「マスタークラス」望海風斗、マリア・カラスの濃密な言葉操る…踊りと語りで詩の世界「イノック・アーデン」

2025年4月2日(水)15時40分 読売新聞

「マスタークラス」でマリア・カラスを演じた望海風斗(右)(写真・引地信彦)

舞台合評

 3月に上演された好舞台を演劇担当記者が語り合った。

祐成秀樹 望海風斗主演、森新太郎演出「マスタークラス」は不世出のオペラ歌手マリア・カラス(望海)の公開レッスンを描く。芸術に向き合うすべを伝え、生徒の歌声を聴くうちに、彼女が秘めてきた記憶がよみがえる。「修練。勇気。その結果がわたし」「音楽をよく聴いて言葉の意味を考えて。全て書かれているから」——。あらゆる表現者に通じる真理が込められた濃密で膨大な言葉を操り、癖の強い生徒とやり合う。俳優としての望海の実力の高さに感服した。

小間井藍子 1幕の回想場面で望海が若きカラスと恋人アリとのやりとりを1人2役で演じたのが見事。「悪い男アリ」の演技は宝塚の元男役なら誰でもできるわけでなく、望海が宝塚時代にドン・ジュアンやアル・カポネといった筋金入りのワルを演じてきたからこそと思えた。

山内則史 19世紀英国の桂冠けいかん詩人アルフレッド・テニスンの詩の世界をみずみずしく立体化した「イノック・アーデン」は、手法の斬新さに目を見張った。

祐成 海辺の村に生まれ育った幼なじみの男女3人の愛と運命を描く切ない物語詩を、リヒャルト・シュトラウスが付けたピアノ曲、秋山あきらら東京バレエ団の3人のダンス、中嶋朋子と田代万里生による語りで表現。ダンサーの身体はピアノだけでなく語りにも合わせて動く。船の帆を模したり物に投影された映像、繊細な色調の照明も効果的で、演出・振り付けのウィル・タケットは新たなジャンルを築き上げた。

小間井「平家物語—胡蝶こちょう被斬きられ—」は、朗読劇の枠をはるかに超えた舞台だった。アニメ脚本家の小林靖子が舞台作品を初めて書き下ろし、声優で女優の朴璐美ぱくろみが演出、ダンサーの森山開次が振り付け・ステージングを担当。8人の主演級俳優が台本を読み上げ、その周りで40人近いダンサーが海になり炎になり、牛車になる。迫力あふれるパフォーマンスで「滅びの美学」を奏でていた。

山内仮名手本かなでほん忠臣蔵」は、歌舞伎座では12年ぶりの通し上演。通しで見るのと見取り(一部分)を見るのとでは、引き込まれる物語の深度もまるで違った。

武田実沙子 3月の劇評で扱えなかったAプロについて言及すると、昼の部は、中村勘九郎塩冶判官えんやはんがんが、高師直こうのもろのうになぶられた屈辱と、刀を抜いてしまったことへの動揺ぶりに人間味を感じた。片岡仁左衛門の大星由良之助は、切腹した刀を握る判官の手を温めるようになで、装束を整える。その所作に君主への深い思いがにじんだ。夜の部は、片岡愛之助初役の由良之助は豪胆さ、中村時蔵の遊女おかるは錦絵のような優美さ、坂東巳之助の寺岡平右衛門は妹を思う優しさと篤実さが印象的だった。

小間井「昭和元禄落語心中」山崎育三郎の企画に古川雄大、明日海りおらが集結。大人数のアンサンブルが躍動する小池修一郎の演出で、和物の題材を大劇場のグランドミュージカルに仕上げた力に感心した。

祐成「アンサンブルデイズ—彼らにも名前はある—」はBunkamuraの「コクーン アクターズ スタジオ」第1期生による公演。講師の松尾スズキ作、杉原邦生の演出で、突然ミュージカルを作るチャンスを得たアンサンブルの若者たちによる青春群像劇だった。バイト、食生活、恋人や家族との関係など生々しい実像が織り込まれ、熱さと苦さが心にしみた。

山内 はえぎわ「幸子というんだほんとはね」は、舞台と同時進行で背景の絵をその場で描く趣向など、脚本・演出のノゾエ征爾の自由な発想が心地よかった。関東大震災後の朝鮮人虐殺事件を題材にした温泉ドラゴン「痕、婚こんこん、」は、過去につながる現在を問う物語。劇団員らの力が一つになっていた。

祐成「イリュージョニスト」は上質なミュージカル。19世紀末のウィーンで人気奇術師(海宝直人)が、横暴な皇太子(成河そんは)と婚約した幼なじみの公爵令嬢(愛希れいか)を救おうとする。薄暗い照明、退廃的な音楽、重厚な美術が作るミステリアスな空間で、魔術とスリリングな物語が展開。今、見ているものは虚か、実か。最後まで引き込まれた。

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