「自分には何もない」と71歳で吉本興業養成所の門を叩いた若手芸人・おばあちゃん。「現在77歳。年を取ったからできることもある」
2024年4月3日(水)12時0分 婦人公論.jp
おばあちゃん「振り返ってみれば、これまでの人生、チャレンジの連続でした」(写真:『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを』より)
厚生労働省の調査によると、2023年6月時点で70歳以上まで働ける制度がある企業は約10万社とのこと。社会が「人生100年時代」に向けて変化する中、自発的に働く高齢者の方も多くいらっしゃいます。今回紹介するのは、77歳で芸歴5年の若手芸人「おばあちゃん」。おばあちゃんは「振り返ってみれば、これまでの人生はチャレンジの連続でした」と言っていて——。
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ヨボヨボの若手
こんにちは、「おばあちゃん」です。ただいま77歳の、後期高齢者。
私が劇場の舞台に立てば、老人が病院と間違えて迷い込んだと勘違いする人もいるかもしれません。
センターマイクを持つと、点滴に見えるかもしれません。
でも、こう見えても現在、吉本興業(よしもとこうぎょう)に所属する“芸人”です。
年齢だけはベテランながら、まだ芸歴5年というヨボヨボの若手でございます。
私が一番びっくり
そう、実は私、71歳で吉本興業の芸人養成所である『NSC(吉本総合芸能学院)』に入学しました。どうやらNSCでは珍しい高齢の生徒だったようです。
そのせいか、学費を振り込もうとした銀行では詐欺に遭っているのではないかと疑われ、入学式では生徒の祖母と間違われ……。確かに、まさかこんなおばあちゃんが一からお笑いを勉強するとは誰も思いませんよね。
でもありがたいことに、同期の人たちをはじめとする周りの温かいサポートのおかげで、無事に卒業することができました。
その後、自分を芸人だと自覚しないまま、呼ばれたライブに出るという生活を続けること数年。
『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』(著:おばあちゃん/ヨシモトブックス)
2023年6月に、本人はよく理解せずに参加していた東京『神保町よしもと漫才劇場』のオーディションバトルに勝ち上がっていたようです。周りの人たちに教えられ、所属メンバーになったと知りました。
にもかかわらず、さまざまな新聞やテレビ、雑誌などに取り上げていただき、本を出すまでに至り、私が一番びっくりしています。
チャレンジの連続
振り返ってみれば、これまでの人生、チャレンジの連続でした。
私が生まれたのは昭和22年。戦後まもない頃だったからか、女に学問は必要ない、という母の考えから学校に行きたくても行けませんでした。
それでも学びたい気持ちは止められず、仕事をしながら自分で学費を貯め、20代で高校、40代で短大、さらに放送大学を卒業し、教授との共同論文は学会でも発表していただきました。
その間には、乳がんを患い、手術をしてしばらくしたら卵巣や子宮への転移がわかり、金銭的に主人へ迷惑がかかると離婚を考えたことも。
また、30年以上勤めた会社を64歳で辞めてからは、膝の手術をしたり、主人が肺がんになったり、兄の介護をしたり……。自分と身内の病院に行ったり来たりする毎日でした。
一方で、暇に耐えられない性分ゆえ、ちょっと膝の調子がよくなるとすぐに外へ出かけたくなり、縁があって高齢者劇団に参加して。その過程で、NSCの存在を知ったのです。
こうしてつらつらと並べてみると、ずいぶん波乱万丈に見えるかもしれません。でも、私自身はずっと、「自分には何もない」と思って生きてきました。
だから、まさか人生の終盤に差しかかり、ここまで慌ただしくも楽しい日々を送ることになるとは予想外でした。年のせいとあきらめず、やりたいことに挑戦したご褒美でしょうか。
いや、“年だから”できたんでしょうね。
あきらめてしまうのはもったいない
ここで一句。
喜寿迎え 探し続ける 好きなこと
人生100年時代といわれる中で、老後に何をしていいのか分からず、不安を感じている人は多いのではないでしょうか。
私の周りにも、定年退職したら予定がゼロだという人は結構います。
若い時ほど身体(からだ)も自由が利かなくなりますしね。
また、現役時代に仕事などで成功を収めた人ほど、できない自分を人に見せたくない気持ちが勝り、新しく何かを始めるのを躊躇(ちゅうちょ)してしまいがちです。
でも、年のせいにして、興味のあることをあきらめてしまうのはもったいないと思うんです。あきらめなかったおかげで今、私は毎日が充実しています。
だから、この記事を読んで、「年を取ったからできることもあるのだ」と知ってもらえたら。
そして、何かにチャレンジするきっかけになれたら、うれしいです。
※本稿は、『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』(ヨシモトブックス)の一部を再編集したものです。
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