米国はもちろん中国も韓国も追随できない…日本が1995年から1位独占の経済ランキングとは?〈「日本企業の強み」を経営学者ウリケ・シェーデ氏が解説〉

2025年5月20日(火)7時0分 文春オンライン


米カリフォルニア大学サンディエゴ校教授で、日本企業研究を専門とするウリケ・シェーデ氏。シェーデ氏は、日本の先端企業が採ってきた戦略は、貿易摩擦が頻発しても、レジリエンス(強靭性)を発揮すると指摘する。それはなぜなのか。日本企業の“強み”はどこにあるのか。(通訳=近藤奈香)



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「経済複雑性」ランキング


 ハーバード大学グロースラボが「経済複雑性ランキング」を公表しています。これは世界各国の「生産的知識」をランキングにしたもので、2つの指標に基づいています。


 第1は、その国の輸出品の「多様性」と「複雑性」です。


 第2は、どれだけ多くの国でその製品をつくれるかという製品の「偏在性」です。



ウリケ・シェーデ氏 Ⓒ文藝春秋


 たとえばシャツのように単純な製品は複雑性が低く、多くの国で生産可能です。他方、高度な機械や素材は非常に複雑で、生産できる国はごくわずかです。


「経済複雑性の高い」国は、それだけ高度で専門的な技術や人材が豊富で、非常に複雑かつ希少で他の追随を許さない製品を生産できることを示しています。


 1995年から2020年のランキングの推移を見ると、米国は、9位から12位に後退しています。


 他方、韓国は21位から4位に急上昇し、中国も、46位から17位に上昇。ベトナムも、107位から52位に浮上しています。


 最も驚くべきなのは、日本はこの間、ずっと1位だったことです。


 これはなぜか。マクロ経済的にはさまざまな問題を抱えていたなかで、ミクロ経済的な企業レベルでは、日本は長い間、特定の技術分野で中核的な強みを持ち続けているということなのです。


 日本企業の強みを示すもう一つのデータがあります。


 計1094品目(自動車、ロボット、医療機器、事務機器など「最終製品」812品目と、半導体、電池、先端材料など「キーテクノロジー製品」282品目)別に、「世界市場規模」と「日本企業の合計市場シェア」を調査したNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の報告です。


 これによると、2020年と2021年に日本がシェア100%の製品は58品目もありました。シェア90%以上は94品目、シェア75%以上は162品目に達しています。


「集合ニッチ」戦略


 日本企業の世界市場のシェアの取り方は2つのパターンがあります。


 第1は、大企業1社で複数の市場シェアを支配するパターンです。たとえばJSR(旧日本合成ゴム)は、フォトレジスト(半導体製造の必須素材)と偏光板フィルム(液晶パネル用)で世界的リーダーとなっています。


 第2は、複数の日本企業で市場シェアを支配しているパターンです。たとえば、医療用内視鏡は、オリンパス、ペンタックス、富士フイルムを合わせると、シェア80%以上、特殊内視鏡のシェアは100%を占めています。


 私はこうした日本企業の戦略を「集合ニッチ戦略」と名付けました。


 国際比較をすると、中国は75%以上のシェアを支配している品目はわずかです。台湾は60%以上を支配している品目はありません。韓国も、有機ELディスプレイ(世界市場の98%)を除けば、そうした品目はありません。


 日本企業が市場をほぼ支配している分野を具体的に挙げると、まず三菱化学、三菱マテリアル、三井化学、AGC(旧旭硝子)、旭化成、信越化学工業、デンカ、DIC、東レ、クラレ、東京応化工業など、先端化学品の分野です。たとえば富士フイルムは、映画用などの各種画像光学用フィルム、医療用フィルム、医療機器などのグローバル市場のリーダーです。JSRも、四日市の合成ゴム事業を完全に売却し、半導体製造に使うフォトレジストやエレクトロニクス用ファインケミカルなど先端化学材料に集中特化しています。


 鉄鋼部門でも日本は依然、世界をリードしています。日本製鉄とJFEスチールは特殊鋼部門で他の追随を許していません。


 精密機械やロボット分野では、ファナック、村田製作所、キーエンス、オムロン、東京エレクトロンなどが先頭を走っています。


 医薬品の分野では、武田薬品工業、アステラス製薬、小野薬品工業が世界ランキングの上位に入っています。


 ウシオ電機は液晶パネル光洗浄装置、THKはLMガイド(直線運動案内)、ダイキン工業は空調事業の分野で、強い競争力を発揮しています。


 私たちが日常的に使う自動車から、飛行機、携帯電話、パソコン、電動歯ブラシまで、ほぼすべての製品が「ジャパン・インサイド」なのです。「ジャパン・インサイド」の表示を見かけることはありませんが、製品の品質向上のために欠かせない日本製の原材料や部品が用いられているのです。



※本記事の全文(約7500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年6月号に掲載されています(ウリケ・シェーデ「 BtoBダントツの日本企業 」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・米国基準の悲観論
・「スピード」より「安定」を選択
・「ジャパン・インサイド」戦略
・スマイルカーブ
・日本は化学分野でなぜ強い?
・「安全第一」の日本の消費者



(ウリケ・シェーデ/文藝春秋 2025年6月号)

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