「自分の殻がバリバリ割れる⁉」元宝塚男役の「麗人プロジェクト」。元タカラジェンヌと同じ舞台に立って見える新しい自分
2025年3月13日(木)8時0分 婦人公論.jp
2023年5月にホテル ラ・スイート神戸ハーバーランドで行われた「Show&Party 麗人」第1回目(写真提供:くれさん)
「マチュア」という言葉が注目されている。円熟、熟成などと訳されるが、「マチュア世代」というと大人として充分に成熟しているものの、シニアと呼ぶにはやや早い世代であるといえる。そんなマチュア世代の女性たちが、元タカラジェンヌたちと一緒にステージに立つ「Show&Party麗人2025」が今年もスタートした。
母、妻、仕事人、娘…といろいろな顔をもつマチュア世代が、非日常の世界で自分を解き放つ。過去2回の開催で、出演した女性たちはそれぞれが自分の殻を破り、様々な変化を遂げたという。
3回目となる今年は全国から集まった13人の挑戦者がそれぞれの人生を背負って本番を目指す。レッスン初日のスタジオで意気込みを聞いた。
(構成:吉田明美 撮影:本社 奥西義和)
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「自分を磨くプロジェクト」
麗人プロジェクトを主宰するのは、元宝塚歌劇団のくれゆかさん。84期生として入団し、現役時代は「潮和歌(うしお わか)」という芸名の男役として宙組で活躍したが、けがなどに悩まされ、好調とスランプを繰り返しながら7年目に退団。当時は「タカラジェンヌ」としての誇りと同時に挫折感も味わったという。
その後、大学進学・就職活動・企業でのビジネス経験、国際結婚、海外赴任、3人の子どもとの暮らし等々、目まぐるしく変わる環境の変化を受け入れてきたくれさん。その経験が今のプロジェクトにすべて生きているという。
「いったん外に出たからこそわかる宝塚の魅力を再確認しました。立ち振る舞いや自分の見せ方を少し変えただけで、もっと魅力的になる方にたくさん出会ったからこそ、その極意をみなさんにお伝えしたいと考えたんです」
宝塚時代。当たり前にできるまで繰り返したタカラジェンヌとして美しくあるためのメソッドとマインドを携えて、くれゆかさんの「自分を磨くプロジェクト」がスタート。宝塚を退団してから17年目のことだった。
2024年5月東京・赤坂プリンスクラシックハウスにて開催された「Show&Party 麗人」第2回(写真提供:くれさん)
しかし、何か足りないものがあると感じたくれさん。「立ち振る舞いや表現力を磨くには『本番』の経験は欠かせません。自分を磨くプロジェクトには本番がありませんでした。もしその体験を提供すれば、受講生たちが自分の殻を破ることができると思ったんです」
「麗人プロジェクト」の発足
2024年5月東京・赤坂プリンスクラシックハウスにて開催された「Show&Party 麗人」第2回(写真提供:くれさん)
その気持ちを形に変えたのが「麗人プロジェクト」。2023年1月にマチュア世代の女性たちが元タカラジェンヌと一緒に舞台に立つという「本番」を目指し、同年5月に神戸で開催。「生まれ変わる私たち」というサブタイトルがつけられた。第2回は昨年、「私を生きる」と題して東京で開催されている。
*麗人プロジェクトの歩み*
●2022年 12月 麗人プロジェクト発足
●2023年 5月「Show&Party 麗人」第1回目をホテル ラ・スイート神戸ハーバーランドにて開催
●2023年 7月「麗人ワークショップ」(半年間)を開催
●2024年 5月「Show&Party 麗人」第2回目を東京・赤坂プリンスクラシックハウスにて開催
●2024年 7月「麗人アカデミー(麗人ワークショップ改・半年間)」を開催
●2025年 5月「Show&Party 麗人」第3回目を東京にて開催予定
そして、今年は第3回目。主宰するアカデミーに参加してくれていたメンバーに加え、新たなメンバーとまずはオンラインで出会い、LINEのグループチャットでコミュニケーションを重ねた。その後、宝塚の観劇会を兼ねてガイダンスを実施。それがリアルでの初の顔合わせとなったという。
スタジオでの稽古初日。この日までにすでにくれさんは、全体の台本を書き、13曲のセットリストも決定。そして、ダンスの立ち位置や振り付けを書いたノートを持参して、さっそくメンバーへの指導が始まった。
「今日はイメージをつかんでくれればいいから」というくれさん。ロングスカートにTシャツ姿の参加者たちは曲にあわせて、ワンフレーズずつ、くれさんのお手本を見ながら振りを覚えていく。フォーメーションも難しく、なかなかハードなレッスンである。
くれさんご自宅のすりこぎをマイクに見立てて
不安を募らせる参加者に「大丈夫、絶対にできる、できる、できると唱えて!」「何回も何回もやれば、体が覚えてくれるから!」とくれさんからの檄が飛ぶ。すぐに参加者の額に汗が浮かぶ。何度も同じところを繰り返すと、みるみるうちに全体の動きがスムーズになっていくのがわかる。くれさんが自宅から持参したすりこぎをマイクに見立てて歌う姿も愛らしい。くれさんは、すでにメンバー全員の名前を「●●ちゃん」とニックネームで呼んでいるが、これも宝塚流であるという。
