高血圧 糖尿病 心不全の持病持ちで基礎疾患デパート医師・和田秀樹が語る「ワガママな人ほど長生きする」法則

2024年5月24日(金)17時15分 プレジデント社

■コレステロールは体に必要不可欠な物質


「今日の午後はプレゼンだ。昼はカツ丼を食べて気合を入れるか。いや、待てよ。少し腹も出てきたし、この前の健康診断ではコレステロールも高かった……。やっぱりここは野菜炒め定食にしておくか」


若いころは何も気にせず好きなものを食べていた人も、中年になっておなかまわりが気になりはじめると、だんだん食事に気をつかうようになってくるようです。ただし、日ごろから節制を心がけていれば健康で長生きできると思ったら大間違い。逆にその我慢があなたの寿命を縮めているかもしれないのです。たとえば、日本ではコレステロールは体によくないからできるだけ摂らないほうがいいと信じられています。それゆえ、健康に関して意識高い系の人ほど、マヨネーズのようなコレステロールを多く含む食品を避けがちです。でも、そんなはずはありません。細胞膜や性ホルモンなどの材料となる、体にとって必要不可欠な物質であるコレステロールは、コロナウイルスやバイ菌などとは違うのです。


それなのに、なぜコレステロールは健康の敵のような扱いをされているのでしょう。原因はアメリカです。1948年から10年かけてボストン郊外のフラミンガムで行われた疫学研究で、血中コレステロールが高いほど虚血性心疾患が増えるという結果が出ました。これが拡大解釈されてコレステロールは低ければ低いほうがいいという考え方が世界中に広まり、日本の医者もそれを頭から信用してしまったのです。


たしかにコレステロールが高いと動脈硬化が進んで血管が詰まりやすくなります。肉食文化で心筋梗塞や狭心症がいまも国民病となっているアメリカ人にとっては、長生きしたければコレステロールを減らせというのは、ある意味正解だといえなくもありません。


しかし、日本は事情が違います。アメリカ人の死因で最も多いのは心疾患ですが、日本人の死因第1位はがんなのです。2020年にがんで亡くなった人は年間およそ37万8000人、これに対し急性心筋梗塞の死亡者は約3万人、と12分の1にすぎません。ということは、日本人が本当に気にすべきは、心筋梗塞よりもどうしたらがんにならないかのほうじゃないですか。


そして、コレステロールはがんのかかりやすさにも深く関係しています。コレステロールが高い人のほうが低い人よりも、がんが少ないのです。コレステロールはがん細胞のもとになる「できそこない細胞」をやっつけてくれる「NK細胞」の重要な材料になります。したがって、コレステロールが高いほど免疫機能が高まり、がんになりにくくなるのです。それに、心筋梗塞は心臓ドックを受けていればある程度予防できますが、がん検診でがんは防げません。ですから日本人が食事でコレステロールを気にしたり、薬でコレステロール値を減らしたりするのは、本当はおかしいのです。


■コレステロールが脳卒中を減らした


がん以前は脳卒中が、長らく日本人の死因トップに君臨していました。日本ではもともと肉類をあまり食べず粗食をよしとしてきたため、国民の栄養状態は悪く、アメリカとは反対にコレステロールの摂取が少なかった。コレステロールは多いと血管が詰まりやすくなりますが、足りないと血管がもろくなってすぐに破れてしまいます。そのため、昭和40年代は血圧が150くらいでも簡単に血管が破裂していました。それで脳出血で死ぬ人が多かったのです。ところが、いまの日本人の血管は、血圧が200を超えていてもそう簡単に破れません。肉や乳製品を食べる量が増えて体内のコレステロール値が上がり、その分血管が丈夫になったからです。


ときどき記事になる20億円を動かす87歳のデイトレーダーが神戸にいます。彼は血圧が220と紹介されていましたが、それは血圧を下げると頭がぼんやりして勝負ができなくなるからだそうです。かくいう私自身も、もともとは血圧が220ありました。さすがに数年前に心不全が見つかってからは、薬で170まで下げていますが、それでもかなりの高血圧だといえます。だからといって体調が悪いということもありません。年齢のわりにはかなり元気なほうだと自負しています。


実は、アメリカからコレステロールこそが諸悪の根源であるという説が入ってきたころの日本では、国民病だった脳卒中が減りはじめていたのです。戦後に食生活の欧米化が進み、コレステロールの摂取量が増えたからです。


