部下からの「ちょっといいですか」で仕事が全然進まない…できる管理職は知っている「自分の時間を作る一言」

2024年6月12日(水)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

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仕事に集中したいのに、部下に話しかけられて進まない。いい対処法はないのか。大企業の収益・生産性改善に取り組んできたトリノ・ガーデン代表取締役の中谷一郎さんは「『今から30分は話しかけないでください』と、自分の集中したいタイミングを周囲に公言するといい」という——。

※本稿は、中谷一郎『中間管理職無理ゲー完全攻略法』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/maroke
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■部下の「ちょっといいですか」で仕事が捗らない


【無理ゲー】
部下からの「ちょっといいですか」に阻まれて、作業への集中力が細切れに削がれてしまう


自分の作業に集中したいのに、電話がかかってきたり、質問や相談で話しかけられて中断せざるを得なくなったり。まとまった時間を確保して、集中して作業に取り組むことができず、なかなか仕事が捗らない。


【攻略法】
▶️自分の時間を防衛する:「集中タイム」を公言する
自分で作業に充てる時間を確保するだけでなく、「今から30分間、集中タイムに入ります」と部署のみんなに公言することで、話しかけたり電話をつないだりしないように協力してもらうことも一つの手です。


▶️物理的に外部を遮断する:「集中スペース」を設ける
フリーアドレスのオフィスなどによく見られますが、壁や衝立に囲まれた一人用のデスクがあると、物理的に話しかけにくくなるため有用です。もしそれがない場合は、「このスペースにいる人の邪魔は絶対にしてはいけない」という「集中スペース」を定めましょう。


■短期記憶では15秒経つと90%の記憶が失われる


自分の仕事に集中している最中、「ちょっとお時間いいですか?」と部下から話しかけられる。これは、管理職なら必ず経験することです。ただ困るのは、その「ちょっと」が5分なのか、10分なのか、30分なのか、わからないこと。そして、その「ちょっと」の時間によるロスは、大抵ちょっとでは済まないことです。


しかしこれは、部下からしてみたら、目の前のことがうまくいかなかったり、次のアクションをするために確認をしなくてはいけなかったり、さまざまな事情があって話しかけているだけであって、悪いことでも何でもありません。むしろ、聞かないままでいたら、問題が雪だるま式に大きくなってしまう危険性もあるため、聞くこと自体はとても大事なアクションです。


ただ、話しかけられる側にとっては、作業を一度中断し、応答をしていると、一旦記憶がリセットされてしまうというデメリットもあります。


人間の短期記憶では、15秒経つと90%の記憶が失われると言われています。「ちょっといいですか?」と話しかけられて、仮に2分程度話したとします。その後、自分の仕事に戻ろうとしたら「あれ、何を調べようとしてたんだっけ?」と忘れてしまう。こんなご経験がある方も多いのではないでしょうか。


■20分で11回の中断が発生していたある管理職


一度記憶が失われると、思い出すまでに時間がかかります。そしてそれが、ミスやエラーにつながってしまうのです。


図表=『中間管理職無理ゲー完全攻略法

図表1は、ある大企業の課長職の仕事中の様子を録画し、作業時間を計測したものです。日誌を見ると、本人は2時間デスクワークをしているつもりなのですが、実際には中断がとても多く、もっとも頻繁な時で20分間に実に11回もの中断が発生していました。これらの細かい中断は、部下から話しかけられたことによるものです。


中断によって記憶が途切れ、再び集中するまでに時間がかかってしまう。やっとまた集中できたと思ったら、今度は別の部下が相談にやってくる。このくり返しで、本来なら30分で終わるはずの業務に、2倍、3倍の時間がかかってしまうこともあるのです。


これを防ぐには、「ちょっといいですか」から時間を防衛する必要があります。


ただ、この時もっとも避けたい対応が、怪訝な顔をすることです。眉をひそめながら「何?」と聞き返していると、部下から話しかけられることは減っていきます。すると、重大なミスでも報告してもらえなくなり、取り返しのつかない事態が起こってしまうかもしれません。


■「今から30分」自分の集中タイミングを公言する


そこで、我々が提案したのが、「今から30分間は集中して考えたい」という自分の集中したいタイミングを周囲に公言することです。


自分の作業に集中したい時は、「集中タイム」を設けて、「今から30分はごめんなさい。話しかけないでください」と伝えるのです。


もう一つの策が、「集中スペース」を設けること。ある建設会社では、1日の事務作業時間が、1人当たり平均3.5時間でした。オフィスを見渡してみると、一般的な「島席」の他、昇降式のテーブルやハイテーブルなど、さまざまなタイプの席があります。そのうち、島席で作業していた人が、電話を受けたり、部下から話しかけられたりで、作業の中断を余儀なくされた平均回数は27.9回。これではなかなか作業が終わりません。


そこで、パーテーションで区切った個人向けの集中ブースを設置しました。ここに入っている時は、誰も話しかけないし電話も取り次がない。そういうスペースを作ったのです。効果はテキメンで、中断回数は1日6.5回まで減少しました。これを前述の「集中タイム」の公言と併せて利用すれば、ゼロに近づけることもできるはずです。


とはいえ、ずっとブースにこもっていたのでは社内のコミュニケーションが滞るので、集中ブースを作る場合には、1日1時間など、時間を決めて利用することがポイントです。


「時間」と「空間」を他者から限定的に防衛することで、中断回数を減らし、業務の効率化を図りましょう。


図表=『中間管理職無理ゲー完全攻略法
図表=『中間管理職無理ゲー完全攻略法

■部下が「報連相」をしてこない


【無理ゲー】
報連相を求めても、部下から積極的に話しかけてこない。結局毎回自分から尋ねる羽目に


もう少し積極的にコミュニケーションをとって、情報共有してほしいのに、部下から話しかけてくることがほとんどない。部下のステータスやプロジェクトの進捗情報が共有されず、自分から尋ねると危機的状況があらわになることも。


