グッチ、ラルフ・ローレンが参入、ラグジュアリー業界は、なぜメタバースに注目するのか

2024年5月10日(金)4時0分 JBpress

 コロナ禍で深刻なダメージを受けたのはラグジュアリー業界も例外ではない。しかし、伝統とイノベーションを結束することで復活し、LVMHをはじめとする大手ラグジュアリーグループは、コロナ前の2019年を上回る回復力を発揮した。本連載では、『世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか?』(イヴ・アナニア、イザベル・ミュスニク、フィリップ・ゲヨシェ著/鈴木智子監訳/名取祥子訳/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。ラグジュアリーブランドのキーパーソン35人の証言やマネジメントに関する優良な経験値を通じ、先が見えない時代の予測と危機への対応のヒントを探る。

 第6回目は、ラグジュアリーブランドが熱い期待を寄せるメタバースの可能性を解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 コロナ禍が、米・欧・中のラグジュアリー業界にもたらした変化とは?
■第2回 1000万人がヴィトンの動画を視聴、ラグジュアリー業界で進むデジタル化とは?
■第3回 エルメスがキノコを使ったバッグを発表、ラグジュアリー業界の新たな生産モデルとは?
■第4回 LVMHはなぜ危機に強く、「業界リーダー」であり続けられるのか?
■第5回 ターゲットはデジタルネイティブ世代、DNVBのビジネスモデルとは?
■第6回 グッチ、ラルフ・ローレンが参入、ラグジュアリー業界は、なぜメタバースに注目するのか(本稿)

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 モルガン・スタンレーが2021年11月に発表したレポートによると、メタバースは2030年までにラグジュアリー市場に500億ドルもの追加の収益をもたらすとあり、次のように分析する。

「ラグジュアリーブランドがデジタルメディア経由で得た収益は、現時点では微々たるものだが(中略)こうした状況は変わろうとしている。メタバースの発展には何年もの歳月がかかるだろうが、NFTやソーシャルゲーム(アバター参加型のオンラインゲームやバーチャルコンサートなど)は、短期的に見ても大きなチャンスになると考えられる」

 そのうえでモルガン・スタンレーは、NFTやソーシャルゲームによって今後8年の間にラグジュアリーブランドの潜在市場が10%以上拡大し、ラグジュアリーブランド業界は税引き前利益を約25%伸ばせると予測する。「ラグジュアリー業界全体がメタバース時代到来の恩恵を受けるだろう。また、『ソフトラグジュアリーブランド』(プレタポルテ、レザーグッズ、靴など)は、『ハードラグジュアリーブランド』(ジュエリーと時計)よりも有利な立場にある」と指摘した。

 2021年末のもう一つの重要な現象としては、「ディセントラランド(Decentraland)」や「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」などのブロックチェーン技術を基盤としたVRプラットフォーム上で、NFTの価格が急騰したことが挙げられる。2021年11月末までに、これらのプラットフォームに対する投資額の累計は約1億600万ドルにのぼる。

 パリを拠点とするラグジュアリー&デジタルエージェンシー「バリスティック・アート(BalistikArt)」の共同創業者であるステファン・ガリエーニは、「ウェブ3.0と呼ばれるブロックチェーン技術を活用するネットワークに投資した人々は、大手ラグジュアリーブランドを受け入れるための『バーチャルショッピングモール』までつくり上げてしまった」と指摘する。ガリエーニは、NFTとメタバースに関する論文を2本執筆している、この分野の専門家でもある。

 ラグジュアリーブランドがメタバースという新しい世界で自らのポジションを確立するには、メタバースに参入する意味を明確にすると同時に、ブランドのDNAを守り続けることが課題となる。

 セルフリッジズは、2022年1月にメタバースへの参入を試みた。南仏エクス・アン・プロヴァンスのヴァザルリ財団美術館とパコ ラバンヌとタッグを組み、ファッションとアート、販売、劇場、NFTが一つの空間で体験できる「ユニバース」というスペースを立ち上げたのである。今後は、このスペースを訪れる人が仮想通貨の他、普段のクレジットカードでも支払いができるように改善するという。

