40歳以上の約5割には「隠れ心不全」の恐れがある…心臓専門医が警鐘を鳴らす「心不全パンデミック」とはなにか

2024年5月25日(土)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

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健康で長生きするためには、どんなことに気を付ければいいのか。心臓専門医の大島一太さんは「40歳以上の約5割にあたる人に『隠れ心不全』の恐れがある。『何の症状もない段階』からでも心臓力を高める行動をとり、予防を始めてほしい」という——。

※本稿は、大島一太『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』(かんき出版)の一部を再編集したものです。


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■高血圧の患者は全国に4300万人


じつは「心不全」とは「心臓に負荷がかかったすべての状態」を総称する病態であり、高血圧や不整脈、貧血、ぜんそく、あるいはタバコの吸い過ぎでCOPD(肺気腫など)になった状態も、広い意味で「心不全」といえます。


医師に「血圧が高めです」と診断された人も、元気にタバコを吸っている人も、「自分は心不全かもしれない」と自覚することからはじめましょう。現在、高血圧の患者さんは全国に4300万人もいます。これは40歳を超えた日本人の約50%にあたり、該当するみなさんには特に「心不全」を意識していただきたいのです。


たとえ健康であっても、心不全は始まっていると心得ておくべきでしょう。


心臓を専門とする私は、50代以上の多くの人に「心不全」が隠れていると考えています。ただし、そのうち、いますぐ治療が必要な人はごく少数。ほとんどの人が「自分の心臓はちゃんと動いている」と感じているはずです。


しかし、じつは、その「無自覚」が心臓にとって最大の敵といえるのです。


■自分の心臓がいま「どの段階か」把握する


心不全は時間をかけて徐々に進行していく病態です。これを最近ではガンと同じようにステージで分類するようになりました。


ABCDと4つのステップがあります。


ステージAは「心不全の発症リスクはあるものの、心臓に器質的な障害を認めない」という状態です。いわゆる「高血圧」がここに当てはまります。


これをそのまま放置すると、ゆっくり心臓の形が変化していきます(器質的障害)。しかし症状はないので本人は気づきません。この状態がステージBです。


高血圧がカラダに悪いということは、多くの人が認識していると思います。ですが、実際、放っておくと具体的に心臓はどうなるのか、ご存じでしょうか。


心臓は筋肉でできた袋のような臓器であり、高血圧を放置するとその筋肉(心筋)がだんだん分厚く変化します。これを「心臓肥大」といいます。まったく症状がなくても、ステージAの人より著しく死亡率が上がることがわかっています。


次に、「器質的心疾患に関連した症状を認めたことがある人」がステージCに入ってきます。そして、ここからみなさんがイメージするような重症心不全となり、最期を迎えるステージDとなるのです。


■「何の症状もない段階」で予防を始めたほうがいい


心臓力を高めるために重要なポイントは、自分がいまどの段階にいるのかを客観的に評価することです。特に気をつけなければならないのは、何の症状もないステージAやBをきちんと意識すること。ステージCに至ると、心筋梗塞のように重大で、もう後戻りできない障害が発生するからです。


そうなったら、心臓力どころの話ではなくなります。もちろん、きちんと治療すれば十分にハッピーな生活を送ることができますが、完全に健康な心臓に戻ることは困難です。さらに悪化すれば、寝たきりになってしまうかもしれない。AやBの段階できちんと心臓力を高めるための行動をとり、予防を始めなければなりません。


そう心がけることを、私は「上流意識」と呼んでいます。


「結果にはすべて原因がある」——その言葉が最もよく当てはまる臓器が心臓です。下流(重症心不全)で起きる問題は、じつは、上流でつくられています。だからこそ、自分がまだ上流にいるときに問題の芽を摘んでおかなければならないのです。


具体的には、高血圧、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化、不整脈、睡眠時無呼吸症候群など、なんとなくカラダに悪そうな生活習慣病。これが上流にあれば、心不全の第1段階なのだと意識すること。


そして、その進行を遅くさせるために、いかにそれらをコントロールするかを考えながら日々の生活を送る。下流に至ってからでは、もう遅いのです。


写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■これからくる「心不全パンデミック」


現在、日本人の心臓はかなり弱ってきています。


厚生労働省のデータ(2022年)によれば、日本人の死因の1位は悪性新生物(ガン)、2位が心臓疾患、3位が脳血管疾患(脳卒中など)です。この順位(老衰は除く)のおおまかな傾向は、1990年代半ばから変わっていません。


ガンで亡くなる人が多いことは、すでに知られていると思いますが、その患者数は約100万人。それに対して、心不全の患者さんは約120万人で、2030年には130万人に達すると予想されています。この数字を見るにつけ、心不全になっている人がいかに大勢いるかがわかります。


「心不全」は病態であり病名ではないので、死亡診断書には載りません。つまり、総称としての「心不全」が原因で亡くなっている人の数は、厚生労働省の発表よりはるかに多いということ。私たち心臓を専門とする医師は、この爆発的な増加を「心不全パンデミック」と呼び、高齢化社会が進むにつれ、どのように心不全の「患者さんたち」をマネジメントするのかに腐心しています。


