明石家さんまは「“人”とお仕事をなさる方」 フジ三宅恵介氏が語る『心はロンリー』誕生&21年ぶり復活秘話

2024年4月20日(土)12時0分 マイナビニュース

●目指したのは『ひょうきん族』と別軸の笑い
明石家さんまが主演するフジテレビ系スペシャルドラマ『心はロンリー 気持ちは「・・・」 FINAL』(27日21:00〜)。さんまが、三宅恵介ディレクターをはじめとする『オレたちひょうきん族』(フジ)の制作スタッフ、そして後に『踊る大捜査線』シリーズ(フジ)などの脚本を手がける君塚良一氏とタッグを組み、シリアスなドラマの中にたくさんのナンセンスギャグを散りばめた異色のドラマで、1984年から11作が放送されてきた。
このシリーズはどのように生まれたのか。そして、なぜ21年ぶりの復活を果たすことになったのか。『FINAL』の見どころとともに、今作でも総合演出を務める三宅氏に話を聞いた——。
○初回放送直前にタイトル変更「これはヤバいと思った」
『心はロンリー』を生み出したのは、スタッフロールに「企画」としてクレジットされている「参宮橋金曜サークル」。このメンバーは、さんまに加え、三宅氏、君塚氏、放送作家の大岩賞介氏、藤沢めぐみ氏という面々で、『ひょうきん族』が始まった頃、さんまが東京に拠点を移して住んでいた参宮橋(渋谷区)のマンションへ毎週金曜日に集まり、様々な企画を立ち上げてきた。
ここから、『心はロンリー』のほかにも、現在も続く『踊る!さんま御殿!!』(日テレ)などが生まれ、大岩氏と藤沢氏は今も同番組に構成として参加している。
『ひょうきん族』は、裏のお化け番組『8時だョ!全員集合』(TBS)が台本に基づいてリハーサルを重ね、生放送の本番に臨んでいたのに対し、その場のハプニングも存分に生かすアドリブ重視の笑いで対抗し、牙城を崩すことに成功。そこで『心はロンリー』は、しっかりと台本作りを行い、ドラマのフォーマットとして作ることで、『ひょうきん族』とは別軸の笑いを目指した。
ここで参考にしたのが、米映画『フライングハイ』(80年)。「この映画はコメディではなく、ギャグなんです。飛行機の座席の上にある『NO SMOKING』という文字の下に『NO SEX』って書いてあるとか、細かいギャグが散りばめられていて、こういうのをやりたいねということになりました」(三宅氏、以下同)。
『心はロンリー 気持ちは「・・・」』という特徴的な番組タイトルだが、最初に君塚氏が出した案は、さんまが花屋の役だったことから『あっぱれ花屋さん』。それが却下され、『心はロンリー 気持ちはガンジー』というタイトルに決まった。その理由は「さんまさんにはあり得ない感じが良いと思ったのかもしれないですね。絶対“心はロンリー”ではないですから(笑)」とのことだが、放送直前にインドのインディラ・ガンジー首相(当時)が暗殺される事件が発生。「これはヤバいと思ったけど、何も思い浮かばないから『・・・』にしました」と落ち着いた。
○「視聴率が20%を超えるか、10%を切ったらやめよう」
第1作は、90分の単発ドラマ枠『月曜ドラマランド』で84年12月17日に放送。この枠は主にコメディ漫画を実写ドラマ化した作品がラインナップされ、喜怒哀楽をオーバーに表現する演出手法が多かったが、それとは逆に自然な演技の中にギャグを入れることで、「こういう笑いもあるんだというのを示そう」と狙って始まった。
真面目なドラマの中にギャグを散らすという異例の作品だけに、「この番組が王道になってはいけないということで、視聴率が20%を超えるか、10%を切ったらやめよう」と話していたのだそう。すると、第5作(87年3月20日放送)で19.7%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、世帯 ※以下同)とギリギリのラインまで上昇したが、第9作(89年3月3日放送)で9.1%と2ケタを割り込み、それまで年1〜2回のペースで放送されてきたシリーズが休止期間に入る。
そこから約8年のインターバルを経て、参宮橋金曜サークルで再びやろうと気運が高まり、第10作が97年8月29日に放送された。サブタイトルは「南の国から'97」で、さんまは子どもと一緒に沖縄に移住した男を演じ、2度の沖縄ロケを敢行して大赤字に。それでも、6年を置いて第11作を2003年8月29日に放送したのを最後に、再び長い休眠期間に入っていた。
●夢かなわずフジから異動になった社員の思い
そして、21年の時を経て『FINAL』が放送されることが決定。動き出したきっかけは、2022年にフジテレビ制作センターの局長からフジパシフィックミュージックの社長になった立本洋之氏からの言葉だった。
「彼は『心はロンリー』を作りたいと思ってフジテレビに入ったんだけど、その思いがかなわず異動になったと聞いて、この話をさんまさんにもしていたんです。ちょうど同じ時期に、山崎裕太くんのところに『あっぱれさんま大先生』の同窓会をやってほしいという声が寄せられて、僕のところに“やれませんかね?”と相談が来ていたので、それをさんまさんに伝えたら“ありがたい。こんなときだからやりましょう”と快諾を得て、編成にお願いして両方やることになりました」
『心はロンリー』は、多くの手間暇と予算がかかる番組だけに、テレビを巡る環境が変わった中で、参宮橋金曜サークルの面々はもうできないと思っていたが、「さんまさんというのは、“人”とお仕事をなさる方なので、やってほしいという人たちの思いに動かされたんだと思います」と解説。
振り返ると、さんまは自身が総合司会を務めた『FNS27時間テレビ』の生放送中に名曲「笑顔のまんま」を作ってくれたBEGINに、お礼として沖縄のイベントにノーギャラで出演したり、アンジャッシュ児嶋一哉のオファーで千葉テレビ『白黒アンジャッシュ』に破格のギャラで出演したりと、“人”とのつながりを大切にするエピソードが数しれず、今回の成立経緯にもその人柄が表れている。
