大河ドラマ『光る君へ』の舞台、当時の面影を残した京都に、ウォーホルやジョブズも魅せられた。光源氏が生まれ育った京都御所は、今とは違う場所だった!?

2024年4月14日(日)12時30分 婦人公論.jp


「ポップカルチャーの最先端を走った時代の寵児たちは、いにしえの都・京都に深く魅せられていたのです」(写真:『THE TALE OF GENJI AND KYOTO』より。撮影:稲田大樹)

NHK大河ドラマ『光る君へ』の舞台である平安時代の京都。今回は、そのゆかりの地をめぐるガイド本、『THE TALE OF GENJI AND KYOTO  日本語と英語で知る、めぐる紫式部の京都ガイド』(SUMIKO KAJIYAMA著、プレジデント社)から一部抜粋・再編集して、京都の魅力をお伝えします。

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時代の寵児たちが愛した京都


アンディ・ウォーホル、デヴィッド・ボウイ、そしてスティーブ・ジョブズ

活躍した分野や年代は微妙に違えど、実は彼らには共通点があります。

それは京都を愛したこと。

ポップカルチャーの最先端を走った時代の寵児たちは、いにしえの都・京都に深く魅せられていたのです。

天才たちを惹きつけてやまない古都の魅力——それが何なのか、いちばんわかっていないのが、ほかでもない日本人かもしれません。

かつてニューヨークで暮らしていたとき、京都について熱っぽく語るアメリカ人に何人も会いました。京都や日本文化に驚くほど詳しい彼らは、こちらが日本人だとわかると、嬉々として質問を投げかけてきます。しかも本質を突くような問いばかりを……。

彼らの疑問に満足に答えられない自分が、日本人として恥ずかしかった。

日本に帰ったら京都についてもっと勉強しよう。そう心に誓ったのです。

読み継がれてきた不朽の名作『源氏物語


あれから幾年月。紆余曲折を経て、わたしはいま、京都に住んでいます。京都の地理には多少詳しくなりましたが、京都人としては赤子同然。1000 年の都は奥が深く、何事も一筋縄ではいきません。

近年の京都は、海外から来た観光客で賑わっています。海外の友人・知人を京都に案内した際、日本の文化や歴史について訊かれて答えに窮した。そんな苦い体験をした方々もおられるでしょう。いつかのわたしのように。

昔、歴史の授業で習ったけれど、英語だとうまく説明できない。適切な英単語や表現が思いつかない。そんなときお役に立つ本をつくりたい考え、『THE TALE OF GENJI AND KYOTO』を企画しました。

中心となるテーマは、海外でも人気が高い『源氏物語/ The Tale of Genji』。1000年以上にわたって読み継がれてきた不朽の名作です。

2019 年には、ニューヨークのメトロポリタン美術館で「The Tale of Genji: A Japanese Classic Illuminated」と題した展覧会も開かれました。

『源氏物語』にまつわるアート作品を集めたこの展覧会に、マンガ版『源氏物語』として有名な『あさきゆめみし』のカラー原画(大和和紀・作)も多数展示され、同美術館初のマンガ展示として話題となりました。これをきっかけに『源氏物語』や日本のマンガのすばらしさを知り、日本に興味を持ったニューヨーカーも少なくないはず。『源氏物語』は、日本の文化や京都の魅力を世界に伝える貴重な役割も果たしているのです。


『THE TALE OF GENJI AND KYOTO 日本語と英語で知る、めぐる紫式部の京都ガイド』(著:SUMIKO KAJIYAMA/プレジデント社)

京都御所から感じる『源氏物語』の世界


ご存じのように、『源氏物語』の舞台は平安時代の京都です。そして京都には、『源氏物語』に描かれた神社やモデルとなった場所が、往時の面影を残したまま現存する。海外の人にはそのこと自体が驚きではないでしょうか。

その代表例が京都御所です。御所には、天皇の住居と、宮中の儀式が行われる御殿があり、明治維新後、1869年に明治天皇が東京に移られるまで、歴代の天皇が実際にここに住んでいたのです。

『源氏物語』の設定によれば、天皇の皇子である光源氏も、この御所で生まれ育ったことになります。ただし、厳密に言えば、現存する京都御所の建物は、江戸末期の1855 年に造営されたもの。平安様式の建物ではあるものの、建っている場所も平安時代とは異なっています。

なぜなら、平安時代に建てられた宮殿は13 世紀に焼失してしまい、その後、再建されなかったから。現在の京都御所は、天皇が仮住まいをしていた摂関家(皇后の実家など有力な公家)の邸宅のひとつを、戦国時代の武将たちの援助を受けて拡大したものです。それ以降も、御所は焼失と再建を繰り返したため、現存する建物は築170 年程度と比較的新しいわけです。

