佐川眞人博士、ジョン・J・クロート博士が受賞第44回『本田賞贈呈式・記念講演』事後レポート

2023年11月20日(月)19時16分 PR TIMES

社会のIT化の進展に大きく貢献、市場の95%を占める世界最強の永久磁石「ネオジム磁石」を開発

 公益財団法人 本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:石田寛人)は、「人間性あふれる文明の創造」に寄与する研究成果に対し表彰を行う、日本初の科学技術分野における国際褒賞である「本田賞」を1980年に創設。第44回目となる「本田賞贈呈式」を2023年11月16日(木)に帝国ホテル東京 孔雀東の間にて開催しました。本年度は、世界最強の永久磁石である「ネオジム磁石」を、それぞれ独立した研究によって同時期に発明し異なる製造方法を確立させた、佐川眞人博士(大同特殊鋼株式会社 顧問・NDFEB株式会社 代表取締役)と、ジョン・J・クロート博士(ジョン・クロートコンサルティング社 元代表取締役)に本賞を贈呈いたしました。

[画像1: https://prtimes.jp/i/68733/8/resize/d68733-8-b165d0b9c2b9f1fd3c08-0.jpg ]

 開会と同時に受賞者として紹介された佐川博士は、奥様とご一緒に入場され、盛大な拍手で迎えられました。まずは主催者挨拶として、本田財団理事長 石田寛人より「本田財団は設立から一貫して、自然や人間環境と調和するエコテクノロジーという概念を提唱し、普及と発展を強く訴えてまいりました。本田賞は1980年に、我が国における初めての科学技術分野における国際褒章として設立されました。永久磁石はエレクトロニクス、産業用機械、自動車など、幅広い分野で活躍され、現代社会の基盤材料として重要な役割を果たしています。佐川博士とクロート博士が独自の研究で開発し、モーターの大幅な軽量化、ハードディスクの小型化等が進み、社会のIT化を進展させました。ネオジム磁石は永久磁石市場の95%を占めており、世界のCO2排出量の削減に向けた省エネルギー技術の進化を支える存在です。カーボンニュートラル社会の実現に向け、地球規模でネオジム磁石の需要は高まっており、両博士に本田賞をお贈りできたことは、この上ない喜びです。」と称賛を述べました。

 続いて、本田賞選考委員会委員長内田裕久より「本田賞選考委員会では、現在世界に約300名いる推薦人の方へ、科学技術分野を問わず推薦をお願いしています。本年も推薦があった15カ国36組の候補者の中から、委員会において白熱した議論を
重ね、その結果、佐川博士、並びにクロート博士という素晴らしい受賞者を決定できたことを、委員会は大変嬉しく思っています。従来にない超強力磁石であるNd-Fe-B系永久磁石を発明された佐川博士、クロート博士は各業界に大きなインパクトを与えました。その後、カーボンニュートラル社会に向けた省エネ、脱化石燃料、脱炭素を目指すこととなり、強力な磁力を持つネオジム磁石は社会のIT化を発展させました。また、電動化とモーターの効率化は、CO2削減に向けた省エネ技術の進化を支えており、地球規模で需要が高まっています。これは世界各国がSDGsを目指した政策を実践に向けた証です。エコテクノロジーの原点は本田宗一郎が語っていた「技術で人々を幸せにすること」です。両博士の発明は、科学技術と人間性の調和及び人間環境と自然環境の両方を大切にするエコテクノロジーの重要性を、長年標榜し主張してきた本田財団の設立基本方針に一致し、本田賞にふさわしい業績成果と認め、両博士へ賞を贈呈する運びとなりました。」と選考の過程を説明しました。

 その後、クロート博士と佐川博士へ石田理事長より賞状が、松本副理事長からメダルの贈呈が行われ、クロート博士は「本田賞を受賞したことを大変名誉に思っています。敬愛する佐川博士とこの褒章を同時受賞することになったことに、感謝したいと思います。今思えば、1980年初頭に互いに同じ物質を発見したわけです。発見を発表したときは、別のグループが同時期にその発見を発表したことにショックを覚えたことを記憶していますが、今日、ネオジム磁石は、幅広い分野で、欠かすことのできない物質となっており、輝かしい発見をできたことを非常にうれしく思っております。」と喜びを語りました。
 その後、来賓の方々から祝辞をいただいた後、両博士による記念講演が行われ、第44回「本田賞贈呈式」は終了しました。

佐川博士・クロート博士 記念講演


[画像2: https://prtimes.jp/i/68733/8/resize/d68733-8-6b20e010b5d232ed2acd-0.jpg ]