当時、日本公衆衛生学会名誉会員の小町喜男氏がリーダーとなって、血中コレステロールと脳梗塞発症率の関係を調べる共同研究が行われていました。それを見ると全国の各地域で住民のコレステロール値が上昇し、脳梗塞が減っています。最も顕著なのは秋田で、10年間でコレステロール値は150ミリグラムから約20ミリグラム上昇し、脳梗塞の発生は半減しているのです。また、コレステロール値の平均が180ミリグラム超と高かった大阪の脳卒中発症率は、秋田の6分の1。日本型の脳梗塞はラクナー型と呼ばれ、脳の細い血管に起こるため、脳出血と同様に栄養不足で血管がもろいと発症しやすくなるのです。


このようにデータも出ていたわけですから、コレステロールはよくないとアメリカからいわれても、いや、わが国はそうじゃない、事情が違うのだと冷静に判断すればよかったのです。でも、そうせずにコレステロールをもっと減らせとアメリカに追従してしまった。おそらくそういう心臓の医者の声がいちばん大きかったのでしょう。それにしても身長180センチ体重120キロのアメリカ人と同じことが、身長160センチ体重60キロの日本人にそのまま当てはまるはずはないのに、それをすんなり受け入れるというのは、愚の骨頂としかいいようがありません。


■悪玉コレステロールは心臓医にとっての「悪玉」


なお、血中コレステロール値が240ミリグラムから269ミリグラムまでは、高いほど脳卒中の発症率が下がるというデータもあります。これはハワイの日系人を対象に行ったものなので、日本人にも当てはまるとみていいでしょう。総コレステロール値がたとえ健康診断の基準値の上限220ミリグラムを超えていたとしても、269ミリグラム以下なら心配する必要はないのです。


いずれにせよ、ある臓器に悪いものが体全体に悪いなどということはありません。日本ではいまだに、コレステロールは心臓の血管を詰まらせるの一点張りで悪役にされてしまっていますが、功罪の功の部分をもっと積極的に評価すべきです。特に中年以降はメリットのほうが大きいといっていいでしょう。


まず、コレステロールは男性ホルモンや女性ホルモンの材料にもなりますから、その値が高い人ほど老化が遅く、若々しくいられます。特にその影響が強く出るのは男性のほうで、コレステロール値が減少すると途端に性欲が衰え、EDになりやすくなります。よくコレステロールは善玉、悪玉という言い方をしますが、それは動脈硬化にしか関心のない心臓の医者から見て善玉か悪玉かというだけの話。男性ホルモンの材料となるのは悪玉コレステロールなのです。その悪玉コレステロールは、セロトニンという神経伝達物質を脳に運ぶ役目も担っています。セロトニンは不足すると脳の機能が衰えてうつ病にかかりやすくなるのです。悪玉という言葉にだまされて、ちょっと多いくらいですぐに薬で減らそうとしないほうがいいと忠告しておきます。


では、寿命はどうでしょう。コレステロールが高い人と低い人とではどちらが長生きだと思いますか。これに関しては、東京都小金井市の70歳住民の10年間の追跡調査の結果を見れば一目瞭然です。いちばん長生きはコレステロール値が中から高めの群(男190〜219ミリグラム、女220〜249ミリグラム)。反対に短命はもっともコレステロール値が低かった群(男〜169ミリグラム、女〜194ミリグラム)となっています。


動脈硬化で心筋梗塞になりたくないからとコレステロールが含まれる食品を敬遠したり、薬でコレステロール値を下げたりして、それで心臓は大丈夫だったとしても、ほかの病気で死んでしまったら元も子もありません。それに、心臓は心臓ドックを受けて、もし狭窄が見つかったらステントやカテーテルを入れればなんとかなります。日本の心臓外科手術はお世辞にも上手いとはいえませんが、ステントやカテーテルの技術に限っては世界一。なにしろ台湾の李登輝元総統がそのためにわざわざ日本に来たくらいです。ところが、がんはそうはいきません。だったら心筋梗塞よりもがんにならないほうを選択するほうが賢明ではないですか。


健康のために体重を気にして食事制限をしている人も少なくないと思いますが、日本人の大半はその必要はありません。特に中高年は肉類をガンガン食べたほうがいい。そのほうが節制するよりもよっぽど健康になれます。


