馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?

2024年4月24日(水)4時0分 JBpress

 働き方や価値観が多様化する現在、リーダーのあり方が問い直されている。そんな中、アップルやナイキ、アウディといったグローバル企業で導入されているのが「牧場研修」だ。世界のビジネスエリートは、なぜ自然に学ぶのか? そこで培われるリーダーシップやビジネススキルとは? 本連載は、各国の牧場研修に参加し、スタンフォード大学で斯界の世界的権威に学んだ小日向素子氏の著作『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(小日向素子著/あさ出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第1回は、自然の中でリーダー育成を行う理由と「ナチュラルリーダーシップ」の定義を明らかにする。

<連載ラインアップ>
■第1回 馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?(本稿)
■第2回 女性リーダー比率30%超の資生堂は、なぜ「牧場研修」を導入したのか?
■第3回 50代経営者が猛省、牧場研修で気づかされた「指示出し」の問題点とは?(5月8日公開)
■第4回 なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?(5月15日公開)
■第5回 何をやっても無反応、馬を操れない研修参加者はどう窮地を乗り越えたか?(5月22日公開)

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自然が教えてくれる激動の時代に求められるリーダー像

 現在、多くの管理職の方々が、「リーダーとは何か?」「どのようなリーダーになればいいのか?」といった悩みを抱えています。

 急激に変化する時代の中で、この問いの重要性はさらに高まり、答えにたどり着く道のりは険しくなっています。皆さんも多かれ少なかれ、リーダーとしての在り方について、思うところがあるのではないでしょうか。

 この難問の答えは、「自然」にあると私は確信しています。リーダーになぜ、「自然」が関係するのか、と思った人もいるでしょう。気持ちはよくわかります。でも、いったんその疑問は横に置いて、読み進めてください。

 私は、10年ほど前から大自然に囲まれた北海道の牧場で、主にビジネスパーソンを対象に研修を提供しています。

 牧場を研修の場として活用しているのは、日常生活では得られない多くの「気づき」が、自然の中には潜んでいるからです。

 研修では、参加者を牧場の馬の群れの前に連れて行き、次のように尋ねます。

「どの馬が群れのリーダーか、直感で選んでください」

 すると、たいていの人が「大きい馬」を選びます。理由を聞くと、「 大 きくて強そうだから」と言います。

 次に人気なのが「黒い馬」です。理由は「色が黒いから」。 黒いとなぜリーダーなのか、根拠になっていない気もしますが、意外と多い答えです。

 ほかにも「集団の先頭に立っている馬」「1頭だけ離れている馬 」「ほかの馬を追い立てる動きをする馬」なども選ばれやすい傾向にあります。

 大きくて、黒くて、集団の先頭に立っていて、1頭だけ離れていて、ほかの馬を追い立てる——。

 これは、リーダーのイメージを、チームを先導する人、近づきがたい人、えらい人(えらそうな態度をとる人)などと捉えている人が多いことを示しています。

 既存の「優秀なリーダー像」「強いリーダー像」に縛られているのです。

 実は馬の群れにおいて、ヒエラルキーは固定化していません。

 その時々の状況や環境において必要な情報を多く持っている馬が、リーダーシップを発揮すると言われています。

 捕食者から逃げる時は、逃げる方向を決めるのが得意な馬が前を走り、力のある馬が仲間を守るために群れの最後を走ります。どちらもリーダーの役割を果たしています。

 水が必要な時には、水のある場所を見つけるのが得意な馬がリーダーシップを発揮します。

 この答えを聞いて、「ひっかけじゃないか」「当てられるわけないじゃないか」と思われた人もいるかもしれません。

 だとしたら、「リーダーは先導する人 」「リーダーは一個体」という先入観にとらわれてしまっているということです。

 1つの組織に複数のリーダーがいても、不自然ではありません。リーダーシップのとり方も多様です。

 植物生理学の第一人者であるフィレンツェ大学教授ステファノ・マンクーゾは、著書『植物は〈未来〉を知っている』(NHK出版)の中で、次のように言っています。

「少数が権力を握っている寡頭(かとう)政治は、自然界ではめったに見られない。いわゆる“ジャングルの掟”も空想上のヒエラルキーにすぎず、陳腐なたわ言にすぎない。重要なのは、こうしたヒエラルキー構造は自然界ではうまく機能しないという点だ。自然界においては、指令センターをもたない広く分散した組織こそ効率的なのだ。」

