まるでジェットコースターのような経営人生…193億円大赤字の渦中でライザップ社長が12歳息子に誓ったこと

2024年6月30日(日)8時15分 プレジデント社

RIZAPグループの瀬戸健社長 - 撮影=高須力

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【連載 #私の失敗談第14回】どんな人にも失敗はある。RIZAPグループの瀬戸健社長は「会社を創業してから何度も苦しい時期があった。そのたびに社外だけでなく社内からも厳しい批判を受け続けた。それでも事業を続けるのは、誰かの人生に役立ちたいという思いがある」という——。(聞き手・構成=ライター・山川徹)
撮影=高須力
RIZAPグループの瀬戸健社長 - 撮影=高須力

■事業を始めてすぐに訪れた大きな波


起業から20年、苦しい時期は何度も経験しました。


2003年4月にRIZAPの前身となる健康コーポレーションを創業しました。当初は、大豆で作るサプリメントを販売していました。でも、ぜんぜん売れない。資本金900万円はすぐに消えました。


そこで、地元の北九州市でパン屋を営んでいる両親に手伝ってもらって、おからで作ったクッキー「豆乳クッキーダイエット」を開発しました。栄養があって低カロリーのおからに、ビタミンやミネラルを加えた手作りのクッキーは、爆発的に売れました。


1年目の売上高は2000万円、2年目が8億9000万円、3年目に20億円。通販会社のなかでは1位、2位を争う成長率で、4年目の2006年には売上額100億円に達しました。その頃の楽天市場には約1600万点の商品がありましたが、2年連続で1位を獲得しました。


その矢先、似たような商品が大量に出回る。さらに「ビリーズブートキャンプ」が流行し、ダイエットに関する話題をすべて持っていかれました。


300億円の計画を立てていたが、瞬く間に売り上げが10億円を割り込み、200億円近くあった会社の時価総額も、4億円程度に下落しました。購入した家も売りに出すハメになり、ぼく自身の報酬も十数万円に下げることになりました。


■社長が孤立するのは当然


最近だと2019年3月期の193億円の大赤字を思い出す人も多いかもしれません。RIZAPグループはM&Aを繰り返しながら成長してきました。グループ会社数は2019年3月時点で80社以上に増えていました。そうした買収した企業の経営再建に苦しみ赤字に転落してしまった。


ぼくが謝罪する様子がメディアで報じられ、SNSでも〈無能〉〈一発屋〉〈宝くじに当たっただけ〉と叩かれました。叩かれたのは、株主やメディアからだけではありません。社内での求心力も落ちて組織がバラバラになりかけました。


実際、赤字に転落したときに新卒社員たちと飲みに行ったとき、記者のように厳しい質問を浴びせられました。


「なんで赤字の会社を整理しないのですか?」
「責任をどうとるつもりなんですか?」


質問に対して、どんなに言葉を尽くしても、社員たちに言葉が届かなかった。社内なのに、アウェーの雰囲気がひしひしと伝わりました。


だからといって孤独に打ちひしがれていたわけではないんです。ぼくは、孤立無援の状況を当然の現象として受け止めていました。好調時は、トップは何をやっても称賛される。組織も明るく活気がある。しかしいったん失敗すると、トップの求心力が失われ、組織の歯車が逆回転する。それは仕方がないことなんです。


写真提供=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
chocoZAP(チョコザップ)店舗のロゴ、看板。=2023年4月14日 - 写真提供=日刊工業新聞/共同通信イメージズ

