なぜアダストリアはヨーカドーとタッグを組んだ?“アパレル協業”が与える双方にとっての“勝算”

2024年4月19日(金)17時0分 オリコン

『FOUND GOOD』イトーヨーカドー木場店(画像提供:イトーヨーカ堂)

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 イトーヨーカドーが、2月にアダストリアと協業する新ブランド『FOUND GOOD』を展開する発表は巷で賛否を呼んだ。昨今、GMS(総合スーパー)のアパレルといえば、メーカーのテナントのイメージが強かったが、GMSとSPAがタッグを組むパターンは極めて珍しい。そもそもアパレル事業を撤退していたイトーヨーカドーがなぜ今回の取り組みに踏み切ったのか。また、アダストリアから見た、イトーヨーカドーの課題とは? 双方に話を聞いた。

■「食品は買いに行くけど雑貨洋服は買わない」イトーヨーカドーに突き付けられた問題点

 イトーヨーカドーは昨年、自社アパレル事業から撤退。「食」にフォーカスしていく方針転換を掲げたことは記憶に新しい。しかし、今年になり、アダストリアと協業する新ブランド『FOUND GOOD(ファウンドグッド)』を木場店・大和鶴間店・松戸店・東大和店などでスタートした。

「自社開発のアパレルをやめることで、テナント化を進めていたものの、利益の課題解決に結びつかないというのが正直なところでした。利益性とお客様のニーズにワンストップで応えるるためには外部の協業がよいのではないということに考えが至りました」

 ブランドロゴデザイン、及びパッケージングなどのクリエイティブディレクションはUNITED ARROWSなどのパッケージデザイン、坂本龍一サカナクションのCDジャケットデザインなどに携わる平林奈緒美氏。アダストリアが関わっていることからGMSアパレルとしては一段抜けた、革新的新事業といえる。この経緯について株式会社イトーヨーカ堂・執行役員・専門店事業部長の梅津尚宏氏は「30〜40代のお客様獲得が狙いの一つ」と話す。

「30代40代のファミリー層の方々は最も多忙な世代で時間もなく子育てで経済面が大変ななか、『失敗しない買い物をしたい』とおっしゃっていることが調査でわかりました。弊社のメイン層が50代以上のお客様なのですが、長期的に見れば若い層のお客様にも来ていただきたい。そこでワンストップで失敗しない価格と品質を満たそうと、『グローバルワーク』や『ローリーズファーム』など、30〜40代の顧客層に強いアダストリア様とタッグを組んだのが始まりです」(同氏)

 逆にアダストリアにとってもイトーヨーカドーと協業することで、シニア層も狙える。また、テナントではなく協業ブランドを作っていくということに大きな可能性を感じたようだ。

「アンケートを取った結果、イトーヨーカドーさんには『食品は買いに行くけど雑貨洋服は買わない』という意見がありました。そこに弊社としてもチャンスを見出しました。あまりにもトレンド感のあるものはやはり都心の駅ビルやブランドで買われるだろうと。そこで、我々が得意とするテイストを取り入れつつ、少しだけ背伸びしたファッションを考えたうえで、シンプルにコーディネートできる時短コーデもでき、さまざまな体型の方に着ていただけるような伸びる素材など機能面で生活のストレスをなくすもの、他の競合ブランドさんとの製品とも合わせてコーデできるものを提案させていただきました」(アダストリア執行役員ビジネスプロデュース本部長 小林千晃氏)

■アダストリアが考えるイトーヨーカドーの課題 解決のカギは“女性が買いたくなるような店内の雰囲気”

 前述のアンケート回答にもあるように、アダストリアもイトーヨーカドーに対して「GMSは食品の利用が大半で隣の衣料品売場はお客様が少ない」ことに課題観を持っていた。

「かつての衣料品がメインで食品がサブだった時代から少しずつ衣料品のテナントが——無印良品だったりアダストリアみたいに——世の中に増えてきたことによってGMS発の洋服が少しずつ衰退していった歴史が正直あったと思います」(小林氏)

