「オシャレに興味がない人」を取り込み大成功…ユニクロには絶対マネできない「セカスト」の古着が売れるワケ

2025年5月28日(水)17時15分 プレジデント社

セカンドストリート中田店(写真=Kuha455405/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons)

古着販売大手の「セカンドストリート」(セカスト)が好調だ。ライターの南充浩さんは「余計な仕入れコストをかけず、安値を実現している。ファッションに興味がないライト層を取り込めていることも好調の一因だろう」という——。
セカンドストリート中田店(写真=Kuha455405/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

■店舗数が増え続けているセカンドストリート


環境問題への意識の高まりから、古着ビジネスが注目を集めています。またファッション的な意味合いでも古着が注目されており「古着ブーム」と言われることもあります。


世界規模で見ても古着・リユース市場は拡大傾向にありますが、それでも新品の衣服販売を追い越すには到底至りません。そんな分野において、国内で最も店舗数を拡大しているのが、ゲオグループが展開するリユースチェーン店「セカンドストリート」です。今回はセカンドストリートの強みについて考えてみましょう。


4月25日に、セカンドストリートは国内外合計で1000店舗の出店を果たしたと発表しました。国内店舗数は3月末現在で880店舗あります。25年2月末時点でユニクロが国内792店舗ですから、どれほど店舗数が多いのかが理解できるでしょう。


セカンドストリートの店内(プレスリリースより)

セカンドストリートよりも店舗数が多い衣料品店は、新品とリユースの違いはありますが、しまむら(1416店舗)、ワークマン(1051店舗)くらいではないでしょうか。


以前にも書きましたが、一口にリユース・古着ビジネスと言っても、その中身は異なります。ざっくりと分類すると、高価格ブランドをメインに扱ってそこそこの高値で販売する「ブランド古着店」、自社商品を回収して再販売する「自社リユース店」、比較的低価格品からビンテージ系までをアメカジ中心で揃えた「古着店」——に分けられます。それぞれ価格帯も客層も異なるので同一視はできません。


■世界の古着市場は拡大が予想されている


アメリカのリユース大手であるスレッドアップが先ごろ発表した世界の古着市場についてのレポートによると、世界の古着市場は2029年には3670億ドル規模となり、グローバルなアパレル市場より2.7倍早く成長するとみられるといいます。また、「米国の中古アパレル市場は29年に740億ドル、年平均9%ずつ伸びると予測」「米国のオンラインリセール市場は29年までに400億ドルと24年の倍近くの規模になり、年平均13%ずつ伸びる見込みだ」とあります。


世界的にも古着市場の伸びが見込まれていますが、理由としては大きく3つあると考えられます。


1 環境問題への意識が高まっている
2 インフレによって物価高となり、節約志向が高まっている
3 新品アパレルの同質化が進んだため、イレギュラーな古着を取り入れたくなった

近年の日本の古着ブームも同様の理由によって起きていると考えられるでしょう。


■インフレによる節約志向が古着市場を牽引


1と2についてはもう説明は不要でしょう。2のインフレについては日本もさることながら、欧米のインフレ率はそれよりもはるかに高く、どの国でも節約志向が高まっています。衣料品への支出削減傾向が強まった結果、低価格で買える古着に注目が集まったといえます。


3については、日本の売り場を見てもらえばわかるように、デザイン・形・色・柄・シルエットと、どのブランドも同一化が進んでいます。トレンド情報が同一ですから、それを基にした商品が同一化することも当然ですが、例えば、かつてのDCブランドブームの時代には、同じトレンド情報に基づきながらも各ブランドがそれぞれ商品に個性的なアレンジを加えて独自色を強く打ち出していました。


しかし、2000年代半ば以降、そのような「独自アレンジ」がほとんど消え、各ブランドの同一化が進み、現在だとロゴやラベルを隠せばどのブランドなのか見分けがつかないほどになっています。そして低価格ブランドの商品も見た目は洗練されており、使用素材や縫製は異なるものの、ブランド品と同一に近い見た目を実現できるようになりました。