 「ネオジム磁石の開発から-研究者は最高の仕事、最高の歓び」をテーマに佐川博士による記念講演、「『液体急冷法』によるネオジム永久磁石の発見」をテーマにクロート博士による記念講演が行われました。両博士より、学生時代の研究後、企業に勤務、ネオジム磁石の発見に至るまでのお話をいただきました。

 佐川博士は、「学生時代は自信がなかったが、企業へ勤めた後、大学院時代の研究基盤が活き、磁石の研究にのめり込んでいった」と語りました。成功した要因を 「考えて、考えて、考え抜く習慣とモノづくりが得意になること。頭の中で実験をして、実験装置やサンプルを作ることが好きになること。」と述べ、「若い人に科学の道を志してほしいです。」と語りました。

 クロート博士からは、「ネオジム磁石の発見により、家庭用電化製品の小型化やコンピューターの発展等大きな技術革新を促進できました。現在でもあらゆる種類のハイテクな用途に使われています。この発見と開発に参加できたことをうれしく思っており、光栄です。」と語りました。

世界最強の永久磁石「ネオジム磁石」の研究について


 永久磁石はエレクトロニクス、産業用機械、自動車など、幅広い分野で活用され、現代社会の基盤材料として重要な役割を果たしています。佐川博士とクロート博士が研究を開始した当時、最強の磁石は1969年に開発されたサマリウム(Sm)・コバルト(Co)系永久磁石でした。
 両博士は各々独立した研究のなかで、コバルトより資源量が豊富で高い磁気モーメント*1をもつ鉄(Fe)を用いた磁石材料の可能性を追求し、希土類(レア・アース)元素として、サマリウムの替わりにネオジム(Nd)を用い、微量のボロン(B)を加えた、Nd-Fe-B系永久磁石を発明。1982年、佐川博士は「焼結法」、クロート博士は「液体急冷法」という、それぞれ異なる製造方法をほぼ同時期に発表しました。
 強力な磁力をもつネオジム磁石(Nd-Fe-B系永久磁石)を用いることで、従来の磁石よりも少ない使用量で済むため、モーターの大幅な小型化、ハードディスクの小型化が進み、社会のIT化を進展させました。また、風力発電やハイブリッド自動車・電気自動車などのモーターにも使われるなど、ネオジム磁石は永久磁石市場の95%を占めるほど普及。電動化とモーターの効率向上によってCO2排出量削減に多大な貢献をしています。

<永久磁石研究の歴史:社会の要請に応え、進められた開発>
 永久磁石は外部からのエネルギー供給を必要とせず、自発的かつ恒常的に磁場を発生させる物体です。最初の永久磁石は紀元前600年頃にギリシアのマグネシア地方で自然に産出した磁場鉱から得られました。人工的な永久磁石は1917年本多光太郎博士によって発明され、その後に様々な種類の磁石が開発されました。希土類(レアアース)とコバルトを組み合わせた磁石の研究も進み、1969年にはオランダのK. H. J.ブッショウ博士らにより高圧で成形する方法が確立され、サマリウムとコバルトの化合物を用いた永久磁石の実用化が進みました。
 しかし、サマリウムとコバルトは希少資源であり、コバルトの産出がアフリカに偏在していたため、価格上昇のリスクが存在しました。工業製品向けには安定した大量生産ができることが必須で、安価で豊富な材料を用いた高性能磁石が求められていました。

<佐川博士の研究について:ネオジム磁石の発明と焼結法の開発>
 1975年、佐川博士は、サマリウム・コバルト系永久磁石(Sm-Co5磁石)の機械的な強度を改善する研究に取り組んでいました。その中で、資源量が豊富なうえに磁気モーメントが高い鉄で強い磁石ができないことに疑問を感じていました。鉄と鉄の原子間距離が近すぎることが希土類鉄磁石の開発が難しい理由であることを知り、これをきっかけに「原子半径の小さい物質を添加することで、その小さな物質が鉄と鉄の間の隙間に入って原子間距離を広げられる」との仮説を立てました。そして、種々の合金をアーク溶解炉に入れて溶かし、様々な組成の合金を作製。この時、鉄と希土類金属から成る合金に添加する元素として、原子半径の小さい炭素やボロンを選び、サマリウムやネオジムをはじめとする様々な希土類金属を試すなか、1978年中にはネオジム・鉄・ボロンの組み合わせが高い磁力を持つことを見出しました。
 佐川博士は化合物組成の詳細な検討だけでなく、製造条件についても合金粉末の粒径や熱処理条件を変化させて磁石を作製。その結果、化合物の粉末を型の中で加圧成形した後、強度を高めるために熱処理を加えて粉体粒子間を結合させ、ネオジム磁石を製造する方法(焼結法)を構築しました。
 焼結法によって作製されたネオジム焼結磁石は320 kJ/m3という大きな最大エネルギー積*2が得られました(サマリウム・コバルト系永久磁石の当時の最高記録は240kJ/m3)。1982年8月に特許を出願してからわずか3年で量産開始に至り、自動車や家電製品を皮切りに、現在ではEVや風力発電のモーター等、世界中で幅広く活用される永久磁石となりました。

