樋口恵子 この先「おとな用紙おむつの生産量が赤ちゃん用を超える」と言われる時代に…高齢者も<生涯現役、一消費者>として気づいたことを発言していくべし

2024年3月25日(月)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

厚生労働省が公表している「令和4年簡易生命表」によると日本の平均寿命は、男性が約81歳、女性は約87歳だそう。それもあって91歳で評論家として活躍している樋口恵子さんは、「これからはおばあさんだらけの時代になる!」と宣言中。その樋口さん「タンスを片づけていたら、奥からもう使わない“アレ”が出てきた」そうで——。

* * * * * * *

タンスの奥から出てきたアレは!


ふと、ずっと昔のある日のことを思い出しました。

ものの片づけごとは、家事の中でも最苦手。長年のつき合いの中で家事全般すべてに達人の域に達し、何かと頭も手も貸してくれる同年輩の友人に、片づけの手と頭を貸してもらっていました。

だいぶ片づいて、残るは私の主たる嫁入り道具だった総桐の和ダンスと、普段に重宝しているこれも桐の洋ダンス。

久しぶりのタンスの中味に奥深く首をつっこみながら、私は一連の小さな包みを取り出しました。

「何イ? これ! きゃっ、新品ね。捨てるのはもったいないし、若い人にあげるように、どこかタンスの片隅にでも……」

思えば長期間、私の女盛りを共にした生理用品です。この出合いの3年ほど前、私は子宮筋腫という病気で子宮全摘手術を受け、すでに生理はありませんでした。ですからこの生理用品の発見は、私の整理のまずさの象徴でもありました。

「整理の達人」の言う意味


「もったいないけれど、やはり捨てましょうか。私は整理が悪くて、しまい込んだらすぐ出てこないし、そもそも私自身に用はないし」

整理の達人は言いました。

「私たちよりもっと年上の方のために、わかりやすいところに保存し、遠慮のない方にさしあげたらどうでしょうか?」

瞬時に理解したわけではありませんが、少しずつ私は「整理の達人」の言う意味を理解しました。

「達人」の助言を受け入れて、その場でどこかへ収納したつもりですが、もともと整理能力に劣る私は、どこかへまぎれ込ませてしまったようです。でもこのときのエピソードはよく覚えています。

軽い感動と共に


それは、何かの記事で、日本の紙おむつの生産量のおとな用が急成長し、ある日赤ちゃん用を超える日が来るのではないか、という内容を読んで深く印象に残ったからでした。

「おとな用」の消費者には男性も多く、おとな用パッドを上手に利用し、外出時の失禁を気にせず活動できる、というような内容でした。

「ああ、いいことだな」と私は軽い感動と共に読みました。私が不要になったと思った生理用品は、使い方は少々違っても、もしかしたらまた出番があるかもしれない、とほほえましい気もしました。そしてこんなことも思いました。

トイレの個室の片隅に常時置かれた汚物入れ。あれが男性にも必要な日がやって来るに違いない。男性も女性も、年を取っても元気に外出できる準備がこれからもますます整備されますように——と、祈りつつ。

大いにパッドを利用しよう


最近のデータを見ると、おとな用パッドの売れ行きはますます好調のようです。

こうした製品は「日本製」のキメ細かさが輸出用としても好評だと何かで読んだことがあります。長寿世界一日本の実力を、多様な場面で発揮していただきたいと願っております。

でも、長年身軽で活動してきた男性が、失禁防止用のパッドを利用するには心理的抵抗がある、という話もどこかで聞きました。

そんなことありません。慣れ、です。慣れですよ。

安心パッドを利用してどこへでも出かけ、得意の業に仲間と共に腕を振るう。こんな喜びは人間にしかありません。大いにパッドを利用しながら高齢期のご活躍をお祈りします。

生涯現役、一消費者


私は幸か不幸かいわゆる「トイレが遠い」タチ。外出用のパッドもめったに所持していません。でも小旅行のときは別です。ほかの小物類と一緒に小さなバッグに詰め合わせます。心の中で、

「いやー、おなつかしや。人生が長くなるといろんな場面でお世話になる機会が増えますなァ」

などと心の中で声をかけながら。

人生百年時代。これまでの平均寿命から先の高齢期には、自分自身の心身の症状が変化し、それに適応した品物が必要となります。急に寿命の標準サイズが伸びましたので、私たちはこれからの高齢期で、人類が初めて使う商品の「消費者」となる場面が多くなると思います。

私は少し前から「人生百年、生涯現役、一有権者」が口癖でしたが、近ごろ「生涯現役、一消費者」であることを自覚するようになりました。消費者として気づいたことを、遠慮なくわかりやすく発言していこうではありませんか。

※本稿は、『91歳、ヨタヘロ怪走中!』(婦人之友社)の一部を再編集したものです。

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