トランプ関税で住宅ローンの金利上昇はどこまで進むか…お金の専門家が教える「変動型」の人の最優先事項

2025年5月2日(金)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

「トランプ関税」により世界の金融市場は大きく揺れている。住宅ローン金利に影響を及ぼす日銀の金融政策はどんな影響を受けるのか。ファイナンシャルプランナーの松岡賢治さんは「あるデータをチェックすると、政策金利の最終的な到達点が見えてくる」という——。
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■銀行間の“低金利競争”はいったん休戦へ


まず、足元の変動金利型住宅ローンの状況について確認をしておきたい。


この4月から、変動金利の水準が軒並み上昇した。日銀の政策金利の引上げは1月だったが、2〜3月は住宅ローンの需要が高まる“繁忙期”にあたり、新規貸出分の変動金利を据え置いた銀行が多かった。住宅ローン顧客の獲得競争が激化し、変動金利を上げたくても上げられない、という状況が3月末まで続いていたのだ。


この銀行間の“我慢比べ”ともいえる、変動金利の低金利競争をリードしていたのは三菱UFJ銀行だ。日銀は、昨年3月にマイナス金利解除を決めて以降、政策金利を2回、合計0.4%ほど引き上げたが、三菱UFJ銀行は変動金利のベースとなる基準金利こそ引き上げたものの、優遇金利を拡大して実際の適用金利を据え置いた。その結果、これまで金利面で優位にあったネット銀行勢よりも、低い金利を提供することとなった。


その三菱UFJ銀行も、さすがに4月からは基準金利を0.25%引き上げて、優遇金利は変えなかったことから、新規貸出の適用金利も0.25%引き上げて0.595%とした。これにより、他行も追随して0.25%程度引き上げることになった。ごく一部の銀行は据え置きを続けているが、日銀の次の利上げまでは、いったん低金利競争は休戦状態に入ったといえよう。


■日銀の利上げでも変動金利はまだまだ“超低金利”


一方、日銀のマイナス金利解除以前に変動金利で借りた人は、度重なる利上げによって、その都度借入金利は上昇している。現在、政策金利は0.5%であることから、0.4〜0.5%程度は上昇しているはずだ。


ただ、この程度の上昇幅であれば、まだまだ住宅ローンとしては“超低金利”の部類に入る。頭金がほとんどないフルローンに近いものではない限り、ローンの返済計画に大幅な狂いは発生していないと思われる。過度に悲観する必要はまったくない。


例えば、5000万円を期間35年・金利0.4%で借りていた人が0.8%に上がった場合、毎月の返済額の増額分は9000円ほどだ。「5年ルール」を採用している住宅ローンであれば、目先5年間は毎月返済額に変化がないので、家計の見直しなど、利息の増加分への対策をする時間は十分ある。


■「トランプ関税」で大幅に狂った日銀の利上げプラン


やはり気になるのは、今後、変動金利がどこまで上昇するのかという点に尽きるだろう。


日銀の次の利上げに関する金融市場の見方を紹介すると、3月までは、日銀はほぼ半年ごとに利上げを実施していることから、6月あるいは7月の金融政策決定会合での0.25%の利上げを想定していた。どちらかと言えば、7月に参議院選挙があることから、選挙後の7月を有力視していた。2000年以降、日銀は選挙前に利上げをしたことがないからだ。


ただ、ここにきて、いわゆる「トランプ関税」が日銀の金融政策の行方に大きな影を落としている。連日ニュースで報道されているように、米トランプ大統領が発表した「相互関税」が、世界的な景気後退を引き起こすのではないかという懸念が台頭し、金融市場の動揺が続いている。


日銀の植田和男総裁は、3月の金融政策決定会合後の記者会見から、繰り返し、トランプ政権の関税政策が日銀の金融政策に影響があることを認める発言をしている。当面、トランプ関税の行方が判然としない状態が続く可能性が高く、金融政策の不透明感が一気に強まった格好だ。


■日銀のターミナルレートは「0.75%」か


そこで、改めて、トランプ関税による混乱後の金融市場の見通しをチェックしてみたい。


政策金利がダイレクトに影響する短期金利の1つに、「無担保コールオーバーナイト3カ月金利先物」がある。「TONA3カ月金利先物」と呼ばれ、東京金融取引所で取引されている。


