「ジャングル・ブギー」も大ヒット!『ブギウギ』モデル・笠置シヅ子は映画にも引っ張りだこに…黒澤明、エノケン、服部良一らが彩る<空前のブギウギ旋風>到来!

2024年2月19日(月)6時30分 婦人公論.jp


「ブギの女王」としてシヅ子は映画にも引っ張りだこに!(写真提供:Photo AC)

NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』。その主人公のモデルである昭和の大スター・笠置シヅ子について、「歌が大好きな風呂屋の少女は、やがて<ブギの女王>として一世を風靡していく」と語るのは、娯楽映画研究家でオトナの歌謡曲プロデューサーの佐藤利明さん。佐藤さんいわく「ついに『ブギの女王』となったシヅ子は、映画界でも引っ張りだことになっていった」そうで——。

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笠置シヅ子と映画


ここで「東京ブギウギ」をリリースするまでの戦後の笠置シヅ子のレコードと映画について触れておく。

戦後初の笠置のレコードは、1946(昭和21)年11月発売の「センチメンタル・ダイナ」(作詞・野川香文)のセルフ・カヴァーである。この曲は「スウィングの女王」の出発点である。

カップリングは、戦時中に未発売だった南方歌謡「アイレ可愛や」(作詞・藤浦洸)だった。

「センチメンタル・ダイナ」は、1947(昭和22)年12月30日公開の映画『春の饗宴』(東宝・山本嘉次郎)で、黒いイブニング・ドレス姿のシヅ子がスウィンギーに歌唱する。

敗戦後2年間の彼女のパフォーマンスは圧倒的である。

映画はその後、主題歌としてフィーチャーされた「東京ブギウギ」のパワフルなソング・アンド・ダンスへと展開していく。

また「アイレ可愛や」は、戦後初めてシヅ子が出演した映画で、この年9月16日公開の『浮世も天国』(新東宝=吉本プロ・齋藤寅次郎)の挿入歌として劇中で唄った。

横山エンタツ、花菱アチャコ、徳川夢声、古川ロッパに加えて「アノネ、オッサン、ワシャかなわんよ」のフレーズで戦前、戦中の子供たちを夢中にした怪優・高勢實乘の五人男が出演。原作は「轟先生」の人気漫画家・秋吉馨。

残念ながらプリントが現存しないので、観ることは叶わないが、笠置のパフォーマンスはおそらく観客を圧倒したことだろう。

戦前の映画出演


戦前「スウィングの女王」として大人気だったシヅ子だが、意外なことに戦前の映画出演は一作品だけ。

SGD(松竹楽劇団)時代、元祖・唄う映画スター・高田浩吉主演の『弥次喜多 大陸道中』(39年・松竹下加茂・吉野栄作)である。


『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)

藤井貢、伏見信子の松竹スターに加えて、第二次あきれたぼういずの坊屋三郎、益田喜頓、山茶花究が共演。

同名主題歌は、高田浩吉と上原敏のデュエット(作詞・藤田まさと、作曲・高橋虎之助)でカップリングは伏見信子の「唄ふ姫君」(同)。ポリドールからリリースされている。

この時は、シヅ子はレコード・デビュー直前、何を歌ったのか、SGDのジャズ・ソングの替え歌だろうか、と興味は尽きない。

幻の映画


幻の映画、ということでは2017年、神戸映画資料館で戦前のアニメーション映画『HOT CHINA 聖林(ハリウッド)見物』(演出・中山浩、齊藤弥仁)が新たに発見され、上映された。

10分の短編漫画映画だが、笠置シヅ子とリズム・ボーイズをフィーチャーしている。


年末公開『春の饗宴』以降は「ブギの女王」として、各社の映画に引っ張りだことなる(写真提供:Photo AC)

シヅ子と中野忠晴がアニメで登場。

40年9月に発売禁止になった「タリナイ・ソング」「ホット・チャイナ」の頃の製作と思われる。

服部良一は自伝「ぼくの音楽人生」(93年・日本文芸社)で、「ラッパと娘」「センチメンタル・ダイナ」に「つづいて出た『日本娘のハリウッド見物』は紺屋高尾を素材にした浪曲調ジャズとして好評だった」と回想している。

残念ながら「日本娘のハリウッド見物」は、1940(昭和15)年1月SGDのステージ「新春コンサート」で「紺屋高尾ハリウッドへ行く」として披露されたが、レコード化されておらず、聴くことが出来ない。

この短編のタイトルが『HOT CHINA 聖林見物』というのが興味深い。

ことほど左様に、戦前、戦中の音楽や映画について、現存しないものは遅れてきた世代には謎が多い。周辺情報や状況から類推するほかないので隔靴掻痒である。

空前のブギウギ旋風!


戦後、映画初出演となった『浮世も天国』の公開直後、「東京ブギウギ」がステージで歌われてじわじわと評判となり、年末公開『春の饗宴』以降は「ブギの女王」として、各社の映画に引っ張りだことなる。

ここからステージ、レコードに加えてシヅ子の「映画時代」が本格的に始動する。

1948(昭和23)年4月には、「ヘイヘイブギー」をフィーチャーした『舞台は廻る』(4月12日・大映・田中重雄)、黒澤明がシヅ子のパフォーマンスに注目して「ジャングル・ブギー」を書き下ろした『酔いどれ天使』(4月27日・東宝)、大映伝統の音楽ファンタジー『春爛漫狸祭』(6月29日・大映・木村恵吾)では、戦前発禁となった「ホット・チャイナ」の替え歌をブギウギでパワフルに歌った。

さらにエノケンとの映画では初共演の『エノケンのびっくりしゃっくり時代』(7月5日・大映・島耕二)、音楽喜劇「歌ふエノケン捕物帖」(12月31日・エノケンプロ・渡辺邦男)と5本の映画に出演。

いずれもパワフルに歌唱する笠置シヅ子の姿がフィルムに記録されている。

こうした出演作のほとんどの音楽は、服部良一が手がけた。

『酔いどれ天使』は黒澤の盟友・早坂文雄が担当したが「ジャングル・ブギー」を、笠置のバックバンド、楽団クラック・スターが演奏するシークエンスは、服部が編曲、音楽を担当している。

シヅ子は、1956(昭和31)年末に歌手業からの引退を決意、女優に専念することになるが、引退前に出演した『のんき裁判』(55年・新東宝・渡辺邦男)まで、およそ25作品でパワフルに歌って踊る。

戦後黄金時代のパフォーマンスのエッセンスがこれらの作品に凝縮されている。

ソフトパッケージ化されているものは僅かだが、CS放送の映画チャンネルでは、ほぼ全作品放映されているので、今後も視聴のチャンスはあると思う。

※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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