人事評価に納得している人はたった2.8%…部長と本部長の間にできる「評価納得度」の計り知れない溝

2024年5月18日(土)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

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人事評価のための目標設定に意味はあるのか。麗澤大学教授の宗健さんは「人事評価のための目標設定は構造的に機能しない。社員は達成できそうな目標にすることが自分の利益になり、目標を達成したらそれ以上の努力をしなくなるからだ」という——。
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■人事評価に納得している人はほとんどいない


企業や組織で、人事評価を行っていないケースはほとんどないだろう。その目的が何かは組織によって多少異なるが、問題は人事評価に納得している人がほとんどいないことだ。


筆者が企画・設計・分析を行い2019年から発表している「いい部屋ネット 街の住みここち&住みたい街ランキング」は、全国から80万人以上の回答を得ている大規模な調査だが、2022年調査については、働き方についての追加調査(以下「働き方調査」という)を全国の1万2562名に対して行っている。


働き方調査のうち、「人事の評価には納得することが多い」という設問に対してYesと回答したのはわずか2.8%しかおらず、「人事の評価には納得できないことが多い」という設問に対してYesと回答したのは12.0%だった。


そしてこの「納得することが多い(納得できる)」と「納得できないことが多い(納得できない)」の回答を職種別・企業種類別・役職別に集計すると以下のようになる。


■営業職よりも事務職の方が「納得できる率」は高い


数字で評価しやすいと言われている営業職よりも、評価しにくいと言われている事務職のほうが、納得できる率が少しだけ高く、納得できない率が少しだけ低くなっているのは、世の中の言説ほど営業職の評価がうまくいっていない可能性を示唆している。


企業種別では、オーナー企業の納得できる率が一番低く、納得できない率が一番高くなっており、これはオーナーによる恣意的な評価が行われている可能性を示唆している。


上場企業では、納得できる率がオーナー企業よりも高いが、納得できない率もかなり高く、人事評価があまりうまくいっていない可能性を示唆している。


ベンチャー企業、外資系企業では、納得できる率が高く、納得できない率は逆に低いことから、上場企業やオーナー企業よりも人事評価がうまくいっている可能性を示唆している。


面白いのは、役職が上がれば、「納得できる」も「納得できない」も増えるが、本部長・事業部長(その多くは役員だろう)になると、「納得できる」が一気に増え、「納得できない」が激減することだ。


こうした結果が示しているのは、結局、人事評価に納得している人はほとんどいない、ということだ。


■多くの人は待遇にも満足していない


人事評価に納得している人はほとんどいないが、評価だけではなく評価の結果としての待遇についても納得度は低い。


働き方調査の「給与等の待遇には満足している/不満がある」という設問に対してそれぞれYesと回答した人の比率を、職種別・企業種類別・役職別に集計すると以下のようになる。


「人事評価に納得できる/できない」という設問よりも、満足率、不満足率はそれぞれ高くなっており、人事評価よりも給与等の待遇のほうがより個々人の判断が明確になっている。


実績と給与の連動性が高いと思われる営業職は、不満足率が事務職よりも低くなっているが、満足率は事務職とあまり変わらない。


企業種別では、給与水準が高いことが多い外資系企業の満足率が際立って高く、不満足率も低い。


役職別では、役職が上がると満足率が高くなるが、不満足度はあまり下がらない。一方で、役員が多いはずの本部長・事業部長では満足率が低くなっているのは、もっともらっていいはずだ、と本人が思っているのだろう。


■社員は「達成できる目標」を設定してしまう


人事評価に納得している人はほとんどおらず、給与等に対する満足度も低いという状況で、人事評価における目標設定は機能するのだろうか。


少し考えればわかるが、どうせちゃんと評価されず、満足するような待遇が得られないとわかっていて、まじめに目標設定に取り組む動機は生まれない。


また、設定した目標に対して達成したかどうかで評価されるのであれば、できるだけ達成できそうな難易度の低い目標にすることが自分の利益になる。さらに、自分では達成できそうだと思っていても、上司に対しては達成が難しい目標だと思わせることが自分の利益につながる。