年をとったら脂っこいものは控えたほうがいいとか、長生きしたければ粗食を旨とすべしとかいう説は、少なくとも日本人にはあてはまりません。肉食が体によくないというのは、アメリカの医学界が言い出したことを、日本の医者がそのままわが国に持ち込んだだけのこと。アメリカでは国民の肥満が社会問題となっていて、心筋梗塞が国民病となっていましたから、国民に過剰摂取している肉を減らせと呼びかけることに妥当性はたしかにありました。でも、日本人はもともとそんなに肉を食べていません。1980年代にアメリカで肉を減らせという声が高まったときの肉の摂取量を比べると、アメリカ人が1日平均約300グラムだったのに対し、日本人はその4分の1以下の約68グラムだったのです。


だから、日本では肉を減らす必要なんてそもそもなかった。それなのにアメリカが200グラムを目標値としたものだから、じゃあわが国も同様に減らそうと日本のバカな医者が決めたのです。もっとも国民はそこまで深刻にこの警告を受け止めなかったため、現在は日本人の肉の摂取量も100グラムぐらいにまで増えています。もし素直に従っていたら、いまごろ日本はかなりの短命国になっていたに違いありません。というのも、日ごろから肉を食べている人ほど血中アルブミン値が高く、元気で長生きだからです。


■脂肪摂取が減ったので寿命が下位に落ちた沖縄


世界では19世紀の後半から20世紀にかけて国民の平均寿命が50歳の壁を超える国が次々と出てきました。その順番を見ると見事に年間1人当たりの食肉消費量の順番と一致しているのがわかります。ちなみに日本人の平均寿命が男女とも50歳を超えたのは1947年です。その日本で長らく長寿を誇ったのが沖縄。これにも肉が関係しています。


沖縄の食文化は日本の他の地域のように仏教の影響を受けておらず肉食の禁忌がありませんでした。それゆえ昔から肉がよく食べられており、80年代の調査では1人あたりの1日の脂肪摂取量が全国平均を5グラムも上回っていました。しかし、その後食生活に本土の影響が強まると徐々に脂肪摂取量が減り、ついには全国平均を2グラムも下回るようになりました。その結果、00年には、沖縄県男性の平均寿命ランキングは26位にまで下がってしまったのです(今はもっと落ちているはずです)。


なお、長寿を誇っていたころの沖縄よりも、さらに多くの肉を食べていたのがハワイ在住の日系人。気になって調べてみると案の定、より長生きなのは後者のほうでした。


ただし、極端に肉ばかり食べたら、今度はアメリカ人のように心筋梗塞のリスクが高まります。そこで、魚も食べる。これでバランスがとれます。アメリカと同様に食事で動物性タンパクを多くとっていたイギリスやドイツでも、心筋梗塞は長らく国民の死因の上位を占めていました。


ところが同じヨーロッパでもフランスは、心筋梗塞で死ぬ人がアメリカの3分の1と少なかったのです。フランス人が飲む赤ワインに含まれているポリフェノールに心筋梗塞を抑制する効果があるのではないかと、一時期ポリフェノールに注目が集まったのですが、実際にカギを握っていたのは魚でした。おもに青魚にはDHAという動脈硬化の予防効果がある成分が含まれています。アメリカ人はステーキ、イギリス人はローストビーフ、ドイツ人はソーセージと肉ばかり食べるのに対し、肉も魚も両方食べるフランス人は、知らず知らずのうちにDHAをからだに取り込んでいたため、同じだけ肉を食べても心筋梗塞を発症する人が少なかったのです。


その後の調査で、フランスの近隣諸国であるイタリア、スペイン、ポルトガルといった国でも、心筋梗塞の死亡率がほかのヨーロッパ諸国に比べてはるかに低いことがわかったのですが、やはりこれらの国でも魚が多く食べられていました。韓国人や日本人に心筋梗塞が少ないのも、魚を食べる食文化だからだといえます。魚が苦手だという人は、DHAをサプリメントでとるといいでしょう。サプリについてはいろいろな意見があるようですが、足りない栄養素を補う手段としては間違いなく有効です。特に年をとると過剰よりも不足の害のほうが大きいので、積極的に活用したほうがいいと思います。


日本人に不足しているたんぱく質、脂肪、コレステロールを効率的に摂取するには、牛乳もお薦めです。牛乳は成長期の子どものためにだけあるのではありません。むしろタンパク質が不足すると筋肉が落ち、肌の張りがなくなる中高年こそ積極的に飲むべきです。日々の食事に牛乳を一杯加えるよう心がけてください。


■メタボ健診の間違いを厚労省は知っていた?