【攻略法】
▶️目線の高さを物理的に変えることでコミュニケーションのしやすさをコントロール
自分の目線の高さによって、相手の、コミュニケーションに対する心理的ハードルの高低が変化します。それを逆手にとり、自分の座る場所や姿勢を変えることで、部下からのコミュニケーション頻度をコントロールしてみるのはいかがでしょうか。


■上司の席で会話の発生頻度は変わる


部下やチームメンバーから、あまりに頻繁に話しかけられると、自分の仕事に支障が出てしまう。かといって、まったくコミュニケーションがなければ、それはそれで困るものです。部下からのコミュニケーションがなければ、仕事ぶりを評価することも、問題を把握することもできませんし、戦略を立てる上でも、業務の無駄やミスを防ぐ上でも、報連相は必要不可欠です。


写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

進行上、ミスや誤解が生じていないか、適切な方法で業務を進められているのか、上司のほうから頻繁に尋ねてしまうと、まるで部下を信用していないように見えてしまうでしょう。


もちろん、尋ねれば話してくれるのでしょうが、いつでも部下自らコミュニケーションをとれる状況が、組織としては健全なはずです。


では、どのようにすれば、部下から自然と話しかけてくれるようになるのでしょうか。


実は、上司がどんな席で仕事をしているかによって、会話の発生頻度が変わる、ということが我々の実験から明らかになっています。


■「フリーアドレス=コミュニケーションが増える」ではない


近年、フリーアドレス制を導入しているオフィスが増えました。フリーアドレスのオフィスでは、テーブル席、デスク席、ソファ席、ハイテーブル席など、さまざまな形の席が用意されていることが多々あります。


フリーアドレスを採用している企業の狙いの一つには、上司・部下間、あるいは部署を横断する形で、コミュニケーションをより円滑にとりやすくし、アイデアや情報の交換を活発化したい、というものがあるようです。実際に我々も、固定席制からフリーアドレス制へオフィスレイアウトの変更をした際に、どのように社員同士のコミュニケーションが変化するかをある企業で調査したことがあります。


そして、この調査では意外なことが判明しました。


それは、フリーアドレスにしたからといって、一概にコミュニケーション量が増えるとは言い切れないということです。


対象となるオフィスにカメラを設置して、録画した映像から発話内容や回数、会話時の距離や人数、会話の発生した場所や状況といったデータを取得。このデータをフリーアドレスにする前後で比較するという方法で、分析を実施しました。


分析の結果、必ずしも、フリーアドレス制にしたことでコミュニケーション量が増えるとは言えない、ということが明らかになりました。


■上司がスタンディングデスクにいると部下は話しかける


同時にわかったのが、「上司の目線の高さ」と「部下からのコミュニケーション発生数」に相関があること。


どういうことかと言うと、上司がローソファに座っている時には、部下から話しかけられる回数が減り、上司が立っていたり、ハイスツールに座ったりしている時には、部下からのコミュニケーションが増えたのです。


人には、それ以上他人に近づかれると不快に感じてしまう範囲、「パーソナルスペース」があります。計測実験により、このパーソナルスペースが、目線の高さによって変化することがわかりました。


通常、仕事や地域などの社会的な関係にある相手とのパーソナルスペースは、1.2〜1.3mだと言われています。


しかし、上司がハイスツールに腰かけている状態だと、部下は90cmという距離まで近づいて、話しかけてきたのです。


さらに、上司がスタンディングデスクで仕事をしていた時には、部下はすぐ隣にやってきて、45cmという至近距離で上司に業務の相談を始めました。


この計測実験は、複数の企業で実施したのですが、どこも同じような結果となっています。また、飲食店やホテルのロビーなどで空いている席に腰かける際、隣席からどの程度距離を空けるかを椅子の高さごとに計測した実験でも、同様の結果が得られています。


写真=iStock.com/Tempura
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tempura

■話しかけてほしくない時は「低い席」がいい


これらのことから、パーソナルスペースの範囲は、目線の高さによって、広がったり狭まったりするということがおわかりいただけるかと思います。



中谷一郎『中間管理職無理ゲー完全攻略法』(CCCメディアハウス)

これを利用して、作業に集中するために話しかけてほしくない時は低い席で仕事をして、部下とコミュニケーションを積極的に取りたい時には立ちながら仕事をするなど、目線の高さを変えることで、コミュニケーションの量や頻度をコントロールできるようになります。


円滑なコミュニケーションは、円滑な業務遂行を促すだけでなく、問題の早期発見や、チームのモチベーション維持、職場の雰囲気作りにも重要な役割を果たしています。


目線の高さとコミュニケーションの関係を知っておくことで、「話しかけないで」「話しかけて」と言葉や態度で表さなくても、ごく自然にコミュニケーションのしやすさを調節できるようになります。これは、あらゆるオフィスで応用しやすいテクニックです。


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中谷 一郎(なかたに・いちろう)
トリノ・ガーデン代表取締役
大学卒業後、ベンチャー・リンク社を経て2010年にトリノ・ガーデンを設立。サービス業を中心に、建設、小売、メーカーなど幅広い業界における大企業の収益・生産性改善を、「オペレーション分析」を通じて実現してきた。その手法は一般的な戦略コンサルタントのそれと異なり、徹底的に現場の様子を「可視化し計測し記録する」こと。近著に『オペレーション科学』(柴田書店)がある。
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(トリノ・ガーデン代表取締役 中谷 一郎)

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