日テレが漫画原作ドラマの制作見送りを発表 「テレビは漫画のドラマ化をやめるべき」なのか

2024年2月28日(水)11時0分 マイナビニュース

●『セクシー田中さん』をめぐる問題を受けての措置
ムロツヨシ主演で4月期に放送予定だったドラマ『たーたん』(日本テレビ)の制作見送りが、話題を集めている。これは、昨秋に放送された『セクシー田中さん』(日テレ)の脚本をめぐるトラブルと、漫画原作者・芦原妃名子さんが急死したことの影響を受けたものに他ならない。
その理由には「日テレが小学館の漫画をドラマ化する」という同じ図式である上に、同じプロデューサーが担当することなどが報じられている。「視聴者からの批判を避けられない」と考えたのか。それとも、スポンサーから進言などもあったのか。いずれにしても『たーたん』の制作見送りは、2月15日に社内特別調査チームの設置と調査を明かしたあとの発表だけに、「その対応では乗り切れなかった」という誤算が透けて見える。
この制作見送りを受けてネット上には、「当然」「遅すぎる」などの厳しい声があがっているが、1つ気になるのは「これを機にドラマは漫画原作をやめるべき」というニュアンスの声が目立つこと。果たしてその声は妥当なのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○漫画家と出版社がドラマ化を希望
まず「これを機にドラマは漫画原作をやめるべき」という声について。これは誤解もあるだろうが、実態や現実を知らない第三者の声としては言いすぎているのかもしれない。
『セクシー田中さん』と芦原さんは悲しい出来事につながり、何人かの漫画家が「me too」の声をあげているのは事実だが、一方でドラマ化で喜んでいる漫画家も多く、彼らは声をあげていないだけという現実もある。芦原さんが亡くなって日が浅い今、「私はドラマ化してよかった」などと肯定的な声をあげることは難しい。
ドラマ化されたらタイトルやストーリーが何度となくテレビやネットで扱われ、SNSで話題になり、漫画が売れるのはもちろん、関連商品やイベントなどの二次的収入も期待できる。それ以前に私が取材している限りでは、「漫画の読者層は限られているので、ドラマ化で、より多くの人々に作品の存在を知ってもらうチャンス」と考えている漫画家は多い。
さらに言えば、大半の漫画家は「1話・45〜50分を9〜11話放送する」「数回のCMが入る」「放送時間帯によって表現の幅が変わる」「スポンサーへの配慮が求められる」などのドラマ化に伴う事情を聞いて、ある程度の脚色を受け入れている。
もちろんそれが嫌であれば「断る」という選択肢もあり、出版社との話し合い次第となる。ただ出版社にしてみれば、ドラマ化は売上を伸ばす大きなチャンスであり、視聴者数が多いゴールデン・プライム帯の作品であればなおのこと。事実、刑事や医療、不倫や復讐などを描いた漫画の中には、キャラクター設定やコマ割りなども含め、「最初からドラマ化を狙って作られている」ものも少なくない。
本来ドラマ化は漫画家、出版社、テレビ局の3者が「ウィン・ウィン・ウイン」の関係性になり得るものであり、「『セクシー田中さん』がうまくいかなかったからやめる」のでは、あまりに白か黒かの極論すぎるのではないか。本当の意味で漫画家を守るためには、ドラマ化の機会は必要だろう。また制作に際しては、本人の意向を汲むのは当然のこと、テレビ局と出版社が密なコミュニケーションを取って進めていきたいところだ。
○漫画原作のドラマは2割に過ぎない
次に「ドラマは漫画原作ばかり」という声について。『セクシー田中さん』の件が報じられてから1カ月あまり、ネット上の記事やSNSのコメントにはこのような見方が相次いでいるが、一部しか正しいとは言いづらいところがある。
今月16日、別のネットメディアに「『セクシー田中さん』報道で多発する意外な勘違い 現在のドラマは本当に漫画原作ばかりなのか?」(東洋経済オンライン)というコラムを書いたが、以下にそこで紹介したデータをあげていこう。
まず現在放送中の冬ドラマでは、民放ゴールデン・プライム帯(19〜23時)の16作中13作(81%)が原作のないオリジナルで、原作ありは3作(19%)。そのうち漫画原作は1作(6%)。※残りの2作は小説
次に『セクシー田中さん』が放送された昨秋の同時間帯は、16作中9作がオリジナル(56%)で、原作ありは7作(44%)。そのうち漫画原作は5作(31%)。※残りの2作はノンフィクションと韓国ドラマ
