ゆる楽器「ハグドラム」 ー 誰もが一緒に演奏できる、インクルーシブな打楽器

2024年5月16日(木)11時0分 PR TIMES STORY

(左から)楽器開発メンターの即興パフォーマンスグループel tempo(エル・テンポ)のシシド・カフカ氏、手話エンターテイメント発信団 oioiのパフォーマー 中川 綾二氏(聴覚障がいリードユーザー)


もしも楽器が弾けたなら……そう思う理由は人それぞれ。

子どもに初心者、障がいのある方まで、

楽器演奏のハードルを、どうすれば解決できるだろう?

ソニー クリエイティブセンターでは、ソニー・ミュージックエンタテインメントとの協業のもと、誰もが楽しめる「ゆる楽器」の開発を進めています。


その一つが、初めての方や小さな子ども、音が聞こえない方も

一緒に演奏が可能な打楽器「ハグドラム」。

聴覚に障がいのある「リードユーザー」や、

シシド・カフカ氏らミュージシャンの協力を得て、ステージでの発表に挑みます。

演奏する人も聴く人も、みんなを笑顔にする魔法のような楽器を、

どうデザインしていくか。

「インクルーシブデザイン」のアプローチ、プロトタイピングの道のりを、

デザイナー2名がたどります。


(左から)ソニーグループ クリエイティブセンター:森澤 類、秋田 実穂

インクルーシブデザインによる「ゆる楽器」の取り組み

人の心を震わせる音楽の力。その体験は多くの人に、大きな憧れを抱かせます。「自由に音を奏でられたなら、どんなに楽しいだろう」。しかし、楽器の演奏はそう簡単に身に付くものではありません。楽譜が読めない。リズム感に自信がない。練習が厳しくて挫折した。間違った音を出すのが怖い……などなど、さまざまなハードルが立ちはだかっています。

この問題を解決するべく立ち上がったのが、「世界ゆるミュージック協会」。誰もが気兼ねなく楽しめる「ゆる楽器」の開発・普及を通して、音を奏でる楽しみをより多くの人へ届ける活動を展開しています。

ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)とソニー クリエイティブセンターも、この「ゆる楽器」のプロジェクトに参加。鼻歌を歌うだけで演奏できる「ウルトラライトサックス」に続いて、誰でも一緒に演奏できる打楽器「ハグドラム」の開発を進めてきました。

小さな子ども、楽器初心者はもちろん、音が聞こえない方もプロのミュージシャンと一緒に演奏を楽しめる打楽器を、どう実現するかーー。そこで活用されているのが、障がいのある方や高齢の方など、さまざまな「リードユーザー」との協働によってデザインの発想を広げる「インクルーシブデザイン」の手法です。今回はリードユーザーとして、聴覚障がいのある手話パフォーマーの岡﨑伸彦氏と中川綾二氏、ソニー社員の大石邦世らが参加。そこに、シシド・カフカ氏をはじめとするプロのミュージシャンたちもメンターとして加わりました。

多様な人々とともに、新たなデザインのヒントを探る試み。その軌跡とこれからの展望を、ソニーのデザイナー秋田(写真右)と森澤(写真左)が語ります。

ー「ゆる楽器」のデザイン対象として、なぜ打楽器を選んだのでしょう?

森澤: 前提として、楽器を演奏することにハードルを感じている方、聴覚障がいのある方も一緒に楽しく演奏できるものにしたいというゴール設定がありました。そこで、四肢を動かしづらい方や耳の聞こえづらい方など、ソニー・太陽の社員をはじめとするリードユーザーの方々とワークショップやリサーチを行い、多種多様な楽器について意見を集めていきました。その中でより多くの人が楽しめるものとして、シンプルかつプリミティブな楽器である太鼓が浮かび上がってきたというわけです。

秋田: ワークショップでは実際の楽器だけでなく、大きさや形を紙で再現したモックアップなどを実際に触っていただきました。過去に発表された「ゆる楽器」には、ベストのように装着して音を出すタイプの打楽器もあったのですが、体の大きさや特徴にとらわれずに使用でき、合奏する楽しさを探究する上で、あえてゼロから可能性を探っていきました。その結果、誰が見ても太鼓らしく、肩から掛けて抱えたり、子どもや車椅子の方なら膝に乗せたり床に立てて叩くことができるよう、汎用性の高い筒型のデザインを採用することになったのです。

リードユーザー、ミュージシャン…… 多様な人々との共創過程

ー 開発にはリードユーザーだけでなく、プロのミュージシャンの方々も参加していますね。

森澤: はい。リサーチを始めたのが2023年の春で、ハンドサインによるリズム・イベントを主催するシシド・カフカさんをはじめ、ミュージシャンの方々にメンターとして参加いただくことになったのが夏頃のこと。といってもまだ、段ボール製だったり、部品が剥き出しだったりする状態です。何しろ、今までにないものを作ろうとしているわけですから、何が正解かわからない。段ボールの筒にスピーカーを仕込んだり、既製品の収納ボックスにサブウーファーを入れて触感を検証してみたり……私自身、耳栓をして振動デバイスを装着したまま1日中、音の感触を試し続けたりもしましたね。ゼロからのスクラップ・アンド・ビルドで、四苦八苦しながらの作業でした。