そうなると、少し変わった物も欲しくなるというのが消費者の常です。古着は過去の商品なので現在とはデザインや色柄、シルエットは異なります。それを差し込んで着用することで、独自化・差別化が果たせるというわけです。


■ユニクロの古着業態はたった3店舗で止まったまま


このような背景から、日本でも近年は何度目かの古着ブームと呼ばれ、東京・下北沢などには個人経営の新規古着ショップが続々とオープンしてきたわけですが、市場規模は新品に比べれば小さいためにそろそろ飽和状態となりつつあり、一部からは「古着バブルは弾けた」という声も聞かれるようになりました。


それでもアパレル業界では、今からリユース、古着ビジネスに挑戦してみようかという声もあります。実際に筆者も某企業から「古着ビジネス参入はどうだろうか?」と相談を受けたことがあります。リユース参入という点においては、昨年秋のユニクロが挙げられるでしょう。


しかしながら、今からの新規参入については個人的には賛成しかねます。理由は国内880店舗の体制を構築した「セカンドストリート」があるからです。一方、ユニクロのリユース販売が当初の目標に反して、半年間で3店舗を出店して以降進んでいないことは前回の記事に書いた通りです。


■「その地域を知りたければセカストを見る」


セカンドストリートの強さは880店という店舗数の多さもさることながら、大都市エリアにも郊外のロードサイドにもあるという点です。店舗数の多さでは、しまむら、ワークマンに及びませんが、大都市部にも数多く店があるという点においてはこの両社を遥かに凌いでいます。


しまむら、ワークマンの店舗網の弱点の一つが都心エリアに少ないことです。都心とロードサイドにバランスよく出店しているという点においては、ユニクロに近いといえます。


業界のあるマーケティング関係者は、2016年ごろから「遠方に出張や営業に出かけたら近隣のセカンドストリートを見て回る。その地域ではどのような商品が好まれるのかがわかりやすい」と語っていたことがありました。優れた人はすでにその頃から注目していたことがわかります。店舗数の多さと、都心中心部とロードサイド両方にバランスよく出店しているところにセカンドストリートの強さがあります。


セカンドストリートが発表した2024年カジュアルブランド 販売数量ランキングトップ3(プレスリリースより)

■500円の古着がさらに半額になる


次に注目したいのが販売価格の安さです。


セカンドストリートでは持ち込まれたさまざまなブランド品が販売されています。ユニクロ、ジーユー、リーバイス、ZARA、アディダス、ナイキ、ゲス、アーバンリサーチ、チャオパニックなど低価格品から、それなりの価格帯のブランドまで種々雑多に揃っています。出店場所によっても違うのでしょうが、全般的に販売価格は安く、筆者が訪れたロードサイド店だと1万円を超えるような商品はほとんどなく、2万円以上の物は見つかりませんでした。


それよりも500円、700円、900円という安い商品が大量に並んでいることが目を引きました。さらに驚くことには、500円、700円、900円の商品も売れ行きが悪ければ「値札からさらに半額」のシールが貼られるのです。250円、350円、450円ですから、圧倒的な安さです。


これほどの低価格でも利益が出る理由は、仕入れ値が圧倒的に安いからです。


セカンドストリートはノーブランドの衣類も買取をしていますが、最安1円からであり、あまりに汚れや破れがひどいものは買い取ってもらえません。


また後述するユニクロの古着業態と異なり、買い取った古着は値札を付けるだけで、基本的にクリーニングなどせずそのまま店頭に並べているように見えます。染め直しももちろんしません。そのため、余計なコストをかけることなく、安値での販売を実現しています。


■「オシャレに興味なし」な客層をうまく取り込んでいる


そしてこの「安さ」にもリンクしますが、ライト層の支持を圧倒的に受けているという点も他の古着店に比べて強いといえます。500〜900円という低価格商品は、古着への興味が薄い人からでも支持されやすいといえます。それが半額に下がれば尚更です。


