有名企業出身、語学堪能、履歴書は100点満点…それでも採用を見送ったほうがいい「要注意人物」の共通点

2024年5月18日(土)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

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会社が採用すべき人材はどんな人か。経営コンサルティング・VC事業を手掛けるエッグフォワードの代表の徳谷智史さんは「前職での実績やスキルがどんなに優秀でも、会社の価値基準が合っていない人を採用すると組織が壊れてしまう。採用面接で役職について過剰に交渉してくる人は要注意だ」という——。
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■期待を裏切る「優秀そうな人材」


会社の成長フェーズにおいて最重要とも言える要素は「組織」です。


組織を作るのは、言うまでもなく人。人を集める活動が採用です。採用は、会社の成長に大きな影響を及ぼします。


一方で、採用に失敗し深刻な事態に陥っている会社は数えきれません。読者の皆さんの会社でも、鳴り物入りで入社した幹部候補が早期に去って行った事例を見たことはないでしょうか。


私が代表を務めるエッグフォワードは、経営・組織コンサルティングで10年以上、1000社以上を支援してきました。キーパーソンの採用に失敗し、組織が崩壊しかけたり、事業の成長が止まりかけた会社から、深刻な相談を受けてきました。


職務経歴書に前職での立派な実績が列挙されており、幹部候補として求めている複数のスキルをすべて兼ね備えている——。こんな候補者がいれば、ぜひ採用したいと思うかもしれません。


しかし経営者のこうした直感が裏切られ、期待はずれの結果になることは、残念ながら非常に多くあります。


■実績やスキルだけで判断してはいけない


なぜ本気で採用活動をしているのに、採用に失敗する、中には組織が立ち行かなくなるレベルの失敗すらもしてしまうのでしょうか。


それは採用の重要なポイントが、実績や表面上のスキル以外にもあるからです。重要なのは「価値基準」です。


価値基準とは、会社が大事にしたいカルチャーであり、価値観やマインドです。会社のミッション・ビジョン・バリューなどがそれに当たります。顧客や自社組織への向き合い方、たとえば、「常に未知なる分野に挑戦する」「お客様の役に立つかどうかを一番に考える」「徹底してコミットしてやりきる」といったことです。


会社や事業を新しく立ち上げるタイミングでは、この価値基準が違う幹部が一人でも入ってくるだけで、組織の根幹が驚くほど簡単に揺らいでしまいます。意外にも、それくらい大切なものなのです。


■価値基準のズレがトラブルメーカーを生む


もちろん、実績やスキルがあるのは、個人の努力の結果でありこの上なく素晴らしいことです。ただ、前職で営業の成約件数が多かったとしても、前職の仕組みや看板に基づいた成果だった場合、わずかに環境が変わるだけで、スキルだったはずのものが通用しなくなることもあります。


スキルと実績に惹かれて採用した人は、価値基準が合っているように見えたとしても、本音では共感していなかったり、会社が大事にしている考え方や仕事に対する姿勢が微妙にずれていたりするケースが少なくありません。そうした人は自分がうまくいかなくなった途端に、会社や経営陣の批判を始めたり、社内外でトラブルを起こしたりしがちです。


価値基準が同じ人なら、そうはなりません。入社したときに、一部の能力が求める水準に満たなかったとしても、同じ方向を向いて働いているうちに、一定水準のスキルは後からついてくることが多いのです。


写真=iStock.com/Eoneren
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■1人の役員のせいで社員が大量退職


エッグフォワードが2023年に立ち上げたVC(ベンチャーキャピタル)の「GOLDEN EGG(ゴールデンエッグ)」では、多くの有望なスタートアップを支援しています。一定程度大きくなったスタートアップでも、自社の価値基準を言語化できていなかったり、会社のフェーズにあわせてアップデートできていなかったりすることはよくあります。


ある成長フェーズのスタートアップは、価値基準に合わない人が経営陣にいたことがきっかけで、組織全体が崩壊しかけていました。創業者は悩みのどん底にいました。


営業をリードするこの役員は、トッププレイヤーとして個人の数値成果は出すものの、会社の思想や、経営の価値観を度外視していました。効率だけを追求した結果、チームメンバーの半数近くに至るほど退職が激増していました。とはいえ、短期的に成果を出している以上、創業者は強く言うわけにもいきません。こうした中、組織は明らかに空中分解に向かっていました。


VCである私たちはまず、創業者と膝をつきあわせ、会社の価値基準を改めて言語化することから始めました。なぜこの事業を運営しているのか、どのような会社にしたいかを、徹底的に議論したのです。


■件の役員を経営体制から外し、V字回復


このプロセスを経たことで、どのような人が幹部であるべきかを、創業者自身もはっきりと認識することができました。目先の成果も大事ですが、それ以上に大切なのが顧客や組織への向き合い方です。件の役員は経営体制から外れることになり、中長期の成長に向けたチームを再構築し、事業は再び成長軌道にのりはじめました。


短期の数字に依存していた分、体制変更時は苦しかったものの、自律した組織体制に転換したことで、それまでの停滞基調から、2年目以降前年比で2倍近くへの成長を実現したのです。こういったことは、個別の特殊な事例ではなく、非常に多く見られます。


このように価値基準が明確でない場合は、適切な基準を言語化し、社内で共有することをおすすめします。採用はもちろん、日々の事業上の判断にも大きな影響を及ぼすからです。


