【インタビュー】ピーター・ディンクレイジ、『シラノ』が今の時代に伝えるメッセージ「隠れず、恐れず、想いを伝える」

2022年2月25日(金)17時30分 シネマカフェ

『シラノ』(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

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もしも「ゲーム・オブ・スローンズ」の熱心なファンであれば、キャスト総出演のチャリティ番組で魅惑のバリトンを響かせる“ティリオン・ラニスター”を目にしているかもしれない。しかし、多数の人はピーター・ディンクレイジとミュージカル映画の組み合わせに新鮮な驚きを覚えたはず。不朽の戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」を原作にしたミュージカル映画『シラノ』で、彼は主人公の剣豪シラノを演じた。

「僕がすべきは、物語を語るため歌にハートをのせること」

「僕にとっても新鮮で楽しい挑戦だった。ミュージカルは幼いころに出たことがあるだけだし、パンクバンドを組んでいた時期もあるけど、そのときは歌うというより叫んだり飛び跳ねたりしていた(笑)。だから、もちろん恐れはあったよ。でも、とても美しい脚本があり、心に響く楽曲もあった。その中で僕がすべきは、物語を語るため歌にハートをのせること。それなら、真のブロードウェイスターでなくとも務まると思ったんだ」。

ボブ・ディランも、ジョン・レノンも、ポール・マッカートニーも、音楽を通して僕たちに何かを語りかけてきた。音楽は強い。間違いなくね。人に愛を伝えるときこそ、歌にのせるべきだ」ともリモート画面越しに語り、音楽と言葉の幸せな関係を説くピーター。「すべての曲が台詞の延長線上にあり、物語と歌がスムーズにつながっている」という脚本は、ディンクレイジ夫人でもある劇作家エリカ・シュミットが手掛けたもの。映画『シラノ』が製作される以前、好評を博した舞台版のシラノ役もピーターだった。

「舞台版はもっと抽象的で、歴史的背景が明確に描かれることはなかった。それに比べ、映画には17世紀フランスという時代がもう少し正確に反映されている。自由があるのは舞台も映画も同じだけどね。例えば、物語の中盤でシラノは戦地に行く。僕のようなサイズの人間が軍隊にいるのは幸いにも現実味のないことだけど、その展開は舞台にも映画にもある。あと、映画はより親密な作りになっていると言えるかもしれない。アップのショットもあるし、シラノ、ロクサーヌ、クリスチャンの関係により焦点があたっているから」。



切なくやるせないストーリー「隠れず、恐れず、想いを伝えたほうがいい」

基となった戯曲では大きな鼻にコンプレックスを持つシラノが、幼なじみのロクサーヌに恋心を抱く。だが、彼女が恋に落ちたのは輝く容姿のクリスチャン。恋の橋渡しを頼まれたシラノは文才のないクリスチャンに代わり、美しい恋文を何通も何通もしたためる。あまりにも有名なストーリーラインはそのままだが、ディンクレイジ版シラノは大きな鼻ではなく、肉体そのものに引け目を感じている。

「僕の体はこの通りのサイズなので、このまま演じればよかった。それにより、物語に説得力が生まれたと思う。これまでのシラノは容姿端麗な俳優が大きな鼻をつけて演じることも多かった。それはそれで構わないし、役を演じるにあたって特殊メイクに頼った経験は僕もある。でも、この物語にその選択は相応しくない。物語が放つ愛のメッセージが、より伝わるようにしたかったんだ。僕自身に響いたようにね」。

「物語が放つ愛のメッセージ」は美しくもあるが、あまりに切なくやるせない。本作の脚本家のハートを射止めて早20年近く、2人の子どもの父親でもあるピーターは「少なくとも、シラノを真似すべきではないね」と優しく笑う。

「隠れず、恐れず、想いを伝えたほうがいい。自分に正直であるべきだ。そうすれば愛は芽生えるし、愛は育つ。信じた心を表現すること。それが愛だと思う。そう考えると、この物語は今の時代にも通ずる。シラノの手紙で、クリスチャンは自分をよく見せようとするのだから。オンラインで大勢がやっているだろう? 欠点を隠し、どれだけ魅力的かをアピールし、実際に会って失望する。正直に自分を伝えず、作りたいイメージの中に隠れるからそうなるんだ。それに対する答えが、『シラノ』だとも思う」。



自身の大事な分岐点は「子供を持ったこと」

シラノの物語の中には、多くの「あのとき、ああすれば」が存在する。ロクサーヌに想いを伝えておけば、クリスチャンに素直な気持ちを明かしておけば…。「“あのとき、ああすれば”は思い当たらないけれど、“あの瞬間がいまの自分を形作っている”と思えることはある」と、ピーター自身にも大事な分岐点が人生に存在したことを明かす。

「子供を持ったことは、僕の人生における最大のターニングポイントだった。誰にとってもそうであるようにね。子供の誕生によって、僕は無条件の愛を知った。愛の定義とは何かも。自分のことを考える前に、自分以外の人のことを考えるようになったんだ。シラノのように選択を誤らなくてよかったよ。大事な大事な分岐点だ」。

良き父にして、良き夫にして、良き俳優。冒頭にタイトルを挙げた大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」から『X-MEN:フューチャー&パスト』(14)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)といった大作映画まで、活躍ぶりが留まることはない。撮影済みのものから撮影を控えたものまで、公開待機作も常に数本を超える。

「“Ever tried. Ever failed. No matter. Try again. Fail again. Fail better.” 敬愛する劇作家のサミュエル・ベケットがこう言っている。“何度挑戦し、何度失敗しても問題ない。また挑戦し、また失敗すればいい。前より上手に失敗すればいいだけだ”とね。結局、失敗なんてものはない。ミスをして失敗したら、さらに努力してもう一度やればいいだけの話なんだ。そうすれば、いつかは成功する。この言葉を信じ、自分を信じ、僕はここまでやってきた。演技というものは抽象的で、奇妙で、とらえどころのないもの。正解はないし、間違いもない。本能を信頼し、それがベストだと願うだけ。最高の人たちと仕事をしながらね」。

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