持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?

2024年10月9日(水)4時0分 JBpress

「営業は断られてから始まる」と言われる。だが、話術だけで成約に導けるほど甘くはなく、1度成功したアプローチが2度通用する保証もない。「買う・買わない」の決定権を相手が握る中、営業担当にできることは何か、すべきことは何なのか? 本連載では、日本一の営業成績を認められ、初めて地方ボトラーから日本コカ・コーラへの出向を果たした山岡彰彦氏の『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(山岡彰彦著/講談社+α新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。顧客視点や組織力の大切さに気付いていく学びの足跡をたどる。

 第2回は、競合と密な関係にある客にどうアプローチして成約に至ったのか、その舞台裏にスポットを当てる。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?(本稿)
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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常識を超える非常識なやり方

 多くの人でにぎわうパチンコ店を始めとする大型のアミューズメントは飲料メーカーにとって大きな魅力を持っています。そのためすべてのお店がどこか特定のメーカーと結びついており、なかなか新規の取引先が入る余地はありません。

 パシフィックグループもそんなチェーンの1つです。競合会社との関係が強く、私たちはアポさえ取ることができません。同社のグループ企業である焼肉チェーンが最近やっと取引をしてくれるようになりましたが、本丸ともいえるパチンコ店とは商談のきっかけさえつかめない状況が続いていました。

 パチンコ店といえば自販機設置が定石ですが、すでに競合が強固な基盤を築いています。ならば他の方法はないものか。「まず、相手の都合から考えること」「新規開拓はいままでの延長線上でものを考えないこと」という小林部長の言葉を反芻(はんすう)します。

 そこでまず焼肉チェーンの村山部長にパチンコ店の困りごとはどんなことかを伺うことにしました。村山部長はアミューズメント部門にも顔が利き、最近郊外にオープンしたパチンコの旗艦店にも彼の部門からコーヒーサービスの施設が設けられています。

 私たちはそこでの直接取引を提案できる立場ではありませんが、なんとか店長に取り次いでくれることとなりました。

 何事も一足飛びにはいきません。まずは挨拶を済ませ、お話を伺うところからスタートです。パチンコ店に入ったことがない私には、提案の糸口すらつかめません。それでも店長の話を通して少しずつ見えてくるものもあります。

 お店としてはお客さんに少しでも長くパチンコ台に座ってゲームをして欲しいのですが、食事や飲み物を買いに離席するとその時間がロスになるということです。パチンコを打ちに来てもらっているのでもっともな話です。

 では私たち飲料メーカーに何ができるのか、すぐに妙案は浮かびません。自販機では簡便に飲み物を提供することができますが、それでも一旦はパチンコ台の前から離席して、設置しているところまで買いに行かなければなりません。

 結局、その日は店長からお話を伺うだけでしたが、お会いできただけでもまずは一歩進んだのでよしとします。

 営業所に帰って何かできないかと考えます。

 そういえば店内にはコーヒーサービスの施設もあり、スタッフも常駐している。ならばそこに機材を置いて飲料を提供してもらったらどうだろう。それならお客さんの離席を抑えることができるし、サービス向上にもつながる。

 都合の良い話ですが、お客さんにとっても、先方にとっても悪い話ではありません。コーヒーサービスの領域なら既存の自販機取引のところに割り込む訳ではありません。これはいけそうだと思い、早速村山部長に提案です。

 数日後、村山部長から電話です。

「面白い話だと思うけど、部門をまたがる、いままでにない話なので上の者同士で話をしたい。しかるべき人を連れてきてくれないか。うちは私より上も出てくることになりそうだが…」

 願ってもない話ですがこれを外すと後がない。そんなニュアンスが電話口から窺えます。上の人、相手は部長以上も来る。どういった人を連れていけばいいのだろうか。妙案は浮かびません。

 そんな時に以前、挨拶をさせてもらった日本コカ・コーラ社のシニアマネージャーの藤野さんとその上司のアメリカ人副社長、グレッグさんを思い出します。

 藤野さんは、私がフードサービスに異動した際、研修講師として来てくれたことで面識を得ました。営業担当者の全国大会でもお会いし、いろいろと仕事のことを相談したこともありました。

 飛びぬけて現場志向が高く、会場では私の他にも数多くの営業担当者の話に耳を傾け、困ったことがあれば、各地のボトラーの本社と掛け合い、いろいろなサポートをしてくれていました。

 ダメ元で早速、藤野さんに連絡してみます。事情を話し、チェーン本部に行ってもらうことは可能かどうか。競合の牙城に食い入るまたとない機会なので力を貸してもらえないかとお願いしました。現場の一担当者としては結構な勇気を要しましたが、なんと藤野さんと副社長の返事はOKで、一緒にチェーン本部に行くことになりました。

 決まってからが大変です。訪問する際に乗っていくクルマも、副社長ですから営業車の助手席という訳にはいきません。友人にお願いしてBMWを借ります。まてよ、グレッグさんは日本語がまったく話せない。どうすれば…、また、藤野さんに相談です。「いいわよ、私が秘書兼通訳として一緒に行ってあげる」と心強い返事をもらいました。手土産も手配し、これで準備万端です。

 当日、副社長のグレッグさんと急ごしらえの秘書兼通訳の藤野さん、慣れないBMWのハンドルを握る運転手役の私。先方の駐車場にクルマで乗り入れ、3人で本社の受付に向かいます。

 先方には日本コカ・コーラ社からアメリカ人の副社長が一緒に伺う旨を事前に伝えてあります。案内の方が会議室のドアを開くと、そこには部長どころか、トップ、役員が並んでいます。一気に緊張感が高まります。

 いよいよスタートです。グレッグさんが開口一番「私は素晴らしいアミューズメントチェーンがあると伺いご挨拶に来ました。皆様は私たちの最も重要なお客様だと捉えており、大切なパートナーとして精一杯の支援をさせていただきたいと考えております。今日のこの時間をお互いにとって有意義なひと時にしましょう」。

 グレッグさんの言葉を通訳し、相手に伝える藤野さん。2人と先方のやり取りを横で見ていると、さながらどこかの国際会議のようです。いままでに私が経験したことのない場の雰囲気で、先方の態度もいままでとは少し違ったものを感じます。何より通常の商談では聞かれない前向きな話が出てくるのです。

 結局、その場で機材の導入が決まってしまいました。いままでの苦労が噓のようです。話し合いを終えて、先方のトップと握手を交わすグレッグさん。エントランスで見送られ、本社を後にしました。少し走ったところでクルマを停め、話の内容を確認します。その時、藤野さんから言われました。

「営業は1人だけでやる時代じゃない。組織営業とよく言われるけど、自分が持っている資産をすべて使うということを本当に考えている人は少ないのよ。これからもその姿勢を忘れないでね」

 現場の商談で、グローバル企業である日本コカ・コーラ社のアメリカ人の副社長の力を借りる。それまでの私の常識では考えられませんでしたが、常識を超える非常識なやり方の先に、いままで得られなかった結果が待っていました。パシフィックグループの関連店舗に私たちの機材が次々と設置されたのです。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?(本稿)
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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筆者:山岡 彰彦

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