軽BEVは実際どのくらい走れるのか、三菱「eKクロスEV」の長距離試乗で検証

2023年6月24日(土)6時0分 JBpress

 日産自動車─三菱自動車連合が販売する軽自動車規格のバッテリー式電気自動車(BEV)「サクラ」/「eKクロスEV」が好調だ。両モデルの合計生産台数は2022年6月の発売後約1年で5万台を突破。初動は大成功と言っていいだろう。だが、バッテリーの総容量が小さいだけに、充電スポットや航続距離に不安を抱えている人もいるだろう。では、実際に軽BEVはどのくらい走れるのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がeKクロスEVで長距離試乗を行い、その走行データを交えながら検証した。(JBpress編集部)


道路環境、気温によっても変わる航続距離

 サクラ、eKクロスEVの登場で身近な乗り物になった軽BEVだが、必ずしも万能選手というわけではない。バッテリー総容量が20kWhと小さく、満充電時の走行距離は公称値で180kmどまり。バッテリーの定格電流が小さいことは急速充電の受け入れ能力の点でも不利に働く。あくまで自宅や職場などで普通充電ができ、遠出はしない、あるいは家にクルマが複数あるというユーザー専用という印象だ。

 そこで気になるのは、軽BEVは実際にはどのくらい使えるのかということ。家で充電でき、近所を走り回るくらいなら何の問題もないことは性能的に保証されているのだが、たまにはちょっと遠くに遊びに行きたくなることもあるだろうし、地方部では県庁所在地との往復といったロングラン需要もある。

 筆者は2022年12月から寒冷期、極寒の豪雪地帯、一転して穏やかな温暖期と3回、eKクロスEVで長距離試乗を行った。合計5760kmで得られた走行データを交えつつ、実際のところをお届けしたいと思う。

 軽自動車に限らずBEVはカタログスペックに1充電あたりの走行距離が記載されているが、ほとんどはまったくアテにならず、実際に走れる距離は公称値よりはるかに短いのが普通だ。

 eKクロスEVの場合、急速充電器に表示された投入電力量から計算した0─100%の投入量は平均するとおおむね16.5〜17kWhといったところだった。充電時には1割程度のエネルギーロスがあるので、電池パックの実容量は概算で15〜15.5kWhくらいと考えられる。

「え、eKクロスEVのバッテリー容量は20kWhじゃないの?」と思われるかもしれないが、蓄電池の世界では安全性や耐久性などの観点から、総容量の100%を使わないのは普通のことだ。

 商用車分野ではいすゞ自動車のBEVトラック「エルフEV」のように「usable」、すなわち実際に使える範囲を総容量として申告するケースもみられるが、顧客がカタログスペックを重視する乗用車分野ではそういう動向はほとんどみられない。こうして実際に使って計算してみないと本当のところはわからないのだ。

 この実容量に1kWhあたり何km走れるかという電力量消費率をかければどのくらい走れるかを算出できる。

 eKクロスEVの電力量消費率はちょっと堅めにみて、真冬においては郊外路、市街地とも8km/kWh前後。豪雪地帯の積雪路が5.5km/kWh、温暖期の郊外路が10〜11km/kWh、市街地9km/kWh、高速8km/kWh前後といったイメージ。たとえば温暖期に市街地半分、郊外路半分で走ったとすると、航続距離は140〜150km、冬は120〜130kmという計算になる。

 ただし、実際にBEVを運用するときに忘れてはならない点がひとつある。充電率0%まで攻めるような使い方はまずしないということだ。

 eKクロスEVの場合、充電残警告灯が充電率20%を切るくらいのところで点灯する。稼働している充電器が確実にあるという確信があっても使えるのは残り10%くらいまで。安心して走れる距離は前記の数値から1〜2割引いた数字になる。

 ちなみに筆者のドライブにおける無充電での最長走破区間は鹿児島市〜熊本・八代の146.0kmで、充電率は出発時100%、到着時9%であった。


急速充電器スポットが見つからない不安はないか

 BEVで遠乗りをする場合に付きまとうのが出先での充電問題だが、軽BEVはそれがことさら顕著。かりに満充電後150km走れたとしても、平均車速が50km/hであればたかが3時間のドライブだ。出かけた先にうまいこと急速充電器があるかということは当然不安材料だろう。

 航続距離の長い大型電池を積む普通車BEVなら大丈夫だが、軽BEVだと問題になるというシーンは当然ある。

 吹雪の中のドライブだった2回目の長距離ツーリング時、新潟から山形へ向かうときは途中に1カ所だけある急速充電器が稼働しているか不明だったため、日本海沿いのルートを取ることを断念して内陸を大回りすることを余儀なくされた。1kWhあたりの走行距離が延びる温暖期でも、場所によっては行けなかったり、行けたとしてもそれなりに苦労をするというエリアも往々にしてある。

 だが、大きな国道や主要地方道など、クルマの往来の多いところでは充電に困ることはまずない。はっきり言って充電スポットはより取り見取りだ。

 BEVドライブでありがたいのは全国の日産ディーラー網である。日産の看板が見えればそこにほぼ確実に急速充電器があり、充電器の性能も低いものはないという安定感の高さは素晴らしいものがある。