「ハグドラム」の開発プロセスを物語る過去の試作品より。

(右から)収納ボックスとサブウーファーで作られたモックアップ、

塩化ビニル管やLEDが剥き出しの1stプロトタイプ、

社内で体験展示が行われた2ndプロトタイプ。

秋田: プロのミュージシャンに参加いただいた理由の一つが、楽器として“やり込み要素”をどう高めていくかです。リードユーザーの方々や世界ゆるミュージック協会 代表理事の澤田智洋さんと話し合うなかで、簡単すぎるものはすぐ飽きられてしまうため、"習熟していく楽しさ"をどうデザインするかが大切だと考えました。さらにシシドさんは、100種類以上のハンドサインを駆使して即興演奏を行うパーカッションバンドel tempo(エル・テンポ)を主宰しており、プレイヤー同士のコミュニケーションをどう取るかという面でも、メンバーの方々から数多くのアドバイスをいただいています。

森澤: 一般的なプロダクトはあらかじめ明確な機能や方向性が決まっており、それに沿ってデザインを突き詰めていく流れですが、今回はデザインとともに設計や機能の開発を社内外のメンバーが一丸となって進めていきました。リードユーザーやメンターの方々にも形や大きさ、機能面などの意見をいただきながら、反映してアップデートさせていく。まさにラピッド・プロトタイピングと呼ぶにふさわしいスピード感でしたね。

ー 現在は3rdプロトタイプということですが、どんな楽器に仕上がりましたか?

秋田: 一言で表現するなら、叩いた音を光と振動で感じられるドラムです。使い方は手のひらで打面を叩くだけ。打面の中心は低音、縁を叩くと高い音が出て、光を放ちます。また、胴体の2カ所に振動スピーカーが取り付けられていて、抱えると脇腹に触れる内側からは自分の叩いた音が、腕に触れる外側からは合奏者の音が振動として再現されます。叩いた音を光と振動で表現することで、聴覚に障がいのある方も一緒に演奏を楽しめる仕組みです。

森澤: 2ndプロトタイプからも、多くの点がアップデートされています。2人1組で演奏する上で、2ndプロトタイプでは胴体側面にライン状のLEDを取り付け、相手の音を表示していましたが、これだと手元ばかりに目が行ってしまう。でも、実際の演奏時には身振りや表情による合奏者同士のコンタクトが欠かせません。そうアドバイスをいただき、3rdプロトタイプでは相手を見ながら演奏できるよう、自分の光を相手に見えやすくしています。ストラップや振動デバイスの位置、各部形状などについても、大人や子ども、車椅子の方など、さまざまな体格の方に合うように調整しました。

違いやハードルを超えて共有できる、体験デザインの目指す先

ー 現在進行中のプロジェクトですが、現時点の手応えはいかがでしょう。

秋田: 聴覚障がいのあるリードユーザーの方に「振動が音楽に感じられる!」という言葉をいただいた時は、うれしかったですね。振動は1音だけだと単なるリズムになってしまいますが、感じ分けやすい高低の2音を採用したことで、音楽の感覚を表現できたと思います。

森澤: リードユーザーの方からは「楽しい!」、シシドさんにも「これぞ楽器ですね!」と言っていただいて、やっと手応えを感じているところです。体験デザインという大きな命題との試行錯誤を経て、細かいフォルムやユーザビリティといったプロダクト領域へと、デザインの焦点が移ってきたと感じています。

開発に参加いただいた楽器開発メンターの方々。(右上写真)

即興パフォーマンスグループel tempo(エル・テンポ)の

シシド・カフカ氏(左から2番目)、Show氏(1番左)、岩原大輔氏(1番右)

手話エンターテイメント発信団 oioiのパフォーマー

岡﨑伸彦氏(聴覚障がいリードユーザー。右から2番目)

ソニー社員 大石邦世(聴覚障がいリードユーザー。真ん中)

秋田: 私たち自身も疑似体験の取り組みとして、ヘッドフォンをして音が聞こえない状態でテストを行っています。でも音の聞こえない方が実際にどう感じるのかについては、当事者が体験する以外に知るすべがありません。でも「これなら一緒に音楽を楽しめますね」という言葉をいただいて、同じ喜びを共有することができた。その瞬間に、前へ進んでいるんだなという確かな手応えを感じることができました。

森澤: 多くの人が音楽を「みんなと一緒に楽しみたい」と思う反面、「周りに合わせるのが難しい、怖い」というハードルを感じています。そのハードルを下げるにあたって意識したのが、「自分たちがやってみて面白く、ワクワクするものを作る」ということ。つまり、"楽しさ"というポイントがまずあって、それを技術とデザインで形にしていく流れですね。インクルーシブな製品開発は往々にして「この仕様で問題ないか」というチェックリストを埋めていく作業になりがちですが、それとは異なる、新しいアプローチになったと実感しています。

ー このプロジェクトの今後の展望を、どう見据えていますか。

森澤: 音が聞こえない方や楽器が苦手な方など、さまざまな人が一緒にステージに上がって、みんなで笑顔になれる瞬間を作り出すことができたなら、誰でも一緒に楽しめる体験をデザインする上で、一つの達成点になると思います。

秋田: その先の展望としては、「ゆる楽器」プロジェクトのプロデューサーであるSMEの梶 望氏の言葉が大きな目標になっています。「笑顔の数がKPI」ーーつまり、演奏する人、家族や友達、観客の方まで、自然に笑顔が生まれる新しい楽器の体験を、どう世の中に広げていくか。ハードルは高いですが、これまでの手応えを元に、一歩ずつ進んでいきたいと思います。


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