 近年 、「ティール組織」という新しい組織の在り方が注目されていますが、これも自然界の在り方と通じるところがあります。

*ティール組織(Teal組織)・・・組織は社長や株主だけのものではなく、組織に関わるすべての人のものと捉えて、「組織の目的」を実現するために共鳴しながら行動をとる組織のこと。

 ティール組織は、社員それぞれ(細胞ひとつひとつ)が、自分たち(仲間全体)の使命を感じながら、それぞれの意思決定によって、ありのままに動き、自由に変化し続けるという、次世代型の組織の在り方です。

 私たちを取り巻く自然の在り方に学び、力を借りて、新しい視点や価値観、リーダーシップの在りようを捉え直していくことは、これからの多様性の時代において求められていると言えるでしょう。


ナチュラル・リーダーシップは新世代リーダーの必須スキル

 世の中は急激かつ急速に変化し、未来の予測が困難な時代へと突入しています。その中で、誰もが、否が応でも新しいスキルや知識の習得を要求され続けています。

 しかし私は、さらなるスキルと知識のアップデートだけでは、こうした世の中の動きや、その影響を大きく受けるビジネス界の変容に、十分に対応できないと考えています。

 むしろ、これからの時代に求められるのは、状況の変化に臨機応変に対応すること、そして、自らの「埋もれている力」に光を当てて、引き出すことでしょう。

「埋もれている力」は、どこにあるのか?

 私は、「感覚」の中にあると考えています。

 人間には、感覚があり、感情があり、思考があります。ところが、社会に適応するにあたっては、「私はどう感じるか」ではなく、「私はどうすべきか(どう振る舞うべきか・どのように考えるべきか)」が優先され、思考ばかりがフル回転します。感覚や感情に、蓋をかぶせてしまうのです。

 さらに、仕事の仕方も、オフィスや自宅の一室でパソコンに向き合い、キーボードを叩いたり、カメラを通じてほかの人と言葉を交わしたりして過ごしがちです。この状況下では、視覚と言語に関する脳の機能部分だけが酷使され、その他の感覚が発動する機会はほとんどありません。

 こうして、私たちの感覚は鈍っていきます。

 しかし、この鈍ってしまった感覚の中にこそ、本当の自分、そして、本来の力が埋もれています。

 この「埋もれている力」を掘り起こすためには、自分自身を客観視したり、感じたりすることで、自分本来の感覚の存在に気づくことから始めなくてはなりません。ただしこれは、ほかの人間の助けを借りるだけでは不十分です。現代の人間は思考に頼って生きていて、その根底にある「感覚」の世界を開く力を持っていないからです。

「感覚」を呼び戻すには、「雄大な自然の力」を借ります。自然は、埋もれてしまっている人間の感覚を開くにあたって、最高の環境を提供してくれます。

 自然の中に身を置くことで身体が楽になり、普段は感じないそよ風や木や草の香りに気づくことはありませんか?

 自然に触れ、その存在を意識することで、自然から得る視覚、聴覚、嗅覚的な刺激に集中し、鈍っていた感覚を開き、研ぎ澄ませていくことができます。

 都会の部屋の中にいても、窓の外の木々を見たり、室内の花や観葉植物を愛でたり、ペットと触れ合うだけでも、ストレス軽減、気分の上昇、生産性と集中力の向上に寄与すると言われています。

 私が牧場で研修を行っているのも、このような理論に基づいています。

 積極的に自然と触れ合うことで、身体感覚が研ぎ澄まされていきます。

 この感覚を出発点として、他者の反応を鋭敏に察するようになり、自分の本心を感じ取ることもできるようになります。危機的状況でいち早く、最適なアクションを起こせるようにもなるでしょう。

「ありのままの私が、自然や他者の一部であるという感覚に基づいて発揮するリーダーシップ」

 これが、ナチュラル・リーダーシップであり、これから求められるリーダーの在り方なのです。

<連載ラインアップ>
■第1回 馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?(本稿)
■第2回 女性リーダー比率30%超の資生堂は、なぜ「牧場研修」を導入したのか?
■第3回 50代経営者が猛省、牧場研修で気づかされた「指示出し」の問題点とは?(5月8日公開)
■第4回 なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?(5月15日公開)
■第5回 何をやっても無反応、馬を操れない研修参加者はどう窮地を乗り越えたか?(5月22日公開)

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筆者:小日向 素子

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