沈黙を埋めるために当たり障りのない話題を振るのは絶対ダメ…心理カウンセラーが「沈黙を全く恐れない」理由

2024年5月24日(金)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Drazen Zigic

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相手に安心感を持って話してもらうには何をすればいいか。心理カウンセラーの古宮昇さんは「当たり障りのない話しやすい話題を振って、とにかく話してもらおうとするのは最善の方法ではない。沈黙を恐れて聴き手にゆとりがなくなると、話し手のペースにゆだねて待つことができなくなる。そんな人間関係では、話し手は安心して話すことが難しい。逆に、聴き手が『話しても話さなくても、どちらでもいい』と心から思えていると、話し手にとってその人間関係は安全なものになる」という——。

※本稿は、古宮昇『一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。


■傾聴では沈黙を避けなくてもいい


沈黙を苦手とする人は多いものです。


社交上の会話であれば、沈黙が生まれないよう、お互いに共通している話題や、相手にとって興味のある内容、話しやすい内容を持ち出してあげるとスムーズな会話になります。


お天気の話をする、相手の服装を褒める、相手の趣味や休日の過ごし方を尋ねるなどが良いでしょう。


そして、相手の話に対し、明るい表情で大きく何度もうなずく、キーワードを短く返す、相手がわかってほしい要点を短く返すなどの傾聴の応答を積極的に行えば話は盛り上がりやすくなります。


写真=iStock.com/Drazen Zigic
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しかし、私がカウンセラーとして話を聴くときには、話しやすい内容を相手に振ることはありません。


初対面の来談者でも、「今日はどういうことでお越しになられましたか?」と、いきなり本題に入ります。お天気の話などは時間の無駄となりますし、本当に悩んでいる人に対して「深刻な話は受け止められません」というメッセージを伝えることにもなりかねません。


傾聴では沈黙を避ける必要はないのです。


■話し手が話したい場合に話したいことを話せる場を提供する


日常の会話でも同じです。相手が「悩んでいることや辛い気持ちなどについて話したい」と思っており、あなたも「傾聴することで支えになりたい」と願っているとき、沈黙を恐れてはいけません。


当たり障りのない話しやすい話題を振って、とにかく話してもらおうとするのは最善の方法ではないことが多いのです。


初心者が傾聴しようとするとき、話し手がすらすら話してくれないと困ってしまうことがあります。これは、聴き手が沈黙をこわがっているためです。


話し手から信頼され心を開いてもらえないと、「うまく話を聴けていない自分がダメなんだ」という気持ちになるからかもしれません。


こういう気持ちが強くなると、聴き手にはゆとりがなくなり、話し手のペースにゆだねて待つことができなくなるでしょう。そんな人間関係では、話し手は安心して話すことが難しくなります。


逆に、聴き手が「話しても話さなくても、どちらでもいい」と心から思えていると、話し手にとってその人間関係は安全なものになります。


傾聴とは、話し手が話したい場合に話したいことを話せる、そんな場を提供することです。


■話をすること自体に意味があるわけではない


傾聴にあたっては、話をさせようとしてはいけません。なぜなら、話をさせようとすることは、話し手に対して「話さなければダメだ」という条件を課していることになるからです。


傾聴において大切なことのひとつに、「そのままの話し手を受け入れて大切に感じること」があります。もちろん、それがいつも完璧にはできるということはありません。


写真=iStock.com/picture
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しかし、話し手のことを無条件に受容する態度が聴き手にあればあるほど、話し手にとってその人との関係性は安全なものになります。


話し手のことを無条件に受け入れる態度とは、「話したければ話を聴かせてほしいと思うけど、話したくなければ話さなくてもよい。どちらにしても私は話し手のことを同じだけ受け入れ、同じだけ大切に感じている」という態度です。


「あれについて話をさせよう」「このことを語らせよう」と迫る態度では、話し手を無条件に尊重して受け入れていることにはなりません。


そもそも傾聴の対話において、話をすること自体には意味がありません。「話し手が何かを話していれば意味があり、話し手が黙っているなら時間の無駄だ」、というものではないのです。


では、傾聴の対話では、何に意味があるのでしょうか?


