「ルフィ」が逮捕されても相次ぐ強盗、教師の殺人、日本の治安は崩壊したのか

2023年5月13日(土)6時0分 JBpress

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 日本の治安は悪化しているのだろうか。ゴールデンウイーク明けの今週、衝撃的な事件報道が相次いでいる。


人目を憚らず銀座の街中で強盗

 8日、月曜日。まだ、薄らと陽の光の残る午後6時15分ごろ、人通りも絶えない東京・銀座の中央通りにあるロレックス専門店に、黒装束に白い仮面で顔を隠した3人組が押し入る。店員に刃物を突きつけて「伏せろ。殺すぞ」と脅すと、バールでショーケースを割って腕時計を手当たり次第に強奪。店の前に止めていたワゴン車で逃走する。

 衆人環視を憚ることもなく、まるでハリウッド映画か、安っぽいテレビドラマのような短時間の事件は、通行人が撮影した映像がSNSで拡散。その後、約3キロ離れた赤坂に逃走したところで、事件に関与したとされる4人が警視庁に身柄を確保されている。

 4人はいずれも横浜市に住む、高校生を含む16〜19歳の少年だった。4人は互いのことを「知らない」と話しているという。他に指示役がいる「闇バイト」の可能性もあるとみて、調べが進む。

 10日、水曜日。午前8時過ぎ。東京都大田区の蒲田駅から程近い住宅街で、近くの中学校に通う1年生の男子生徒が胸を刃物で刺される事件が発生。近くにいた61歳の男が現行犯逮捕された。

 男子生徒は命に別条はないが、重傷を負った。刺した男は男子生徒の父親が勤める家電量販店の客で、父親とは面識があったという。

 その同じ日の午後。東京都江戸川区の住宅で今年2月、60代の男性を刃物で殺害したとして、近くの中学校の男性教師が警視庁に逮捕された。中学校教師の尾本幸祐容疑者(36)は、金品を盗む目的でこの住宅に侵入し、帰宅した男性住人と鉢合わせになって殺害したと見られている。

 尾本容疑者は中学校で特別支援学級を担当。逮捕前日まで通常通り出勤していたという。

 こうして、並べてみるだけでも、大胆で物騒な事件が目立っている。


ゲーム感覚なのか

 銀座の強盗事件は、映画やテレビドラマを模倣することで、むしろゲーム感覚を楽しんでいるようにも思えるし、それが道徳の欠如であるとすると、それを説くべき中学校教師の犯行は(いまは容疑の段階だが)それ以外の何ものでもない。トラブルの有無はともかく、父親の顔見知りが当人ではなく、その子どもを待ち伏せたように刺すとなると、いつ誰が襲われるか予測もつかない。

 昨年7月には、参院選挙の応援演説中に安倍晋三元首相が銃撃される事件が発生。昨年末から今年にかけては、SNS上の「闇バイト」を通じた強盗事件が多発し、東京都狛江市の事件では住人の命が奪われていることも考え合わせると、やはり日本の治安は、悪化しているのだろうか。


統計にはっきりと現れてきた犯罪の増加傾向

「少年犯罪」「暴力団」「外国人」。

 かねてから、これらが日本の治安を乱す三大要因とされてきた。実際に、警察庁が取りまとめて公表している「犯罪統計資料」を見ても、これらの統計が別項目でまとめられたり、切り分けて数値を算出したりしている。銀座の強盗事件は、まさにこの「少年犯罪」にあたる。

 その警察庁が公表している「犯罪統計資料」で数値を確認してみると、昨年2022年の刑法犯認知件数は60万1331件で、その前年2021年の56万8104件から、5.8%増加している。

 実は、刑法犯認知件数は2002年の285万3793件をピークに、20年連続で減り続けてきて、2021年は戦後最少を記録していた。ところが、昨年はその減少傾向に歯止めがかかって、増加に転じている。