当時の建築物はなくても


平安時代の都の中心であった大内裏(平安宮)は東西約1.2 キロ、南北約1.4キロの広さだったといわれています。ここに天皇の住居と行政の機能が集中していました。

東西南北に大路が走る碁盤の目のような都市設計は、当時も今も変わりません。ただし、平安京のメイン・ストリート、大内裏からのびる「朱雀大路(すざくおおじ)」の幅は約84mもあったそうです。ほぼ同じ場所を通る現在の千本通りが、広いところで25m 程度、狭いところで6mしかないことを考えると、平安京の街路のスケールの大きさがわかります。

幅が84m とは、道というよりも広場のようなもの。往時は、貴族たちを乗せた牛車がここを行き交っていたのです。

前述のように、現在の京都御所は『源氏物語』が書かれた当時の建築物ではありません。ただし、そのたたずまいは十分に往時を思わせます。

御所の塀には6つの門があり、それぞれに格式と用途が定められています。

ひとたび門をくぐれば、外の世界とは異なる厳かな空気を感じるでしょう。

『源氏物語』のなかの光源氏は、母亡きあと、父・桐壺帝に殊のほか愛されて育ちます。想像をたくましくすれば、あざやかな装束に身を包んだ光源氏が、優雅に舞う姿が見えるよう……。麗しき「光る君」を御簾越しに見つめる宮中の女たちのため息さえ聞こえてきそうです。

嵐山周辺の魅力


わたしが住む嵐山周辺にも、『源氏物語』ゆかりの地がいくつもあります。

そのひとつ、竹林のなかに佇む野宮(ののみや)神社は、伊勢神宮にお仕えする斎王(斎宮)となる皇女が身を清めた場所。『源氏物語』では、かつての恋人である六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)に会うために光源氏がここを訪れます(巻10「賢木(さかき)」)。

虫の声が響き、秋草が茂る野宮。娘の斎宮に同行し伊勢に下ることを決めた六条御息所は、揺れる心を隠し、未練を語る源氏を突き放す……。

印象的な黒木の鳥居と小柴垣は、物語に描かれたままのたたずまいを見せ、わたしたちを平安時代へと誘います。昼間は観光客でごった返す野宮神社ですが、日が暮れると、怖いほどの静寂に包まれます。六条御息所のすすり泣きがどこからともなく聞こえてきそうな風情なのです。

毎年10 月に行われる野宮神社の「斎宮行列」も往時を再現する行事です。

駅前通りに突如として現れる本物の牛車(ぎっしゃ)に、子どもたちは「ウシさんだ!」と大はしゃぎ。平安装束に身を包んだ一行が近所の商店街をしずしずと進むさまはタイムスリップさながらで、最初に見たときは少々戸惑ったほどです。

夏の鵜飼(うかい)、秋の「観月の夕べ」(大覚寺)をはじめ、『源氏物語』に描かれた平安貴族の遊びも、年中行事としてこの地で親しまれています。

そして愛犬との散歩で立ち寄る公園には「めぐり逢ひて 見しやそれともわかぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな」という紫式部の歌碑が……。

こんな日々を送るうちに、だんだんと平安時代を身近に感じるようになったのです。

放送中のNHK 大河ドラマ「光る君へ」では、『源氏物語』の作者、紫式部の生涯が描かれています。ドラマをきっかけに、舞台である平安時代の京都にもさらなる関心が集まることでしょう。

タイムトラベルができる場所


ただし、京都には1000 年にわたって都が置かれていた長い歴史があります。

それゆえ、京都の名所・旧跡といっても、それぞれに時代背景は異なっています。

いつも観光客で賑わう黄金に輝く金閣寺は、14 世紀の終わり頃、室町時代に建てられたもの。また、あでやかな舞妓たちで華やぐ祇園界隈が花街として栄えたのは、19 世紀初めの江戸時代後期になってからです。

京都のご老人が言う「先の戦争」とは、第二次世界大戦ではなく、15世紀後半に起こった応仁の乱を指すというのは有名なジョークですが、実際に、応仁の乱で都の中心部は焼け野原となりました。

しかし、第二次世界大戦の戦火を逃れたことで、残された貴重な文化財や歴史ある町並みは破壊を免れ、今日まで良好な形で保存されました。(そう考えると、京都の人にとって「先の戦争」が応仁の乱だというのは、あながち間違いではないのです)

西洋の堅牢な石の建築物ではなく、燃えやすい木と紙の文化が、これほど長い間維持されたことに驚く人もいるでしょう。

さほど大きくはない街に、さまざまな時代に生きた人々の痕跡が残されている。

つまり、ここはタイムトラベルが簡単にできる場所。

みなさんも、京都を旅して、時間旅行を楽しんでください。

そして紫式部も見たであろう景色に出会ってください。

願わくば、その感動を海外の友人・知人と共有してほしい。

ウォーホルやボウイやジョブズを魅了したものとは何か——それを見つけるお手伝いができれば、これ以上の喜びはありません。

婦人公論.jp

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