<クロート博士の研究について:ネオジム磁石の発明と液体急冷法の開発>
 1972年、クロート博士はゼネラルモーターズ研究所の磁性材料グループに加わり、自動車部品に使用される高性能で低コストの永久磁石の開発に取り組んでいました。1973年、OPECの石油禁輸措置によって、世界的にガソリン価格が大幅に上昇。市場はより軽量で燃費の良い自動車が求めるようになりました。
 サマリウム・コバルト系永久磁石は1960年代に発見されていましたが、永久磁石の研究者の多くは、より豊富な希土類であるネオジムとプラセオジム(Pr)を鉄と組み合わせた、より低コストの永久磁石の発見を強く願っていました。
 1982年、クロート博士はケイ素、炭素、ホウ素などのさまざまな「ガラス形成元素」が急速に凝固したNd-FeおよびPr-Fe合金の特性に及ぼす影響を調査していた際、3元金属間化合物相(Nd2-Fe14-B)を発見。この金属間化合物相は、現在生産されている全Nd-Fe-B系永久磁石の基礎となっています。そして、液体急冷法で作られた永久磁石は、磁気的に等方的なボンド磁石の基礎となりました。
 ボンド磁石の磁気強度は焼結磁石よりも低いものの、熱安定性の高い薄肉ボンドリング磁石を迅速に製造することができます。コンピュータ周辺機器用の小型モーターに用いられる薄肉リング磁石のように、複雑な形状で成形できることから、精密機器分野で広く応用されています。
 クロート博士が開発した製造法は、その後、液体急冷法で作られたナノ結晶磁性粉末を金型内で熱間変形させる製造法へと発展。これにより、焼結磁石と同等の強度を持つ熱間変形ネオジム磁石が開発されました。薄肉で軸方向に配向したリング磁石を製造が可能となり、現在、高性能サーボモーターやステッピングモーターにおいてもネオジム磁石が使用できるようになりました

<ネオジム磁石の現在と未来:課題の克服と広がる用途>
 ネオジム磁石は工業化する道程において、サマリウム・コバルト磁石に比べて耐熱温度が低いという課題を抱えていました。この問題は重希土類であるジスプロシウム(Dy)を添加することによって解決され、耐熱性が約200℃まで向上し、モーターへの応用が実現しました。
 しかし、高耐熱のネオジム焼結磁石中におけるジスプロシウムの量は、ネオジムの3分の1程度に相当する一方で、自然界の埋蔵量はネオジムの10分の1以下しかないことから、使用量低減に関する研究が進みました。その結果、粒界拡散法*3の技術革新によって使用量を大幅に低減させることができ、同時に磁力も大幅に向上しました。
 開発から40年近くが経過したネオジム磁石の応用・用途は拡大し続けています。従来の永久磁石よりも強力な磁力を持つため、モーターの小型化と軽量化に貢献しており、ネオジム焼結磁石は、自動車やエアコン、ハードディスク、洗濯機、掃除機、エレベータ、産業機械など様々な分野で用いられ、省エネルギー化に大きく寄与しています。また、ネオジムボンド磁石は加工性に優れ、狭い空間で強力な磁界が要求されるハードディスクのスピンドルモーター、自動車内の小型モーター、携帯電話のスピーカーなど、小型かつ高機能が要求される分野で広く利用されています。ネオジム熱間加工磁石は、自動車の駆動用モーター、電動パワーステアリングモーターで実用化されています。
 これらのネオジム磁石は、次世代自動車(xEV)のモーター、風力発電機、ドローン、電動航空機への適用など大幅な需要拡大が予想されており、さらなる特性改善が求められています。また、CO2排出量の削減に向けた省エネルギー技術の進化を支えており、カーボンニュートラル社会の実現に向け、地球規模で需要が高まっています。そのため、製造時の資源効率向上やリサイクル技術の進展などの製造課題への対応も重要さを増しています。
 これらの特性改善と製造課題解決において、磁石材料開発への期待は高まっています。

*1 磁気モーメント:磁場に引き付けられる強さを示す指標
*2 最大エネルギー積:磁石材料から取り出せるエネルギーの最大値
*3 粒界拡散法:高温で加熱して磁石の表面にある重希土類元素を磁石内部に拡散させる手法。
  重希土類元素は、結晶粒と結晶粒の間(粒界)を通して内部に拡散し、隣接する結晶粒表面のみに濃化する。 
  これによって、少ない重希土類添加で、耐熱性を向上させることができ、
  重希土類の濃化に伴う磁化の低下も抑制できる。

