相川七瀬「学び直しで親子関係が改善。歌一色だった20代より、今が一番忙しい。卒論を書き終え、4月からは大学院に」

2024年3月18日(月)12時40分 婦人公論.jp


「学び直しの一番の収穫は人間関係の幅が広かったことかもしれません」(写真提供:相川七瀬さん 以下すべて)

歌手としての活動を続けながら、3児の母でもある相川七瀬さん。子育ての傍ら受験勉強に励み、45歳で國學院大學神道文化学部に合格、さらに2024年4月からは同大学大学院に進学します。歌手・母親・学生と三足の草鞋を履く相川さんに、今までの人生の歩みと共に、活動の原動力を伺いました(構成◎丸山あかね)

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<前編>から続く

欲しいものは欲しいと言って突き進む


二兎追うものは一兎をも得ずと言いますが、令和の時代はコレだけに専念するというのではなく、コレと並行しながらアレもやるという時代なのだという気がします。欲しいものは欲しいと言ってそこに向かっていくべきだと、少なくとも今の私はそう思っています。

とはいえ物理的に身動きが取れない時期がありました。私は26歳で結婚して、23歳になる長男、17歳になる次男、11歳になる長女の三人の子どもに恵まれました。夫が家のことに協力的だったこともあり、妊娠・子育て中も、CDのリリースやライブなど可能な限り仕事を続けてこられました。末っ子に手がかからなくなるまではお母さん業と、仕事でいっぱいいっぱいでしたが、辛さとかは感じてなかったです。子育てをしている時間をとても楽しんでいました。子どもがひとり、またひとりと増えていく中で、私自身が成長してだんだんと母親らしくなってきて、彼らの母親であることがとても好きだなと感じていました。

そうは言っても全てが順風満帆に来たわけでもないです。長男が思春期を迎えたとき親子関係がギクシャクすることがありました。反抗期ってやつですよね。決して激しかったわけではないですが、その頃はよくバチバチやっていました。今にして思えば、私自身も子ども離れができていなかったのかもしれません。どこか過干渉だったのかもしれない。彼は、私が彼を信じていないから干渉していると思っていたり、心の中を話し合えていないことで、小さな誤解が生まれたりしていました。

あの時期の長男とのバチバチは、私にいろんなことを教えてくれました。どれだけ大きくなっていても子どもは親に話を聞いてもらいたいと思っているということや、信頼して欲しい、褒めて欲しいという素直な欲求があるのだということです。そんなの当たり前じゃないのと言われてしまうかもしれませんが、私はそれに気づくのが長男が高校生になってからでした。

学び始めたら親子関係が改善した理由


その経験もあり、最近になって子どもの反抗期は親も自立の時期なんだなって思います。私の場合は少しずつ子どもが自分の手を離れていくタイミングで、今度は自分のやり残したことに時間を使ってみたいと思った。思い通りにはいかないかもしれないけど、子どもがいくつくらいになったらこうなっていたいな……という5年先くらいを見通した計画を立てました。

驚いたことに私が学び始めたら親子関係が改善したんですよ。たとえば長男に「ここ教えて」とお願いすると親身になって説明してくれて。私が変わったのだと思います。それまでは「勉強しなさい!」「塾に通ってるのに、なんで成績上がらないの」とか親目線で言っていたのですが、「勉強って大変だよね」「どれだけ勉強してもダメな時はダメだよね」って、子どもと同じ目線で物事をとらえるようになったので連帯感が生まれたのかなと思います。

嬉しい出来事は他にもありました。我が家では4人で机を並べて勉強するようになったのですが、ある日、子どもたちが「勉強って卒業したら終わりだと思ってたけど、大人になってもずっと勉強なんだね」と会話を交わしていたんです。それを聞いた私は思わず心の中でガッツポーズ(笑)。私の学び直しが子どもに良い影響を与えることができたなら、それだけで充分に意味のある選択だったと思っています。

時間をやりくりするために定めたマイルールとは?


それにしても学生になってからは忙しい毎日で。歌手としての全盛期より遥かに忙しいです(笑)。それもそのはずで、20代は自分の時間を自分に使っている忙しさであり、家族を持ったら自分の時間をそこから捻出しなければならない。当然、家事もするし、子どもの学校の行事とか塾の送り迎えとか、そのうえに自分が学生まではじめてしまったので体がいくつあっても足りない状態です。

何が大変かというと時間を捻出するためには、ある程度睡眠時間を削るしかないことです。毎年、私のコンサートツアーの時期と期末試験の時期が被るんですよ。コンサートの打ち合わせやリハーサルが入ると、帰宅して家のことをしたあとに勉強するしかない。ある時、ツアーを一緒に周っていた織田さんから「かすれて痛い声になってるよ。寝なくちゃダメだぞ」と言われて反省しました。コンサートに来てくださるお客さんには私の個人的な事情は関係ない。つまり歌手としての自分をプライオリティの1番にしながら、学生として全うしなければいけないのだと思いました。