心不全は「人生100年寿命」の前に立ちはだかる最難関の壁であり、心不全を回避し、心臓力を高めることこそが健康への近道——そこに疑いの余地はないのです。


「心不全とは、あらゆる疾患の終末像である」——そんなイメージだと思うのですが、いまはもうそんな時代ではありません。


ステージAやBという、まったく症状がない状態でも、それを心不全の第1歩ととらえて、進行しないように改善していくのです。


■心臓を蝕む「5大リスク」


心臓力をアップさせるために特に気をつけたいのが、次の5大リスクです。


高血圧

高血圧は心臓や血管、そして全身の臓器にかかる負担そのもの。動脈硬化が進行すると、全身の臓器を障害する大きなリスクとなります。これについては、少し詳しく後述します。


脂質異常症(コレステロール、中性脂肪)

悪玉コレステロールや中性脂肪の増加によって、動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の大きな原因となってしまいます。


糖尿病

糖尿病は動脈硬化が加速して進行し、心臓病、特に心筋梗塞の危険性が高まります。胸の痛みを感じない「無症候性心筋梗塞」にも注意しなければなりません。


喫煙

喫煙は血管を傷つけ、血栓を形成し、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞を引き起こします。低タール・低ニコチンタバコに切り替えても、心筋梗塞のリスク低下にはつながりません。タバコとガンの関係以上に危険です。


家族歴

親子は顔が似るのと同じように、心臓についても家族歴の影響があります。親が心疾患を発症した場合、子も同様のリスクを負う場合がある。体質は遺伝するからです。ほかの項目に問題がなかったとしても、しっかりケアしていかなければなりません。


■WHOの調査では、25歳以上の3人に1人が高血圧


日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』(ライフサイエンス出版)では、診察室で測った血圧が「収縮期(最高)血圧140mmHg以上、拡張期(最低)血圧90mmHg以上(診察室血圧)」を高血圧としています。


日本の高血圧患者は4300万人。40歳以上の全人口の50%以上が高血圧という数字を聞かされると、みなさんビックリします。


また、中高年だけでなく、若者たちの血圧も上がり続けています。若い人たちの多くは血圧を計ったりしないので気づいていない、いわゆる「かくれ高血圧」ということもあるわけです。


世界的に見ても高血圧は急増しており、WHO(世界保健機関)の調査では、25歳以上の3人に1人が高血圧で、世界で10億人を突破しています。近い将来、4300万人の「高血圧患者」の数はどこまで増えるのか、想像もつきません。


高血圧はいま、日本人の健康をおびやかしている最大の敵といっていいでしょう。


それは、放っておくと多くの深刻な病気をもたらします。狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、それに心臓肥大からの心不全。そういう心臓の病気ばかりか、脳の血管が破れたり詰まったりすれば脳出血や脳梗塞、つまり脳卒中が発生します。


あるいは、腎臓が傷ついて人工透析が必要になったりすることも。


特に症状はなくても、すべての臓器に障害が発生する危険が高まります。


■高血圧を治療すれば、全死因死亡率は13%減少


では、高血圧はどれくらい危険なのかというと……。


上(収縮期)の血圧が10上昇すると、狭心症や心筋梗塞を発症する危険性が15%、透析が必要となる腎不全が30%増え、血圧レベルの上昇とともに死亡率が上がります。


さらに、タバコを1日1箱吸うと虚血性心疾患のリスクは43%増加し、糖尿病になると、なんと250%も上昇。さらに、コレステロール値が10上がれば13%増加……など、高血圧に加えてリスク要因が重なっていくほど、心臓の健康は重大な危険にさらされていきます。


血圧が130から140、150と上がるごとに患者さんの数は増加し、全死亡のうち約20%が120/80を超える血圧が原因となっていて、その数は年間10万人にのぼります。


逆に、高血圧をきちんと治療すれば、心臓病や脳卒中の危険性を大きく低下できます。上の血圧を10下げるだけで、狭心症や心筋梗塞のリスクは約5分の1、心不全と脳卒中のリスクは約4分の1、そして全死因による死亡は13%も減少します。少し血圧を下げるだけで、大きく病気を回避できるのです。



大島一太『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』(かんき出版)

ここで紹介した5つのリスク要因は、心臓にとって最も厄介な存在です。その別名は「サイレントキラー」と呼ばれています。


ガンはなぜ発生するのか、正確にはまだよくわかっていません。いっぽう、心臓の病気、なかでも最も多く遭遇する血管が詰まるなどして発症する心血管病は、しっかり予防することができます。


一つひとつをていねいに改善することで、心臓や血管に発生する心血管病を予防する、ひいては心不全を予防する、そういった意識をしっかり持っていただきたいと思います。


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大島 一太(おおしま・かずたか)
心臓専門医
大島医院院長、東京医科大学循環器内科学分野、東京医科大学八王子医療センター循環器内科兼任講師など。1996年、東京医科大学卒業、同大学院修了。聖路加国際病院循環器内科、東京医科大学八王子医療センター循環器内科、東京医科大学病院循環器内科に勤務。日本循環器学会や日本心臓病学会、日本不整脈心電学会など、多くの学術集会で教育講演、シンポジストなどを歴任。日本看護協会、東京都看護協会、日本臨床衛生検査技師会、東京都臨床検査技師会などで長年にわたり教育、研修講師を担当。著書に『Dr.大島一太の7日でわかる心不全』(日総研出版)、『これならわかる! 心電図の読み方』(ナツメ社)などがある。
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(心臓専門医 大島 一太)

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