突如、医学部のある名門理系大学と合併…人気急騰必至の東京北区にある"江戸時代創立"の中堅一貫校の名前
2025年4月23日(水)10時15分 プレジデント社
上画像=iStock.com/petesphotography、下画像:順天中学校・高等学校のプレスリリースより
※本稿は、矢野耕平『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■私立中高一貫校 近年のトレンド①
共学化・付属校化が加速する理由
近年は、男女別学が共学校にリニューアルする潮流があります。
この一〇年だけでも、戸板(女子校)が「三田国際学園」(二〇二五年度より三田国際科学学園、世田谷区)と校名変更するとともに共学化、日本橋女学館(女子校)が埼玉県を本拠地にする開智学園グループになり、「開智日本橋学園」(中央区)として共学化、八雲学園(女子校・目黒区)は校名を変えず共学校に、村田女子(女子校)は港区の広尾学園の姉妹校として「広尾学園小石川」(文京区)という校名となり共学化。それ以外にも東京にある私立中高一貫校の一五校ほどが共学校に生まれ変わっています。
男女別学時代には生徒募集という面で苦戦していた学校が多いように思います。共学化すればターゲットが倍になるのですね。もちろん、共学化すればそれだけで事は上手くいくわけではありません。それらの学校の中には、運営母体そのものを変えたり、校名変更をしたり、それに伴い教育内容を刷新したりして、大きな学校改革をおこなったところばかりです。
生徒募集を考えてというだけでなく、先にも述べた通り、時代に合わせた結果なのかもしれません。
ただ、共学化が行き過ぎてしまい、東京都の男子校の数が相当少なくなってしまったいま(東京都の女子校は男子校の倍以上)、男子校の需要が供給を大きく上回り、軒並み難化する現象が見られます。
そして、もう一つの潮流が大学付属校化です。
少子化が進行しているなか、早い段階で生徒を囲い込みたい大学側と、系列大学の冠を付けることで、生徒募集を成功させたい中高の思惑が一致した結果でしょう。
この一〇年に目を向けると、横浜英和女学院(女子校)は「青山学院横浜英和」として、京北(男子校:文京区)は東洋大学京北として、日本学園(男子校)は明治大学世田谷(二〇二六年以降)として共学化・大学付属校化に舵を切っています。
もちろん、同様のケースは他にいくつもあります。いま脚光を浴びているのが順天(共学校・北区・一八三四年創立)です。学校法人北里研究所と学校法人順天学園が二〇二六年四月より法人合併し、「北里大学附属中学校高等学校」という名称になることが決定しました。北里大学は、医学部・薬学部・獣医学部などを有する名門理系大学。同校発信のプレスリリースによれば、新名称となるタイミング以降に入学した子どもたちに北里大学への内部進学制度を準備しているとのことです。来春絶大な人気を集めるのは間違いありません。
上画像=iStock.com/petesphotography、下画像:順天中学校・高等学校のプレスリリースより
■近年の新たな教育手法
最近のトレンドといえば、新たな教育手法を採択する学校が増えているということです。それらの用語とその簡単な内容説明をしていきましょう。アクティブ・ラーニング……いまはこの表現はあまり使われず、その代わりに「主体的・対話的で深い学び」などと言われています。一方通行ではない双方向的な授業をおこなうことで、グループワークの実施や、生徒からの意見発表などを重んじるものです。
探究学習……生徒が自ら問題設定し、問題解決を図るために情報を収集・分析し、意見を交換したり協働したりして進めていく学習活動のことです。
STEAM教育……Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Arts(芸術)・Mathmatics(数学)を組み合わせた教育手法のこと。学際的な着眼点を育成する狙いがあります。
GIGAスクール構想……創造性のある学びを目指し、『一人一台の端末』と学校の高速通信ネットワーク整備をする構想を指します。
国際バカロレア……グローバルな視野を育成し、海外大学に進学する際に使える入学資格(国際バカロレア資格)を得られるようにする教育プログラムのことです。
保護者世代にとっては聞き慣れない用語ばかりでしょう。インターネットの普及により、海外との距離が一気に縮まるいま、教育の在り方が少しずつ変化しているのです。
■私立中高一貫校 近年のトレンド②
高大連携とは何か?
