日本各地でやりたい放題…海外から押し寄せる「迷惑系インフルエンサー」が起こした"もう一つの観光公害"

2025年5月4日(日)9時15分 プレジデント社

富士山を背にしたローソンコンビニ、河口湖、日本 - 写真=iStock.com/Kokkai Ng

日本を訪れる外国人観光客が増えている。2024年には約3687万人で過去最高を更新。オーバーツーリズムやマナー違反の問題だけでなく、迷惑行為を繰り返す外国人インフルエンサーが物議を醸している。こうした日本の現状に、海外メディアも注目している——。

■「富士山ローソン」が象徴する地元の戸惑い


観光客が対象地域の許容量を超えて押し寄せることで、「オーバーツーリズム」は起こる。日本では特に京都や富士山周辺などの人気観光地を中心に、現地の人々の生活環境が破壊される問題が深刻化している。


こうした現象は、海外メディアでも取りあげられている。AP通信は、富士山の「目隠し幕」騒動を紹介。「インスタ映え」「TikTok映え」で一躍有名となった山梨県富士河口湖町の「富士山ローソン」の前に、車道にあふれる旅行客の写真撮影スポットを封じようと、黒い遮蔽スクリーンが設置された。高さ2.5メートル、幅20メートルの幕で、コンビニの背後に富士山のそびえる構図を目隠ししようというねらいだ。


写真=iStock.com/Kokkai Ng
富士山を背にしたローソンコンビニ、河口湖、日本 - 写真=iStock.com/Kokkai Ng

また、米フォックス・ニュースは、京都・祇園で、観光客のマナー違反や通りの混雑に対する苦情が相次ぎ、私有地の路地への観光客立ち入り禁止措置が取られた件を伝えている。


昨年11月には、東京の明治神宮で65歳のアメリカ人男性が神社の鳥居に爪で文字を刻み、警察に逮捕された。オーストラリアのABC放送が日本で繰り返される迷惑行為として報じている。男性は観光目的で家族と一緒に来日したばかりで、刻んだ5文字は一家の姓を表すものだったという。


住民は迷惑顔だ。ニューヨーク・タイムズ紙は京都で暮らす人々の声を取り上げている。地元のイベント主催者は同紙に、「毎日がお祭り騒ぎのよう。私たちは静かに日常生活を送ることもできない」と話す。京都のタクシー運転手は、「日本人がこの地を訪れると、観光客があふれかえり、まるで外国にいるような気分。もう京都の面影はないですね」と嘆く。


■「日本は俺のものだ」米配信者が及んだ傲慢行為


羽目を外すだけならまだしも、積極的に日本や日本人を冒涜することで注目を集めようとする者たちもいる。「迷惑系」と呼ばれるストリーマー(配信者)らだ。


アメリカ人ストリーマー「アイス・ポセイドン」こと本名ポール・デニーノ氏(30)は今春、日本での100日間24時間ライブ配信を実行。数々の迷惑行動が大きな波紋を広げ、海外でも取りあげられた。


香港英字紙のサウス・チャイナ・モーニング・ポストは、デニーノ氏ら一行が日本の電車内で横になったり、乗客の前でわざと偽の喧嘩を演じたりと、数々の迷惑行為に及んだと指摘している。デニーノ氏はまた、果樹園から果物を盗むなど違法行為も堂々と配信し、配信サイト「Kick」で20万4000人のフォロワーを抱える自身のチャンネルで配信した。


動画ライブ配信サービス「Kick」より

デニーノ氏の仲間はまた、札幌雪まつりのスタッフに雪玉を投げつけ、相手の唇を切る事件を起こした。その場に居合わせた2人の外国人観光客が仲裁に入り、警察が出動する騒動に発展している。


日本側も黙っていない。3月6日には、鹿児島で迷惑行為を働いたとして、フェリーから乗船拒否を言い渡された。出動した海上保安庁が担当者は英語で、多くの人が彼らの不適切行動を目撃しており、たとえ切符を持っていてもあなたたちの乗船は認められない、と毅然と伝えた。


