本物に触れる「木育」を緑豊かなキャンパスで広げる玉川学園

2024年5月23日(木)11時40分 PR TIMES STORY

「Tamagawa Mokurin Project」座談会(1)


未来を担う子どもたちへ本物に触れる「木育」を——。約60万平方メートルと東京ディズニーランドの敷地面積を上回る広大な玉川学園のキャンパス(東京都町田市)には、250種類の樹木のほか、鳥類など多くの野生生物が生息し、その豊かな自然の中で、幼稚部から高等部、さらに大学、大学院まで一貫した環境教育が行われています。

玉川学園の『全人教育』の理念には「自然の尊重」が掲げられ、「雄大な自然は、それ自体が偉大な教育をしてくれる。また、この貴重な自然環境を私たちが守ることを教えることも、また大切な教育である」とうたわれています。環境教育による人材育成が行われているユニークな大学・学園だといえるでしょう。

2029年に迎える創立100周年を見すえ、玉川学園では2022年度から、木に触れ、木への理解を深めながら環境づくりに取り組む「Tamagawa Mokurin Project(タマガワ・モクリン・プロジェクト)」が始まりました。豊かな自然環境を維持するためには、樹木を植え育てるだけでなく、適した時期に間伐し、新しい樹木を育てることが必要です。学園では100年の歳月をかけて、学生や教職員が手入れをしながらこの環境を作り上げてきました。そうした活動から生まれたこのプロジェクトは、学園内外に“木の輪(モクリン)”を広げることで、地球環境の保全に貢献し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成と人材育成を目指す新しい試みです。

https://www.tamagawa.jp/sdgs/article/detail_010.html

当初からプロジェクトに参画している学園の中等教育を担う美術教諭の瀬底正宣氏は「キャンパス内で木を育て、森を活性化し、木に親しんだり、ものづくりに応用したりするこのサイクルを回していく『木育(もくいく)』を大切にしています」と語ります。教育学部教授の市川直子氏は「プロジェクトを通じた教育は、生き物への畏敬の念や自然に感謝する心を育むことにつながります」と言います。

プロジェクトでは、農学部准教授の友常満利氏が中心となり、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)からさらに一歩踏み込み、二酸化炭素(CO2)排出量をマイナス、すなわち吸収源とする「マイナスカーボン」化に向けた先進的な実証実験も進んでいます。キャンパス内で出た間伐(かんばつ)材や倒木などを学内で炭化し、バイオ炭(バイオチャー)にすることで、微生物による木材の分解に伴うCO2の放出量を減らす。さらにそれを森にまくことで、土壌を改良し、樹木によるCO2の吸収量を高めるという世界に先駆けた研究です。

マイナスカーボン研究の最新の動向をはじめ、プロジェクトの成果や教育への波及効果について、メンバーである7人の先生方に話を聞きました。

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【瀬底正宣(せそこまさのり)教諭】

6年−12年生(小学6年生から高校3年生)の美術教諭。玉川学園の労作教育の場として、学内のさまざまなものづくりをつなぐ「Art Lab」を立ち上げるなど、学園独自のものづくり教育「STREAM(ストリーム)Style(スタイル)の教育」に貢献している

【市川直子(いちかわなおこ)教育学部 教育学科 教授】

専門は応用動物昆虫科学。学術研究所ミツバチ科学研究センター兼務。人にとって有用な昆虫であるミツバチや、子どもたちにとって身近などんぐり(ブナ科・樹木)などの動植物を題材とした理科・環境教育の教材研究に取り組む

【友常満利(ともつねみつとし)農学部 環境農学科 准教授】

専門は生態系生態学。生態系の仕組みやその役割を理解するため、生態学と土壌学を基礎としたフィールドワークを中心に、教育・研究活動を展開。剣術や弓術、茶の湯といった日本文化の継承者でもあり、生物学の知見から日本の文化を解き明かすことも目指している

【杉崎義和(すぎさきよしかず) 大学院 農学研究科 修士2年】

友常先生の研究室で、学部4年生の頃から玉川キャンパスを例に都市緑地のCO2吸収量やバイオチャーを使った炭素隔離量を評価する研究に取り組んでいる。この経験を活かし、環境をキーワードにSDGsも視野に入れた林業や造園関係の仕事に就くべく活動中

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——まず、マイナスカーボン研究について教えてください。

友常「玉川学園は非常に自然豊かな場所で、大都市にありながらも緑地がかなり残っています。これは都市緑地の一つの例として見ることができますが、都市に残された緑地の役割に関する研究はまだあまり進んでいません。都市緑地としてこのキャンパス内で出た間伐材や剪定(せんてい)枝など、材木として使いにくい廃材を乾燥させて細かく砕き、炭化器で空気の少ない状態で焼き、バイオチャーにします。木材(有機物)はCO2の一部となる炭素の塊であり、自然界に置いておくと数十年ほどで分解し、CO2として大気に戻ってしまいます。これらの有機物を熱分解し、自然環境で分解されにくい炭にすることで、1000年もの間、分解されずに大気からCO2を隔離することができます」

——森林によるCO2吸収と、有機物の分解に伴うCO2放出の抑制によって、カーボンを差し引きマイナスにできるということですね。現在、どこまで実証が進んでいるのですか。