 そこで目を付けたのが、平場の“雰囲気”だった。店頭の什器、照明、POP、そして販売員、すべてのブランディングが形成されてはじめて洋服を買う行動に行き着く。

「いろんな部分が、時代の流れの中で少しずつ疎かになっていたのではというお話をさせていただきました。洋服もただ作るのではなく、海外の情報から色や素材の世界的なトレンド、国内のお客様のデータを分析しながらブランドを作っていき、はじめて洋服って形成されるんです。コラボレーションとしてブランドを作っていくということがどういうことか、粘り強く話し合いを重ねていきました」(小林氏)

 イトーヨーカドーは昨年から、食品や日用品を一度で買い回りすることができる「フード&ドラッグ戦略」を行っており、ベビーカーで楽々移動できる広い通路を確保していたため、食品の買い物ついでに寄りやすいスペースを実現することができた。互いの強みを生かした結果、女性の新しい顧客を獲得することができた。

「女性に気に入っていただくことは大事。食を買いに来られる方の大半が女性であることに加え、買い回り率も30%台。『FOUND GOOD』のファンになっていただければ、生活雑貨も一体となったライフスタイル全般の提案もできますし、ファミリーやパートナーと一緒に来ていただけるという新たなお客様を呼び込んでくださるのです」(梅津氏)

 その過程でトータルコーディネートとして『FOUND GOOD』に包まれた暮らしをする人が増えるということだ。

 価格帯もユニクロや無印良品、GU、しまむらなどのちょうど中間の手に取りやすい設定にした。さらには着用販売も可能になったことでイトーヨーカドー自体の雰囲気が変わっていく可能性も見えてくる。実際、イトーヨーカ堂社長から「アダストリアと組むことによってサービススタイルに新たな刺激を加え、販売のスタイルを変えていきたい」とのメッセージがあったという。

「商品情報も今どきの動画やYouTubeなどを利用し、商品の特徴やコーデ提案を配信。それをイトーヨーカドーの従業員の方々が気軽に行えるような仕掛けも作りました」(小林氏)

■“ファッション”が日本の抱える課題の一助に?

 食が中心の総合スーパーとアパレルブランドのコラボというまったく新しい形態。「“ついで買い”をすることで、地域コミュニティを大きく育てていくこと」を目標にしている双方にとって、地域全体の強度が増していく未来は、現在日本が抱える都市化問題解決の第一歩にもなりそうだ。

「現状、20代30代のマーケットは52週MD(マーチャンダイジング)という毎週新しいものを出していくという考え方で非常に回転が早いんです。ですが、GMSではターゲット年齢層が少し上なことと、専門店ではないため、2週間に一回新しいものを取り入れていく26週MDという方向性で進めております。イトーヨーカドーとしては2025年までにEBITDA(最終的な利益から、償却費と支払利息の純額、税金を足し戻した利益)550億円、またROICA(元手に対してどれだけ設けたかを示す指標、利益の割合)4%を実現することを目標に掲げています。しかしテナントだとその数値にはたどり着けない。また品揃えもコントロールできない。ですが協業だと利益性とお客様のニーズ、さらにワンストップで耐えられるということで大きく期待しています」(梅津氏)

 一方でアダストリアはどう見ているのか。

「アダストリアとしても新たな事業展開で毎日がプラスな情報ばかりです。業界が違うと言語、体制、感覚も違う。モールや駅ビル、ファッションビルなどでの展開しかなかった弊社がGMS展開で新たな知見を得られるだけでも価値があります。ぜひ『FOUND GOOD』を成功させたいです」(アダストリア担当者)

 なにより、今回の取り組みを喜んだのは現場の販売員だったという。

「着用販売によって、従業員の方から『私たちも着られる服が増えた』という意見を非常に多くいただいています。この経験を生かし、水族館や介護師、レストランのユニフォームなど、人手不足に悩む職場をファッションで解決するといった展開の拡大にも期待できると考えています」(小林氏)

 経済産業省は2022年3月に『ファッションの未来に関する報告書』を発表し、デザイン、製造、販売、使用、リセールについて多様な視点から望ましい未来を描いている。「ファッション」も解決における重要なファクターとなり得るが、果たしてそれはGMSにおいても可能となるのか。両者にとって“FOUND GOOD”となることを願うばかりだ。
(取材・文/衣輪晋一)

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