大和ハウス工業を筆頭に進む大手ハウスメーカーの多角化経営 住宅市場の先細りに直面する工務店の生き残り戦略とは

2025年4月4日(金)4時0分 JBpress

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 日本のGDP(国内総生産)の実に22%を占める、建設・不動産・住宅の3業界。日本経済を支えるこれら巨大産業が、今「変革のタイミング」を迎えている。本連載では『「建設業界」×「不動産業界」×「住宅業界」Innovate for Redesign』(篠原健太著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。異業種に比べてDXやGXの面で後れを取る3つの業界に求められている、産業構造の「リデザイン」について考える。

 今回は、住宅市場の先細りにより厳しい環境が続くハウスメーカーが進める「多角化経営」に注目。工務店の経営にも求められる変革について考える。


多角化のその先にある、地域に根付く「1000年経営」の構想を立案

『「建設業界」×「不動産業界」×「住宅業界」 Innovate for Redesign』(プレジデント社)

 厳しい経営環境におかれる住宅会社は、さまざまな生き残り戦略を模索しています。各社がこぞって多角化を進めており、注文系ハウスメーカーの分譲市場の参入や、逆に分譲系ハウスメーカーの注文市場参入など争いが激化しています。

 分譲住宅とは、建物と土地がセットになって販売されている住宅のことで、デザインや間取りなどの設計プランをビルダーが決めています。コストが抑えられるので、いま、大手ハウスメーカーはこぞって分譲住宅に注力しているのです。

 分譲住宅で躍進しているのは、飯田グループHDでしょう。資本力を生かして積極的に土地を仕入れて、ローコストの住宅を大量に建て、販売するというビジネスモデルを徹底しています。

 分譲住宅市場での重要なカギは、土地の仕入れにあります。より良いエリアで、できるだけ広い土地を購入するのです。住宅は基本的に画一的なものですから、これによって、低コストで大量に住宅を建てることができるようになります。

 ただ、分譲住宅は低コストで大量に建てられますが、現場で施工する職人不足の問題があります。住宅業界の人手不足は深刻で、職人が全国的に足りていません。

 そうした中で、たとえばケイアイスター不動産は積極的に外国人を採用しています。そして外国人であっても、日本人と同じ待遇で雇用しているのです。この効果は絶大で、人手不足で困っている工務店は、大いに見習うべきでしょう。

 このように工務店各社が住宅市場で激しく競い合う一方で、大手ハウスメーカーを中心に進んでいるのが「多角化経営」です。

 最も多角化に積極的なのが、大和ハウス工業です。海外進出も含め早期から多角化を進めており、売上ベース(2024年3月期)で見ると、戸建て住宅は全体の18%にとどまり、商業施設が23%、事業施設が24%などとなっています。

 大和ハウス工業に追随する形で、いま、他の大手ハウスメーカーも多角化を積極的に進めているのです。

 住宅市場が先細りになる中、この多角化経営は、大手だけではなく、地域の工務店も生き残り戦略として模索することが重要になるでしょう。

 もちろん、地域の工務店が大手ハウスメーカーと同じようなことはできません。それよりも、地域の工務店にしかできないことを考えるべきだと思います。

 地域の工務店は、その地域の住宅需要に応え続けていく責務があるでしょう。そうしたときに、地域にはそれぞれの特性があるので、地元の工務店だからこそ、その地域に寄り添える思いや細やかさや、またそのエリアの気候に適した住宅を提案することができるはずです。地元の県産材を使い、地産地消を進めながら地域経済に貢献することも可能でしょう。

 そのような家づくりは、全国規模の大手ハウスメーカーにはマネのできない価値の提供ですし、大きな武器になります。

 ただ、これまでと同じように住宅を設計して施工する、というだけのビジネスモデルでは、早晩、行きづまる可能性が高いかもしれません。いまのビジネスモデルからの転換、つまりは多角化を考えることが必要です。リフォームやリノベーションの領域を手がけるというのは、一つの方法として非常に有効だと思います。あるいは不動産事業に進出し、自前で土地を扱えるようにすれば、ビジネスの幅が拡がるでしょう。

■ 自社のアイデンティティの再定義を

 この多角化では、重要なポイントがあります。それは、自社のアイデンティティをあらためて定義し直すことです。

 そもそもの工務店は「工務」、いわゆる設計から施工までのプロダクト側面と「店」、販売やアフターフォローなどのサービス側面から構成されます。会社の歴史により各社の得意・不得意や性格は分かれます。

 とはいえ、地域の工務店は、いうまでもなくその地域、その地域経済と一蓮托生です。そこで経営を続けていくためには、地域に寄り添い、地域に根付くことが重要になります。そこにこそ、自社のアイデンティティを定義づける上でのヒントがあるように思えるのです。

 たとえば、その地域での暮らしというものにしっかりと責任を持って、長年付き添える存在になっていくというアイデンティティがあり得るでしょう。

 そうであるならば、前述したリフォームやリノベーションは非常に有効です。新築戸建てを販売して終わりではなく、子どもが巣立ち、家族形態が変わったり、オーナーが高齢になったりという、その時々のライフスタイルの変化に合わせて、長く寄り添うことができると思います。

 たとえば、解体業などの選択肢もあるでしょう。地域にて役目を終えた建物をスクラップして、次の世代に新しい建物をビルドする。足場は使いまわしですから利益率も高く確保でき、解体業で付随する上流の情報も取得できるでしょう。

 また、地域にはさまざまな企業が存在します。業種も多様でしょう。その中で地域の工務店という業種が、他の会社と何が違うのかと考えたときに、それは、持っている個人情報の圧倒的な深さだと思います。

 家を買う、建てるときには、そのための資金をどう手当てするのかが最大の問題になると思いますが、工務店は、施主の資金計画の相談に乗ったり、住宅ローンの審査を通すための情報をやり取りしたりするはずです。

 将来的なライフプランみたいなものや、今後の家族構成のイメージ、もう一人子どもがほしいとか、またはオーナー夫婦の両親がどこに住まわれていて、どのような暮らしをしているのかなど、ありとあらゆる個人情報を、住宅を建てるプロセスの中で吸い上げていきます。この深くて豊富な情報は、場合によっては地域の金融機関よりも多いかもしれません。

 そういった地域の顧客の情報、深い情報を持っているからこそできる、サービスや提案というのは幅広いと思います。

 ですから、単に多角化が大事だといって、やみくもに事業を立ち上げるのではなく、その地域の工務店として地域に長く寄り添っていけることが必要ではないでしょうか。あくまでアイデンティティに基づくべきで、そのアイデンティティを具現化するために、自社の強みをどう持たせて、多角化経営というものをデザインしていくのかを考えることが、非常に重要になってくるのではないかと思います。

 こうした取り組みの先に、本当の意味で地域に根付き、地域に必要とされ、地域に存在し続けられる工務店としての「1000年経営」のようなものが構想されていくのではないかと考えています。

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■第5回 大和ハウス工業を筆頭に進む大手ハウスメーカーの多角化経営、住宅市場の先細りに直面する工務店の生き残り戦略とは(本稿)

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筆者:篠原 健太

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