やせているほうが長生きというのも、明らかに間違いです。やせているほうが健康的だと多くの人が思うのは特定健康診査、いわゆるメタボ健診のせいでしょう。この検査では腹囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上、またBMI値が25以上だと指導の対象となります。ではBMI値が基準値を超えていると短命かというと、そんなことはありません。BMI値が25を上回るぽっちゃり体形の人のほうが、基準値に収まっているすらっとした人よりも長生きなのです。


実はこの事実を示すデータは、メタボ健診が始まる 08年の3年前に明らかになっていました。もちろん厚労省も知っていたはずです。それなのにメタボ健診を始め、いまだに続けているのはなぜなのか。まさかとは思いますが、もしかしたら年寄りを早く殺して年金財政を楽にしたい財務省が厚労省に圧力をかけたのかもしれないと疑いたくもなります。とにかく中高年になってからやせても、いいことなんてひとつもないと思って間違いありません。もっとも短命なのはやせ型といわれるBMI値が18.5未満のグループなのです。


また、若いころなら多少栄養が足りなくても、体力があるので乗り切れますが、年をとるとそうもいっていられません。筋肉量が減って活力が低下するフレイルや、寝たきりになるリスクが一気に高まります。高齢者にとっては食べすぎよりも食べなさすぎのほうが、明らかに体に悪いどころか危険なのです。40歳以上で身長が165センチなら68.1〜81.7キロ、170センチなら72.3〜86.7キロ。これが長生きする本当の適正体重です。これだと見た目は小太りでぽっちゃりですが、気にする必要なんてないのです。


酒やたばこをやめれば長生きできるというのも誤った認識です。まず酒。たしかにWHOはアルコール摂取の害をうるさくいっていますが、それは依存症への警鐘です。たしかに若いころに比べて代謝能力の落ちた高齢者が毎晩酩酊するまで飲酒を続ければ、行きつく先はアルコール依存症になりかねません。ひとり飲みは習慣にならないよう注意すべきです。ただ、80代の肝臓であっても適量であれば十分代謝できますから、みんなで集まって飲むのが好きで、それがストレス解消になるという人は、我慢しないで楽しんだほうがメリットは大きいといえます。


たばこは百害あって一利なしの典型のようにいわれていますが、70歳を過ぎたらもう気にしないこと。吸いたい人は好きなだけ吸えばいいというのが私の意見です。おそらく70代になるまでたばこを吸い続けて肺がんになっていないなら、その人はたばこに対し耐性があると考えられます。実際、私が勤務した浴風会病院に併設された老人ホームでは、喫煙者と非喫煙者の生存曲線には差がありませんでした。それに、その年齢になったら、好きなたばこをやめることによって生じるストレスのほうが体に悪いといえます。


■基礎疾患のデパートの私でも免疫力は高い


運動はやったほうがいいですが、ケガをしたり活性酸素でかえって老化が進んだりするリスクもあるので、無理をしないことです。無理やり毎日1万歩以上歩くようなことはやめたほうがいいでしょう。特に高齢者の場合はストレスを受けると、免疫機能が著しく下がります。そうするとがんや感染症にかかりやすくなるのです。何が体にいいとか悪いとかに神経質になるよりも、好きなものを食べて好きなことをしている人のほうが免疫力が高いので、結果的に長生きできます。


薬だってどこか痛いときはさっさとロキソニンやボルタレンを飲んで緩和すればいいのです。痛いのを我慢してストレスをため続けているよりずっと健康にいいといえます。同じように睡眠薬だって一時的に服用するなら何の問題もありません。薬の副作用を心配しなければならないのは、毎日血圧や血糖値を下げる薬を飲み続けている人のほうです。それに、血圧や血糖値を薬で下げたら、活力も減少します。そうすれば早く老けるし、認知症にもなりやすくなる。薬のおかげで心筋梗塞や脳卒中にはならないですむかもしれませんが、他の原因で早死にしたら目も当てられないじゃないですか。


私は高血圧で糖尿病おまけに心不全まであって、まさに基礎疾患のデパートですが、これまで3回コロナウイルスに感染したのに、一度も症状が出ませんでした。薬も飲まず、好き放題食べて飲んでなるべくストレスをためないようにしているので、免疫力が高いのです。健康診断の数値を見て薬を処方するのが日本の医療のスタイルですから、メンタルの影響を強調する私のようなタイプはあまりいないでしょう。彼らと私とどちらを信じるかは読者のみなさんが自分で決めてください。ただ、医者のいうとおりに生きる老後はかなりつまらないと思いますよ。


※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹 構成=山口雅之 写真=iStock 図版作成=大橋昭一(図版参考文献:柴田博『長寿の嘘』))

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