「できない科目をやらないでいかに合格するか」和田秀樹が受験勉強を突破できた人は仕事もできるというワケ

2024年5月25日(土)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

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受験勉強は社会に出てから役立つか。医師の和田秀樹さんは「受験勉強により長時間知識を定着させ、必要なときにいつでも取り出せるようになる。また、受験の際に志望校を設定し、それに何とか合格するような方策を工夫するなかで身に付く『勉強習慣』『努力の維持』『感情コントロール』『わからないことは人に聞く』などは社会に出てからいずれも役に立つ」という——。

※本稿は、和田秀樹『勉強できる子が家でしていること』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。


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■知識や経験を、問題解決につなげる方法


「頭がよい」というのは、単に「勉強ができる」ということだけではありません。


認知心理学の見地からいいますと、「頭がよい」というのは、「問題解決能力がある」ということになります。できるだけいろいろな場面で問題を解決できる人ほど頭がよいということです。


問題を解決する場合には、自分の持っているさまざまな知識や経験を駆使して推論し、解法をシミュレーションしていきます。


このときには、知識が多ければ多いほど、考える材料が多くなり、推論パターンも豊富になりますから、知識が豊富だということは、頭のよさの条件の1つです。


ところが、知識が豊富すぎても、「アメリカの○○という学者はこう言っている」という風に、問題に対して知識だけで答えてしまう場合も出てくるかもしれません。あるいは、知識や経験則が推論を縛ってしまうということもあるでしょう。


そこで、知識をうまく推論につなげるためには、「メタ認知」という態度が必要になります。これは、一段高いところから、自分の思考パターンなどを客観的に見つめようとする態度のことです。


■頭のいい人ほど、すべてを自分一人で考えない


人間の思考や推論は、自分の立場や感情に驚くほど左右されてしまいます。たとえば、気分が沈んでうつ的になると、悲観的な推論しかできなくなってしまうのです。あるいは、自分の立場によって、自分に都合よく物事を考えてしまうことはよくあります。


こうした弊害をなくすために、自分のことを客観的に見つめることによって、推論をより正しい問題解決に近づけようというのが、「メタ認知」なのです。


このメタ認知を働かせて、知識が豊富で、幅広い推論ができ、その推論が自分の立場や感情に左右されていないかどうかまで客観的にチェックできる人が、正しい問題解決法を見つけられる「頭のよい人」といえます。


ただし、もう1つ重要なポイントがあります。それは、すべてを自分一人で考える必要はないということです。「わからないことは、自分よりよく知っている人に聞いてしまおう」というのも、頭がよいということの条件の1つといえるでしょう。


では、そういう「頭のよさ」が果たして受験勉強で身につくのかどうかということですが、私は身につくと考えています。


写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■受験勉強は社会に出てからも役立つ


受験勉強で必要なことは、知識の定着です。今日覚えたことを今日テストされるわけではなく、ずっと後になってテストされることになります。


したがって、できるだけ長期間知識を定着させ、それを必要なときにいつでも取り出せるように訓練をするのが受験勉強です。


これは、大人になってからの問題解決時にもとても重要な要素といえます。必要なときに、必要な知識が思い浮かばなければ、重要な意思決定を正しく行うことはできないからです。


受験勉強では、現実検討能力というものも養われます。たとえば、自分の志望校の出題傾向を分析して、どのくらいの点数が必要かということを検討する。


自分の得意科目が英語、苦手科目が数学だとすると、合格点までにはあと20点足りないから、この1年間で、英語を15点伸ばして、数学は10点アップさせようというような対策プランを立てる。そういった能力のことです。


私も受験生のときには、東大の過去の入試問題を研究して自分なりに、対策を立てました。当時の東大理IIIの合格者の最低点が440点満点中290点とされていましたので、私は最低でも合計290点は取れるように目標設定をしました。


ところが、私の場合は国語がいつまでたってもできるようにならなかったため、国語は80点満点中、漢字の問題で取れる4点に設定したのです。


その代わりに、残りの科目で286点取るという目標を立てました。そうすれば、どんなにコンディションが悪くても、理IIIに受かると見たのです。


■受験も経営も不得意を切り捨て、得意を伸ばす


ずるいようですが、私のように、できない科目をいかにやらないで合格するかを考えるのも、作戦の1つといえます。


しかし、このようなことは実社会では頻繁に行われています。「苦手なことをいかにやらないで、得意なことでそれをカバーして、目標に到達するか」というのは、経営の世界では、最も効率的な経営手法とされています。


