週に一度、社員が店で買って鮮度を調査する…チョコモナカジャンボの「パリパリッ」へのすさまじいこだわり

2024年9月19日(木)10時15分 プレジデント社

撮影=プレジデントオンライン編集部

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アイスクリーム業界において、単品アイスで最も売れているのは森永製菓の「チョコモナカジャンボ」だ。発売から50年以上たっても愛され続ける理由は何か。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする——。
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■1年で約2億個売れる「チョコモナカジャンボ」の秘密


2024年夏の期間(6〜8月)の日本の平均気温は、速報値で昨年と並んで過去最高となった。特に気温が高かったのは広島や福岡などの西日本だ。(2024年9月1日、ウェザーニューズの発表)また、8月は歴代2位の高温だった。


アイスも売れたことだろう。各地の小売店で気軽に買える「家庭用アイスクリーム」にはロングセラーブランドが多いが、単品で最も売れるのは森永製菓の「チョコモナカジャンボ」だ。年間約2億個を販売する。


発売開始は1972年(発売時の商品名は「チョコモナカ」)と半世紀超のロングセラーだ。2013年に全国発売された姉妹品「バニラモナカジャンボ」ともカニバリ(売り上げの共食い・奪い合い)しないという。


なぜ人気が続くのか。ブランドの責任者に両商品のこだわりを聞いた。


撮影=プレジデントオンライン編集部
ジャンボブランドを担当する中村望さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「夜のご褒美」ではなく「おやつ」として人気


「2023年度(2023年4月〜2024年3月)のチョコ+バニラのジャンボブランド全体の売り上げは前年比112%と非常に好調でした。昨夏は過去最高の暑さとなり、複数個が入った『パリパリバー』などのマルチパックも好調でした」


とは、森永製菓 マーケティング本部 冷菓マーケティング部(アイスクリームカテゴリー) ブランド担当の中村望さん。


「また近年では、アイスを小分けにして複数回に分けて召し上がる方が増えました。そうしたこともあり、チョコモナカジャンボは夏だけではない通年商品となりました。それも売れ行きに関係していると感じます」(中村さん、以下同)


アイス業界では単品(1個売り)をノベルティ、複数個をマルチパックと呼ぶが、チョコモナカジャンボは単品でも割って食べられる。発売時は8だった“モナカの山”も現在は18あるので、小分けして食べるのにも向く形状だ。


「2020年から始まったコロナ禍で、弊社でもさまざまな商品が苦戦しましたが、アイスは逆に定着したと思います。在宅勤務での息抜きで選ばれたりしていました」


コロナ禍当初は、「それまで目立たなかった9時〜11時台、13時〜14時台にアイスを買う人が増えた」という話も聞いた。職場で同僚と執務ではなく、時間の調整がきく在宅勤務が多かったからだろう。現在はどうか。


「コンビニのデータでは、チョコモナカやバニラモナカは14時〜17時の購入が最も多いです。お昼ごはんの後に食べるのではなく、おやつとして買われています」


■「パリパリッ」への強いこだわり


ロングセラーの座に安住すると、すぐに没落する時代。ブランドとして絶えざる改良を繰り返している。商品開発でこだわるのが、食べた時のモナカの食感だ。


「2003年から商品パッケージで『パリパリッ』を掲げています。中のアイスからモナカに水分が移行することで外側のモナカが吸湿してしまう。それを防ぐためにモナカの内側に『チョココーチング』を、さらにモナカのスキマを埋めるために両サイドに『チョコの壁』をつくっています」


これまで何度も改良を実現し、そのつど同社はニュースリリースを出してきた。2021年の春、最初にバニラモナカジャンボで『チョコの壁』を実現、2023年にはチョコモナカジャンボでも実現した。後述するが商品設計が違うので同じ技術を共有とはいかない。今年2月にも「2年連続で『チョコの壁』の技術が進化」というリリースを発表した。


画像提供=森永製菓
商品の両端で、モナカの隙間をふさいでいるのが「チョコの壁」 - 画像提供=森永製菓

なぜ、そこまで「パリパリッ」にこだわるのか。


「お客さまからの反応が良いのです。当初は仮説から始まった改良ですが、データをみるとどうやら食感が良くなるたびに売り上げが良くなっている気がする。実際、『食べた時にモナカがパリパリッで気持ちが前向きになった』『元気になる』という声も寄せられています」


■「製造から出荷まで基本的に5日以内」


中村さんには忘れられない思い出がある。新卒内定式の時、内定者全員に工場から直送されたチョコモナカジャンボが配布されて食べた。そのパリパリッの鮮度にいたく感動したそうだ。


ジャンボは「工場製造から出荷まで基本的に5日以内を目標」としている。それほど消費者が食べた時の「鮮度」も重視しているのだ。


「できたての味を届ける」鮮度へのこだわりはビールの「スーパードライ」(アサヒビール)が先駆けだが、冷凍で長期保存がきくアイスで最初に掲げたのは森永製菓だろう。中村さんはこんな裏話も明かす。


「弊社には、パリパリッ研究チームと味チームがあり、それぞれ4〜5人が担当しています。研究はもちろん、週に1回はさまざまな小売店に行き、一消費者として商品を購入して鮮度を調べています」


