カレーライスを注文するときに「ルーを多めにしてください」は間違いなのか…「ルー」の意味に起きている変化

2025年4月17日(木)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ken6345

カレーライスの「ご飯にかかっている部分」のことを「ルー」と呼ぶのは間違いなのか。NHK放送文化研究所の塩田雄大さんは「料理として出来上がっている『カレーの汁(=ご飯にかかっている部分)』のことを『ルー』と言うのは、本来はあやまりだと言われてきた。だが、この用法は若い年代を中心にかなり広まってきており、社会的にも認められる段階になっているのかもしれない」という——。

※本稿は、塩田雄大『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま』(世界文化社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/ken6345
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■カレーの「ルー」は何を指すのか


Q カレーライスを注文するときに「ルーを多めにしてください」と言ったところ、変な顔をされてしまいました。なにかことばの使い方が間違っていたのでしょうか。


A カレーの「ルー」というのは、固形や粉末の「カレーのもと」のことを指すことばです。料理として出来上がっている「カレーの汁(=ご飯にかかっている部分)」のことを「ルー」と言うのは、本来はあやまりだと言われています。ですが、この用法は若い年代を中心にかなり広まってきており、社会的にも認められる段階になっているのかもしれません。

「ルー(roux)」というのは小麦粉とバターを加熱しながらまぜあわせたものですが、もともとフランス語で「赤茶色の」という意味です。赤茶色になるように火を通したから、このように呼ばれたのでしょう。とろみがあり、シチューなどにも使われます。


日本式のカレーを作る場合、戦前は各家庭で小麦粉を炒めてそこにカレー粉を加えていました。この手間を省くために、最初からカレー粉と「ルー」を合わせた商品が開発されたのです。これが、カレーの「ルー」です。


■「ご飯にかかっている部分」の呼び方は…


では、あの「ご飯にかかっている部分」のことは、何と呼べばよいのでしょうか。かつて軍隊では「辛味入汁掛飯(からみいりしるかけめし)」と呼ばれた時期があることからもわかるように、むかしは「汁」ととらえられていたようです。


しかし、いまの日本人の感覚では「汁」と呼ぶにはあまりに「とろり」としすぎているのではないでしょうか。「(カレー)ソース」という言い方もありますが、ご飯の上にあのように大量にかかっているものを「ソース」とは呼びにくい気持ちもあります。


「カレー」だけだと、ライスが添えられたものなのかどうか、あいまいです。


結局、適当な呼び名がないので、「ルー」ということばがその役を務めるようになったのだと思います。もともとのフランス語にはない使い方ですが、日本語になじんだ外来語の用法として、認めてもよさそうです。


インターネット上でのアンケートでは、「ルー」ということばは「カレーのもと」と「ご飯にかかっている部分」の両方とも指すことができるという人が、特に若い人の間では主流になっていました。


なお、放送では「ルウ」ではなく「ルー」と書くことになっています(次の項をご覧ください)。


カレーは若者に人気のメニューですが、50代のぼくも大好きです。食後はいつも、カレー臭に気をつけています。


画像=『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語

■カレーの「ルー」と書くのか、「ルウ」と書くのか


Q カレーの「ルー/ルウ/ルゥ」は、どのように書くのがよいのでしょうか。


A カタカナ表記の原則に従えば、「ルー」がふさわしい書き方ということになります。製品名などで「ルウ」「ルゥ」といった書き方も実際には見られますが、その製品の名前を固有名詞として取り上げるのでないかぎり、「ルー」と書くのが基本です。「ルウ」あるいは「ルゥ」という書き方は、おそらく戦後に特定の食品メーカーが採用したことによって広まったのではないかと推定しています。

現代日本語では外来語をカタカナで書く場合、長音(のばす音)は「ー」を使うことになっています。例外として「ー」を使わないのは、料理で使う「ボウル」(球の「ボール」と書き分けるため)や娯楽の「ボウリング」(掘削の「ボーリング」と書き分けるため)など特別な事情があるものだけです。一方、カレーの「ルー」はフランス語“roux”から来たことばですが、これをあえて「ルウ」あるいは「ルゥ」と書くような特別な理由は見当たりません。


■「ルー」のほうがルールどおりの書き方



塩田雄大『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま』(世界文化社)

古い資料ですが、1935(昭和10)年に出た新語辞典(『萬国新語大辞典』)にも、「ルー」という形で載せられています。


このことばの書き方についてウェブ上でアンケートをおこなってみたところ、全体としては「ルー派」が「ルウ派」を上回りました。ただしこれには男女差が見られ、女性には「ルウ派」もかなりいることがわかりました。おそらく、箱に入って売られている「ルウ」を目にしながら買い物や料理をする機会が相対的に多いことによるものでしょう。


結論は、「ルウ」も実際にはよく目にするけれども、「ルー」のほうがルールどおりの書き方だということになります。


画像=『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語

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塩田 雄大(しおだ・たけひろ)
NHK放送文化研究所主任研究員
学習院大学文学部国文学科卒業。筑波大学大学院修士課程地域研究研究科(日本語専攻)修了後、日本放送協会(NHK)に入局。『NHK日本語発音アクセント新辞典』などに従事。2011年、博士(学習院大学・日本語日本文学)。著書に『変わる日本語、それでも変わらない日本語』など。2015年からNHKラジオ第一放送『ラジオ深夜便』「真夜中の言語学 気になる日本語」担当。
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(NHK放送文化研究所主任研究員 塩田 雄大)

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