「18歳まで父親と一緒に…」平愛梨の妹・平祐奈(26)が“清純派おはガール”から劇的変化を遂げた“深いワケ”
2025年4月22日(火)7時10分 文春オンライン
「清純派」——その言葉からイメージされる俳優は数多い。サッカー日本代表・長友佑都の妻である平愛梨の年が離れた妹「平祐奈」もその一人だ。黒髪、控えめな佇まい、無垢な笑顔。彼女の名前が出れば、自然とそうしたイメージが浮かぶ。
平祐奈は是枝裕和監督作品『奇跡』(2011年)のオーディションに合格して芸能界入り。その後は「おはガール」などにも抜擢され、映画『青空エール』(2016年)や『honey』(2018年)、『10万分の1』(2020年)など、思春期の揺れ動く感情を繊細に描いた作品群では常に観客の“守りたくなる存在”として登場してきた。

そこから一転、2025年公開の映画『ネムルバカ』で、彼女はこれまでのイメージを覆す役を演じた。彼女が扮するのは、インディーズバンド「ピートモス」のギターボーカル・鯨井ルカだ。金髪、ぶっきらぼう、時にやさぐれた態度のルカは、夢を追うことの痛みや空しさに苛まれながら、それでも音楽への情熱を抱き続けるロックバンドのフロントウーマンである。このキャラクターは、平のこれまでのキャリアにおいて、明らかに「異物」といえる存在だと筆者は考える。
俳優、サッカー選手、政治家……華麗なる一族の末っ子
なぜ、鯨井ルカ役が平祐奈のキャリアにおいて「異物」なのか。その理由を探るには、彼女の背景に触れないわけにはいかない。
平祐奈は1998年、兵庫県生まれ。6人きょうだいの末っ子であり、最も年の離れた長男とは19歳差。14歳離れた長女は俳優の平愛梨で、もちろん義兄にサッカー選手・長友佑都もいる。この他、東京都議を務める兄もいるなど“華麗なる一族”である。
芸能界との距離感が元々近い存在であった一方、彼女の家庭には“平家のルール”と呼ばれる独自の価値観が存在していた。
平祐奈の“超過保護”伝説 18歳までは父と……
例えば「眉毛を剃ること」「炭酸飲料やコーヒーを飲むこと」に加え、恋愛が20歳まで禁止だったという。20歳になった後も、出産するまでアルコールは禁止というから驚きだ。
この他、高校卒業までは「肩出しの服」も母親からNGが出ていた。また、映画『honey』では役作りで茶髪にすることさえ、母親の許可を得たというエピソードもかつて明かしている。
こうした一見すると奇異にも思える家庭のルールは、思春期の彼女を“保護”するものであり、平祐奈自身も家族との仲は良好で、18歳まで父親と一緒に風呂に入っていたほどである。
このようなルールやエピソードは「平祐奈=清純派」というパブリックイメージを補強する効果もあったといえ、キャリアの中で演じてきた役柄たちと相乗効果をなしていったわけだ。
金髪で激しくヘドバン 主題歌も自ら歌唱
そこから一転『ネムルバカ』では、金髪というビジュアルのインパクトだけではなく、ギターや歌までこなす、やさぐれた佇まいが目を引く。これまでのキャリアになかった要素ばかりだ。
この変身は、単なる“見せかけ”にとどまらない。平はこの役のためにギターをイチから学び、ライブシーンでは激しいヘッドバンギングを繰り返して首を痛めるほど体当たりの演技を見せた。劇中で披露した楽曲『脳内ノイズ』、そして主題歌である『ネムルバカ』の歌唱も担当しており、SNSでは歌唱力を評価する声も多い。その意味でも彼女にとって転機となった作品といえるだろう。
筆者は『ネムルバカ』関連の企画で平祐奈のインタビューも担当したが、彼女からは、従来のイメージに反し、意外なほどにハッキリと話す印象を受けたことをよく覚えている。
言葉選びに迷いがなく、率直に語るその姿勢は、テレビ越しに映る彼女の柔らかいイメージとは異なる“忌憚のなさ”に満ちていた。人一倍真面目で、自分の中に芯を持っている——そんな人物像が、ルカというキャラクターににじんでいたと感じた。
単なる“脱・清純派”ではない
ただ、筆者は『ネムルバカ』が平祐奈の転機であるものの、決して“清純派からの逸脱”ではなく、俳優としての新たな地平を切り開くきっかけに過ぎないと考えている。
平祐奈は、これまでのイメージを捨てるのではなく、それに新たな解釈や次元を与えようとしている。元来持っていた無垢さや真面目さ、丁寧な芝居といった“素地”を生かしながら、これまで演じてこなかった性格や葛藤を身につけていく——これは「転身」ではなく「拡張」だ。
例えば、『ネムルバカ』の鯨井ルカが持つ“未完成さ”や“もどかしさ”は、平がこれまで演じてきたキャラクターが持つ“純粋さ”と地続きであるともいえる。彼女が演じた鯨井ルカは、ただの破天荒なバンドマンではない。繊細で、情熱的で、不器用で、それでも誰かにとって特別であろうとする、そんな人間味があるからこそ、映画の高評価にもつながっている。
映画公開に前後して、平祐奈の活動はさらなる幅を見せている。NHK連続テレビ小説『おむすび』では、関西弁で演技して存在感を示した。4月から始まるドラマ『あなたを奪ったその日から』では、父や年齢の離れた妹と暮らし、どこか“闇”を抱えたキャラクターを演じる。
まだまだ「平祐奈の物語」は続く
平は、今もなお「物語の途中」にいる女優だ。その物語は、時に過保護にも思えるほど大切にされて育った少女が、自らの意志で世界とぶつかり、表現の幅を広げていく過程に他ならない。
金髪、ギター、やさぐれた台詞——これらは彼女のイメージを“壊す”ものではなく、“再構築する”ための要素として機能している。そしてインタビューで見せた、強さと明快さのある語り口は、今の彼女がもはや“清純派”という一言では収まりきらない存在へとステップアップしようとしていることを示している。
彼女のこれまでの歩みと、この役が持つ意味、そして観客や業界が彼女に寄せるまなざしの変化。これらが交錯する中で、俳優・平祐奈はようやく、デビュー当初から染みついていたイメージから脱却し、新たな“物語”を歩み始めたのかもしれない。そしてこの物語の続きを、私たちはこれからも、驚きとともに見守っていくことになるだろう。
(川崎 龍也)