批判が高まるなか、デニーノ氏は反省の色を見せていない。批判に対してはXのポストで、「俺は何でもできる。お前には何の価値もないし、日本は俺のものだ。俺がお前を支配している。今すぐ俺をパパと呼べ」と、性的な服従関係を迫る表現を匂わせながら、挑発的な発言で切り捨てた。


発言は日本国内でも強い反感を買い、ソーシャルメディア上では「日本の文化や人々を完全に軽視している」などの声が広がっている。


■「広島と長崎にまた爆弾落とす」


デニーノ氏だけでなく、他の外国人インフルエンサーも様々な迷惑行為に及んでいる。


サウス・チャイナ・モーニング・ポストは、「ジョニー・ソマリ」ことイスマエル・ラムジー・カリド氏が、日本の電車内で「広島、長崎……また爆弾落とすぞ」と叫び、その撮影をしていたと指摘。彼は2023年には大阪の工事現場に無断で侵入した罪で逮捕され、2024年1月には威力業務妨害罪で20万円の罰金刑を科されている。


今年3月には、大阪の関西空港から難波へ向かう電車内で外国人バックパッカーたちが手すりを使って体操をするなど、他の乗客に迷惑をかける行為が目撃された。米旅行メディアのロイヤルティ・ロビーは、日本では電車内のマナーが非常に浸透しており、「思いやりが高く評価される」国であると指摘。これに真っ向から反する行為ではないかと問題提起している。


こうした迷惑行為の背景には、視聴回数を増やしたいという思惑のほか、日本では捕まらないだろうとの打算がある。北海道文教大学の渡辺誠教授(臨床心理学)は、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙の取材で、「彼らは間違いなく注目を集め、自分たちの投稿を多くの人に見てもらうことでお金を稼ごうとしています」と指摘。


さらに、「日本の警察が実際には取り締まらないだろうと思っているからこそ、どこまで許されるかの限界に挑戦しているのです」との心理を解説するほか、「欧米人はアジア人に対する優位性を感じ、我々の規則や文化的慣習に従う必要はないと思い込んでいる可能性もあるでしょう」との見方を示す。


東京のテンプル大学ジャパンキャンパスで日本文化を教えるカイル・クリーブランド教授は同紙に、「彼らが中国やロシアで同じことをすれば、即座に厳しい対応を受けるでしょう」と指摘。「ですが、彼らは日本人の寛容さにつけ込めることを知っているからこそ、日本を選ぶのです」と、日本で相次ぐ迷惑系配信行為の理由を分析している。


■エジプトのピラミッドでも…世界で問題になる不適切行為


もっとも、世界に目を広げれば、押し寄せる観光客に頭を抱えているのは日本だけとも限らない。ソーシャルメディアの普及により、「映える」写真や動画を求め、無謀な行為に走る観光客が増加しているのだ。各国の観光地や文化財が被害を受けている。


CNNによると、2023年6月にはイタリアのコロッセオで、イギリス在住の男性観光客が古代遺跡に「Ivan + Hayley 23」という文字を刻む事件が起きた。一連の行為を動画に収めており、男性は笑みを浮かべていたが、数日後に当局に身元が特定されると一転して謝罪。「遺跡の歴史的価値を理解していなかった」との言い訳に転じた。


同じ月には10代のスイス人とドイツ人が立て続けにコロッセオに名前を刻む事件も発生。8月にはドイツ人観光客の一団がフィレンツェのヴァザーリの回廊に落書きし、1万ドル(約150万円)以上の損害をもたらしたとCNNは伝えている。


米ビジネス・インサイダーの記事では、デンマーク人写真家がギザの大ピラミッドに女性と一緒に登り、裸になって性的行為をしているように見える写真を撮ったと報じている。


写真家は後の取材で「実際には性行為はなかった」と主張。だが、ピラミッドに登ること自体が禁止されており、さらには厳格なイスラム教国家であるエジプトを踏みにじる問題行為として、当局が捜査に乗り出した。


