【インタビュー】藤井道人監督×横浜流星、黄金コンビで挑んだ意欲作「腰の据わったものを撮れる」と証明する作品に

2023年4月19日(水)12時10分 シネマカフェ

横浜流星×藤井道人監督『ヴィレッジ』/photo:You Ishii

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『全員、片想い』の打ち上げの場で出会い、オーディションを経て『青の帰り道』で共闘して——。藤井道人監督と横浜流星はいまや、名実ともに黄金コンビにまで成長した。そして、藤井監督作における横浜さんの長編初主演映画『ヴィレッジ』が、4月21日に劇場公開を迎える。

舞台は、能が盛んな辺境の村。ゴミ処理施設の敷設計画に伴い住民が対立し、父親がある事件を起こしてしまった優(横浜流星)は、事件から歳月がたった今、親が遺した汚名、そして母親の借金返済に追われていた。村中から蔑まれながら、村から出られない生き地獄の中、幼なじみの美咲(黒木華)が帰郷したことで光が差していくのだが——。

横浜さんの狂気すら感じさせる熱演と共に、観る者に強い衝撃を与える意欲作。藤井監督×横浜さんが、チャレンジ尽くしだった撮影の日々を振り返る。

「ちゃんと腰の据わったもの撮れる」と証明する作品に

——まずは横浜さん、舞台『巌流島』お疲れ様でした!(取材は3月末に実施)

横浜:ありがとうございます。もう抜け殻です(笑)。

藤井:終わったばっかりだもんね(笑)。お疲れ様でした。

——そして『ヴィレッジ』がいよいよ劇場公開を迎えます。本作はマスコミ試写が連日満席で「席が取れない」と業界内で話題を呼んでいます。現時点で、反響はおふたりに届いていますか?

横浜:仲良くさせていただいている「関ジャニ∞」の丸山隆平くんや、高校の同級生の岩谷翔吾(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)から連絡をもらいました。翔吾は普段そんなことないのですが、長文で『ヴィレッジ』の感想を送ってくれましたし、丸ちゃんは優の気持ちになって作った詩を送ってくれて。こんなに人の心にこの作品が届いたんだとすごく嬉しかったです。

藤井:僕は前作が『余命10年』で、次回作が『最後まで行く』(5月19日公開)ですが、この2つの感想は結構近くて「めっちゃ良かった!」というものが多いんです。『余命10年』だったら「感動して涙が出た」とか。でも『ヴィレッジ』においては「ここ数年の1本になりました」という人と「すぐ感想が出ません」という人に分かれていて、自分で作っておきながらすごく映画らしい体験をしていただけて良かったなと感じています。

みんなが「良かった」という映画って、どこか「本当?」と思っちゃうんですよね。でも『ヴィレッジ』は、様々な形で観てくださった方々の人生の余白に入り込めている気がしていて。拒絶しちゃう人の気持ちもわかるし、色々な感想が出る映画はいままでビビっちゃっていたけど、今回チャレンジできたのかなと思っています。

——いまの藤井さんのお言葉通り、ひょっとしたら本作は、おふたりのタッグ作の中でも最も作家主義的映画かもしれません。

藤井:SYOさんには粗編(編集段階の本編映像)段階からアドバイスをいただいて、その過程でそういう話もしましたよね。僕も内容が内容だけに、コミック原作の公開数300館規模の演出をするのも多分違うなと思っていました。どちらかというと、ちゃんと腰の据わったものを30代の僕と20代の流星でも撮れるんだよ、としっかり証明する作品だったなと思います。

多分このコンビは、商業映画だったらたくさん組むチャンスが来ると思うんです。でも河村(光庸)さん(スターサンズ代表)とのコラボレーションというのは、なかなかない。そういうことも含めて、重心を低くしてどっしりした映画を目指しました。

——横浜さんにおいては、演技に上限や縛りを付ける必要がなかったのではないでしょうか。スターサンズ作品ということもあって、「わかりやすい」芝居を求められない自由さがあるといいますか。

