日本の竹林における炭素蓄積量の変化を予測 気候変動の緩和に向け、竹林の適切な管理策検討の基礎となる知見

2023年7月26日(水)20時5分 Digital PR Platform




近畿大学農学部(奈良県奈良市)環境管理学科4年 山本真帆(執筆当時)と同教授 井上昭夫は、昭和60年(1985年)から平成17年(2005年)までの日本の竹林における炭素蓄積量の変化を予測し、主要な竹の一種であるモウソウチク林の管理放棄と分布拡大の相乗作用により、国内の竹林における炭素蓄積量が増加していることを明らかにしました。また、国内のモウソウチク林は中国や台湾のような海外のものに比べて過密になっており、本研究で明らかにした竹林における炭素蓄積量の増加は、望ましくない現象であることを指摘しました。
これらの知見は、気候変動の緩和に向けて竹林管理政策を考え、竹林管理戦略の最適化を進める上での基礎となるものです。
本研究に関する論文が、令和5年(2023年)7月3日(月)に、森林科学分野の国際学術誌である''Journal of Forest Research(ジャーナルオブフォレストリサーチ)''に掲載されました。




【本件のポイント】
●モウソウチク林の管理放棄と分布拡大の相乗効果を主な要因として、国内の竹林における炭素蓄積量が増加していることを発見
●わが国におけるモウソウチク林は過密状態にあり、竹林における炭素蓄積量の増加は望ましくない現象であることを指摘
●気候変動の緩和に向けて、竹林管理政策を考え、竹林管理戦略の最適化を進める上での基礎となる研究成果

【本件の背景】
森林は、大気中の炭素を吸収・蓄積することによって、気候変動の緩和に貢献しています。中でも竹は、タケノコとして地上に現れてからわずか2〜3カ月で急速に成長し、植物の中でも特に高い炭素吸収能力を備えているため、気候変動の緩和への貢献が期待されています。そのため、近年、インドや中国のように竹資源の豊富なアジアの国々では、地域・国家レベルで研究に取り組んでおり、竹林における炭素蓄積量に関する報告が増えてきています。一方、日本では、森林における炭素蓄積量に関する研究はあるものの、解析から竹林は除外されており、竹林における炭素蓄積量を地域・国家レベルで分析した研究はありません。このような知見の不足のために、わが国の竹林は、森林と地球温暖化に関する議論の中で見落とされてきました。

【本件の内容】
本研究では、入手可能な竹林面積に関する統計資料と、先行研究での単位土地面積あたり炭素蓄積量の分析をもとに、昭和60年(1985年)から平成17年(2005年)までの20年間における、炭素蓄積量の変化を推定しました。その結果、国内の竹林における炭素蓄積量は、昭和60年(1985年)の約10.1Tg C(1Tg C:炭素換算で10の12乗グラム=100万トン)から、平成17年(2005年)の約13.9Tg Cへと単調に増加していました。この炭素蓄積量は、国内における森林全体での炭素蓄積量の1%以下と小さいものの、主にモウソウチク林の管理放棄と分布拡大の相乗効果によって増加していることがわかりました。また、中国や台湾での研究との比較から、国内のモウソウチク林は過密になっており、竹林が本来もっている炭素の吸収源としてのはたらきが発揮されておらず、逆に枯れた竹の分解などにより炭素の排出源にもなりうる可能性が示唆されました。これにより、日本の竹林における炭素蓄積量の増加は望ましくない現象であることを指摘しました。
竹林は他の森林と同様に、植物体の地上部分だけでなく、土壌中にも多くの炭素を蓄積しています。また、竹製品を長く使えば、その期間製品の中には炭素が蓄積されることになります。本研究ではこれらの要素を考慮せず、植物体内における炭素蓄積量のみを対象として推定しました。今後は土壌中や竹製品内の炭素蓄積量を考慮することで、地球温暖化の緩和やカーボンニュートラルの実現に向けて、竹林の役割を正確に評価することをめざして研究を進めます。

【論文掲載】
掲載誌:Journal of Forest Research(インパクトファクター:1.672)
論文名:
Predicting changes in the carbon stocks of bamboo forests in Japan from 1985 to 2005
(日本の竹林における炭素蓄積量の1985年から2005年までの変化の推定)
著者 :山本真帆1,2、井上昭夫1,3* *責任著者
所属 :1 近畿大学農学部環境管理学科、2 現在の勤務先:静岡県庁、3 近畿大学アグリ技術革新研究所
URL :https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2229984

DOI :10.1080/13416979.2023.2229984

【研究支援】
本研究は、住友財団環境研究助成(083062)の支援を受けて実施しました。

【研究者のコメント】
井上昭夫(いのうえあきお)
所属  :近畿大学農学部環境管理学科
     近畿大学大学院農学研究科
     近畿大学アグリ技術革新研究所
職位  :教授
学位  :博士(農学)
コメント:竹林は炭素吸収機能に優れることから、「地球温暖化の救世主」と言う研究者もいます。しかし、この論文で示したように、炭素蓄積量を増やしたとしてもそれが竹林の管理放棄や分布拡大の結果であれば、望ましい現象とは言えません。今後は竹林を管理し、利用することで、気候変動を緩和する方策について考えていく必要があります。

【関連リンク】
農学部 環境管理学科 教授 井上昭夫(イノウエアキオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2292-inoue-akio.html


農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/


▼本件に関する問い合わせ先
広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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