本田財団とは


 本田財団は、本田技研工業株式会社の創業者本田宗一郎とその弟・弁二郎の寄附金によって、1977年12月に設立されました。当財団では、「自然環境」と「人間環境」の両方を大切にする技術を「エコテクノロジー*」と呼び、その発展と拡大を目指して、3つの活動に取り組んでいます。
 1.エコテクノロジーの概念に即して顕著な成果を達成した研究成果を表彰する国際褒賞「本田賞」
 2.現代社会が抱える種々の問題について解決のアイデアを議論し創出する「国際シンポジウム・懇談会」
 3.次世代を担う若い技術者・科学者リーダーを発掘育成する「Y-E-Sプログラム」
これらの活動を通じて、「人間性あふれる文明の創造に寄与する」ことを目指しています。

* エコテクノロジー(Ecotechnology):文明全体をも含む自然界をイメージしたEcology(生態学)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語。人と技術の共存を意味し、人類社会に求められる新たな技術概念として1979年に本田財団が提唱。

『佐川 眞人博士』プロフィール


[画像3: https://prtimes.jp/i/68733/8/resize/d68733-8-2346bce7c4d5145cedc6-0.jpg ]

佐川 眞人 博士
大同特殊鋼株式会社 顧問/NDFEB株式会社 代表取締役

生まれ
1943年8月3日 徳島県、日本

学歴
1966年 神戸大学工学部電気工学科卒業
1968年 神戸大学大学院修士課程(電気工学)修了
1972年 東北大学大学院博士課程(金属材料工学)修了 学位取得(工学博士)

職歴
1972年-1982年 富士通株式会社
1982年-1988年 住友特殊金属株式会社(現 株式会社プロテリアル)
1988年-2012年 インターメタリックス株式会社 設立、代表取締役
2013年-現在  NDFEB株式会社 設立、代表取締役
2016年-現在  大同特殊鋼株式会社 顧問
2017年-2019年 日本電産株式会社 顧問(現 ニデック株式会社)
2017年-2019年 京都大学エネルギー理工学研究所 特任教授
2019年-現在  東北大学 特別招聘プロフェッサー
2019年-現在  中国鉄鋼研究総院 客員教授
2022年-現在  名城大学カーボンニュートラル研究推進機構 シニアフェロー

受賞歴
1984年 大阪科学賞
1985年 科学技術庁長官賞
1986年 米国物理学会 新素材賞(現 ジェームス・C・マックグラディ新材料賞)
1988年 日本金属学会功績賞
1990年 朝日賞
1991年 日本応用磁気学会 学会賞
1993年 大河内記念賞
1998年 Acta Metallurgica J. Hollomon Award
2003年 本多記念賞
2006年 加藤記念賞
2012年 日本国際賞
2016年 永守賞 特別賞
2018年 NIMS Award 2018
2020年 日本金属学会賞
2022年 エリザベス女王工学賞
2022年 IEEE環境・安全技術メダル

『ジョン・J・クロート博士』プロフィール


[画像4: https://prtimes.jp/i/68733/8/resize/d68733-8-2df8c48476cc593e8ca6-0.jpg ]

ジョン・J・クロート博士
ジョン・クロートコンサルティング社 元代表取締役

生まれ
1943年5月23日 米国アイオワ州(アメリカ国籍)

学歴
1965年 アイオワ州シンプソン大学卒業
1968年 アイオワ州立大学修士課程修了
1972年 アイオワ州立大学博士課程修了

職歴
1972-1980年 ゼネラルモーターズ研究所 研究冶金学者
1980-1984年 ゼネラルモーターズ研究所 上級研究冶金学者
1984-1986年 ゼネラルモーターズ社デルコ・レミー部門
       アシスタント・チーフ・プロセス・エンジニア
1986-1990年 ゼネラルモーターズ社デルコ・レミー部門
       マグネクエンチ チーフ・エンジニア
1990-1996年 ゼネラルモーターズ社デルコ・レミー部門マグネクエンチ 常務取締役
1996-2004年 アドバンスト・マグネティック・マテリアルズ・タイ社 代表取締役
2004-2017年 ジョン・クロートコンサルティング社 代表取締役

受賞歴
1985年 米国物理学会 物理学応用賞
1985年 アイオワ州立大学 特別功労賞
1986年 米国物理学会 新素材賞(現 ジェームス・C・マックグラディ新材料賞)
1994年 米国金属学会 最優秀技術賞.
2022年 IEEE 環境・安全技術メダル

PR TIMES

「博士」をもっと詳しく

「博士」のニュース

「博士」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