茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?

2023年8月30日(水)6時0分 JBpress

 茨城県の常陽銀行、栃木県の足利銀行という地域のNo.1地銀同士が経営統合して誕生しためぶきフィナンシャルグループ。東京に近い「地の利」と、製造、農業、観光などの多様な産業特性を生かし、地域密着の総合金融サービス業を目指している。グループを率いる秋野哲也社長が描く、2030年の地域金融サービスの在り方とは。

シリーズ「地域金融機関の今、未来」ラインアップ
■【前編】茨城と栃木の産業特性のポテンシャルを最大に引き出す、めぶきFGの戦略とは?(本稿)
■【後編】めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略

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茨城と栃木はバランスの取れた産業構造

——めぶきフィナンシャルグループ(以下・めぶきFG)が誕生して7年となりました。そもそもめぶきFGはどういう経緯で誕生したのでしょうか。


1986年常陽銀行入行。下妻支店長、リスク統括部長、人事部長を経て2016年執行役員就任。めぶきFG発足後の2017年にめぶきFG経営企画部統括部長(常陽銀行執行役員経営企画部長)。2018年めぶきFG取締役(常陽銀行常務取締役)、2022年より現職。
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座右の銘:井上靖「努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る」=自分が正しいと思った瞬間、人は努力をしなくなる。逆に努力をする人は、自然と希望を口にする。

秋野哲也氏(以下敬称略) めぶきFGは、茨城に本店を置く常陽銀行と、栃木県に本店を置く足利銀行が2016年に経営統合した金融グループです。従業員数は合計約6000名、パート従業員を含めると約9000名を抱え、総資産は2023年3月末で約21兆円の規模です。茨城、栃木、首都圏を中心に318店舗を有しており、北関東で大きなプレゼンスがあります。

 常陽銀行は、1935年に水戸の常磐銀行と土浦の五十銀行が合併して誕生しました。以来88年の歴史があります。さらに源流をたどると、祖業は1873年に設立された会社です。日本で渋沢栄一が銀行を作って今年で150周年ですが、それと同じぐらい、この地で仕事をしていることになります。

 一方の足利銀行も、1895年創業、128年の歴史を持っています。これはどの地域でも同様の流れがあると思いますが、両行はそれぞれ、茨城、栃木の銀行が、資本を集約する形で発展してきました。

——現在のめぶきFGを取り巻く経営環境を、どう見ていますか。

秋野 ご存じのように、日銀の金融政策は10年以上にわたり超低金利、マイナス金利政策を続けており、金融緩和が続いています。銀行の本業は、本来は預かった預金に利息を支払いながら、必要なかたに融資をさせていただき、金利収入を得ることです。ところが金利が付かないため、この鞘(さや)がほとんど取れません。預金と融資のビジネスでは利益を出しにくい状況が続いているなかで、日本の銀行界全体は経営的に厳しい環境に置かれています。

 加えて、顧客基盤である地方経済については少子高齢化で人口が減少し、同時に産業構造もスリム化していく傾向が続いています。

 しかし、全く悲観はしていません。当社が拠点とする茨城、栃木には、産業構造が変化するなかでも、事業の拠点として選んでいただけるポテンシャルがあります。

 その理由を説明します。まず首都圏から近く、茨城県は土地の3分の2を関東平野が占めており広い土地の確保が容易です。栃木も同様で、工場などの企業誘致件数は両県とも国内トップクラスとなっています。

 栃木県には自動車メーカー、航空機エンジンのメーカーなどが進出しており、茨城県には石油化学コンビナート、素材、鉄鋼などの企業が集積しています。またつくばには企業、大学の研究機関が集まる研究学園都市が形成されています。

 茨城は水が豊富で、工場用水を安く提供できる面でも立地しやすい環境です。工場の国内回帰の動きもあるなかで、当地域も有力な候補として考えていただけると思っています。最近の例では、日産自動車向けなどのEV用電池を製造する中国のエンビジョンが茨城に国内最大級の工場を建設中で、2024年春に量産を開始する予定です。また、化粧品の米エスティローダーも茨城県内に工場を建設しています。

 東京からの交通インフラも充実しており、常磐道、北関東道、圏央道の道路網、港湾、茨城空港の空路も確保されています。そのメリットを生かした物流拠点も数多く設置されています。

 また、茨城県は農業、漁業といった第1次産業が盛んなことでも知られています。農作物の生産額で3位に入っており、漁獲高は2位で、魚の加工業も盛んです。一方、栃木には観光があります。世界遺産の日光をはじめ、那須などの観光地には世界中から観光客が訪れています。

 このように、2県を合わせると、産業構造のバランスが非常にいいことがわかります。この多様性が1つの地域の中に集約されていることが大きな強みです。


地域の成長なくして当社の成長もなし

——地域の特性を生かし、めぶきFGの将来像をどう描いているのでしょうか。

秋野 恵まれた地域のポテンシャルがあるとお話ししましたが、足元の経済環境、社会環境を見渡すと、ネガティブな要素がたくさんあります。少子高齢化や経済のグルーバル化などの構造的な問題に加え、直近ではウクライナへのロシア侵攻や、資源・エネルギー価格の高騰の影響が、地域経済にも影を落としています。

 こうした悪い話だけを捉えると、地域経済は疲弊する一方と思われてしまいますが、地域の成長なくして当社の成長はありません。地域を活性化し、持続的に成長をさせていくのが当社最大のミッションです。

 では何をすべきか。当社は2030年に向けた長期ビジョンを「地域とともにあゆむ価値創造グループ」と設定しています。言い換えると、地域の持続的成長に向けた課題を地域の皆さまとともに解決していくことです。その活動こそが当社の目指す価値創造であると考えています。