再始動が決まり、22年12月、参宮橋金曜サークルの面々が20年以上ぶりに中華料理屋に集まった。さんまが希望したのは、刑事役。それを受け、君塚氏が2週間後にプロット(ストーリーの筋)を出し、打ち合わせを重ねて23年6月に第一稿の台本が上がった。そこからワンショット出演も含めてキャスティングが進み、その当て書きも入れていくなど直し作業を進め、決定稿は同年9月に完成した。シーン数は、実に128に上る。
クランクインは翌月の10月22日で、全体のクランクアップは11月29日だったが、今年に入り4月11日深夜の『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)の生放送での撮影をもって、さんまのクランクアップとなった。
○FINALは「ある種、さんまさんのドキュメントドラマ」
今回は『FINAL』ということで、「ある種、さんまさんのドキュメントドラマでもあるんです」という三宅氏。さんまの役は、妻(吉田羊)と離婚して一人娘(川口春奈)がおり、今でも家族の仲は良好という点で、現実と重なる。そして、娘の「和来(わく)」という名前は、さんまが実際にIMALUの次の子が生まれたら付けようと考えていたものだったそうで、「その理由は、川口さんが“なんで私に和来って付けたの?”と聞くシーンで明かされます」と予告する。
ほかにも、川口の「なんで離婚したのに仲良さそうなの?」というセリフがあるが、それに対する返答のセリフは、三宅氏いわく「僕がさんまさんに“なんで(大竹)しのぶさんと別れたんですか?”と冗談で聞いたときに、さんまさんが言ったことが台本になっています」とのことだ。
そして、現実の元妻・大竹しのぶも出演し、さんまと2人のシーンが登場。この場面については、「ドラマの中なんだけど、おふたりが実生活の部分についてもお話しするドキュメントになっていて、そのやり取りは見事でしたね。2人が出会った『男女7人(夏/秋物語)』(TBS)での掛け合いを彷彿とさせる感じで、撮ってて思わず鳥肌が立ちました」と印象に残るシーンになった。
●『ふてほど』前にミュージカルシーン撮影
フジテレビ本社の大階段では、大規模なミュージカルシーンも撮影。今年1月クールに放送され、吉田羊も出演したドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS)でもミュージカルシーンが話題となったが、「あれを撮ったのは去年の11月25日なんですよ。『心はロンリー』では、わりと音楽ネタをやっていたんで、『不適切—』も面白いなあと思いながら、あれを見るたびに“俺らは11月にもう撮ってるんだ”という悔しさもあります(笑)」と強調する。
そのミュージカルで流れる曲のタイトルは「再婚サイコーブギ」。これは、「NHKの朝ドラ『ブギウギ』が今年の3月まで放送されることが分かっていたので、ブギウギのリズムの曲にしようと、あえて狙いに行きました。昨年の6月には決めていました」という。
この曲を、かつて『めちゃ×2イケてるッ!』の「歌がへたな王座決定戦」で衝撃の音痴を披露した山口もえが歌唱しているが、「再婚して幸せそうで皆さんが知ってる方ということでお願いしました。寒い中一生懸命やってくれて、ご主人(爆笑問題・田中裕二)がさんまさんに“妻が喜んでました”とお礼してくれたそうです」という後日談もあった。
○「ぜひとも地上波で見てほしい」と訴える理由
音楽を使ったギャグはほかにも多数登場するため、「ぜひとも地上波で見てほしいです」と訴える三宅氏。配信の場合、権利の問題で曲が差し替えられ、ただでさえ伝わりにくいギャグの意味が全く通じなくなってしまうことがあるためだ。
女性とのいい感じシーンで流れる曲は、いつもさんまが選ぶことになっており、「その当時付き合ってたおネエちゃんのアイデアで決まる」らしいが、第11作では、さんまと飯島直子が浴衣姿で縁台に座っているところで、映画『ボディーガード』のホイットニー・ヒューストンが歌う主題歌「I Will Always Love You」をかけ、サビの「♪And I(エンダーーイ)」のところで縁台からズームアウトするというネタを仕掛けた。
しかし、ビデオ化の際は別曲に差し替えられることに。そこで、「実は、ここはホイットニー・ヒューストンの『ボディーガード』の主題歌が流れています。サビの“♪エンダーーイ”というところで、縁台からズームアウトしてるギャグなんです」という説明テロップを入れてネタバラしをすることになったことを、苦笑いしながら振り返っていた。
●三宅恵介1949年生まれ、東京都出身。千代田企画代表取締役。慶應義塾大学卒業後、71年に制作会社・フジポニーに入社し、機構改革に伴い80年にフジテレビジョンへ転籍。『心はロンリー 気持ちは「・・・」』のほか、『スター千一夜』『欽ちゃんのドンとやってみよう!』『笑ってる場合ですよ!』『オレたちひょうきん族』『ライオンのいただきます』『ライオンのごきげんよう』『タケちゃんの思わず笑ってしまいました』『FNS27時間テレビ』『あっぱれさんま大先生』『タモリ・たけし・さんまBIG3!世紀のゴルフマッチ』『たけし・さんまの有名人の集まる店』『明石家マンション物語』など、フジの代表的なバラエティを演出してきた。現在は『はやく起きた朝は…』のプロデューサー、『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』の演出を務めている。

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