OpenAIサム・アルトマンCEOが「キラーファンクション」と評したAIエージェント 果たして人間の代わりになるのか?

2025年4月15日(火)4時0分 JBpress

 この1、2年で世間の認知が急速に高まり、ビジネスでの活用も進みつつある生成AI。数年前から議論になっていた「AIは人間の仕事を奪うのか」という懸念がついに現実になり始めたともいえる。本稿では、『生成AI・30の論点 2025-2026』(城田真琴著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。前述の懸念への回答と合わせて、生成AI活用によって変貌しつつあるビジネスの在り方から、環境問題への影響まで、多角的な視点で解説していく。

 複数タスクを自律的に遂行し、「AIのキラーファンクション」とも呼ばれる「AIエージェント」。人間の業務代行はどこまで進んでいるのか?


AIエージェントは人間の代わりになるか

 LLM(大規模言語モデル)を基盤とするアプリケーションとして「AIエージェント」が注目を集めている。OpenAIのサム・アルトマンCEOは2024年5月、AIエージェントを「AIのキラーファンクション(機能)」と評したほどだ。 一部業務では、すでに人間を代替するケースも報告されている。

■ AIエージェントとは何か

 AIエージェントは、ユーザーから与えられた目標をもとに、複数のタスクを自律的に計画・実行するAIシステムである。これには、LLMを活用した推論や分析、インターネットや外部アプリケーションとのやり取り、さらにはメモリー機能の利用が含まれる。たとえば、タスクを段階的に分解し、外部のデータやAPI(Application Programming Interface)にアクセスして目標を達成することができる。

 AIエージェントは単にユーザーの質問に答えるだけでなく、複雑な問題を解決するためにタスクを自動的に生成し、順次実行する能力を持つ。このため、単なるチャットボットとは一線を画し、より高度な自律性を持つ。また、将来的なAGI(汎用人工知能)実現に向けた重要なステップとして位置づけられている。

■ AIエージェントの動作プロセス

 AIエージェントはユーザーが入力した指示に基づき、主に以下の3つのステップを経て動作する。

① 自然言語理解

 エージェントは、ユーザーの指示や要求を自然言語で理解する。メモリーに記録された過去の対話履歴や文脈を活用して、より精緻な理解を行う。

② 意思決定

 次に、どのタスクをどの順序で実行すべきかを決定する。タスクが複雑な場合は、複数のステップに分割して効率的に実行できるように計画する。

③ タスクの実行と応答の生成

 最後に、計画されたアクションを実行する。この段階では、エージェントが外部のAPIやデータベースを使用してタスクを遂行し、その結果を基にユーザーに適切な応答を生成する。タスクが実行される際に得られた情報は、再びメモリーに記録され、次回以降の動作に反映される。

■ 水平業務を担うエージェントが先行

 LLMの進展を背景に、2023年以降、AIエージェントの開発に取り組むスタートアップが急増している(図表2-1)。現在のところ、カスタマーサポートやセールス、ソフトウェア開発といった水平的な業務を担うエージェントが先行している。

 この背景には、これらの業務が複数の業種や職務にわたって幅広く利用可能であることが挙げられる。特にカスタマーサポートの領域では、AIエージェントが人間によるサポートを置き換えつつある。

 たとえば、ストックホルムを拠点とする大手BNPL(Buy Now, Pay Later=後払い)プロバイダであるKlarnaでは、カスタマーサポートの担当者700人に相当する仕事をAIエージェントが担っており、年間4000万ドルのコスト削減につながったという。

 具体的には、返金、返品、支払い関連の問題、請求書の誤りなど、幅広い問い合わせに適切に対応し、顧客満足度は人間のエージェントと同等、問題解決能力に優れ、繰り返しの問い合わせは25%減少し、さらに問題解決に要する時間は平均11分から2分未満に短縮したという。

 セールスの分野では、AIエージェントによるアウトバウンド営業活動の自動化に注目が集まっている。リードの生成、ルーティング、パーソナライズしたメッセージの作成、さらには顧客とのミーティングの予約までをAIエージェントが自動的に実行することで、効率的なリード生成が実現できる。

 セールスフォースのような大手ベンダーのほか、Clayや11xAIといったスタートアップがセールスエージェントの提供を開始しており、営業支援ツールを強化しつつ、AIエージェントが従来の営業職に取って代わる可能性を示唆している。

 その他では、サイバーセキュリティ領域のAIエージェントが注目されている。アラート調査やレポート生成、脆弱性の修正などにエージェントを応用したり、SOC(Security Operation Center)の役割を担ったりするエージェントが登場している。

 一方、垂直的な(個別業界向け)業務を担うAIエージェントは水平的な業務を担うエージェントに比べて後れを取っているものの、金融(コンプライアンスチェック)や保険(引き受け)、ゲーム(ゲーム内でAIが制御するキャラクター)などの分野でAIエージェントの活用が始まりつつある

■ マルチエージェントシステムの研究が進行

 AIエージェントの市場が急速に拡大する中、学術研究もこの分野の発展を支えている。特に、より複雑なタスクを効率的に処理するための技術開発が進んでおり、中でも「マルチエージェントシステム」が注目を集めている。

 マルチエージェントシステムは、従来の単一エージェントの限界を克服するために、複数のエージェントが連携してタスクを遂行する仕組みである。これにより、各エージェントが個々のタスクに特化しながらも、全体の効率を最大化することが可能となる。

 マルチエージェントは幅広い分野に応用可能であるが、ここでは、ソフトウェア開発への応用について解説する。

① ソフトウェア開発プロセスへのマルチエージェントの適用

 ソフトウェア開発プロセスにおけるマルチエージェントの応用として代表的なのが「ChatDEV」である。ChatDEVは、複数のLLMエージェントが協力してソフトウェアの開発を効率化するシステムである。これにより、開発者の作業をサポートするだけでなく、エージェント同士が独立してタスクを分担し、協調的に作業を進行できる。

 たとえば、ChatDEVでは、次のような役割分担が行われる。

  • 仕様策定エージェント:要件や仕様書をもとに、システムの全体設計を生成
  • コード生成エージェント:仕様に基づいてコードを書き、適切な開発言語やフレームワークを選択
  • テストエージェント:生成されたコードを自動でテストし、エラーやバグを検出して修正を提案

 これらのエージェントが連携することで、従来の開発プロセスを大幅に効率化し、開発サイクルの短縮が期待できる。特に、反復的な作業はエージェントが自動で処理するため、開発者は創造的な部分に集中できるようになる。ChatDEVは、特にアジャイル開発や継続的インテグレーションなどの環境において有効であり、迅速なリリースサイクルが求められるプロジェクトにおいて効果的である。

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筆者:城田 真琴

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