 創造する価値は二つあります。まず一つは、社会的な価値です。カーボンニュートラル、DXなど地域のサステナビリティに関するさまざまなキーワードがあります。地産地消を意識しながらも、東京、あるいは世界の革新的な取組みをまずは当社が取入れ、それを地域経済に還流することで地域を潤していくことを考えなければいけないと思っています。もう一つは、経済的な価値です。お客さまに必要とされる社会的に価値のあるサービスを提供することで企業活動を活性化し、それによって個人の所得も増えていきます。

 このビジョンに基づき、2022年からスタートした第3次中期計画では、持続的成長に向けた進化への挑戦をテーマに掲げています。

 伝統的な銀行の「3大業務」である、預金、貸出、為替について、より効率的な業務に進化していく必要があります。最初にお話ししたとおり、預金と融資に従来通り頼っていては利益が減る一方ですが、当該業務の重要性に変わりはなく、あらゆるところを効率化して持続性を高めていきます。

 当社には長く地域で培った信頼があり、これが最大の財産です。この信頼を生かして、預金、貸出に加えた価値をどうやって出していくかがポイントです。総合金融サービスと呼んでいますが、銀行だけでなく、リース、証券、デジタル化の支援などに領域が広がっています。これらに追加して、さらに新しい価値を提供していくことが必要です。あるいは、外部から地域に新しい産業を注入していくことも含め、取り組みを強化しています。

——地域に根ざす企業を支援することが中心になるのでしょうか。

秋野 茨城、栃木には素晴らしい企業がたくさんあります。それらの企業が生み出す商品やサービスは、地域内で消費されているだけでなく、東京圏などで消費されています。この販路拡大はもちろんしていかなければいけません。逆に、東京圏の産業を地域に持ってくるための仕掛けも考えなければいけないと思っています。

 これらは国内での貿易取引ともいえ、本質的にやろうとしていることは、メガバンクも当社のような地銀も、同じだと思っています。


地域企業をよく知る立場で最適なツールの選択を指南

——リースなどの事業向けのサービスを考えた場合、東京に本社を置く企業では、各分野の専門会社を自由に選んでいます。それに対して地方では、銀行が窓口になるとメリットがあるということですか。

秋野 はい。ワンストップサービスとして、常陽銀行、足利銀行に相談すれば、100%とはいいませんが、事業に必要な8割、9割のことは解決できることを目指しています。地域の企業がビジネスを成長させていくための「ゲートウェイ」の役割を果たすことが目標です。

 そのために始めたのが「ビジネスマッチング」事業です。お客さまの悩みを聞いて、最適なパートナーを連れてくる、あるいは、パートナー企業に対して営業先を案内する役割を当社が担うことで、地域のビジネスを活性化する支援ができると考えています。

 例えば、デジタル化を進めたいと思っている中小企業でも、具体的にどうすればいいかわからない場合があります。そこで、まずはその企業の経営者や社員さんと当社の社員がいっしょに、どこに問題があって何から手を入れればいいかを考えます。それがまとまってから、ITベンダーに対して当社が打診して必要なシステムの検討に入ります。

 なぜそうするかというと、最初からITベンダーが企業に入ってしまえば、どうしても「物売り」の話が始まってしまうからです。それでは課題の解決にならないため、当社が間に入り、どうすればいいか、方法論を考えていきます。

 常陽銀行では、「ビジクル」という専用の課題解決ツールを導入しました。これを使うと、お客さま企業の経営者と当社の社員がいっしょに操作しながら、課題を抽出して解決策を提案することができます。2022年度は、このツール経由によるDXの取り次ぎ案件が2500件以上になりました。

 ITベンダーにとっても、これはいいことだと思っています。ITベンダーは通常、企業のことをよく知らないため、どんな仕事をしているのか、からヒアリングしなければいけません。銀行が間に入れば、その手間をかける必要がありません。しかも最適なシステムを導入できるため、顧客の持続性も高まります。

 デジタル化だけでなく、さまざまな経営課題に対して支援ができるように、多くのパートナー企業と提携の輪を広げています。昨年数えた段階では、400社以上とビジネスマッチング契約を結んでいます。

 ビジネスマッチングは、1件の成約につきベンダー側から一定の手数料を当社がいただくビジネスモデルです。顧客企業から、費用はいただいていません。地道な仕事ですが、成長の期待が高い事業です。

——他に、どのような取り組みをしていますか。

秋野 銀行法の改正により、子会社を活用することで金融領域以外でも行うことができる事業が拡大しています。それに合わせて、非金融領域の事業を推進する子会社を立ち上げています。

 いくつかの取り組み事例がありますが、例えば2022年に足利銀行の子会社として「コレトチ」という地域商社を、地域の新聞社など数社と共同で設立しました。地域産品の販路拡大支援や、実際に販売も手がけています。リアルな販売ルートはBtoB(卸売り)が中心ですが、ECサイトを使って全国の消費者に直接販売するBtoC事業も準備を進めています。

 一方の常陽銀行は、全く違う領域での事業に取り組んでいます。茨城県は国内有数の太陽光発電量を誇りますが、その推進をはかる「常陽グリーンエナジー」を当社グループ内の100%子会社として、やはり2022年に設立しました。再生可能エネルギーの活用は、大手企業だけでなく、地域の中堅中小企業にとっても重要なテーマです。当子会社はその受け皿となり、再エネの買い取りや売電事業を行うだけでなく、スタートアップ企業と連携して地域の太陽光発電の安定稼働の支援などを進めています。

 それぞれの地域の特性に合わせて、事業会社の設立まで踏み込んで、課題解決と産業の成長に向けた挑戦を始めたところです。

【後編に続く】めぶきFGトップに聞く、地域金融機関ならではの店舗網のあり方とデジタル戦略

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筆者:指田 昌夫

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