ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」

2024年10月3日(木)4時0分 JBpress

 2021年に飲食料品業界を驚かせた、グミ市場とガム市場の大逆転劇。人口減少が深刻化する国内情勢にもかかわらず、新商品が次々と生まれ、コンビニでの売り場面積を拡大し続ける「グミ」は、なぜこれほどのヒット商品となったのか? 本連載では『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。マーケティングの観点から、「奇跡の大ブレイク商品」グミの謎をひもといていく。

 第6回は、「マーケティングの大家」フィリップ・コトラーが提唱するマーケティング進化仮説をもとに、グミ市場がヒットした要因や、これからの企業に求められる姿勢について考える。

<連載ラインアップ>
■第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
■第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
■第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
■第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(本稿)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから


ファンがブランドを育てる

 ファンがブランドや企業を成長させる——。スポーツ選手やチーム、演劇、映画などのエンターテインメントの世界は「ファン」と呼ばれる熱心な支持者の応援で成り立っている。お気に入りの存在を深く理解し、共感し、支持をしてくれるのがファン。企業もそんなファンに応援してもらえたら、安定的な成長が得られるのではないか。

 愛着度(熱量)が高いファンは顧客生涯価値(※)(LTV)も高くなり、周りに一生懸命に推奨してくれる存在だ。だから熱量の高いファンは企業やブランドにとって大切な財産であり、収益の基礎になる。そうした視点から、マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー教授によるマーケティングの進化仮説に当てはめて、グミのヒットを考えてみる。

※ある顧客から生涯にわたって得られる利益のこと。

【マーケティング1.0】
 製品中心のマーケティング。需要が供給を上回っている時代であり、求めている消費者に売る。ただそれだけで済む古き良き時代。

【マーケティング2.0】
 いわゆる「消費者志向」のマーケティング。商品を見せて「あなたにはこれが必要です!」と説明する作業が必要になる。消費者側の目線に立ち、感情のこもった売り方をし、消費者の機微に触れ、満足させることで、より確実に商品を売るという考え方だ。企業は消費者の日々の生活には様々な課題があるということを理解し、その解決のために商品を提供しなければならない。

【マーケティング3.0】
「人間中心のマーケティング」とも呼ばれる。企業は単なる商品の提供者ではなく、消費者の心の中に届くような価値を提供する存在として自らを位置づける。消費者は単なる機能性を求めるだけでなく、企業の背後にある価値観や哲学に共感する。

 SNS時代にあって消費者(生活者)は、世界や自分自身、友人たちのことを「良い存在」だと感じたい。商品を買う段階でも、消費者はその商品が「良い存在」かどうかを重視する。

【マーケティング4.0】
 デジタル革命が進行する中で、オンラインとオフラインの融合が進む。消費者の購買行動や情報収集行動も、従来のメディアだけでなく、多様なチャネルを通じて行われる。SNSは消費者が自己主張できるようにした。企業にとっては、自社の製品やサービスを使ってもらうと自己実現が可能になる、といったイメージを持ってもらう取り組みが重要になる。

【マーケティング5.0】
 テクノロジーと感性が結合した時代。企業はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用して、一人一人の消費者に合わせたパーソナライズされた経験を提供することが求められる。AIのためのアルゴリズム開発やロボット工学、仮想現実(VR)などといった領域に踏み込み、どう使いこなすかが企業のマーケティングの明暗を分ける。

■マーケティング4.0以降に顕在化したファンの重要性

 ファンが市場をつくっていく——という現象は、特に「マーケティング4.0」以降に強く見られる特徴だ。デジタル技術の普及により、消費者自身が情報発信者となり、自らの好きな商品やブランドについてSNSなどで意見を発信し、それがバズることで大きな影響力を持つようになった。

 マーケティングが目指すのは、売れる仕組みを開発し、継続させていくことだ。X(旧ツイッター)のハッシュタグ(♯)でファン同士が気軽につながり、共通の推しについて盛り上がれるのが現代。ソーシャルメディア時代における企業とファンの関係性はさらに強まっている。

 グミのように、特定の商品やフレーバーがSNSで話題になり、短期間で大きな市場の動きを生んだり、消費者からのフィードバックや要望が直接メーカーに届き、それが新しい商品開発につながったりすることも増えている。こうした動きは、消費者やファンが市場の動向を主導する現象としてとらえられ、結果として市場拡大をけん引する。

 グミ市場は、こうしたファンに支えられている。「地球グミ」のような一過性のヒットもあるが、きちんと定番商品があるのはファンの存在があるからにほかならない。

 消費者主体の市場では、企業側も消費者とのコミュニケーションを重視し、より緻密に市場の動きを捉える必要がある。ファンやコアな消費者と強い結びつきを持つことで、持続的な市場の拡大を期待できる。

■2割の優良顧客が、売り上げの8割を支える

 ファンの気持ちに寄り添い、愛着を深めるために、SNSを活用する日々の接点は重要である。佐藤尚之は、その著書『ファンベース』で、ファンを大切にし、ファンを基盤として中長期的に売り上げや商品の価値を高める重要性を説く。「パレートの法則」にあるように、2割の優良顧客が、売り上げの8割を支えているという現実があり、強い支持者は、新たなファンをも呼び込む。昨今では、社会の課題を踏まえながら、多様な主体が「共創」をして新たな価値を創出することが期待され、ファンは共創の一翼を担う。

 一方、ファンと消費者は違う。消費者は製品そのものに目を向けるが、ファンは「製品が意味すること」に注目する。企業の志(パーパスやビジョン)や、未来へ向かう「物語」が共感を呼び起こす。成功しているブランドには、顧客が参加できる物語があり、ファンと消費者を分けるのは、そのブランドに関わる自らの関与の度合いだ。だから、米国のバイクメーカー、ハーレーダビッドソンの「ファンミーティング」のような場が求められる。

■ファンを裏切らない姿勢

 ファンは気まぐれでもある。夢中になっていたかと思えば、熱が冷めるときも訪れる。企業を応援することに喜びや幸せを感じ、一緒にいてくれる状態をどう維持すればよいのだろうか。「お客様は神様」と言われるが、ファンは違う。熱心なファンによって企業やブランドが“炎上”の対象になれば、ダメージは計り知れない。そのさじ加減は、技術や技法ではなく、ファンを裏切らない姿勢だ。大手芸能事務所の元社長による性加害問題も裏切り行為のひとつだった。

 大切な人に思いをはせ、共に成長しながら、新たな価値を創造して幸せをもたらす。そんな企業やブランドが支持されることは間違いない。

<連載ラインアップ>
■第1回 急拡大するグミ市場の陰で、明治はなぜガム市場からの撤退を決めたのか?
■第2回 明治「果汁グミ」「コーラアップ」はなぜ多くのロイヤルユーザーを獲得できるのか?
■第3回 SNS発の大ヒット商品「地球グミ」は、なぜZ世代の心に刺さったのか
■第4回 カンロが「ピュレグミ」「カンデミーナ」「マロッシュ」で使い分ける“情緒的価値”とは?
■第5回 ガムの主力ブランドがグミに“転生”、明治「キシリッシュグミ」が狙うユーザー層とは?
■第6回 ファンが市場拡大をけん引、SNS時代のグミ市場を取り巻く「マーケティング4.0」(本稿)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:白鳥 和生

JBpress

「グミ」をもっと詳しく

「グミ」のニュース

「グミ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