とはいっても試験勉強はしなければいけないので、どうしたら両立することができるだろう?と考えた末にマイルールを定めることにしました。大学の課題を出すサーバーが夜中の2時にクローズするんです。それ以前はクローズしたあとも朝まで頑張っていたのですが、2時になったら寝ると決めたんですね。それは歌手としての私の喉を守るためのルールだと自分に言い聞かせました。

そこまでなぜ頑張るのか?とよく聞かれるのですが、それは家族に対する意地もあったかもしれません。大学へ行くと伝えた時に家族や事務所からも反対されたので。主人からは「学部に4年通うって大変なことなんだよ、仕事はどうするの?」と心配され、子どもたちからは「ママ、勉強って大変なんだよ、できるの?」とか言われてしまい……。そこを振り切ってはじめたことだけに、絶対に4年で卒業するんだ、後には引けないぞという気持ちがありましたね。

自分を見つめ直すことが学び直し


大学に通った4年間を思い起こすと、決して楽ではありませんでした。でも人生で一番忙しい季節は、人生でもっとも充実している季節でもあって、なによりも楽しく学べたことがよかったです。第二の青春時代を過ごした、そんな気持ちもあります。

私は家族のことがあるので、夜間部ではなく昼間部に通っていました。同級生は、長男と同じ歳。クラスメイトとLINEで情報交換をしたり、一緒に実習に行ったり、応援団と陸上部の応援のコラボをしたり、仲良し女子グループで沖縄へ卒業旅行にも行きました。初対面の時は「えっ、歌手の相川七瀬さんですか?」とか言って驚いていたのに、卒業旅行では私が運転手を務めたという(笑)。でも楽しかった。何もかもが素敵な思い出です。

もしかしたら学び直しの一番の収穫は人間関係の幅が広かったことかもしれません。新しいサークルを確立して、自分の世界や視野を広げることが人生を輝かせることに通じると思います。私は目的があって大学に行きましたが、カルチャーセンターでも、地域センターの集いに参加するでも、ちょっと新しい環境に身を置いてみると、人間関係が広がって自分の知らない自分を発見できる。学びとは新しい自分に出会うことなのかもしれませんね。


「自分との約束を果たすためにも後には引けないぞという気持ちがありましたね」

やっとスタートラインに立った


大学院へ進学すると周囲の人に報告したら「まだやるの?!」と言われてしまうのですが、私としてはやっとスタートラインに立ったという感覚でいます。大学院では民俗学の研究をして、赤米神事に限らず、日本全国におけるお祭りを継承していくことの意義を探求していきたいと思っています。

もちろん歌手としての活動も全力投球で続けていきたいです。近年になって私は自身のコンサート活動だけではなく、神社での歌唱奉納をさせていただく機会に恵まれ、2017年の伊勢神宮の内宮、外宮、鹿島神宮の創祀2680年祭の時も歌わせていただきました。

正しい時、正しい場所、正しい自分の行いの3つが揃わないと神様に呼んでいただけないといつも考えていたので、これ以上にない喜びでした。

私はロック歌手ですが、伊勢神宮であれば伊勢神宮のために書いた歌を捧げるため、その曲は「動」ではなく「静」の曲になります。そのため最初はファンの皆さんから「相川七瀬は一体どうしてしまったのか?」「路線を変更したのか?」という声があがっていたようです。でも私の中では元気で激しい自分と、鎮魂歌を歌うような静かな自分がいて、50歳を目前としてようやくその「静」と「動」が合流点を迎えつつあると感じています。おそらく60歳あたりで完全に融合するのではないでしょうか。いずれにしても、神社で歌唱奉納をするたびに、神様からプレゼントをもらっている気がして、それがまた明日からの自分の活力になっています。

限界の沸点をアップしていく


ファンの方々も年を重ね、神仏に対する興味が増してくる年齢に差し掛かかっているからかもしれませんが、私のスタイルに理解を示してくれる方が多くなりました。考えてみると音楽は古くから「神楽」と呼ばれる神事の一つ。歌手である私と神事を学ぶ私はもとより細い糸でつながっていたのだという気もしています。

現時点では修士課程の先は何も考えていません。ただひたすら、春からの2年間を丁寧にやりたいという思いだけです。2年後の自分がその先の博士課程に進みたいと思うか否かは、今日の自分の頑張り次第だと思うので、しっかりと自分の学びを深めたいと思っています。

目下の目標は大学院を2年で卒業すること。30周年ツアーという大きなイベントを控えているので、どうかなぁという不安もあるのですが……。限界だなと思っていても少しずつ限界の沸点をアップしてくることができたので、この修業を重ねて何とか目標を達成したいですね。

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