横浜:本当に、いま出来てよかったと思います。おっしゃる通り、わかりやすい芝居を求められていた時期に『ヴィレッジ』に挑戦できて、そういうことを全く気にせずに芝居に集中できました。優として生きるのはつらい瞬間も多々ありましたが、役者としては幸せな1か月でした。



「いままでに経験はなかった」撮影期間中のポスター撮り

——作家主義的映画ですと、より演じ手が躍動できる向きもありますよね。編集時に藤井さんとA24の話もしましたが、アリ・アスター監督の新作『Beau Is Afraid』の本国公開が『ヴィレッジ』と同日の4月21日です。

藤井:えっ、早い! 昨日メイキング映像を観たばかりです。アリ・アスターは僕と同い年ですが、A24とだけ組んで作品を作って…まさに作家主義を地で行っていますよね。

——4月のA24作品ですと、おふたりのお気に入り映画『バーニング 劇場版』のスティーヴン・ユアン主演ドラマ『BEEF/ビーフ〜逆上〜』がNetflixで配信されます。

藤井:スティーヴン・ユアンは素晴らしい俳優ですよね。楽しみです。

——A24の話を無限に続けたいですが『ヴィレッジ』に戻って…(笑)。作家主義のお話にも通じますが、藤井組ではポスター用の写真撮影が撮影スケジュールに組まれることも多いかと思います。映画業界では珍しい形態ですが、こだわりをぜひ教えて下さい。

横浜:本ポスター用の撮影は夜中…いや、朝方でしたね(笑)。

藤井:そうそう。能のシーンを撮り終わったあとに、兵庫県にある平之荘神社にある能舞台の前に全員集合して撮りました。撮影期間中にポスター撮りをするのは河村さんの教えでもあって、現場中のメイキング写真を宣伝部さんにお渡ししてポスターを作ってもらうのではなく、宣伝も一気通貫だから企画の段階から宣伝部と一緒に見えていた方がいい、という考えです。河村さんに「現場で一番いいと思う写真を撮ったほうがいい」と言われて、最近は撮影の時間を設けるようにしました。そのほうが俳優部も気持ちが乗っていますしね。

横浜:確かに。本ポスターはすごい画になっています。現場は時間も時間だったし、全員集合でわちゃわちゃしていました(笑)。

藤井:本ポスターは特にね(笑)。

横浜:ティザーポスターの撮影時は、そのためだけに霧をセッティングしてくれてすごくありがたかったです。僕自身も優として生きているときだったから、より入り込むことができました。いままでにそういう経験はなかったし、どうしても「ポスターは別撮り」が当たり前だと思い込んでいましたが、『ヴィレッジ』のようなやり方の方がもっといいものが作れる気がします。

横浜流星、脚本の改稿段階から参加「役作りにおいて本当に大きかった」

——『ヴィレッジ』では横浜さんも脚本の改稿段階から参加したり、ロケハンに同行されたと伺いました。より良い映画づくりの在り方自体を模索した作品でもありましたね。

藤井:今回が1作目の間柄だったら、本人に「ロケハン一緒に行こうよ」と言う前にマネージャーさんに連絡して「何でですか」と断られちゃっていたかもしれないし、積み重ねる大事さを感じます。過去に一緒にやったことがあるからこそ「もっと良くしよう。良いものを作りたい」と思えますしね。

横浜:積み重ねてきたからこそロケハンに同行できて、すごく得るものが多くて「本来役者もやるべきことだ」と思えました。ちょうどその日が、優の家やゴミ処理施設といった大事な場所を見学できる日だったんです。僕たち俳優は当日その場に行き、「思っていたのと違う」となることもあります。だからこそ、事前にその場所に行って色々と感じられる経験は、役作りにおいて本当に大きかったです。良い作品を作るためにみんながひとつになるのはとても大事ですし、自分自身もよりよい役者になるために積極的に動いていきたいと思います。

藤井:脚本においては、1シーン1シーンを一緒に作っていくというよりも、僕が悩みながら書いているときに「待っているよ」と声をかけてくれたり、自分がしっくり来た部分を教えてくれる形でした。