■チョコの壁はこうやって作られる


「発売時に比べてチョコモナカジャンボの製造工程も変わりました。特にターニングポイントとなったのは1995年。モナカの山が18になり、中身のチョコをチョコソースから板チョコ状のチョコに変更しました」


実際どのようにチョコモナカジャンボは作られているのだろうか。


「モナカの上に、まずスプレー状のチョコがコーティングされます。その上にアイスを乗せます(下記画像参照)。すぐにアイスを乗せることによりチョコの温度を下げ、モナカに浸透するのを防ぐ効果があります」


画像提供=森永製菓
スプレー状のチョコの上にアイスを乗せてチョコの温度を下げる - 画像提供=森永製菓

「次にアイスの上に液体のチョコを滝のように注ぎます(下記画像参照)。これがアイスの中にあるチョコになるわけですが、板チョコをアイスの間に入れればと思うかもしれません。ですが、それではわずかな隙間がアイスとチョコの間に生じ、食感を損ねてしまうのです」


画像提供=森永製菓
この「滝のチョコ」が板状のチョコになる - 画像提供=森永製菓

ここに再度アイスを乗せ、「壁」になるチョコを横に付け、最後にモナカをかぶせて完成する。


細かい工夫を重ねることで、モナカへの水分移行を少しでも遅らせ、パリパリッの食感を感じるようにしているのだ。


■チョコモナカとバニラモナカの違い


日本の消費者は世界でも突出した「バニラアイス好き」だ。グローバルに展開する競合を取材すると、「ここまでバニラフレーバーが支持されるのは日本市場だけ」とも聞く。


競合の「モナ王」(ロッテ)が強かったバニラモナカ市場に、森永製菓が「バニラモナカジャンボ」で参入して11年。最近の状況はどうか。


「非常に好調です。以前は消費者の方には、『チョコモナカじゃないほう』と思われがちでしたが、一方でバニラアイスを好む消費者は多い。商品改良に力を注いだ結果、バニラ好きな人に届いていき、チョコモナカを上回る伸びを示した年もあります」


姉妹ブランドとはいえ、バニラモナカとチョコモナカでは商品設計が異なる。アイスの種類別では、バニラモナカは「アイスクリーム」(乳固形分15%以上・うち乳脂肪8%以上)で、チョコモナカは「アイスミルク」(乳固形分10%以上・うち乳脂肪3%以上)だ。パッケージをあけて比べると、モナカの色も違う。


■モナカも食感も微妙に違う


「両ブランドのモナカアイスの皮は、似ているようで違います。小麦など成分の配合を変えています。チョコモナカジャンボの方が少し色が濃く、バニラモナカジャンボの方は少し白い。バニラモナカの皮は洋菓子を意識した配合にしているのでビスケットやクッキーに近い。これは弊社の菓子メーカーとして培った技術を応用しています」


撮影=プレジデントオンライン編集部
ふたつの商品を見比べてみるとモナカの色が違うのがよくわかる - 撮影=プレジデントオンライン編集部

先に述べたように、チョコの壁はそもそもバニラモナカジャンボから始まった。以降も、研究は続いている。最近の改良としては、バニラモナカジャンボのモナカの中を覆うホワイトチョコ(「チョココーチング」と「チョコの壁」)に食物繊維原料を追加したことが挙げられる。これは、同社の研究の中で、モナカの吸湿耐性と食物繊維に相関を見つけたことが契機だそう。食物繊維が水分を吸って膨張し、吸湿防止力をアップしているという。つまり、以前よりパリパリッ感が増したわけだ。チョコモナカジャンボとの違いはこんなところにもある。


画像提供=森永製菓
ホワイトチョココーティングに食物繊維原料を混ぜることで吸湿耐性がアップした - 画像提供=森永製菓

ちなみにバニラモナカジャンボはシニア層の支持が高く、全体の4割以上を占める。


■「焼きモナカジャンボ」の提案


前述した「鮮度」には別の視点もある。新たな情報で訴求するのもそのひとつ。


ロングセラーが多いアイスブランドで最近目立つのが「食べ方提案」だ


「ここ数年、秋冬向けに『焼きモナカジャンボ』というテレビに取り上げられて話題となった食べ方を訴求しています。トースターでチョコモナカジャンボを約30秒焼くもので、モナカが焼きたてのような食感になり、香ばしい風味を楽しめます。バニラモナカジャンボでもできます」


焼き加減は様子を見ながら調整するのがいいようだ。競合品では料理のアレンジレシピとしてアイスを使い、新たな楽しみ方を訴求した例もある。


ずっと愛用するロイヤルユーザーだけでなく、しばらくブランドから離れていた休眠客に「思い出してもらう」ためにも有効な手法だ。


チョコモナカジャンボは2023年3月に価格改定(値上げ)したが、その影響もほとんどなかった。だが、物価の優等生だったアイスも少しずつ高くなった。


「200円未満で買える魅力もあると思います。商品開発はずっと挑戦で、これからも価値に見合った価格と感じていただけるよう、商品の品質向上に取り組んでいきます」


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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)、2024年9月26日に最新刊『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)を発売。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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