採用においては、過去の表面上の実績のみならず、これまでの人生や職業経験を通じて語られる言葉の背景から、会社が大事にしていることや仕事のスタンス、マインドが本当にマッチしているかどうかを見ることが不可欠になります。


仕事に対するスタンスやマインドの部分を見るのは、新卒社員を採用するときも同じです。特に新卒採用では、採用時点でのスキルの差は、将来の伸びしろを考えれば誤差にすぎません。ほんの少しのスキルの差に左右されて採用に失敗するのはもったいないことです。


■「とにかく肩書きにこだわる人」は要注意


価値基準にあっているかどうか確認するにはどのような点を見ればいいのでしょうか。


例えば、採用面接で「役員にしてほしい、部長にしてほしい」などと過剰に交渉してくる人は要注意です。名の知れた大企業や、急成長したスタートアップなど、いわゆるキラキラした会社に勤めていた人に多い傾向があります。


もちろん、ポジションは大切なのですが、本来肩書きはそれに見合う価値を出す役割を担えるからこそ与えられるものです。まだ新しい会社では何も実績を出していないのに、「とにかく肩書きがほしい」とだけコミュニケーションをとる人には、違和感を覚えないでしょうか。


■「キラキラ人材」は活躍できないケースが多い


それでも採用してしまうのは、経営者にしてみれば、人手不足の中で、前職での肩書きや実績がキラキラと輝いて見えるからです。


きちんと仕事をしてくれれば良いですが、現実には肩書きばかり目立って、活躍できないケースがとても多いのです。


ミッションやビジョンの実現に向けて、事業を立ち上げるときは、役員であろうが、部長であろうが、立場を問わず泥臭い仕事をするのが当たり前です。部下に指示をしてスマートに働くのが理想かも知れませんが、特に最初はそうはいきません。


ところが、肩書きにこだわりすぎる人は、そのような段階であっても、「私は役員なのに、なぜこんな仕事を」といった具合に不満をこぼしがちです。一人でもこういう人が組織にいると、チームの士気にも影響し、引いては組織にヒビを入れることになりかねません。


■別の「勝ちパターン」の人が組織を強くする


創業したばかりの時期や、新規事業の立ち上げ初期は、とにかく今いる人員で事業を立ち上げることに全力を尽くすと思います。事業がうまく立ち上がり始め、組織の規模が大きくなってきたら、「どのようなスキルセットを持ったメンバーで会社やチームを構成するか」の計画を立てることになります。


こうした計画を持たず、悪い意味で自然体でいると、自分や他の経営陣と同じスキルセットの人、すなわち同じ勝ちパターンの人を集めがちです。人間は、似たものに惹かれるのです。しかし、組織を中長期的に強くしたいなら、今の経営陣とは別のスキルセットを持ち、別の「芸風」で戦ってきた人を入れることが重要になります。


「マインドセットは共通、スキルセットは異質」がポイントです。採用の受け皿を広くして、異なる強みやスキルを活かせる組織に変えていけば、組織の成長スピードが加速します。


■前職のツテに頼る人は「危険信号」



徳谷智史『経営中毒 社長はつらい、だから楽しい』(PHP研究所)

すでに採用した人が、今の仕事で価値が出せないときに、前職の仕事のやり方でなんとかしようとする行動を見せたら「危険信号」です。


特にマズいのは、前職で発注していた外部の会社に高いお金を払って仕事をしてもらおうとする人です。自分だけでは価値が出せないと思ったときに、気心の知れたコンサルタントやアドバイザーを連れてきたり、前職の会社で使っていたシステムを導入しようとしたりするのです。


本当に価値をもたらす行動であればいいのですが、多くの場合、手柄を立てたいがために、顔のきく外部の人に発注しているだけです。放っておくと、不要なツールを導入するなど、貴重な資金をムダに使うことになりかねません。


■仕事の“仲間”選びは慎重に


大事なのは“仕事をした感”ではなく、仕事を一緒にできる“仲間”であるということです。特に新しいことに取り組むときは、誰を同じ船に乗せるかに、慎重になる必要があります。


写真=iStock.com/tadamichi
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会社やチームが成果を出すには、人材が必要です。事業の成長フェーズであればあるほど、経営者は採用を焦ってしまうかもしれません。しかし採用で失敗すると、組織に歪みが生じ、後々大きな痛手を負うことになります。「価値基準に合うか」を念頭に仲間を選ぶことが何より大切です。


※本稿でお伝えした考えは、拙著『経営中毒 社長はつらい、だから楽しい』(PHP研究所)にて、より詳しく知っていただくことができます。


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徳谷 智史(とくや・さとし)
エッグフォワード代表、GOLDEN EGG Ventures代表パートナー
京都大学卒業後、大手戦略コンサルティング会社に入社。国内PJリーダーを経験後、アジアオフィスの立ち上げ・同代表に就任。2012年に、「世界唯一の人財開発企業」を目指し、エッグフォワードを設立。総合商社、メガバンク、戦略コンサル、リクルートグループなど、トップ企業に対する企業変革のコンサルティングや、スタートアップ各社への出資・支援などを幅広く手がける。近年は、AI等を活用したHR-Tech分野の取り組み、事業開発や、教育機関支援にも携わる。Podcast「経営中毒 〜だれにも言えない社長の孤独〜」メインMC等を担当。主な著書に『経営中毒』(PHP研究所)、『キャリアづくりの教科書』(NewsPicksパブリッシング)がある。
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(エッグフォワード代表、GOLDEN EGG Ventures代表パートナー 徳谷 智史)

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