横浜:多少は自分の思っていることを伝えはしましたが、絶対に渾身の脚本が来ると思っていたので僕はただ信じて待っていました。

藤井:そんななか、優の人物像においては、ふたりで雑談しながらお互いの悩みを共有して落とし込んでいきました。

横浜:そうですね。役者をやっていて、数年前とはまた違った状況にいますし、恐れや憂い、怖さといったものは藤井さんに全て伝えて、反映してくれているのを感じていました。優もそうですが、いきなり祭り上げられて次の瞬間には転落していく。僕自身、周囲で転落していく人を見てきたりもしましたし、この仕事はひとつの失敗だったり過ちで一気に転落し、許してもらえないところがあります。その恐怖は常に感じています。

——今回だと藤井さんから横浜さんに「コミュニケーションが取りづらくなるから、入り込みすぎないように」と事前にリクエストがあったと伺いました。作品を経るごとに、おふたりの“つくり方”も収斂してきていますね。

藤井:そうですね。『ヴィレッジ』の後に流星と組んだ作品でも新しいことを試しているし、ジャンルや作品によっても変わってくるかとは思いますが、それらを楽しめる環境だったらいいなと思います。

現場もそうですが『ヴィレッジ』の興行面含めた反響を見て、「宣伝のときにもっとこういうことをやっておけばよかったね」と次の作品に生かしたり、良いものを作るためにこの先も試行錯誤していきたいです。



藤井監督流“粘りの演出”は「可能性が広がる」

——変わらないものとしては、藤井さんの“粘りの演出”があるのではないでしょうか。横浜さんは以前「もう1回」を待っているところもある、と話されていましたね。

横浜:そうですね。何度もチャレンジできるのはもちろん大変さはありつつ、色々なことを試せるので可能性も広がりますし、ありがたいです。

もちろん演じるときは1回目から常に全力で挑みます。もしかしたら1発OKがあるかもしれませんしね。絶対ないですが(笑)。

藤井:(笑)。

横浜:逆に一発OKが出たときは「本当に大丈夫!? 藤井さんどうしたの!?」とびっくりしちゃうかもしれません(笑)。だから「もう1回」と聞くと安心するところもあります。

——ちなみに今回、最もテイクを重ねたのはラストシーンでしょうか。

横浜:ラストシーンもそうですが、一番多かったのは村長(古田新太)に「人生変えるなら今だ」と言われるシーンだったかと思います。

藤井:あそこは一番回数を重ねましたね。優にとって嬉しいのか、怯えなのか…。優にとって“蜘蛛の糸”をようやくつかんだ瞬間ですが、同時に彼は自分の罪や家のこと、様々なことが頭をよぎってしまって「やった!」とは言えない。その複雑さを流星の表情に課した部分が多かったので、一番大変でした。

ラストシーンは僕からするとすごく良い芝居を見せてくれてとにかくうれしくて「素晴らしい役者になったな」と一発OKにしたつもりだったのですが…。他のスタッフから「監督はすぐ『もう1回』って言ってましたよ」と言われて(笑)。一発OKにしてなかったみたいです(笑)。

横浜:そうそう(笑)。

——藤井さんは以前「2回目からは確実に演出が乗る」というお話をされていましたよね。

藤井:そうなんです。まずは俳優部が準備してきたものを自由にやっていただいて、2回目から僕の演出を乗せていく。そうするとやっぱり調整に何回か時間はかかるんです。ロボットじゃないから感情が伴うのにも時間がかかるだろうし、3回目・4回目と徐々に馴染んできて5回目で1番いいものが撮れることもあります。感情演技においても、俳優部の「泣かないといけない」という義務的な感情が正しいとは思えないんです。台本に「泣く」と書いてあったらやっぱりそうしようという意識が働いてしまいますから。

先ほどのシーンで、古田さんは流星に「君すごいね!」と話していました。「毎回同じところで泣けるなんて」と。それを見ながら、確かにすごいな流星…と感じました(笑)。

横浜:(笑)。

——逆に藤井さんが1発OKされることはあるのでしょうか?

藤井:いや、ほとんどないですね。物撮りのケータイの手元くらいじゃないですか?(笑) いつも「はいOK、早く次のシーン撮ろう」ってなってます(笑)。

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