昭和から平成にかけてなぜか全国で流行した「タイムカプセル」。約30年ぶりに掘り出した作文に記された<自分へのメッセージ>とは…
2024年3月6日(水)17時35分 婦人公論.jp
(写真提供:東海村観光協会)
茨城県の東海村は、景勝地に埋設されたタイムカプセルを掘り起こし、封入した作文を書いた本人へ返却している(返却期間は24年3月1日から6月30日まで)。作文には、当時村内の小中学校に在学していた児童・生徒たちの「30年後の夢」が書かれているそう。 該当する編集部員が受け取った作文に書かれていたのは…
* * * * * * *
あのタイムカプセル
ある日のこと。中学校の同級生で立ち上げたLINEグループが何やら盛り上がっておりました。
<どうやら、あのタイムカプセルがいよいよ掘り出されるらしい>
タイムカプセル…?
LINEのタイムラインを追うと、私の出身地の東海村では、村内の小中学校に在学していたすべての児童・生徒に「30年後の夢」というテーマで作文を書いてもらい、カプセルへ封入。それをおよそ30年後に掘り起こす、というイベントをかつて行っていたことが分かりました。
そのカプセルが「いよいよ掘り出される」という村の広報をいち早く見たみなさんが、さっそくざわついていたのでした。
ちなみに今から30年前といえば1994年(平成6年)。当時の日本では…
●村山内閣発足
●『名探偵コナン』連載開始
●円高が加速し、戦後初の100円突破
●イチローが史上初の1シーズン200本安打達成
●「プレイステーション」「セガサターン」発売
●日本人初の女性宇宙飛行士・向井千秋さん宇宙へ
といったことが起きています。コナンはこの頃から黒ずくめの組織と戦っていたのか。
一方、91年のバブル崩壊以降を指して「失われた30年」とよく言いますが、価格破壊やリストラが進んで就職難が深刻になるなど、長く暗いトンネルの始まりのような時期でもありました。
なお94年、新語・流行語大賞の年間大賞を受賞したのは、安達祐実さんの「同情するならカネをくれ」…。
怖い気持ちしかない
話はタイムカプセルに戻ります。
LINEグループでは「あの手紙がどうなったか、ずっと気になっていた」「手紙に書いたことを実現したいと思って過ごしてきた」といった感想も。
しかし、私自身はイベントそのものを覚えておらず、当然ながら書いた内容もさっぱり。
くわえて当時は中学生という、いろいろと微妙な時期。正直、怖い気持ちしかない…と感じつつも、取材を兼ねて東京から受け取りに向かうことに。
訪問先はJR東海駅の至近にある東海村観光協会事務局。担当の津田さんにお話をうかがいました。
東海村観光協会へ
作文返却を行っている東海村観光協会は「東海村産業・情報プラザ」の中にあります(写真:『婦人公論.jp』編集部)
津田さん「1993年、村政発足35年記念で選定された景勝地『東海十二景』を啓蒙する目的で、それぞれの場所に石碑を建立しまして。それにあわせて、92年当時の小中学校の児童・生徒に、30年後の夢や自分へのメッセージを書いてもらい、その作文を入れたタイムカプセルを石碑の傍らへ埋めました。それがおおよそ30年の時を経て、この度掘り出された、ということになります」
村内全ての小中学生となると…
「正確な数は把握できていませんが、当時の村内には小学校は6校、中学校が2校ありましたので、3600人ほどになるはずです」
ショベルカーをつかって掘り出した時のお写真をお借りすることができました。およそ30年の時を経ても、作文はカプセルの中で非常に良い状態のまま、きれいに保存されていたそうです。
タイムカプセルを掘り出す様子(写真:東海村観光協会のインスタグラムより)
「昨日(3月1日)から返却を始めたのですが、すでに2、30人ほどでしょうか。今日も朝からひっきりなしに、受け取りへいらっしゃっています」
感想を聞いてみました
お子さんと一緒に作文を受け取りにきたというお母さんから、お話をうかがうことができました。
記憶にないながら、小学4年生のときに書いたそう。その場で封筒を開封されるということでしたので、許可を得て同席させていただきました。
「まったく覚えていなかったんですが…。人の役にたつ仕事をしたい、と書いてありますね」
「その通りになってるじゃん!」
お母さんは現在、介護の仕事に従事されているとのこと。お子さんは次の4月で、当時お母さんが作文を書いた4年生へ進級するそうですが、一緒に読む彼はどこか誇らしそうでした。
もう一人、中学1年生の時に書いたという女性の方にもお話をうかがいました。
「文面はとても披露できそうにありませんが、全体から、とにかく老いへの不安を強く感じます。オバタリアンにだけはならないで、と書いてありますね…」
過去の自分からの「老けるな」という厳しいメッセージに動きを失う(写真:『婦人公論.jp』編集部)
津田さんによれば、夢はもちろん、自分宛てのメッセージとともに将来なっていてほしい職業を書いた人が多いとのこと。絵を描いたり、写真を貼ったりする人もいるなど、なかなかバラエティに富んでいるようです。
なぜタイムカプセルだったのか
しかし、そもそもなぜ「タイムカプセル」を埋めることになったのでしょうか?