■悪質観光客、旅行先では「自分が主役」と勘違い


人はなぜ旅先で迷惑行為を繰り広げるのか。英BBCが様々な専門家の見解をまとめた。サンディエゴ州立大学のアラナ・ディレット助教授(ホスピタリティ・観光管理学)は、「知識不足と訪問地への影響を理解していないこと」が根底にあると説く。「旅行者の多くは自分の体験だけに気を取られており、自らの行動が旅行先にどう影響するかを考えない」とBBCに語った。


英ブリストル大学のクリスティ・セジマン教授(行動学)は、観光客による無謀な行動を「主人公症候群」と呼んでいる。思慮の浅い人々は旅行中、地元民や現地の店員、そして周囲の人々が、自分をもてなすためだけに存在するかのような勘違いをする。そのため、横柄かつ過剰な要求をする人格が頭をもたげるという。


セジマン氏は近年の傾向について、「人々の行動が悪化しているだけでなく、さらには、不適切な行動を注意されると逆切れする傾向が強まっている」と指摘。主人公かのような思い込みが人間を増長させ、「自分の行動を制限するな」という感覚が極めて強くなっていると解説する。


臨床心理療法士で自身も旅行好きだというハビエル・ラボート氏は、BBCの取材に対し、「旅行では目的地や異文化と向き合うことが欠かせない。適切な交流は相応の心理あってこそ実現できるが、すべての人がそれに対応できるわけではない」と話した。


■観光客はもういらない…アムステルダムの「来ないで」キャンペーン


コロナ以降、旅客数はみるみる回復し、人々は再び世界を自由に駆け巡ることができるようになった。旅行客の喜びが増幅する反面、観光先の国々は対策を迫られている。


インドネシアのバリ島では2025年3月、観光客向けの新たな行動指針が施行された。新ルールでは、観光客に対し寺院や宗教施設での適切な服装や振る舞いを求め、違反者には法的措置も辞さない姿勢を明確にしている。ユーロニュースの報道によると、バリ島知事のイ・ワヤン・コステル氏は「地元文化を大切にした品格ある持続可能な観光を守る」という基本方針を強調する。


オーバーツーリズムの代表例に数えられるオランダのアムステルダムでは、市が「Stay Away(来ないでください)」という名のキャンペーンを繰り広げている。迷惑行為に及ぶ観光客を対象にした警告だ。独身最後の夜を祝う「スタッグ」パーティーでアムステルダムに繰り出し、騒ぎを起こす若い英国人男性を減らす狙いがある。CNNによるとこのキャンペーンでは、検索サイトで「アムステルダム 格安ホテル」や、「アムステルダム バー巡り」などのワードで検索すると連動して広告が表示され、薬物の過剰摂取で救急搬送されるリスクなどについて警告を発する内容だ。


写真=iStock.com/funky-data
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/funky-data

■誰もが「外国人観光客」になる


観光産業と地域コミュニティの調和は、可能なのか。私たち日本人も含め、旅行先では誰もが「外国人観光客」となる。「旅行者だから」「外国人だから」という視点での差別は本来好ましくなく、双方の歩み寄りが求められる。


観光客は本来、地元経済の味方だ。英政治・文化誌のニュー・ステーツマンによると、例としてカナリア諸島では、観光関連の事業で働き口の40%がまかなわれている。しかし、迷惑行為が続けば、地元が潤うので良いとも言っていられない。地住民らはデモ活動を繰り広げ、「カナリアは商品ではなく、大切に守るべき場所だ」と訴え続けているという。ほかにも多くの観光地が、経済面で観光に頼らざるを得ない反面、生活環境を損なう副作用に頭を悩ませている。


日本も同様だ。祇園町南側地区住民は、「ここは日常生活の場であり、テーマパークではありません」との姿勢を公式に打ち出し、訪問者の急増に対する地元住民の不安感を代弁している。持続可能な観光の実現には、観光客一人ひとりの意識改革が不可欠だ。訪問先の文化や慣習を尊重し、地域社会に与える影響を常に意識する必要があるだろう。


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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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