ジャニーズ性被害問題、一部で指摘されつつも放置されてきたのは誰のせいか

2023年6月20日(火)6時0分 JBpress

 創業社長のジャニー喜多川氏(2019年に87歳で死去)による性加害問題をはじめ、ジャニーズ事務所に関する諸問題は『週刊文春』以外ではほとんど報じられてこなかった。

 どうしてなのか。その背景で見逃せないのはジャニー氏の実姉で元名誉会長のメリー喜多川氏(2021年に93歳で死去)の強い政治力だ。

 ジャニーズ事務所は各民放と関係が極めて深いが、特に日本テレビと近い。1990年代後半から同局の看板番組『24時間テレビ 愛は地球を救う』に同事務所勢が大挙出演するようになり、ほかにも出演番組が多数あるのはご存じの通りである。


日テレのドンと蜜月関係を築いたメリー喜多川

 日テレとの蜜月関係を築き上げたのはメリー氏にほかならない。日テレの中興の祖である氏家齊一郎元会長(2011年に86歳で死去)と昵懇の間柄になることに成功した。読売新聞の経済畑の記者から常務になり、日テレに転じた氏家氏は芸能界関係者と深く付き会うことを好まなかったが、メリー氏だけは別だった。

 氏家氏はメリー氏と何度か会ううち、「彼女はたいしたもんだな」と評価するようになり、ほぼ定期的に会うようになる。メリー氏の亡夫は保守派の論客で作家の藤島泰輔氏(1997年に64歳で死去)。メリー氏は藤島氏並みの知識量を誇ったとされるので、氏家氏が感心しても不思議ではなかった。

 2人が会談を重ねた場所は東京・六本木のメリー氏の自宅マンション。そこで食事をするのだが、メリー氏が手料理を振る舞ったわけではなかった。一流レストランのシェフが招かれ、腕を振るった。

 ほかの民放の首脳との会合も主にメリー氏の自宅で行われた。高層階にある高級マンションの1室だったので、居心地は一流レストランより良かったようだ。人目も気にしないで済む。この場でメリー氏は芸能界から政治、経済まで幅広く語った。

 氏家氏とメリー氏が健在だったころ、『24時間テレビ』のフィナーレでは2人が会場の東京・日本武道館で並び立つ光景が毎年のように見られた。2004年から嵐の櫻井翔(41)が同局『news zero』のキャスター陣に加わったが、それが決まったのも氏家氏とメリー氏によるトップ会談だった。メリー氏は日テレに深く食い込んだ。

 氏家氏とメリー氏との関係が緊密だから、日テレ内でジャニーズ事務所への問題意識が高まるのは難しかった。他局もほぼ同様の構図である。


ジャニーズ事務所を退所したタレントがテレビ局から冷遇されるのはなぜか

 一方、SMAP(2016年解散)を育てた功労者でありながら、メリー氏に忌み嫌われて同事務所を追われ、元SMAPの稲垣吾郎(49)、草彅剛(48)、香取慎吾(46)と新芸能プロ・CULENを設立した飯島三智氏(65)は民放から冷遇された。各局がメリー氏の顔色をうかがったのが理由の1つだった。

 メリー氏は現場制作者への目配りも抜かりなかった。ジャニーズ勢の出演番組の担当者には高額の中元・歳暮を贈った。20万円以上のオーダースーツのお仕立て券が贈られたこともある。目を剥くような金額だが、ジャニーズ事務所の資産は不動産だけで1000億円は下らないから、どんなに高額の中元・歳暮も贈ったって困らない。

 また、そんなことがなくてもジャニーズ事務所のタレントが使えなくなると視聴率が獲りにくいから、各民放は同事務所に関するネガティブな報道に及び腰になった。


「容疑者」ではなく「メンバー」

 象徴的なのは、当時はジャニーズ事務所に所属していた稲垣吾郎が2001年、道路交通法違反(駐車違反)ならびに公務執行妨害罪(のちに不起訴)の容疑で逮捕された時のこと。TBSなど民放は「稲垣メンバー」と呼んだ。平等であるべき報道を不平等にしてしまった。これではジャニー氏の性加害問題が報じられるはずがなかった。

 その流れは新聞界にも波及した。2018年、TOKIOのメンバーだった山口達也(51)が女子高生への強制わいせつを行った容疑で書類送検(のちに不起訴)されると、読売新聞を除いた大半の新聞が「山口メンバー」と書いた。

 ただし、山口が同年にジャニーズ事務所を辞め、2020年にオートバイの酒気帯び事故を起こすと、今度は全ての新聞が「山口容疑者」と表記。特別扱いはなくなった。ジャニーズ事務所は自社のネガティブ報道のコントロールが出来ていた。