東海村観光協会の受付。村のマスコットキャラ”イモゾー”が皆さんをにこやかにお待ちしております(写真:『婦人公論.jp』編集部)
実は取材に際して、今回の件と直接関係のない方からも「何かのイベントで埋めた気がする」「学校単位で埋めた覚えが」という声をチラホラと耳にしました。
津田さん「おそらく当時の流行り、だったのかもしれません」
調べると、かつての大阪万博やつくば万博など、特に万博開催を記念してタイムカプセルを埋めるイベントが開催され、それを発端に、全国的にタイムカプセルが流行していった、という時代背景があったようです。
ちなみに1970年の大阪万博では、松下館に展示していたタイムカプセルを二つ、大阪城本丸跡に埋めており、一つは毎世紀初頭、もう一つは1970年から数えて5000年後の6970年に開封されるそうです。
かくいう私も、1985年につくば万博で行われていた「科学万博ポストカプセル2001」に参加し、そこで出した手紙を2001年に受け取った覚えがありました。当時、茨城県内での万博の盛り上がりはすごかったので、村のタイムカプセル事業にも影響があったのかもしれません。
津田さん「掘り出したカプセルは、事前に許可を頂いた方の作文とともに『東海村歴史と未来の交流館』で、24年3月17日まで展示しています。作文の返却は24年6月30日までで、送料はかかりますが、観光協会のホームページからも受け付けています。必要な書類や受け取り方法については、そちらで確認頂きつつ、この機会にぜひ当時の夢を振り返ってみてください」
反省もしたり
『東海村歴史と未来の交流館』に行くと、埋められていたタイムカプセルの実物とともに、カプセルから取り出された当時の子どもたち(許諾の関係で、村内で現在活躍されている方や役場勤務の人のものだそう)や村長が記した作文・手紙が展示してありました。
掘り出されたタイムカプセル。直接触った質感からFRP製と思われる(写真:『婦人公論.jp』編集部)
またカプセルを埋めた当時の流行や文化、その頃の子どもが憧れていた職業ランキングなども展示されていて、つかの間のタイムスリップ気分を味わうこともできました。
男の子の「なりたい職業」3位はおもちゃ屋。欲望に忠実(写真:『婦人公論.jp』編集部)
なお前後しますが、当然ながら、取材した私も作文を返却してもらいました。
その内容はと言えば、予想通り”典型的な意識高い中学生の作文”という感じで直視することも叶わず、一読してすぐ封筒へ戻しました…。
ただし、作文に記されていた「今の楽しい毎日のことを忘れないで」という一文だけは、強く心に刺さりました。
あらためて考えると、当時は環境や友達にも恵まれ、確かにとても楽しく充実した毎日を過ごしていたように思います。
3年5組は最高に楽しかったです。みんな元気かな(写真:『婦人公論.jp』編集部)
今回の取材にあたっては数年ぶりに卒業アルバムを見直すことになりましたが、実際には当時の日々に恥ずかしさを覚えて、むしろ目をそらしており…。とても反省させられました。
歳を重ねてから、多感だったあの頃と向き合うのは、なかなか勇気が必要なことでもあります。
しかし、その日々を「黒歴史」「不適切!」とフタをしたまま放置するのでなく、それこそタイムカプセルのように開けてみて、当時自分が思い描いていた未来をちゃんと進んでいるのか、たまに確認してみてもいいのかもしれません。
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