もう1クール前の昨夏は16作中9作がオリジナル(56%)で、原作ありは7作(44%)、そのうち漫画原作は3作(19%)。※残りの4作は小説2作、ドキュメント、台湾ドラマ
さらにもう1クール前の昨春は15作中9作がオリジナル(60%)で、原作ありが6作(40%)、そのうち漫画原作は3作(20%)。※残りの3作はすべて小説
ここであげてきた最近の4クール・1年間分を合算すると、ゴールデン・プライム帯で放送された63作中40作がオリジナル(63%)で、原作ありは23作(37%)。そのうち漫画原作は12作(19%)だった。
つまり、漫画原作は1クール計15〜16作中3作程度であり、20%前後にすぎない。視聴率低下を止めるために漫画原作のドラマが量産された2010年代より減っているのは間違いなく、現在はオリジナル重視の戦略が進められている。
●漫画原作よりオリジナル優先の理由
振り返ると2010年代のドラマは視聴率を獲得していく上で厄介者扱いされることが多く、実際にドラマ枠は減っていたが、20年代に入ると一転して右肩上がりで増え続けている。民放各局におけるドラマは、「配信を中心にしたIP(知的財産)ビジネスの要」という最重要コンテンツに変わったのだ。
現在、民放各局はCMによる放送収入の低下をカバーするために、動画広告、自局系動画配信サービスの有料会員、海外配信、映画や舞台、イベントやグッズなど、さまざまな手段で収入を得ていくことが求められている。
その点、原作のないオリジナルドラマは、シリーズ化、スピンオフ、メイキング、海外配信、映画、イベント、グッズが自由に制作・販売できるなど、収益化の面でメリットが大きい。だからこそ日本最長の歴史を持ち、民放トップの影響力を持つTBS「日曜劇場」は、近年“ほぼオリジナル”の方針が貫かれている。
その他、「原作者や出版社などとのやり取りや許諾が不要でスピーディーに進められる」「脚色の制限がなく、キャラクター設定、伏線、小ネタなど、視聴率と配信再生数の両方を狙える脚本にしやすい」「ネタバレがないため考察を促し、終盤に向けて盛り上がれる」「他局との原作争奪戦を回避できる」「原作ファンからの批判を回避できる」などのメリットがあり、オリジナルの優先の方針で編成されている。
○深夜帯の漫画原作ばかりは要改善か
しかし、前述したデータには続きがあった。現在放送中の冬ドラマを見ると、深夜帯(23時〜)は主要作だけで漫画原作のドラマが11作もある。このところ今冬に限らず深夜帯のドラマは大半が漫画原作のドラマで占められていて、真夜中に限って言えば「ドラマは漫画原作ばかり」と言われても仕方がないだろう。
深夜帯のドラマは「制作費、関わる人数、かけられる時間、PRの質量などがゴールデン・プライム帯に大きく劣る」という厳しい制作環境だけに、「オリジナルより制作しやすく、すでに一定のファン層がいる漫画に頼りたい」という姿勢が透けて見える。
ただ、「深夜帯からのヒットは年に1〜2作あるかどうか」というレベルだけに、漫画家、出版社、テレビ局の3者にとっても本当の意味で「ウィン・ウイン・ウィン」の関係性になることは難しい。
民放各局の台所事情を踏まえると今後も、「勝負をかけたゴールデン・プライム帯のドラマはオリジナルを中心に制作し、漫画原作は現状の20%程度に留めていくべき」だろう。また、前述したように「金、人、時間、PRなどの面で厳しい深夜帯は、漫画原作に頼りすぎるくらいなら枠を減らしたほうがいい」のかもしれない。
一方で漫画家や出版社から見たら、「深夜帯ばかりではなくゴールデン・プライム帯でもっとドラマ化してほしい」ことは確かだ。具体的には「20%程度で留めず30〜50%くらいにまで増やしてほしい」と思っているのではないか。
もちろんその際は、漫画家、出版社、テレビ局の3者が十分なコミュニケーションを取って、それぞれにメリットがある落としどころを探っていく丁寧な仕事が求められる。とりわけ『セクシー田中さん』がそうだったように、原作漫画が完結していないケースでは細心の注意を払わなければいけないはずだ。
すべての作品が「漫画家が自分のSNSで積極的にドラマのPRをする」ような協力体制を築いていきたいところだろう。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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