■息子に誓ったひと言


193億円の大赤字の渦中で忘れられないことがあります。


赤字を発表した翌日、朝起きたら当時12歳だった子どもが、ワイドショーを見ていました。そこではぼくが謝罪する様子が流れていました。


普通ならチャンネルを変えるでしょうが、そうはしなかった。


子どもが学ぶべきは、厳しい状況に陥ったときにどうするかなのではないか。そう思って子どもにはぼくを批判する新聞を読ませました。そしてこう伝えたんです。


「お父さんは逃げないし、このあと必ず復活するから」


その一言で、ぼく自身も改めて覚悟が決まった気がします。


チャレンジが成功するとは限らない。いや、うまくいくほうが珍しい。昔からそんなふうに考えるクセがついていたせいか、失敗を何度経験しても、諦めるという選択はなかった。それは、うまくいかないことに慣れていたからです。


ぼくは子どもの頃から何をやっても怒られてばかり。褒められた経験がほとんどなかった。そのせいか、常に最悪を想定してしまうんです。


常に最悪を想定しているとはいえ、決して後ろ向きに考えているわけではありません。最悪を想定しているからこそ、多少うまくいかないことがあってもへこたれず、次のチャレンジができる。


未来は、誰にも予測はできないけど、自力でつくっていける。最悪の想定には、そんな前提があるんです。


■高校時代の苦い思い出


RIZAPはフィットネスの会社と思う方が多いかもしれません。でも、フィットネスは手段でしかない。目標はお客さまの自己実現です。それを通じて幸せを感じてもらいたいんです。決して低糖質やパーソナルトレーニングを広めようとしているわけではないんです。


多くの人が「健康診断の数値に異常がない=健康」と捉えています。でも本当の健康とは、心身の活力があり、毎日の暮らしや仕事に前向きになり、自己実現できることでしょう。つまりフィットネスやダイエットは、自己実現の手段の1つと言えるのです。


そう考えるようになったきっかけは高校時代にあります。


当時、身長が150センチくらいで、体重が70キロ近くある女性から告白を受けました。ある日、そんな彼女から「ダイエットしたい」と相談されました。一緒に走ったり、体重が落ちないときは「輪郭が昨日とはぜんぜん違うから」と励ましたりしました。すると3カ月で42キロまで体重が減り、見違えるほどキレイになった。


キレイになったのは、外見だけではありません。明るくなって、気持ちに余裕ができたからか、汚かった部屋をきちんと片付けるようになった。彼女はダイエットにより、自信が持てて、自己肯定感をえられたのでしょう。ダイエットによって、生き方が変わる。それをはじめて目の当たりにしたわけです。


その後、大学生の彼氏ができたと振られてしまうのですが……。RIZAPにも負けない結果を出した自負があります。


撮影=高須力
チョコザップ人気の背景には、膨大な数のチラシやWeb広告のA/Bテストといったマーケティング施策があったと話す。 - 撮影=高須力

■この仕事をしている一番のご褒美


ただ、ダイエット中の彼女はコンニャクばかり食べ、たまにお菓子を口にすると罪悪感にさいなまれていました。とてもツラそうでした。もっと前向きにダイエットができる方法はないか。ないなら、つくれないだろうか。RIZAPの原点にはそんな経験があります。


RIZAPという事業を通じて、一番うれしいのは、お客さまのライフスタイルの変化を目の当たりにすることですね。ダイエットに成功し、出会いがあって結婚したり、新たな趣味を見つけたりする……。


人の役に立っている、自分たちが社会の役に立っているという実感を持つことは、私を含めスタッフの自己肯定感を上げてくれます。それがこの仕事をしている一番のご褒美なのでしょうね。事業を続けるのは、金銭ではなく、新しいライフスタイルを提供したいという社会貢献的な思いがあります。


昔は、ビックカメラなどに行ってあれが欲しい、これがいいなとか買い物をするのが楽しみでしたけど、今は特に欲しいものがないんですよね。商品そのものよりも、それを手に入れるまでのプロセスが楽しいのだなと今は思います。