友常「学園のシンボルでもある『聖山』で行う2023年の労作(聖山労作)で、初めてキャンパス内で焼いたバイオチャーを散布しました。バイオチャーは古くから、農地の作物収量の増加を目的とした土壌改良材として使われていました。私たちは森、特に都市緑地にバイオチャーを活用しようと、10年ほど前から研究に取り組んでいます。当時は全く理解されなかったのですが、ようやく時代が追いついてきたようです。最新の研究結果では、バイオチャーによって樹木の成長が促され、より多くのCO2を吸収することも分かってきています」

杉崎「都市域の緑地はクヌギやコナラなどの落葉広葉樹や、スギやヒノキといった針葉樹、竹林などさまざまなタイプの森が集まっており、山林とはまた違った特徴を持っています。私は学内の7タイプの林群を対象に、樹木のCO2吸収量やバイオチャーにするための資材量などを調べています」

友常「炭を使った炭素隔離は地球温暖化対策として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも取り上げられ、カーボンクレジット(排出権)取引としても利用可能ですが、現在は農地などにまかれた炭が対象で、森に炭をまいたときの算定式はまだありません。私たちは今、まさにこの算定式を導くべく、研究に取り組んでいます。もし森林大国である日本で、森に炭をまくという行為が認められ、算定式ができたら、大きなインパクトになるかもしれません」

——瀬底先生はMokurinプロジェクトの発足前から、学内で伐採した木材で木工製品を作る取り組みをされていますね。

瀬底「はい。学園の管財課がイチョウの木を私たちの工房に持ってきて、何か作れないかと言ってくれたことが最初のきっかけです。生徒とともにテープカッターや『ゴッホの椅子』などを作り、レーザー加工機で試しに学園のロゴを刻印してみたら、すてきな作品に仕上がりました。ただの輪切りの木であっても、工夫すればブランドになる。そう思い、労作の一環として、学園の『木を使う』という試みを提案しました。子どもたちも喜んで創作に励み、授業だけでなく、クラブ活動や自由研究などで楽しんで制作しています」

——市川先生は学内に棲むカブトムシを教材に活動を行っているそうですね。

市川「幼稚部や小学部低学年を対象に、およそ1か月間にわたり、カブトムシを幼虫からさなぎ、成虫になるまで育て、観察しました。この活動では、1年のうち大半もの間、土の中で過ごすカブトムシの様子を、教育学部で考案した飼育・観察ポッドでつぶさに観ることができるため、普段、目にすることができない世界を知ることができました。緑豊かな『たまがわの丘』の自然が、カブトムシをはじめ、多くの生き物によって支えられていることを体験しながら学んでもらいたいと思っています。カブトムシの成虫のための止まり木とエサ台は、瀬底先生が指導された美術部の生徒さんたちが労作で学内の木を使って制作してくれました」

——プロジェクトではどのような成果が出てきていますか。

友常「学内で炭焼きやバイオチャーの散布を始めて2年が経ち、具体的な炭素の隔離量などの算出結果が少しずつ出始めています。もっとも、実際に私たちが1年間に放出している炭素の量に比べたら、まだそれは微々たるものです。今後、キャンパス全体で取り組み、さらに行政などと連携してその輪を広げていくことが必要ですね。一方で、こうした活動を通じて、教育の観点から『環境とは何か』、私たちにとっての『森の機能とは何だろう』といったことを考えられる自然環境の保全に対応できる人材を輩出することが最も大事だと考えています。炭を使った環境教育を授業として取り入れているのは玉川大学だけではないかと思いますね」

杉崎「私は、Mokurinプロジェクトを通してつながった先生方の協力を得て、大学祭の『コスモス祭』で学内の木材を使ったコースターを販売するなど、自然環境や人の労働環境に配慮したカフェを出店しました」

瀬底「日本で使われている木はほとんど海外から入ってきたものです。日本の国土面積の約70%は森に覆われていますが、大部分の木は活用されずに捨てられています。このままいけば、日本の森はどんどん年を取ってダメになってしまう。そうした現状を説明したうえで、『どうすればいいのか?』と子どもたちに問いかけています。私たちの世代もその明確な答えを持っていませんが、学園で育てた木を切り、あえてお金をかけて製材にしてみんなで使っていく。そうして木に親しむことで、環境教育としての活動が、まさにモクリン(木輪)のように広がってきているのではないでしょうか」

市川「これまで教育学部としての活動はもちろん、幼稚部や小学部の子どもたちとの体験学習では、教材として使った木について、その種類や特徴だけでなく、成育していた場所や背景にある歴史も伝えるように努めてきました。創立者・小原國芳先生の想いと、『12信条』にある『自然の尊重』、さらに『ゆめの学校』として玉川学園が創立された頃から、およそ100年の時を経た現在においても変わらない労作によって、『たまがわの丘』は今日も私たちとともにあります。たまがわの丘を守り、育てながら、これからも感謝を持って、この脈々と引き継がれてきた玉川学園の自然に対する謙虚で真摯な取り組みをMokurinプロジェクトを通して、より広く知っていただきたいと考えています」

※科学(Science)、技術(Technology)、ロボティクス(Robotics)、工学(Engineering)、芸術・人間学(Art)、数学(Mathematics)を融合したものづくり教育


○Mokurinプロジェクト インスタグラム

https://www.instagram.com/tamagawa.mokurin.project/


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