『君ここ』『Eye Love You』『ふてほど』…今冬ドラマの主人公に“ひとり親”が続出している背景

2024年2月14日(水)11時0分 マイナビニュース

●メインテーマに据えるほどの時代性は低い
今回のテーマは、「今冬のドラマは“ひとり親”の設定が多くないですか?」と尋ねられたことが発端だった。
実際、『君が心をくれたから』(フジテレビ)の逢原雨(永野芽郁)は母親・霞美(真飛聖)のみで、朝野太陽(山田裕貴)は父親・陽平(遠藤憲一)のみ、『春になったら』(カンテレ・フジ系)の椎名瞳(奈緒)が父親・雅彦(木梨憲武)のみ。
『Eye Love You』(TBS)の本宮侑里(二階堂ふみ)は父親・誠(立川志らく)のみ、『ジャンヌの裁き』(テレビ東京)の越前剛太郎(玉木宏)は2人の子どもを育てるシングルファーザー。
『不適切にもほどがある!』(TBS)の小川一郎(阿部サダヲ)はシングルファーザーで、犬島渚(仲里依紗)はシングルマザー、『厨房のありす』(日本テレビ)の八重森ありす(門脇麦)は父親・心護(大森南朋)のみ。
また、『さよならマエストロ』(TBS)の夏目俊平(西島秀俊)も、妻・志帆(石田ゆり子)が離婚届を突きつけて家を出たという設定で、子ども2人を育てるシングルファーザーのようになっている。
確かに多いのだが、その背景には何かがあるのか。テレビ解説者の木村隆志が探っていく。
○「感動」「お涙ちょうだい」の紙一重
制作サイドが「社会的な背景を踏まえて“ひとり親”の実態を描いたドラマを作ろうとしたか」と言えば、ほとんどそうではないだろう。実際、“ひとり親”の子育てにおける苦労や問題、あるいは楽しさを描いたシーンは少なく、それぞれ別のメインテーマが設定されている。実際、冒頭に挙げた中で“ひとり親”をメインテーマに掲げた作品は、余命3カ月の父と3カ月後に結婚予定の娘の関係性を描いた『春になったら』くらいだ。
そもそも深刻化しているのは未婚に伴う少子化であり、逆に“ひとり親”であることは、そのサポートこそ必要である一方、そのこと自体は問題視されていない。「ドラマとして“ひとり親”をメインテーマに据えるほどの時代性は低い」という様子がうかがえる。
では、なぜ制作サイドは“ひとり親”の設定を採用するのか。その理由は、主に人物相関図の単純化にある。親子の関係性を描くとき、2対1より1対1のほうが良くも悪くも両者の結び付きを濃密に見せやすく、喜怒哀楽などの感情が視聴者に伝わりやすい。
例えば、父と娘に確執があった場合、ひとり親ではなく母親もいたら、それが娘にとっての救いになり、不仲のムードが薄れてしまう。また、父母の2人ではなく、父が1人で娘を育ててきたという設定だからこそ、「大変だっただろう」「仲良くなってほしいな」などの視聴者感情を抱かせやすいところがある。
このような“ひとり親”は、今冬に始まった話ではなく、昭和時代から制作サイドが多用してきた設定。病死・事故死などの悲劇や子育ての苦労話につなげやすく、感動を誘える反面、「お涙ちょうだい」と言われ、時代とともに好き嫌いがわかれやすい作風となっていた。
●「ながら視聴で集中力ダウン」に対応
特に否定的な人から「“ベタ”“安易”で感情移入できない」などと言われてきたが、2010年代後半あたりから視聴者の視聴習慣が変わったことで息を吹き返した。スマホやタブレットを見ながら、ゲームをしながら、家事をしながらなどの“ながら見”が普通のこととして定着。ドラマを見ることへの集中力や理解力が下がり、制作サイドは複雑な関係性を描いて訴求することが難しくなった。
もちろん集中力や理解力が高い視聴者も多く、SNSで積極的に発信している人もいる。しかし、民放各局が求める「視聴率や配信再生数を上げるためには人物相関図を単純化したほうがいい」という意識の作り手が多いのも確かだ。
現在の視聴者は親子に限らず、恋人やライバルなどの関係性においても、「2対1や三角関係よりも1対1のほうが分かりやすく感情移入できる」という人が多数派。今冬の“ひとり親”に病死か毒親という、分かりやすく感情移入しやすい設定が採用されていることが、それを裏付けている。
加えて、主人公の雨が“ひとり親”を超えて祖母・雪乃(余貴美子)に育てられた『君が心をくれたから』ような、さらに涙を誘う分かりやすい設定も少なくない。また、『厨房のありす』はゲイの“ひとり親”という誰もが「出生の謎があるのだろう」と気づく設定を採用しているが、これも分かりやすさ優先の一例だろう。
局を超えて人物相関図の単純化が進んでいると感じさせられるのは、冒頭にあげた『君が心をくれたから』『春になったら』『Eye Love You』『ジャンヌの裁き』『不適切にもほどがある!』『厨房のありす』『さよならマエストロ』の7作すべてオリジナルであること。「原作の小説や漫画がそうだから“ひとり親”にした」のではなく、「あえて“ひとり親”を選択した」という様子がうかがえる。
これは裏を返せば、「ドラマは小説や漫画より単純化した設定でなければ視聴率や配信再生数が得られづらい」という制作サイドの見立てによるものではないか。
○キャスティング難航や経費削減も
さらに、一部のドラマ制作スタッフから「人物相関図の単純化はキャスティングの難しさもある」という声も聞いた。基本的に主人公の親や配偶者には、それなりに知名度のある俳優をキャスティングしたいところだが、ここ約2年間のドラマ枠急増やスケジュールの前倒しによって、希望通りにいかないケースが増えている。
それならば「最初から“ひとり親”の設定にしておこう」と考えるのは自然な流れだろう。例えば、「スポット出演ならOK」「写真だけの登場ならOK」などの形で多忙な俳優たちを起用できる。
また、もう1つ難しさをあげると、「制作費の削減」という要素も見逃せない。「主人公の親や配偶者という重要なポジションに起用する俳優の報酬を1人分カットできる」ことは確かだ。制作サイドは「どこにどれだけお金を使うか」の取捨選択を迫られ、それが主要キャストにも及んでいる。
ここまで挙げてきたように、公私を問わず現代人のやることが増えた今、ドラマに対する集中力の低下は避けづらく、加えてキャスティングの難しさや予算削減の意味合いなどもあって人物相関図は単純化している。その1つが“ひとり親”という設定なのかもしれない。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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