このTONA3カ月金利先物は、簡略化して言うと、例えば「2025年12月」であれば、25年12月から26年3月までの3カ月間の金利を表している。実際に金融機関が取引をしているレートなので、想定が当たれば利益が発生し、外れれば損失を被る。エコノミストやアナリストの単なる予想とは異なるものだ。


筆者作成
東京金融取引所が公表している「TONA3カ月金利先物」。実際に取引が行われている「限月」のみ記載している - 筆者作成

その4月18日分のレートを見ると、6月あるいは7月の金融政策決定会合での利上げの可能性はほぼなくなり、年内の可能性も大きく後退。このグラフから読み取れるのは「26年末までには0.25%の利上げが1回あるだろう」といった程度だ。それくらい、不透明感は強くなり、金融政策の行方は混沌としている。


参考までに、残存2年程度の国債の利回りもチェックすると、4月17日時点で0.645%(金融機関同士の業者間取引のレート)。おおよそ、「26年末までの利上げはあっても1回程度で0.75%まで」といった想定になっている。5年債の利回りも0.86%となっていることから、0.75%からのさらなる引上げの時期は見通せていない。


つまり、現状の最終的な「到達金利」(ターミナルレート)は「0.75%」ということができるだろう。


■日銀の“様子見期間”は長期化へ


実は、3月中旬の段階では、ターミナルレートは1%を超えて1.25%あたりではないか、というシナリオも有力だった(TONA3カ月金利先物のグラフの点線部分)。つまり、わずか1カ月で、見通しがガラッと変わったことになる。


ただし、0.75%というのは、あくまで“現状”のターミナルレートである。今後、状況次第では、再び大幅に変わることもあり得る。トランプ関税は、まだ中身さえ決まっていないからだ。


実施された後に実体経済への影響が出て、それを日銀が分析するとなると、かなりの期間、日銀は様子見を余儀なくされるだろう。そうした見方全体が、短期金利や債券市場に反映されているのだ(仮に日本の関税が10%で収まったとしても相当の景気悪化要因になる)。


一時期、SNSなどでは、「日銀の追加利上げで変動金利はどんどん上がる」といった解説やコメントが散見されていた。しかし、少なくとも1〜2年程度は、そんな状況にはならないのではないか。


■住宅ローンを借りている世帯の最優先事項は貯蓄


ただし、日銀が利上げできない状況というのは、手放しで喜べることではない。景気が悪化する可能性があり、賃金が上がりづらい状況になってくるからだ。そこで、必要となるのが、家計を防衛的にすることだろう。


具体的な対策はシンプルだ。将来の繰り上げ返済のために、余裕資金を貯めることだ。


NISAブームの中、「住宅ローンを超低金利の変動金利で借りて、余裕資金をNISAで運用すれば、住宅ローン控除が終わる頃にはローンの利息を上回る投資の利益が得られる」といった類いの解説やコメントを真に受けてしまい、本来なら頭金にするべき資金を投資に回している人も少なくないのではないだろうか。


しかし、それが許容されるのは、例えば、すでに1年程度の生活費が賄える貯蓄があり、毎月の収入の最低でも1割を貯蓄に回した後に、さらに余裕資金が残る、といった人になる。住宅ローンを抱えた家計の最優先事項は貯蓄だ。住宅ローン控除が終了した時期から、繰り上げ返済を考慮するべきだろう。


写真=iStock.com/gopixa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gopixa

■少しでもお得に貯蓄するために——「0.6%」の普通預金金利も登場


日銀の利上げを受けて、銀行の普通預金の金利も上昇している。とはいっても、まだ雀の涙ほどの水準だが、銀行の中にはまずまず魅力的な金利を提供しているところもある。給与振込口座への指定や証券口座との連携など、優遇金利を受けるには条件があるが、以下、比較的クリアしやすい条件で高い金利を提供している銀行をリストアップした。ぼひ、参考にしてほしい。


筆者作成

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松岡 賢治
ファイナンシャルプランナー/マネーライター
1963年生まれ。89年東京都立大学法学部卒業。証券会社のリサーチ部門等を経て96年独立、97年ファイナンシャルプランナー資格を取得。クレジットカードをはじめ資産運用・投資関連等の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』(SBクリエイティブ)、『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本』(ソーテック社)など。AllAboutガイド。
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(ファイナンシャルプランナー/マネーライター 松岡 賢治)

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