、次のようなインプット中心のイメージを持っているのではないでしょうか。
例えば、ある教科書を100ページ読んだAさんと200ページ読んだBさんがいたとします。「どちらの人が多く学びましたか?」と聞かれたら、200ページ読んだBさんと答える人のほうが多いのではないでしょうか。
インプットの量で、学習を評価してしまうこうした考え方は、とても一般的です。できるだけ多くの文章を読む、できるだけたくさん講義を聴く、できるだけインプットの量やそのための時間を増やすことが良い勉強法だと考えている人が多いかもしれません。
しかし、このインプットだけしか行わない勉強方法というのは、科学的には効率が悪いことがわかっています。
■「思い出してアウトプットすること」が重要
では、科学的に効果が高いとされている勉強とは、どのようなものでしょうか。実際に効率的な勉強のイメージが図表1です。
出所=安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)
勉強した内容を思い出す、記憶から取り出す作業(例えば、覚えたことを白紙に書き出したり、練習問題を解いたり、テストを受けたりすること)について、すでに覚えたことを単に確認する作業であるとか、学習の効果を判定するための作業であると勘違いしている人がいます。
けれども、学習に関する数多くの研究から、思い出す作業、アウトプットすることこそが、記憶を長期に定着させる効果的な勉強法だということがわかっています。
■筆者自身が実践した「白紙勉強法」とは
ここで、僕が医学の膨大な知識を覚えなければならない時に使ってきた、そして今でも使う「ブツブツ呟いて教えるフリをしながら書き出す白紙勉強法」を紹介します。
長ったらしい、大そうな名前を付けてみましたが、至ってシンプルな勉強法です。用意するものは次の3つだけです。
●用意するもの
・自分の勉強したい情報:英単語帳、学校の教科書、資格試験の参考書、興味のある分野の本、新聞雑誌など
・白紙:要らないノート、使わないプリントの裏など(僕は、プリンター用紙をよく使いますが、何でも構いません)
・書くもの:自分の好きな書き心地のペンや鉛筆(ちなみに、僕はZEBRAのSARASAClip0.5をよく使っています)
■元の情報を見ずに、頑張って記憶を引き出す
やり方も、至ってシンプルです。
まず、英単語のリスト、教科書の章や段落、新聞や本など、覚えたい情報を読みます。その後、その情報を見ないで、覚えたい内容を、白い紙にできるだけ書き出していきます。
その際のポイントは、元の情報を見ない、つまり記憶の手掛かりがない状態で、頑張って記憶から内容を引き出すことです。アクティブリコールの劇的な効果を示したカーピックらの行った研究でも、学習者がしたことは、学んだ内容をただ紙にできるだけ書き出す、パソコンにできるだけ打ち出すというとてもシンプルなものでした。
出所=安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)
あとに残すためのノートを書くわけではなく、ただアウトプットするためだけなので、文字を綺麗に書く必要はありません。僕はもともと字が汚いので、このアウトプットの書き出しは、自分でも読めないくらいの字で書きなぐることがあります。
■誰かに教えるつもりでブツブツ呟く
覚えにくい内容や難しい内容の場合、声に出しながら書くようにします。ある情報をただ黙読するよりも、書き出したり、ブツブツ呟いたり、声に出したりしたほうが記憶に残ることが知られているからです。これは、プロダクション効果(Production effect)と呼ばれています。
写真=iStock.com/carlofranco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/carlofranco
過去の研究では、おもに情報の入力段階において効果が調べられていますが、僕は最初に覚えようとする段階(最初に情報を読んでいる段階)、そして思い出そうとする段階の両方で使うことがあります。
さらに、誰かに教えているフリをしながらアウトプットすると、より効果は高いと思います。「Learning by teaching(教えることで学ぶ)」、「Teaching is learning(教えることは学ぶことである)」とよく言われるように、誰かに教えることは、実際に情報の整理や記憶の定着を促す効果が確かめられています。
■「プロダクション効果」と「プロテジェ効果」の合わせ技
誰かに教える、または教えようとすることで、その学習内容の理解が深まることをプロテジェ効果(Protégé effect)と言います。興味深いことに、実際に誰かに教えなくても、あとで誰かに教えることを前提に勉強すると、学習効果が高まるという研究報告があります。よく成績の良い生徒が他の生徒に教える光景を見ることがあるかもしれませんが、実はより効果の高い学習をしているのは「教えている側」なのです。
僕は、昔からこうした科学的根拠を知っていたというわけではありません。この「ブツブツ呟いて教えるフリをしながら書き出す白紙勉強法」という僕が行ってきた地味な勉強法が、学習において大切なテスト効果にプロダクション効果とプロテジェ効果を合わせて利用した勉強法であることを、あとになって知りました。
■アウトプットとフィードバックを繰り返す
そうしていったん紙にアウトプットし終えたら、次にわかっていないこと、忘れていることについて教科書を見直し、情報を確認します。アクティブリコールはそれだけでも効果があるのですが、内容を見直すというフィードバックがあることで、その効果がさらに上がります。1回読んだだけで、覚えたいことの全部をアウトプットできることは少ないので、できれば満足する情報量をアウトプットできるようになるまで、アウトプットしては知識を確認(フィードバック)することを繰り返します。
安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)
実際に知っている以上に、知っていると勘違いしがちな自分の脳に騙(だま)されない、すなわち「流暢性の錯覚」に陥らないためには、このような作業の繰り返しによって自分の脳を常に試すことが大切です。
さらに、本書で別途紹介する有効な学習方法である「分散学習」と組み合わせるために、時間をおいてまた、できるだけ思い出して書き出していきます。この際の間隔については、インプットした情報の難しさ、自分がどれくらい覚えているかによって異なってきます。
個人的には、やや難しく新しいことを覚える場合は、その日のうちに1回、次の日に1回、さらに間隔をあけて繰り返すと効果的だと思います。この間隔についても、『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の中で説明しています。
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安川 康介(やすかわ・こうすけ)
米国内科専門医
2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター初期研修修了後、2009年に渡米。University of Minnesota内科レジデンシー、Baylor College of Medicine感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。南フロリダ大学内科助教。
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(米国内科専門医 安川 康介)