『ピアノ・レッスン』ジェーン・カンピオン監督が明かす30年前「女性の視点から描くだけでも大変だった」

2024年3月17日(日)17時0分 シネマカフェ

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』©1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000

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カンヌ国際映画祭女性監督初のパルム・ドール(最高賞)を獲得、第66回アカデミー賞主演女優賞・助演女優賞・脚本賞受賞をはじめ、世界中の数々の映画祭を席巻した映画『ピアノ・レッスン』。この度、初公開から30年の時を超えて4Kデジタルリマスターとして蘇り、3月22日(金)より公開される。ジェーン・カンピオン監督が、改めてこの不朽の名作について語った。

ジェーン・カンピオンが手掛け、19世紀半ばのニュージーランドの孤島を舞台に、「私」らしい生き方と幸せを探すエイダを描く本作は、第46回カンヌ国際映画祭で錚々たる巨匠や奇才の新作が競い合う中、女性監督で初のパルム・ドールを受賞した。また、本作では第66回アカデミー賞脚本賞を受賞した後、2021年には『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でアカデミー賞史上初となる<2度の監督賞にノミネートされた女性監督>として見事受賞。

世界的に注目される女性監督が少なかった時代から現在に至るまで、第一線で活躍を続けるパイオニア的な存在として後進の女性監督に影響を与え続けている。

映画界に旋風を巻き起こしたジェーン・カンピオン監督
女性の視点の現代にも通ずるテーマを30年前に描いた苦労とは…
『ピアノ・レッスン』が日本初公開から30年の時を超え4Kデジタルリマスターとして劇場公開されることを記念しジェーン・カンピオン監督に改めてインタビューを行った。

監督は、今回の4K上映を聞いてとても驚いたと同時に、とてもワクワクしたという。「30年も経った作品が今でも受け入れられると思ってくださった方がいるということに感動しました。しかし、考えてみると、この映画はクラシックな面もあるのですが、本質は現代的なテーマで構成されていて、今でも通用すると私も思います」と監督は話す。

本作は、女性が男性の所有物のように扱われていた、女性にとって生きづらい19世紀が舞台。そんな中、エイダが自分らしくありのままに生きようとする姿はたしかに現代的にも映る。

30年前の製作当時、監督はそのことをどのように捉えていたかを問うと、「当時の女性の視点からこの映画を描いたわけですが、女性の視点から描くということだけでも大変だったんです。現在、政治的には変わってきたと思うのですが、あらゆる面で女性が男性と同等の機会を得ようとする戦いは、何世紀にもわたってまだ続いていると感じます」と、当時から駆け出しの女性監督が女性の目線でメガホンを取ることの困難さを話した。

ホリー・ハンターとは姉妹のような間柄
撮影前、ホリー・ハンターと、役作りや本編では描かれていないエイダのバックグラウンドについてどのような話をしたのかとの問いに対して、2人は特別気に留めていなかったのだと言う。「とてもいい質問だと思うのですが、そのことについて、ホリー・ハンターも私もあまり興味がなかったんですね(笑)」と監督。

「私たちは、今の、その映画に描かれている部分の彼女がどうかということにすごく気を遣っていました。また、私たちが議論を深めたのは、手話をどういうふうにするかということでした。この手話というものが、彼女が(エイダが)自分でフロラと一緒に作り上げたものなのか、どこかでちゃんと手話を習ったものなのか、ということを非常に気にしていました」と話す。

ある日、ホリー自身が手話を習ってきて、それを見せてくれたという。「彼女の手話がすごく攻撃的に見えました。当時のヴィクトリア調の女性としてはアグレッシブ過ぎると思い、そのあたりも議論しました」。ホリーと多くの議論を重ねるにあたり、たくさん笑い合い、ときには喧嘩になったりもしたそうだが、彼女との長い準備期間とお互いの意見を本音で交わしたことが、2人の距離を縮め、姉妹のような関係になっていったという。

天才子役といわれたアンナ・パキン「最初から素晴らしかった」
当時10歳でアカデミー賞を受賞したアンナ・パキンの演出方法を問うと、「なるべく何もしないようにしました。彼女は本当に天才役者だと思います。その後の活躍を見てもらってもわかると思うのですが、本当に彼女を見ていると、成功の軌跡を見ているかのような気がします」と監督。

「私が気を付けたのは、彼女のエネルギーが継続していること、つまり疲れてしまわないようにすることだったんです。彼女の様子を見て、疲れてきそうだったら彼女の出番を早めに撮影して、というふうに彼女のスケジュールを変えたりすることでした。彼女自身の演技は最初から素晴らしかったので、疲れないようにスケジュールを管理して守ってあげることだけでした」。

「また、アンナはホリー・ハンターのことが大好きで、彼女の周りにいるだけでとてもハッピーだったようです」と続け、映画撮影で最も配慮が必要であろう子役の演技指導が、アンナ・パキンの卓越した才能によって軽減され、本作を成功に導いた一つの要因であると強調した。



当時すでに大スターの地位を確立していたハーヴェイ・カイテル
べインズを演じたハーヴェイ・カイテルについては、「私はその当時、駆け出しの新人監督だったんです。片やハーヴェイ・カイテルはすでに役者として経験豊富な大スター。ですから、こちら側に謙虚さがあって、彼のことを聞き入れ、学ぶ姿勢があったことが良かったんだと思います」と監督はふり返る。

「ハーヴェイ・カイテルは、すごくタフで、とても怖い人だという評判だったのですが、実はとても親切で非常に寛容な人でした。私にはとても優しく接してくれました。今に至るまで、彼との間には固い友情というものが育まれています」と、ハーヴェイとの良好な関係性が築けたことで、新人監督であった自身の力強い手助けになったと言う。

30年の時を超え劇場公開される本作を、初めて鑑賞する方にメッセージ
最後に本作を初めて観る人や、次の世代にどう観て欲しいか、ひと言メッセージをお願いすると、「『ピアノ・レッスン』を初めてご覧になる方へ、何の情報も入れずご覧頂きたいというのが本音です」と監督は応じる。

「ロマンティックな複雑さがある世界をそのままに体験してほしいのです。また、このストーリーはエミリー・ブロンテの『嵐が丘』にインスピレーションを受けています。『嵐が丘』と同様、とても極端にロマンティックを描いていて、キャラクターたちはある種のエロティックな、エロティシズムのポテンシャルというものを発見していった、そういう映画になっています」と、すでに鑑賞済の方も改めて観たくなるような言葉を寄せてくれた。

『ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター』は3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開。

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