ジャニーズのスキャンダルはマスコミにとってのタブー

 コントロールから解き放たれたのはイギリスのBBCがドキュメンタリー動画『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』を動画配信した3月7日以降。現在、最も厳しくジャニーズ事務所を追及している新聞は朝日新聞に違いない。たとえば同事務所が「再発防止特別チーム」を立ち上げると、朝日は「ジャニー氏性加害、遠い解明 外部専門家、被害掘り起こさない方針」(6月13日朝刊)と酷評した。

 朝日は5月27日付朝刊で「<多事奏論>ジャニーズ性加害問題 新聞に欠けていたものは」という署名入り記事を載せている。朝日が性加害問題を追及できなかった理由を自己分析している、その中にこんな下りがあった。

「ジャニーズがタブーだから報じなかったのではないか。そんな声も聞くが、少なくとも私が知る限り、朝日新聞の取材現場がジャニーズに忖度しなければならない理由はないように思う」(同)

 そうだろうか。朝日に限らず、新聞はジャニーズ勢のインタビューを載せ、連載を掲載している。ともに部数増に役立つ。また、朝日の場合、直系子会社が発行する『週刊朝日』の表紙が毎週のようにジャニーズ勢だった時期がある。これも売上増に効果大である。表紙のみを目的に買うファンがいるからだ。

 新聞にも忖度する理由はあったのではないか。だから性加害問題の追及どころか、ジャニーズ事務所への批判眼すら欠いていたように思う。ちなみに朝日も2018年の山口達也の逮捕時には「山口メンバー」だった。

 出版社も例外ではない。一部出版社は同事務所からジャニーズ勢の刊行物の出版と発売を委託されている。利益になる。これも忖度の要因と思われる。


「ジャニーは勲章をもらったっていいと思うんだけど」

 メリー氏の娘で現同事務所社長の藤島ジュリー景子氏(56)はジャニー氏の性加害問題について「知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした」(5月14日にアップした同社の公式ウェブ上の説明文より)としている。

 この説明を訝しいとする声が多いが、メリー氏はどうだったのか。メリー氏と親交のあった2人の人物は筆者に対し「メリーさんも知っていた」「見て見ぬ振りをしていた」などと振り返った。弟であるジャニー氏の問題行動を黙認していた疑いが強い。

 知らぬ振りをしていたのはメリー氏や多くのマスコミ関係者だけではないのかも知れない。数年前、ジャニー氏と親しかった元民放局幹部と雑談していたところ「ジャニーは勲章をもらったっていいと思うんだけど、なんとかならないもんかね」と言われた。

 その時点で初めて気づいたのだが、ジャニー氏は「最も多くのチャート1位獲得アーティストを生み出したプロデューサー」などでギネス認定されながら、いかなる勲章も授けられたことがない。国も早くからジャニー氏の性加害問題の当事者であることを認識していたからではないか。

 ジャニー氏は逮捕歴や前科があったわけではないから、叙勲の不適当認定者ではなかった。一方で同事務所を追われた飯島三智氏は2020年に紺綬褒章を受章している。


3月7日は日本のマスコミの敗戦記念日になった

 一方、BBCのドキュメンタリー後、日本のテレビ・新聞が動いたのは4月12日に元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏(26)が被害を明かす告発会見を外国特派員協会で行ってから。第一報はNHKで、翌13日午後4時のニュースで流した。

 その後もNHKは性加害問題報道をリードした。5月17日には『クローズアップ現代』が「誰も助けてくれなかった 告白・ジャニーズと性加害問題」と題した特集を流した。被害を訴える元所属タレント6人を取材するという力の入った内容で、民放を圧倒した。

 NHKもジャニーズ事務所との関係は深いのに、どうして性加害問題を怯まず報じられたのか。それは芸能界と深く関わる制作部門と報道部門の間に人事交流がほとんどないからだ。別会社のようなものだと考えていい。

「報道部門からドラマ部門へ異動」なんてことは決してない。昨年4月入局組までは制作部門と報道部門では採用枠も別々という徹底ぶりだった。その代わり、制作部門が報道部門に芸能界情報を提供することも一切ない。人事異動が活発で、制作出身の首脳が報道に指示を与えることもある民放とは全く異なる。

 NHKが芸能界内の問題を積極的に報じるのは今に始まったことではない。2017年、清水富美加(28)が宗教団体「幸福の科学」系の芸能プロに移籍し、千眼美子として活動することになり、騒動になった際も『クローズアップ現代』は特集した。

 この姿勢は古くから一緒。1973年、美空ひばりさん(1989年、52歳で死去)の近親者が反社会性力だとして問題化した時も批判の急先鋒だった。制作への気兼ねは見られなかった。

 そんなNHKでもジャニー氏の性加害問題では同じ公共放送のBBCに後れを取った。BBCが性加害問題を世界に問うた3月7日は日本のマスコミの敗戦記念日なのかも知れない。もちろん筆者も戦犯の1人にほかならない。

筆者:高堀 冬彦

JBpress

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