 さらに警察庁が治安情勢の観察の指標としているものに「重要犯罪」の数値がある。これは殺人、強盗、放火、強制性交等、略取誘拐・人身売買、強制わいせつを合わせたもので、2022年の認知件数は9535件だった。これも2021年の8821件より8%の増加だ。このうち、少年犯罪だけを特出しても、695件から841件に増えている。

 しかも、警察庁が先月公表した今年1月から3月までの集計では、刑法犯認知件数が15万4670件で、前年同期と比べて2万9676件、23.7%の増加。このうち強盗は前年同期の257件から329件と28%増加している。

 ここまでの数値からは、悪化の傾向にあると言えそうだ。


「ルフィ」が逮捕されても減らない強盗

 また、警察庁が分析して、今年2月に公表した「令和4年の犯罪情勢」によると、特殊詐欺の2022年の認知件数は1万7520件で、2021年の1万4498件より20.8%の増加。その前の年の2020年は1万3550件で、2年連続で増加していることがわかる。

 被害額も2022年は361.4億円で、前年比28.2%の増加。実は、この被害額も2014年の565.5億円をピークに毎年下がり続けていたのだが、それが昨年になって8年ぶりに増加に転じているのだ。

 日本国内の取り締まりで拠点を置きづらくなった特殊詐欺グループは、ここ数年は滞在費も安く、日本との時差も少ない東南アジアのリゾート地などに、いわゆる「かけ子」を束ねる拠点を構えるようになった。そこから日本国内の住人にメールを送ったり、電話をかけたりして、現金や電子マネーを騙し取る。

 この特殊詐欺から強盗に変わったとされるのが、フィリピンの入管施設から「ルフィ」と名乗る人物が指示を出していた昨年から今年にかけての一連の強盗事件だった。

 被疑者とされる4人の男が、今年2月に強制送還され、逮捕されている。この実行役たちは高額報酬の「闇バイト」として集められ、名前も知らない者たちが現場で行き合って、人を傷つけ、金品を強奪する。

 ところが、「ルフィ」一味が逮捕されたあとも、都内では貴金属店や宝石店のショーケースをバールで叩き割る強盗事件が複数件発生している。例えば、3月24日には台東区上野の貴金属店で腕時計45点(約9900万円相当)が強奪。4月29日には渋谷区神宮前の貴金属店でネックレスなど76点(約1000万円相当)が奪われている。逮捕された実行役は、10代後半から20代前半が多く、「SNSで依頼を受けた」と供述している容疑者もいる。

 特殊詐欺については、警察庁が事件の背後に暴力団や準暴力団の犯罪者グループ等があるとしている。その組織力を使って、資金の供給、実行犯の周旋、犯行ツールの提供等を行う。その上で、匿名化を図った組織的な犯行実態があるとする。そうすると、「闇バイト」への関与があってもおかしくはない。


世間を騒がす事件が起きると「模倣犯」が

 過去に通り魔事件などを取材してきた経験からして、そしてそれは事実でもあるのだが、世間を騒がす事件が起きると、それを模倣する事件が続発する傾向がある。先月の衆院補欠選挙で岸田文雄首相の襲撃未遂事件が起きたように。それが犯罪だとわかっていても、自己正当化する内面の価値観が上回る。

 ひとりひとりが「闇バイト」に応募して、現場に集合した仲間の素性を知らなくとも、同じことを考えているのは自分ばかりじゃないと安心する。若ければ仲間意識はなおさらで、互いが互いの背中を押し合って大胆になる。

 他のみんなもやっているから大丈夫だろう。そんな甘い意識が冒険のつもりで「闇バイト」に応募させ、次の犯罪を招く。わからなければいい。それで中学校教師も他人の住宅に入り込んだ。悪いのは自分じゃない、自分を追い込んだ社会だ。相手のほうだ。そうした他責的傾向も犯罪を助長したり、当事者以外の関係者に刃が向いたりする。盗みや強盗にも走る。

 そうして事件が連鎖するのだとしたら、いまある数値の増加傾向に加えて、これから同様の犯行が増える可能性は否定できない。事件があまりに劇場的になっていることも、その要因と結果のひとつになっているはずだ。

筆者:青沼 陽一郎

JBpress

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