沢尻エリカが復帰舞台『欲望という名の電車』で見せた、“儚い”だけではない新ブランチ像

2024年4月17日(水)11時30分 All About

キャンセル待ちの列ができるほどの大入り満員となった、沢尻エリカさんの約4年ぶりの復帰作の舞台『欲望という名の電車』。上演が発表された際には、「あのブランチ役を沢尻さんが!?」と驚きの声があがった舞台を振り返ります。

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沢尻エリカさんの約4年ぶりの復帰作として話題を集めた、舞台『欲望という名の電車』が2月に上演。東京・大阪公演ともに、キャンセル待ちの列ができるほどの“大入り満員”となりました。
上演が発表された際には、「沢尻さんがあのブランチ役を!?」と、業界の誰もが仰天した舞台ですが、開幕すると“沢尻エリカの復帰作”という以上に、現代演劇屈指の難役の1つであるブランチの、清新な表現が話題に。“名作”の新たな魅力を引き出した舞台を振り返ります。

名優たちが演じてきた大役に“初”舞台で挑戦


『欲望という名の電車』は、20世紀アメリカ演劇を代表する劇作家テネシー・ウィリアムズの代表作。上流階級から没落し、妹夫婦のもとに身を寄せた主人公が“壊れてゆく”物語で、1948年にピュリツァー賞を受賞しています。
淑女然として登場する主人公ブランチが、妹の夫スタンリーとの対立の中で大きく変貌してゆくさまが見どころ。約3時間ほぼ出ずっぱりでせりふ量も膨大とあって、ブランチはテクニックはもちろん、相当のスタミナを要する難役といわれています。
映画版ではヴィヴィアン・リーが演じてアカデミー賞主演女優賞を受賞し、日本では伝説の新劇女優・杉村春子さんが初演。後に栗原小巻さん、大竹しのぶさんら錚々(そうそう)たる名優たちが演じ、近年では特に、粘り強い交渉で上演を許された女形・篠井英介さんの、毅然として哀しいブランチ像が好評を博しました。
この大役に、演技は4年ぶり、しかも“初”舞台の沢尻さんが挑むというのですから、驚きの声があがるのももっとも。勝手の違う舞台という場で、彼女はいったいどんな演技を見せるのか……。今回のチケット争奪戦には、そんな好奇心から参加したエンタメ・ファンも少なくなかったようです。

緊張感を吹き飛ばした、“奇妙でコミカル”な登場シーン

今回の舞台でまず衝撃的だったのが、主人公ブランチの登場シーン。
雑然とした庶民の地区に、“掃き溜めに鶴”とばかりに白いスーツの彼女が……という大枠は戯曲に書かれた通りですが、今回はそこに出囃子風(?)のにぎにぎしい音楽が加わり、ブランチは山積みの旅行かばんを、自ら引っ張りながら現れたのです。
セレブ感満載の淑女が「うーん、うーん」と唸りながら、お尻を突き出すようなかっこうで大荷物を運ぶ姿は、何とも奇妙で、コミカル。客席にたちこめていた“20世紀アメリカを代表する戯曲”に対する緊張感が、瞬時に吹き飛ぶ演出です。
沢尻さん自身、鄭義信さんによるこの演出を楽しんでいるように見え、「欲望という名の電車に乗って、墓場というのに乗り換えて……」に始まる冒頭の名せりふも力みなく、軽快。
コメディさながらの空気感で始まった舞台はしかし、スタンリー夫婦のもとにブランチという異質の存在が転がり込んだことで、徐々に不穏な方向へ。どこか“上から目線”なブランチが気に食わないスタンリーと、“下品”な彼に我慢がならないブランチの間の“溝”は、彼女が妹ステラに放ったスタンリー評がきっかけで、決定的なものとなっていきます。
自分の“正しさ”を妹に認めさせたいブランチは、帰宅したスタンリーに立ち聞きされているとも知らず、「あの人はけだもの、人間以下の類人猿」と酷評。さすがに妹ステラもむっとしますが、伊藤英明さん演じるスタンリーは戸口の外で一人、猿のモノマネをしながらすさまじい怒りを爆発させ、観る者を震撼(しんかん)させます。戦地で死線をかいくぐった経験があり、胸には大きな傷跡もある彼にとって、ブランチの言葉は人としてのプライドをひどく傷つけるものだったのでしょう。
そんなこととはつゆ知らず、ブランチは自分を「高嶺の花」扱いするスタンリーの友人ミッチ(高橋努さん)と親密に。沢尻ブランチはミッチに好意を見せたかと思えば冷たくし、男心を軽々と翻弄(ほんろう)しますが、それでも誠実な彼にほだされてつらい過去を告白、心の深い傷をのぞかせます。ミッチにそっと抱きしめられ、うれし涙を浮かべるブランチ。沢尻さんと高橋さんの息も合い、心震わせる名シーンが生まれています。

“全て”をひっくり返した!? ラスト

※以下、結末への言及を含みますのでご注意ください※
しかし、幸せな時間はあっという間に終焉(しゅうえん)。スタンリーはブランチの驚くべき“正体”を暴き、全てを奪いにかかります。
沢尻ブランチはどこまでも強気を崩さず、張りのある声で自分のストーリーを主張し続けますが、関西弁でまくしたてる伊藤スタンリーの口調におされ、劣勢に。彼のさらなる残酷な仕打ちによって心身ともに傷つき、“正気を失った”として彼らの世界から文字通り“強制退場”させられていきます。
はじめこそ滑稽味すら漂わせ、キラキラと登場したものの、物語が進むにつれ強がれば強がるほど、(戯曲にあるように)“蛾のような繊細さ”が際立っていった沢尻ブランチ。彼女の“敗北”をもって物語は終わり、舞台は姉と夫の間で板挟みになったステラのむせび泣きで締めくくられます。

……と思いきや、今回の『欲望という名の電車』には、最後の最後にサプライズが。手前から舞台奥に向かって沢尻ブランチが歩いていく光景が描かれるのですが、この時、彼女がふと立ち止まり、客席に向かって振り向くと“ある表情”をしてみせたのです。
ほんの1、2秒の表情でしたが、それはそこまでの流れを全てひっくり返し得るものでした。
もしや気のせいなのか、主催側に確認したところ、確かにその表情はしていたが、意図については限定されていない、とのこと。観た人に解釈を委ねているようでしたが、少なくとも今回のブランチが、従来の“現実社会の中で押しつぶされていく、繊細な魂”の象徴として終わることはありませんでした。
通常は痛ましさや苦すぎる余韻に包まれる本作に、不思議な“光”が差し込んでいたのは、鄭さんの演出もさることながら、3時間の“死闘”を意外な(?)スタミナで乗り切り、その最後にこうした表現ができる沢尻さんあってのことでしょう。そうした意味では、開幕前に意外性ばかりが注目された本作と彼女の組み合わせは、大当たり! と言えるものだったのかもしれません。
<公演情報>
『欲望という名の電車』2月10〜18日=新国立劇場中劇場、2月22〜25日=森ノ宮ピロティホール
(文:松島 まり乃)

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