現実にビジネス分野では、不得意事業を切り捨て、得意事業に特化して業績を上げるという、強みを生かす経営が盛んです。


もちろん、勉強の場合は、どの科目も最低限やっておかなければいけないことはありますから、苦手だからといってまったくやらないわけにはいかないでしょうが、それでも基本路線としては、受験対策も経営も同じです。


また、「○日が納期だから、それまでにこの仕事を仕上げなければいけない」というスケジュール管理も、そのまま受験に当てはまります。


「あと1週間勉強時間があったら合格できたのに」というようなことは、受験では通用しませんし、もちろん、実社会でもそういう考え方は通用しません。


さらに、メタ認知を働かせる経験という点でも、受験はある程度役に立つはずです。


写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■受験勉強で感情と結果のつながりを知る


たとえば、数学の試験ができなかった後に、英語の試験を受ける場合、数学の試験の失敗で落ち込んでしまって得意の英語のテストができなかったということが起こるかもしれません。


しかし、模擬試験などを通じて、「感情のコントロールをしなければ、最高のパフォーマンス(成績)を発揮することはできない」ということがわかってくれば、そうならないような対策も立てられるはずです。


これは、自分の認知特性を一段高いところから見つめ直し、コントロールするというメタ認知そのものなのです。


このような感情と結果のつながりを知っていれば、社会に出てからも「落ち込んでいたので、この仕事ができませんでした」というような事態を回避することが可能です。


このように、受験勉強というのは、社会に出てからも十分に通用する現実の問題解決能力を養うために、とてもよいトレーニングになると私は考えています。


■獲得目標をはっきりとさせて勉強させる


子どもから、「大人になって、理科なんか役に立つの?」「難しい算数なんて大人になったら使わないんじゃないの?」などと問いつめられて、困ってしまったという経験を持っているお父さん、お母さんもいるかもしれません。


こういう場合には、獲得目標を明確にして子どもに勉強をさせることが必要になります。


個別の教科については答えに詰まる場合もあると思いますが、勉強が「社会に出てから役に立つ」ということだけは間違いありませんので、そこをきちんと伝えるべきなのです。


受験の際に志望校を設定し、それに何とか合格するような方策を工夫することは、そのまま社会に出て役に立つことばかりです。


また、「勉強をする習慣を身につけること」「努力を維持し続けること」「自分の感情をコントロールしながら、スランプであっても努力し続けることができるようにすること」なども、社会に出てから役に立ちます。


同様に、「わからないことがあれば人に聞く」ということも社会に出てからの重要な要素になります。


受験学力をつけるという行為自体から、非常に多くの社会的能力を獲得できるのだということをきちんと子どもに教えてあげましょう。


勉強することで、社会人として必要な、どんな能力を獲得すべきなのかという「獲得目標」さえはっきりさせてあげれば、子どもも自分の態度を前向きに変えることができるようになるでしょう。


■難しい課題を上手にクリアできた人ほど「仕事ができる人」と言われる


勉強というのは、楽なことばかりではありません。むしろ、苦しいのが当たり前です。だからこそ、多くの人が苦に感じないように訓練を重ねているのです。


あるいは、できるだけ苦にならないような勉強法を自分なりに工夫している人もいます。


そういうところに勉強の1つの意味があるのだと思います。



和田秀樹『勉強できる子が家でしていること』(PHP研究所)

大人になってからも、苦しい課題、厳しいノルマなどを突きつけられますが、それから逃れるわけにはいきません。


そんなときに、何とか少しでも楽に切り抜けられるような方法を工夫しながら、大半の人はその課題をクリアしていきます。


そして難しい課題を上手にクリアできた人ほど、その後に偉くなっていったり、「仕事ができる人」と言われたりして、楽しく充実した生活を送ることができています。


ですから、苦しいけれども、それを何とか工夫してこなしていけば、必ず大人になってから役に立つのだということを諭してみることも必要だと思います。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)

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