 筆者は3回目のロングラン、東京〜鹿児島ツーリングにおいて、その日産ディーラーの急速充電器をあえて回避し、三菱ディーラーと公共スポットを使うというポリシーでドライブに挑んだ。三菱自動車は三菱ディーラー、および道の駅などの公共充電スポットなら安く充電できるという独自サービス「電動車両サポート」を提供しているからだ。

 日産ディーラーを使う場合に比べて充電の選択肢は大幅に狭まるが、3864kmのドライブを三菱ディーラーと公共スポットだけで問題なく完遂させることができた。スマホのEV情報アプリなどを活用する必要はあるが、電池の残りに肝を冷やしながらスポットを探し回るようなことはなかった。


急速充電=30分という思い込みを捨てた「小刻み充電」の効果

 BEVを便利なものにする重要なファクターのひとつが急速充電のスピードであることは言うまでもない。

 eKクロスEVの場合、肝心の充電スピードは大型電池を積むBEVに比べると格段に遅かった。30分充電での投入電力量の最良値は12.47kWh。3倍の60kWhバッテリーパックを積む日産「リーフe+」を高速充電器で充電するとコンディションが良ければ30分の投入電力量は32kWh近くに達する。それと比べると少なさは一目瞭然だ。

 だが、これはeKクロスEVとサクラの性能が劣っているということではなく、実は小容量バッテリーの宿命的な特性によるものだ。

 カタログを見ると電池パックの性能は定格電圧350ボルト、総容量20kWhと表記されているが、実は電池の性能にはこのほかにAh(アンペアアワー=電流容量)というものがある。それは総容量を定格電圧で割ることで算出でき、eKクロスEVの場合、20000÷350≒57Ahとなる。350ボルト、57アンペアの電力を1時間放出するのに相当する容量ということだ。

 この数値はバッテリーの充電受け入れ能力と深くかかわっている。リチウムイオン電池は0%から100%まで一直線に充電できるわけではなく、充放電にはエネルギーロスも発生するのであくまで計算値だが、350ボルト、57アンペアの電気を流せば1時間で満充電になる。この57アンペアという数値に対して実際にどのくらいの充電電流を流すかを「Cレート」という。57アンペアを流した時が1Cだ。

 さて、eKクロスEVの充電電流である。充電器に表示された電流の最大値は87アンペアだった。Cレートは87÷57で1.53Cである。前述のリーフe+はeKクロスEVと同一規格の電池パックを3つ並列つなぎしており、トータルの容量は171Ah。それに対して受け入れる電流の最大値は200アンペアなので、Cレートは1.17C。投入電力量の値は少なくとも、充電の攻めっぷりでは実はeKクロスEV/サクラのほうがリーフe+より上なのである。

 と言っても、現実問題として30分かけて最良でも12kWh程度、ちょっとでも充電器の性能がショボいと10kWhを割り込む程度しか投入電力量を稼げないというのは、遠乗り時にはアゲインストになる。eKクロスEV/サクラの場合、その足の短さをいくらか緩和する方法があった。

 それは2010年にCHAdeMO規格が登場した時に刷り込まれた「急速充電=30分」という思い込みを捨て、半分の15分で充電を切り上げるというものだ。

 バッテリーが10%程度までしっかり減った状態で充電した場合、eKクロスEVの充電電流は80アンペアラインを10分以上超え続ける。その場合、5分あたりおおむね2.5〜2.6kWhの投入電力量が期待でき、途中で電流が落ち始める15分までの5分間もそれに近い数値となる。が、そこから先の5分間ラップ値は1.7kWh、1.3kWhと急激に落ちていく。

 筆者は過去、40kWhバッテリーを積む日産リーフのノーマルモデルや総容量35.5kWhのホンダ「Honda e」でも東京〜鹿児島ツーリングを試したことがある。そのときのデータと比較すると、eKクロスEVも30分充電では話にならずとも、最初の15分だけをみれば遜色ない。1kWhあたりの走行可能距離はeKクロスEVのほうが両モデルより格段に長いのだから、トータルでは互角の戦いができるのではないか──と、東京〜鹿児島ツーリングの序盤で仮説を立てた。

 筆者が勝手に“バント戦法”と名づけたこの小刻み充電、やってみるとその効果は想像以上に絶大だった。もちろんガソリンエンジンの軽自動車とは比べるべくもないが、前述の2モデルに東京〜鹿児島間を走る充電にかかった時間の合計で勝つという望外のリザルトを残すことができた。

 軽BEVは得意、不得意分野を理解せずに乗っていると、さまざまなネガティブファクターが気になる乗り物だが、中学の理科で習った電気の基本を思い出しつつ、リチウムイオン電池の簡単な特性を頭に入れて工夫を凝らすと、意外にも使えるというのが率直な感想だった。

*【後編】『軽BEVの走行コストは安いのか、押し寄せる「充電大幅値上げ」の影響』は6月25日(日)に公開します。

筆者:井元 康一郎

JBpress

「BEV」をもっと詳しく

「BEV」のニュース

「BEV」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