ウーバーの配達間違いで、中年1人暮らしのわが家に豪華なピザがやってきた。半分まで食べて気づいたことは…

2024年4月7日(日)12時0分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:photoAC)

世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、40代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなるかもしれません。第17回は「宅配ピザは中年のテンションを上げる」です。

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ウーバー、配達先を間違える


取材を終えて自宅に戻った瞬間「えええ??」と驚いた。なんと玄関ドアの前に、注文した覚えのない宅配ピザが置かれていたのだ。

とりあえず部屋にピザを招き入れて、ドラマの刑事(デカ)ように考える。まず、このピザは、ウーバーイーツの配達ミスであることは間違いない。コロナ禍から急速に発達したウーバー、何かとトラブルが多いと聞いていたけれど、こんなことあるのか。

そして我が家は完全オートロックのマンション……ということは、同じ棟内のどこかの部屋と間違えている可能性が高い……ただ待て。同じ敷地内には資産家の大家が管理するマンションが3棟もある。何度か別の棟の「小林さん」の宅配荷物が届いたことから推測すると、別の棟に注文者がいる可能性も……と、ビニール袋に包まれたピザと対峙しながら真剣に考えた。

ふと、ピザケースには小林ではない宛先が貼られていることに気づく。「これは小林違いではなさそうだ。ではなぜ我が家に?」とピザを発見してから、ここまで30分近く私の推理は止まらなかった。

推理が40分を超えたところで困っている人のためにこのピザを返却せねばと、やっと我に返り、ピザ屋の店舗へ電話をする。

「あのすみません、我が家にウーバーイーツさんからのピザが間違って届いておりまして」
「あ……そうですか(落胆した声)」
「出かけていたので、何時に届いたかも分からないんですが、これは一体どうしたら……」
「あ、もう召し上がってください」
「え?(そんな簡単にあきらめちゃうの?)」
「ウーバーさん、時々こういうことがあるんです。後のことは我々で調べますので、この度はご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

気になってピザの値段を調べると、Mサイズで3000円近くする代物と判明。私が刑事ぶって思考を巡らせる前に、とっととピザ屋に電話をすれば良かった。おそらく、本来注文した家庭では、空腹論争が起きているだろう。

「お母さん、ピザまだ〜? お腹空いた〜」
「変ねえ、注文してもうだいぶ経つのに」

(勝手に)小学生の男子がきっと泣きそうになっているかもしれない。もしくは独身男性がたまのごほうびにと高カロリーなピザを注文して、コーラを片手にワクワクしながら待っているかもしれない。ああ、申し訳ない。そう思いつつ、リビングに漂うチーズの香りに負けて、突然のピザパーティー開催となった。

やっぱりピザは美味いぞ


世界中を探しても「ピザ? 俺は苦手だなあ」という人はいないだろう。パリッとした皮の小麦粉の風味、たっぷりのチーズに塩味の効いたベーコンやシーフード、添えられたバジルやトマトも最高だ。

とはいえ、独身住まいにとって宅配ピザは縁遠い。何と言っても一人で食べるものとしては高価なうえに、高カロリー。Mサイズであれば1200カロリー近くあるので、ほぼ一枚で1日分のカロリーを摂取することになる。糖質、脂質もしっかり収まっているので、この食べ物がよく似合うのは食べ盛りの高校生だけかもしれない。

そんな禁断メニューが突如、我が家の食卓に上がった。迷い込んできたピザは4種類のテイストがMサイズに詰まったタイプ。私はケーキ入刀のごとく、包丁で一枚ずつピザをカットしていく。さあ、来るぞ、来るぞと心が躍る。

手元には白いワインを準備して、一枚ピザをかじるとそこには数年ぶりの天国が待っていた。以前「1週間頑張ったごほうびに!」と、一人暮らしの部屋でたっぷりチーズがのったピザを頬張る女性のテレビCMがあったことを思い出す。今ならあの超ハイテンションな気持ちがよく分かる。

続けて、3種類の味を楽しみつつ、食べ進めていく。そしてピザが半分サイズになった頃に気づいたことがある。

「私、……味に飽きた?」

そう、具材で味変したところで、どこまで食べ進んでもチーズはチーズ。そろそろ冷奴や煮物の味が恋しくなる。中年にとってピザ一枚の消費が苦しい理由は、脂っぽさも一理はあるけれど、同じ味を続けて食べることだと初めて気づく。

思い返すと中高年はラーメンや牛丼よりも、小鉢を好む傾向がある。対するように若者はカレー、パスタといった一味で消化するようなものを好む。実家で出てくる料理もやたら品数が多いのは、そのせいなのか。

歳を重ねると色々発見があるものだと、残ったピザを一切れずつラップで包んで、冷凍した。これでまたピザパーティーが開催できる。今度は各所に提出している企画が通過した時に、ごほうびで解凍しよう。


都内で一番好きな代官山「ピザスライス」。一人でふらっと行けるサイズがいい

今後は積極的にピザ摂取


今までピザは好きだけど、一枚を買うまでには至らなかった。自然と避けるようになっていた愛しい味は、高校生が憧れの先輩を遠くから見つめているような気持ちだった。

頑張れば一枚食べ切る自信はあるけれど翌日、胃もたれしている自分を想像すると、気が咎める。それでも食べたいときは、余った餃子の皮を使ってフライパンで焼いて、ピザ欲を補給するようにしていた。これが単にピザ生地を同じ小麦粉でできた、餃子の皮を代用するだけ。かなり満足度は高い。あの魅力的なメニューの本格バージョンは、外食で楽しむものだと位置付けていた。

ただ思いがけないトラブルによって、我が家にやってきた宅配ピザはとても美味しかった。ピザを冷凍するという手法も思いついたし、昔、右肩上がりで会社経営をしている先輩が言っていたことも脳裏に浮かんだ。

「ピザの半額キャンペーンが来たら、私、2枚注文することにしているの」
「2枚? 先輩、家族はいないじゃないですか」
「安いときに多めに頼んで、冷凍しておくのよ。サイズも大きいし、スーパーで冷食を買うよりも安いんだから」

敏腕経営者とは些細なシーンで節約を心がけているからこそ、儲けを掴むのだと知った。私も先輩の教えのごとく、半額キャンペーン到来したら、今回、無料でピザを提供してくれたあの店舗に連絡しようと決めている。


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