話し手が話したいことを話し、それをわかってもらえたとき、そのやり取りを通して話し手の心に動きが起きます。


私たちは話をし、人に聴いてもらうことを通じて自分の考えを吟味し、感情を感じることができるのです。それを続けることで、わからなかったことに気付いたり、感じ方や行動に変化が生まれたりします。


こうした心の動きに意味があるのであって、話をすること自体に意味があるわけではないのです。


■沈黙の受け止め方


沈黙は、大きく分けて2種類あります。


ひとつは、話し手が自分の考えや感情を吟味している沈黙です。話し手にとって、自分の気持ちや考えを吟味するために沈黙が必要なことがあります。ですから、この沈黙は大切な時間です。聴き手は深くゆったり呼吸をしながら、体をゆるめてじっと待ちましょう。


もうひとつの沈黙は、話し手が話せなくなっている沈黙です。例えば、気心の知れた人ではない、心の距離があまり近くない人と話をすることは難しいものです。話す内容が浮かばず、頭が真っ白になった経験は誰にだってあるでしょう。


なぜ話せなくなるかというと、何を言えば相手が自分のことを理解し受け入れてくれるかがわからず、「相手に拒否されたりバカにされたりするかもしれない。だからこのこともあのことも話してはいけない」と心が自動的にストップをかけるからです。


ですから、「こんな考えや感情を持っている自分のことを、人は好いてくれない」という信念と「人から好かれなければたまらない」という寂しさを心の底に抱えている人ほど、心のブレーキがかかるため自分のことを話すのが難しくなります。


■話し手の不安には「理解をしめし、共感的に応答する」


傾聴の場面においても、話し手が話せないのは不安だからかもしれません。


話したいことはあっても、それを話すと「バカにされたり、否定されたりするんじゃないか」「わかってもらえないんじゃないか」と感じているのです。そして、話すことが何も浮かばず困っているのかもしれません。



古宮昇『一生使える! プロカウンセラーの傾聴の基本』(総合法令出版)

そのようなことが起きるのは、共感的な理解が十分に伝わっておらず、話し手を信頼して心を開くことができていないからです。もしくは話し手の心に辛すぎる感情が湧きあがってきそうになっていて、それを抑えようとしているからです。


話し手が話せなくなっているときは、先ほどまで話し手が話していた内容の特に大切なポイントを、短く繰り返して理解をしめしましょう。沈黙して困っている様子なら、その困惑している気持ちに対しても共感的に応答しましょう。


例えば、話し手が母親から理不尽に叱られた話をしているとします。途中で続きを話せなくなった話し手が沈黙した場合、「お母さんに理不尽に叱られたんですね」と、要点となる部分を返すのがひとつの方法です。


話し手が沈黙する直前、母親から理不尽に叱られたことに対する怒りを語っていたり、もしくは話し方や表情によって母親への怒りをありありと表現したりしていたなら、その怒りを受け止め、「お母さんに叱られて腹が立つんですね」と応答すると良いでしょう。


話し手が沈黙して困っている様子であれば、ただ黙って待っているのではなくそんな話し手を受け入れ、「話すことが浮かばず困っておられるのでしょうか」とか、「何を話せばいいか、わからなくなっておられますか」のように、穏やかな態度で応答しましょう。


話し手が表現している困惑に対し、共感的に応答することが適切です。


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古宮 昇(こみや・のぼる)
心理カウンセラー
心理学博士。公認心理師・臨床心理士。米国州立ミズーリ大学コロンビア校より心理学博士号(PhD.)を取得。米国にて、州立児童相談所、精神科病棟などで心理カウンセラーとして勤務し、州立ミズーリ大学心理学部で教鞭を執る。日本に帰国後は、心療内科医院および大学の学生カウンセリング・ルームのカウンセラー、大阪経済大学人間科学部教授を経て、現在は神戸にてカウンセリング・ルーム輝代表。
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(心理カウンセラー 古宮 昇)

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