お客様にどう見えるかを意識した舞台構成
演出も構成もすべてを引き受けているくれさん。全体の動きを見ながら、「ここはやっぱり倍速にしよう」「ここはやっぱり斜めを向こう」と臨機応変に振り付けも変えていく。お客様にどう見えるかを常に意識した舞台構成が続く。
休憩時間も思い思いに練習する生徒の皆さん
「宝塚のときから、お稽古を見るのが大好きなんです。自分の出番でないときでも、トップさんや他の方のお稽古の様子を横から見て、演出家の先生や振付の先生、音楽の先生方と、その場面の演出や演技をつくりこんでいくのを見るのが好きでした。それがきっと今に生きているんだと思います」
3年間続けて出演するという参加者は「このプロジェクトに入って仲間ができたのがなによりうれしい」と話す。「自己表現するのって、こんなに楽しかったんだって思い知って、もう抜けられません (笑) 」
「40代、50代は子育て、介護と本当に忙しかった」という女性は「そこから解放されて、じゃあ自分はこれから何をすればいいの?と思ったときに何もなくて…。友人に誘われて試しに参加したのですが、最初は鏡で全身を見るのもつらかったんです。だからコンタクトレンズもわざと度を抑えて、はっきりと自分の姿が見えないようにしていました」とはにかむ。
男役のくれさんを相手にターンの練習
ゆか先生から「ちゃんと自分の姿を見て!」と言われて度を合わせ、今はきちんと自分の姿と向き合っているそう。
京都から参加している女性。普段は高校教師と妻と母の役目を果たしているが「ここでの自分は非日常の自分。これがあるから普段の私もがんばれる。主人には見に来てほしくないな〜」と明るく笑う。
一度出演すると「こんな自分でもいいんだと自信がついた」「本来の自分の夢や生き甲斐を再発見した」「殻がバリバリ割れていたことに自分が一番びっくりだった」という声も聞けた。
くれさんが考えた今回のテーマ
「歌唱担当」のメンバーにも振り付けが
コロナの後遺症に悩み、会社に行きづらくなったり、子どもが産めないと知り女性でいることさえつらく感じていたり…とそれぞれの人生を抱えながら参加する女性たちのために、くれさんが考えた今回のテーマは「人生のワルツ(縁舞曲)」。
「人生ってご縁でつながってる。今回の出演者と私もなにかのご縁でつながった。当日観に来てくださるお客さまともきっとご縁がある。一人ひとりが人生の主役だという気持ちをこめて『人生のワルツ(縁舞曲)』というサブタイトルをつけました」
一人ひとりに丁寧にヒアリングして、それぞれの人生をほんの少しずつ語ってもらうことも決めた。ワルツのメロディにのせてどのようなドラマが語られるのか、楽しみは尽きない。
「私自身、宝塚での経験を挫折ととらえ、その後の人生で自分の道を見つけることに迷い苦しんだ時期を経験しました。私のように苦しんでいる女性たちに、残りの人生を心から輝いてほしいという一心です」
指先まで美しいくれさんの指導
くれさん自身、妻であり、下はまだ保育園児という3人の子どもの母であり、仕事のフィールドも広げつつあるという今、これだけのプロジェクトを実行するエネルギーはどこから来るのだろう。
最高のステージをお見せするために
生徒さんの仕上がりを見ながら、その場で臨機応変に演出や振り付けを変えていく
「『麗人は社会貢献ですね』という言葉をお客さまからいただいたことがあります。この言葉に背中を押されています。女性たちが美しく心から輝く姿に触れた方が、勇気と希望を持ってくださった。そういう声がある以上『歌や踊りは初めてだから』『プロではないから』という言い訳はせずに、最高のステージをお見せするために妥協のない練習をするつもりです。プロの表現力の磨き方や、人前に出る姿勢を直に学んでいただくことで、出演者は自信をもって本番に臨むことができます。そんなみんなの成長を見るのは本当に楽しい!」
参加者も「こんなに素敵なゆか先生の品格ある立ち姿やオーラに触れているだけで幸せ」といいながら「本番までは練習一色の生活です。自分のすべてを出し切りたい」と覚悟を見せる。
今回のショーは、前半では全員がドレス姿でパンツ姿のくれさんとダンスを踊り、後半は男役、娘役に分かれることになるという。
自分自身で知らず知らずのうちに作ってしまった殻にがんじがらめになっている女性たち。「妻だから」「母だから」と言い訳しているうちに人生が残り少ないことに気付き、また「年齢」を言い訳にしてしまう日常の日々。
「麗人プロジェクト」はそんな女性たちに「元タカラジェンヌと同じ舞台に立ち、自分を表現する」という非日常の世界を経験してもらうことで、言い訳することさえ忘れてしまうほどの価値観の大きな転換のきっかけを与えてくれる。
「自分の人生の主役は自分自身」。そんな当たり前のことに気付かされる「麗人プロジェクト」の本番は2025年5月19日。場所は赤坂プリンスクラシックハウス。今日もそれぞれのメンバーたちは自主練に励んでいるに違いない。
2023年5月にホテル ラ・スイート神戸ハーバーランドで行われた「Show&Party 麗人」第1回目(写真提供:くれさん)