先日、ゴールデンウィークの間の平日午後に近隣のセカンドストリートを覗いてみました。平日午後とはいえ、ゴールデンウィークの間なので仕事が休みだった人も多かったのでしょう。予想よりも多くのお客が入店していました。


印象的だったのは、客層が老若男女と幅広く、下北沢の古着屋で見られるような「ファッション好き」と思われる客がほとんどいなかった点です。むしろ、ファッションには興味がなさそうな風体の中高年男性(推定60代)が複数人入店して商品を物色していました。


通常の「ファッション古着店」や「ブランド古着店」は入店することに対してなかなか心理的ハードルが高いと感じられるので、ファッションにまったく興味のなさそうな推定60代のオジサンを見かけることは滅多にありません。逆にこの層がフラっと入店できるところがセカンドストリートの強さであり、支持者の多さにつながっていると思われます。


■ユニクロ、無印がセカストの後に続けない理由


どの分野でも言えることですが、ライト層の取り込みに成功した企業やブランドが大きく成長できます。


一方、24年秋に鳴り物入りで自社リユース商品の販売に乗り出したユニクロは、3店舗を出店したまま止まっています。また、2015年に「リ・ムジ」と銘打ち、いち早く自社リユース商品の販売に乗り出した無印良品は10年間で34店舗しか出店できておらず、両社ともにそれほど大きなビジネスには今のところなっていません。


前回記事でも説明したように、種々のコストを吸収しきれるような売価設定に苦労しているという点が大きな理由だと思われますが、それ以外にも、売上高もそれほど高くないのではないかとも推測されます。


古着の活用に社会的意義があるのはわかりますが、消費者からの支持はそれほど厚くないといえます。どうして消費者の支持が集まりにくいのか。理由としては、①販売価格にメリットがあまり感じられない、②単一ブランド品しかないので面白味に欠ける、という2点が大きいのではないかと考えています。


販売価格については正直なところ、両社の新品商品と比べてさほど安いとは感じられません。セカンドストリートのような500〜900円の格安商品はありませんし、そこからさらに半額に引き下げられる衝撃もありません。安さという点においては、両社の新品商品の最終値下げ品を買ったほうが安いとさえ感じられます。


染め直したユニクロの古着。シャツは2000円という(プレスリリースより)

■自社商品ばかりでは面白みがない


次に品揃えについてですが、ユニクロにせよ無印良品にせよ、自社商品のみのリユース販売となっています。そうなると商品の面白味がまったくありません。さらに言うなら、ユニクロと無印良品の商品とは「リユース品をわざわざ買いたい」と強く思わせる商品でしょうか? ファストファッションという特性上、そこまでの熱狂的なファンはさほどいないと思われます。


すでに多くの人がユニクロ商品、無印良品を所有着用しています。その上、さらにそれらのリユース品を積極的に欲しいと思うような人はそんなに多くないと考えられます。もし、需要があるとするなら、再販されないデザイナーズコラボ商品のリユース品くらいではないでしょうか。


■セカストの影響力は強まり続ける


古着という分野ではすでにセカンドストリートが圧倒的な巨人となってしまっており、リユース販売に乗り出す各社はセカンドストリートありきの販売戦略を立てる必要があります。セカンドストリートが存在するという前提の上でどうするのかという視点が必要不可欠だと個人的に考えています。


通常のアパレル分野ではゲオの存在感はさほどありませんが、古着と、不良在庫品を安く買い取って安く販売するという「オフプライスストア」分野では強い存在感を発揮しています。


セカンドストリートについては先述した通りですが、オフプライスストア分野でもゲオの「ラックラック」が業界トップを快走しています。現在29店舗ですが、今年度中にさらに20店舗の出店計画を発表しています。撤退がないとすると合計49店舗となり、さらに勢力は強まります。古着とオフプライスという分野で、ゲオの影響力は今後も強まり続けるでしょう。


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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。
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(ライター 南 充浩)

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