先ほど、大学付属校化する学校が増えていることについて具体的事例を挙げて説明しました。
日本の大学はすでに一八歳人口減少の影響をもろに受けていて、全国の私立大学・私立短期大学のうち約半数は「定員割れ」(入学者数が募集定員に満たない)を引き起こしているようです。ですから、大学サイドはこの先の生き残りを懸けて私立中高に目を付け、法人合併するなどして傘下に置く、つまり、大学付属校化に踏み切るのでしょう。
大学が存続するための策としては「中高の付属校化」だけではありません。近年は主として大学側からのアプローチでさまざまな中高が大学と「高大連携」の協定を締結するようになりました。
具体的には、大学教員による出張授業や講演会の実施、互いの学生どうしの交流イベントの開催、中高生の大学講義への参加(その中には正式な単位として認定されることもある)、そして、協定校推薦枠(大学への推薦枠)の設置などをおこなっています。
たとえば、上智大学は約四〇校におよぶカトリック高校との間で連携協定を締結しています。医学部をはじめ九学部を有する順天堂大学は五〇校以上の高校と連携協定を結んでいます。この二大学はあくまでも一例であり、首都圏にある私立大学の大半は複数の中高と高大連携の試みをしています。
二〇二四年だけでも、東京慈恵会医科大学が桐朋・桐朋女子(調布市)と、東京医科大学が吉祥女子(武蔵野市)と、神田外語大学が実践女子学園(渋谷区)と、法政大学が山脇学園(港区)、工学院大学附属(八王子市)と、東京理科大学が國學院久我山(杉並区)、田園調布学園(世田谷区)と、東京農業大学は跡見学園(文京区)と高大連携協定を締結したというニュースがありました(きっと他にもたくさん同様の事例があると思います)。
そういえば、東京都調布市にある女子校・晃華学園(調布市)は二〇二四年に入ってから一気に日本女子大学、津田塾大学、順天堂大学、芝浦工業大学、東京都市大学と高大連携協定を結びました。このような事例を見て、系列大学のある付属校であるにもかかわらず、他の大学との新たな結びつきが生まれるところが散見されるのは個人的に驚いています。
この高大連携は個人的に中高生にとって良い学びの機会をたくさん提供してくれるように感じます。中高生のうちから大学のアカデミズムの恩恵にあずかることができるのは、子どもたちにとっては外の世界に目を向けるきっかけになるでしょうし、将来の進路を考えるうえでの好機になり得ます。
■三輪田学園の事例
この「高大連携」の実践について、千代田区にある女子進学校・三輪田学園を例に少し詳しく紹介していきましょう。三輪田学園は市ヶ谷駅を最寄りにする学校で、目の前とその背後には法政大学の市ヶ谷キャンパスがあります。
矢野耕平『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)
そのような「ご近所」どうし、二〇一五年より連携協定を締結し、たとえば、そばにある「外濠」(旧江戸城を囲む外側の堀)の(水質改善などの)再生プロジェクトを法政大学の学生たちと三輪田学園の生徒たちが一緒になって参加していたそうです。
また、法政大学の留学生との交流会や、学生たちと共同で理科実験教室といった単発イベントをおこなってきました。そして、二〇二二年度、三輪田学園は法政大学との高大連携のさらなる拡充を図りました。具体的には、法政大学からの協定校推薦枠が三〇名ほど設けられるとともに、三輪田学園の高校生が法政大学の講義を早期履修することも可能になりました。また、高校三年生を対象にした高大連携講座もスタートしました。
さらに、三輪田学園は二〇二三年十月に東京女子大学と、翌月十一月には津田塾大学と高大連携協定を締結しました。大学教員による三輪田学園の生徒たちを対象にした特別講義をおこなったり、大学の行事に三輪田学園の生徒たちが参加できたりするそうです。また、学校どうしの教育や進路に関する情報交換を積極的におこなっていくそうです。
わが子が志望する学校、または保護者が気になっている学校があれば、インターネットで「○○中学校高等学校 高大連携」と入力し、検索してみてください。そうすることで、大学との何かしらのつながりを知ることができるかもしれません。
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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。
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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)