■社名をchocoZAPに変えることはない


おかげさまで2022年7月にスタートしたchocoZAPは好評をいただいています。2024年5月時点で会員数は120万人を突破しました。


このサービスを始めたきっかけはコロナ禍でした。ご記憶にあるかと思いますが、フィットネスクラブが、三密の代表的な場として槍玉に挙げられました。


それでも何かしらの事業は継続しなければならない。そこで生まれたアイデアが、コンビニ形式の無人フィットネスクラブでした。


AIが発達し、スマホが普及した現代なら、フィットネスクラブは無人でも成り立つのではないか。ポストコロナのニーズに合ったスタイルなのではないか、と考えたのです。


しかしトレーナーは、フィットネスクラブの根幹です。お客さまは信頼するトレーナーがいるから、フィットネスクラブに足を運ぶ。だからこそ、RIZAPではトレーナー育成に力を入れてきました。その一方で、大量に出店しようとすると人材の確保と教育が追いつかないという課題も抱えていた。


トレーナーがいないフィットネスクラブでも勝算がある。そう確信できたのが、RIZAPを利用した18万人のお客さまの存在です。


どうしたら挫折せずに結果が出せるのか。トレーニングを継続するために何が必要か……。ぼくらには、お客さま一人一人のトレーニング方法やトレーナーの指導法や声かけなどを蓄積し、検証したメソッドがあります。chocoZAPでは、18万人分のデータを分析したトレーニングマニュアルがあり、配信やオンラインでトレーナーに指導を受けることができる仕組みを構築しました。


もちろんCMの効果もありました。大胆かつ緻密な広告戦略はchocoZAPにもいかされています。


ライザップがなければchocoZAPは生まれていません。トレーナーたちがいたから今がある。ライザップに誇りを持っていますので、社名をchocoZAPにすることはありません。


撮影=高須力
オフの日には本を読んでインプットするのが日課。取材時、読んで面白かった本を問うと、「普段ノンフィクションはあまり読まないんですが、『怪物に出会った日』(講談社)は面白かった」。 - 撮影=高須力

■なぜジムにセルフネイル機があるのか


chocoZAPにはフィットネス以外のサービスもあります。「セルフホワイトニング」「セルフネイル」「カフェ」「セルフ脱毛」「マッサージチェア」「ワークスペース」、さらに最近では、「カラオケ」「洗濯・乾燥機」「キッズパーク」や提携医療機関でMRI検査やCT検査が受けられる「chocoZAPメディカル」等の導入も発表しました。


なぜこのようなサービスを付けたのかというと、これをきっかけに運動する習慣をつけてほしいとういうのもありますが、大きく言えば新しいライフスタイルを構築したいという思いがあります。われわれがいる世界といない世界があったとして、いたほうがより良い世界になっているというふうにしたいんです。


国別幸福度ランキングでは日本は47位(取材時)と諸外国に比べ低い。社会の幸福度を、いかに上げていくか。それは、新しいライフスタイルをいかに提供し、1人1人が自己実現をどう行っていくか、という問題意識につながります。しかし従来の手段を踏襲しているだけでは、新しいライフスタイルの創出はできません。


今年2月の決算説明会では、1万店以上のchocoZAP出店を目標に掲げました。ふだんぼくは具体的な数字を出すことは少ないのですが、実現は可能だと思っています。chocoZAPが増えれば、誰もが気軽に運動できる環境が生まれます。


現在、日本人のフィットネス参加率は3.3%です。私はchocoZAPを通じて、まずは20%まで高めることを目指します。それは、日本全国で2400万人がフィットネスジムを利用することを意味します。


そうすれば、たくさんの人たちが心身を健康にし、そして活力ある社会の創出につながるはずだと考えているのです。


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瀬戸 健(せと・たけし)
RIZAPグループ 代表取締役社長
1978年、福岡県生まれ。2003年、RIZAPグループの前身となる健康コーポレーションを設立。パーソナルトレーニングジム「RIZAP」やマンツーマン英会話スクールの「RIZAP ENGLISH」を世に送り出す。コンビニジム「chocoZAP」が大ヒット中。
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(RIZAPグループ 代表取締役社長 瀬戸 健)

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