 人々にとってメタバースがいかに重要なものになりつつあるかは、ロブロックスのプレーヤーの5人に1人が毎日アバターをアップデートしていることからも明らかだろう。スイス・ラグジュアリー研究所(SCLR)が行った調査によると、2021年半ばの時点で、Z世代の90%がゲームユーザーだった。ゲームユーザーの数は、2023年までに30億人に達するといわれている。早くもゼペットのようなソーシャルアプリは、仮想空間をつくったり、アバターをグッチカラーで彩ったりできるようなサービスを提供している。仮想空間では、ユーザーのデジタルツインがラグジュアリー品を身につけることになるのだ。

 メタバースの発展とともに、ラグジュアリーブランドのニーズも必然的に高まると考えられる。現実世界と変わらず、バーチャル世界にも自分の存在を主張したり、おしゃれをしたり、個性を表現したりするためのニーズは存在する。

 ラグジュアリーブランドは、すでに商品やサービスを提供するための空間としてメタバースを活用している。たとえばグッチは、ロブロックスで展開した「グッチ ガーデン オン ロブロックス」と並行してデジタル商品を販売した。

 その中でも最も高価だったのが、グッチのリアルなバッグを上回る4115ドルのバッグだった。グッチCMOのロバート・トリーフュスは、グッチのメタバースはデジタル世界におけるプレゼンスを示すだけでなく、本質的にはブランドのストーリーを発信するものだと考えている。要するにグッチは、今後の成長が見込まれる「メタコマース」の礎を築いているのだ。トリーフュスは、「私たちは、高価なNFT商品のニーズを把握している。消費者は、メタバースでもう一つの人生を楽しむためにデジタル商品を必要としている。そこに成長余力があることは疑いがない」と語った。

 ブロックチェーン技術によってデジタル商品のニーズは現実のものとなるだろう。ラグジュアリーブランドはまずは相場を決め、その後は市場に任せればよい。デジタルラグジュアリー品の価格は必ず高騰する。NFTデジタルアートは、投機によって価格が急騰することをすでに証明している。

 ラルフ ローレンは、2021年8月にゼペットとのコラボレーションを発表した。「ラルフ ローレン×ゼペット」と銘打ったこのコラボレーションでは、仮想空間内で使えるデジタルファッションのコレクションが展開された。ユーザーは、3Dアバターを作成して他のユーザーとつながることもできるし、ポロ ラルフ ローレンのヴィンテージコレクションと最新コレクションの両方からヒントを得た50点の限定モデルも購入できる。そうやって入手したモデルをアバターに着せて着せ替えを楽しんだり、さまざまなイベントに参加したりすることもできる。

 メタバース向けのデジタル商品の開発は、ラグジュアリーにとっての最重要事項である。デジタル商品があれば顧客は、アバターをパーソナライズしたり、自分だけの商品をつくるだけでなく、こうしたサービスの延長として自分だけのリアルな商品を手に入れることもできる。メタバースは、顧客情報やリアルな商品のラインアップや販売方法さえ変えてしまうだろう。未来の消費者は、バーチャル世界を舞台にラグジュアリー業界に携わるすべての生産者や販売者、インフルエンサーと交流できるようになる。未来の消費は、現実世界とメタバースの両方で行われるのである。

<連載ラインアップ>
■第1回 コロナ禍が、米・欧・中のラグジュアリー業界にもたらした変化とは?
■第2回 1000万人がヴィトンの動画を視聴、ラグジュアリー業界で進むデジタル化とは?
■第3回 エルメスがキノコを使ったバッグを発表、ラグジュアリー業界の新たな生産モデルとは?
■第4回 LVMHはなぜ危機に強く、「業界リーダー」であり続けられるのか?
■第5回 ターゲットはデジタルネイティブ世代、DNVBのビジネスモデルとは?
■第6回 グッチ、ラルフ・ローレンが参入、ラグジュアリー業界は、なぜメタバースに注目するのか(本稿)

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筆者:イヴ・アナニア,イザベル・ミュスニク,フィリップ・ゲヨシェ

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