しかも、全員がそんな邪(よこしま)な考えを持たないような聖人だけで構成されている組織はありえない。だれかが抜け駆けしてできるだけ目標を低く抑えようとするなら、目標設定時点で目標の引き下げ競争が始まる。


実は組織側もそんなことは百も承知なわけで、だからこそ目標はノルマとして、上から割り当てられ、現場ではノルマの押し付け合いが目標設定の焦点となる。


そして、市場や顧客、商品等の違いによる難易度調整を公平に行うことは極めて難しいため、目標設定の段階で誰も納得しない目標が決まり、納得していない目標に対して評価されても、その評価結果に納得するわけがない。


結局、多くの場合、人事評価のための目標設定は構造的に機能しないのだ。


■目標を達成すると努力が止まってしまう


人事評価では、事前に目標を決め、その目標を達成したかどうかで評価が行われることが基本になっている。


その目標設定は、評価される側から見ればできるだけ低いほうがよいが、それを積み上げても経営としての目標には届かないため、目標をノルマとして上から落とし、そのノルマを現場が押し付けあうことになる。


そうして決まった目標に対して、評価される以上、現場は達成に向けて努力はするが、問題は達成が見えれば、それ以上の努力が止まってしまうことにある。


人事評価は相対評価だから、全員が目標を達成すれば、より高い評価を得るために少しだけ達成率を上乗せすることもあるが、達成している人が少なく、高い評価を得られることがある程度わかれば、それ以上の上乗せをしないことが自分の利益になる。


それは、達成率が高ければ高いほど、そもそもの目標が低すぎたのではないかという疑念を持たれ、それが評価に影響することを避ける意味がある。さらに、達成率が高ければ、次の評価期間における目標の押し付け合いに不利に働く、それだけできたのだから高い目標を持つべきだという圧力にさらされることを避けるという意味もある。


写真=iStock.com/Shutter2U
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■昔のリクルートに存在した「売上絶対額ランキング」


組織風土も違い、簡単に比較はできないが、昔の(1995年くらいまでの)リクルートでは、週リク(週刊リクルート)と呼ばれる社内報の最後のページに掲載されていた営業成績ランキングに、達成率ランキングと同時に売り上げ絶対額ランキングも掲載されていた。


これは、おそらく目標設定の公平性の担保が難しいことと、達成率が評価の一面でしかないことをよく理解していたことが背景にあったのだろう。


当時のリクルートでは、高い達成率(その多くは若手の売り上げ目標額が比較的小さい場合が多かった)よりも、売り上げの絶対額が大きいほうが(その多くは中堅以上の売り上げ目標が比較的大きい場合が多く、達成率は100%に届いていない場合も多かった)スゴイのだ、という空気があった。


そして、売り上げ絶対額が大きな、プライドの高い営業は、目標設定自体にはあまりこだわりのない人が多かったように思う。


■目標はあくまで目安として「結果で評価する」方法もある


目標設定すること自体が機能しないとなれば、目標に対する達成状況ではなく、目標はあくまで目安として、結果だけで評価するという方法もある。


これは、KPI管理など管理志向の強い人からすれば異端のやり方だろうが、昔のリクルートのスタッフ部門ではわりと普通にあったやり方だった。


スタッフ部門は営業部門と違い、そもそもの目標が上からノルマとして降りてくるという感じではなく、目標自体に定性的なものも多く、しかも日々の状況によって新たに対応すべき業務が出てくることも多いため、目標を目安とすることには一定の合理性があった。


また、当初の目標にこだわると、それは刻々と変化していく事業環境に適応できないという合理的な理由もあった。


そして、目標を目安としてとらえ、変化に対応するために柔軟に業務を組み替えていくと、人事評価は結果評価にならざるを得ない。


目標に対する達成状況ではなく、そもそも何をどこまでやったのかを結果評価されるのであれば、目標の押し付け合いも、達成したからそれ以上はやらない、ということも起きない。それが、業績につながっていく。


すべての組織にこの考え方が適応できるとは思わないが、人事評価のための厳密な目標設定を行わず、業績を上げていく方法もあるはずなのだ。


それは、評価のための制度設計を目指すのではなく、どうすればひとりひとりが気持ち良く、モチベーション高く働けるのか、ということを目指すところから始まるのだろう。


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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)

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